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宴会にて

 

 村人たちとのドタバタ騒動があった後、俺たちは一旦宿に引き上げた。夜には村長が宴会を催してくれると言っていたが、あんな事があった後では到底参加する気になれない。

 ジャンヌも「翌日に予定されている呪いを解く儀式があるまで宿を出てはいけない」と強い口調で俺に言った。


 俺も出ないつもりだったのだが、日も暮れる間近、村長自らルナを連れ、村人達の凶行を謝罪に来た。

「先ほどは村の者共が失礼致しました。このような無礼を働いたまま呪いを解いて頂くわけには参りません。村民一同、宴席にて盛大におもてなしさせて頂き、それを以って謝罪と変えさせて頂きたい」


 村長とルナは真摯に頭を下げた。個人的な感情でしかないのだが、少なくともその姿に嘘は無いように思えた。我ながら単純だが、その姿に絆された俺はすっかり村人達を許し、宴会に参加する気になっていた。

 ちなみにジャンヌは俺の決定に呆れ果てていたようだ。(それでも宴会にはついて来てくれたが)

 勿論完全に信用したわけではない。食べ物や飲み物に睡眠薬を盛られるかもしれないという考えは当然あったので、宴席では絶対飲食物に口を付けないようにするつもりだった。それにジャンヌもいる。村人達に怪しい動きがあれば、またジャンヌが制止してくれるだろう。そう、思っていたのだが……。


「クラウス様……。クラウス様……。起きてください」


 遠くでルナの声が聞こえる。


「クラウス様……! 起きてください!」


 今度は耳元で聞こえた。


「ここは……」


 目を覚ました俺が最初に見たのは心配そうに俺の顔を覗き込むルナの姿だった。俺の頭を自分の膝上に乗せ、その俺の頭に彼女の胸がのし掛かるという三点方式で横になっている。


「良かった! 目を覚ましてくださったのですね!」


 辺りを見回し、そこは村長の家に付属している正賓室ダイニングルームの中だと気づいた。


 俺はどうして眠っていた? どうしてここに居る? 頭に手を当てこれまでの記憶を探ってみる。


 確か、そうだ。俺とニック、それにジャンヌは謝罪に来た村長達と共に宿を出て、村長の家に向かった。そして案内されたのがこの部屋で……何だか美味しそうな料理が沢山出て来て……駄目だ、その後がどうしても思い出せない。


 そうだ、ジャンヌとニックは!?

 俺は改めて部屋を見回したが、ジャンヌ達はおろか、村人の姿も見えない。しんと静まり返っている。まるで幽霊屋敷のような光景に、俺は軽く恐怖を覚えた。

 どういうことだ? 何故俺とルナしかいないんだ? 


「ジャンヌさん達は村の方々が運んで行きました」


 俺の心を読んだかのようにルナが言った。心なしか声が震えているようだ。


「クラウス様達が来てすぐ、村の魔法使い達が催眠魔法で皆さんを眠らせてしまったのです。白状します。村人達は、私とクラウス様を二人きりにして【既成事実】を作らせることを計画していました。勿論、私もそれを知っていて皆さんをここに招いたのです」


 俺は愕然とした。最初からハメられてたってことか。そして今、違う意味でハメられるところだったのか。じゃあ、あの村長の真摯な謝罪の姿は偽りだったっていうのか。もう人間不信になりそうだぜ。


「ですが、私は」


 そこまで言ってルナは言葉をつまらせた。


「私、気付きました。クラウス様に望まれていなければ幸せな結婚生活は出来ないと。こんなやり方は間違っていると!」


 そう言ってルナは俺の手を取り、立たせた。彼女の目は潤み、涙ぐんでいる。


「逃げましょう! 宿まで逃げれば村の方々も手荒な真似は出来ないはずです」

「ジャンヌ達はどこに!?」

「二人の心配いりません。彼らはこの計画に関係有りませんから、村人達の手で既に宿へ戻されています。私たちも早く逃げましょう!」

「そう、なのか……?」


 ルナは俺の手を引いて部屋を出、玄関の方へ走る。

 自分たちの足音だけが響く、不気味なほど静かな廊下。

 不意に肌が騒ついた。

 早く外へ、逃げなければ。しかし玄関に辿り着いた俺達はそこで止まらざるを得なかった。


 村長を先頭に、宴会に参加していたはずの村人達が玄関に勢ぞろいしている。彼らが何を考えているのかは明白だ。俺たちを逃す気など無いのだ。


「どこへ行く」


 村人達の先頭に立つ村長が言った。


「き、貴様ら話が違うぞ。こんな犯罪まがいの事をしてただで済むとでも」

「それは誤解ですよ、闇魔道士殿。貴方の隣にいるむすめはこの村で最も美しく、また気立ての良い女です。どこの骨の皮とも分からぬ者には決してやれません。少々やり方が強引になってしまいますが、ルナを差し上げるのは我々なりの「誠意」であり、「謝意」なのでございます」



「お爺様! やはりこのような手段は間違っています! 幾ら村のためとは言え、この村のために来てくださったクラウス様を騙すような真似は……!」

「ルナよ。呪われた一族の血を守っていくことがどれほど大変か、幼いお前には分かるまい。綺麗事だけではやっていけぬのだ。さあ、大人しく部屋に戻りなさい。そして闇魔道士殿と後尾するのだ」


 昆虫か。

 言い方下品過ぎるだろ。


「嫌です! クラウス様が私を好きになってくれるまでそんな行為は致しません!」


 急にルナは俺の手を引っぱった。先ほど来た廊下を引き返していく。一瞬部屋に戻るのかと思ったが違うようだ。行き止まりの石壁に向かってどんどん突き進んでいく。その時、ルナは自分の杖を取り出した。


「ディゾルブ!」


 彼女の声と共に赤黒い光が奔った。飛んだ光は突き当たりの壁に当たると浸食するように広がり、壁を、まるで泥のようにドロリと溶かしてしまった。


 怖っ! ルナは医療魔法学部の生徒なのでてっきり回復魔法しか使えないのだと思っていたが、どうやら石壁をペーストにしてトーストに塗る事も可能らしい。遅刻遅刻ぅ!


「あそこから出ましょう!」

「わ、分かった!」

「ルナ! 待ちなさい!」


 後ろから村長達の声が聞こえる。


「そんなにその男が大事なのか! この村よりも大事だというのか!」

「私は……私は! 村も好きです! でもゾウさんの方がもっと好きなのです!」


 俺は?

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