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考え事

「クラウス様、こんにちは」


 不意に後ろでルナの声がして少し驚いた。振り返ると笑顔のルナが愛おしそうな目で

 こちらを見つめている。

 いつもの制服姿ではなく、部屋で着用するような薄い素材を身に纏っており、肉感的な彼女の身体が強調されて見えた。


「ルナか。どうしてここに?」

「所用で通りかかったので」


 意識しているのかいないのか、ルナの声は非常に悩ましい。


「いや、ここは普通通りかかるような場所では……」

「それよりも、先ほど大魔法料理対決に参加されると仰っておられましたが、本当ですか?」

「言っていない。2時間前からひとことも発していないぞ」

「ええ。でも先ほど心で大魔法料理対決のことを思っておられましたよね?」

「ナチュラルに心の声を聞くな」


「でも意外です。クラウス様が料理の大会に出られるなんて」

われがメインで参加するわけではない。紅花という友人の助手役として参加するのだ」

「紅花?」

「ああ。貴様は知らぬだろう。料理魔法学部の生徒で……」

「はい。あまり存じ上げませんが、料理人のお父さんと使用人のお母さんの元に生まれ、二人の兄、一人の姉、一人の弟、三人の妹の面倒を見ながらウエイトレスとして父親の元で働いていたけれど、魔法料理人になる夢を諦めきれずビナー魔法学園に入学した紅花さんですか?」


「怖い怖い怖い。我も知らぬ情報がかなり出てきているのだが」

「でも、どうして紅花さんのお手伝いを?」


 ルナは俺の隣にストンと腰を掛けた。俯いていた俺の目に、彼女の艶かしい太ももが飛び込んでくる。今度は俺が飛び込む番だよな? 


「どうやら紅花は料理魔法があまり得意ではないようなのだ。何というか、加減を知らぬというか、とどまるところを知らぬというか、常にフルパワーで魔法を撃ってしまう癖がある。それでも本人は優勝したがっているから、我も彼女と同じ言語の授業を受ける身として何か力になりたくてな」




「それなら私にもお手伝いさせてください」

「それは大丈夫だ。既に我とニックで手伝う算段がついている」

「私の方が料理上手です!」

「いや貴様の料理は全て砂の味がするのだろう」

「砂は、お嫌いですか?」

「嫌いではないが口に入れたくはない」


 するとルナは口を膨らまして俺の方を見た。少し機嫌を損ねたのだろうか。


「紅花さんだけずるいです」

「ずるい?」

「だって一人だけクラウス様に目をかけてもらって、心配してもらって」

「い、いや。我は紅花だけを大切にしているわけではないぞ」

「でしたら紅花さんだけではなく、私にも協力してくださいますか?」


 何か嫌な予感がするが、言った手前ここでは断り辛い。


「あ、ああ。もちろん」

「それなら赤ちゃんを作ることに協力してください」


 ルナはこの前彼女の故郷で見た時のような、艶やかな上目遣いで言った。


「な、何を言っているんだ貴様!」


 立ち上がろうとした俺にルナは腕に手を回してくる。かなり強い力なのでルナから離れることが出来ない。


「どうしてですか? 紅花さんとは料理を作るのに私とは赤ちゃんを作っていただけないんですか?」

「いや赤ちゃんと料理じゃ全く精神的ハードルが違うだろ! 貴様はシチューを作る感覚で赤ちゃん作るのか!?」

「はい」

「はい!?」

「クラウス様となら作りたいのです」


 ルナは俺の腕に回していた手で、今度は胴体を締め付けた。もっと逃げられないし、柔らかい女の身体に引きずり込まれそうになる。

 くっ、殺せ!


「あともう一つ言っていいか! あえて今までつっこまないでいたのだが!」

「はい。何なりとご命令くださいませ」

「貴様、何故我の部屋にいるのだ!」

「え?」


 そう。ここは俺の部屋のベッドの上。

 俺がベッドに座って考えごとをしていると、ルナがいつの間にか後ろにいたのだ。

 こいつは亡霊の類なのではなかろうかと本気で思った。恐怖で身体が強ばり、つっこむことも出来なかった。

 決してちょっとエッチな展開を期待してするーしていたわけではない。


「……私が、クラウス様の部屋にきてはいけませんか?」

「ダメに決まってるだろう!」


 と言った瞬間、ベッドに押し倒された。おおよそ女とは思えない強い力で、低反発のベッドが俺の身体を猛反発する。これ下が床なら死んでたんじゃないか?


 ルナはすかさず俺の上に乗り、身につけている衣服を脱ぎ始めた。

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