生徒会長
振り返った先にいたのは見覚えのない男だった。
スラリと背が高く、髪をオールバックに固めており、真っ白の制服を身につけている。男子の制服の色は普通、ネイビー色であるのだが、彼の白い制服は夕闇の中で輝いて見えた。
「タイラー生徒会長!」
メスナーが情けない声を出した。
しかし生徒会長と呼ばれた男の目は先ほどから俺を見据えて離さない。彼の後ろにも複数の人影が見える。全員執行部か、他自警団の団員なのだろう。
ここで邪魔が入るとは。
しかも生徒会長から直々に止められるなんて想定外だった。
「質問に答えろ。この倉庫で何をしている」
「友がこやつらによって暴行を受けた。その報復を行なっている」
「止めろ」
「……何?」
「今すぐ止めろ。お前のやっている事は純然たる校則違反だ」
生徒会長はギロリと俺を睨んだ。その瞳が黄色い。ザビオス族だ。
「しかし」
「早く魔法を解け。さもなば今すぐ退学、並びにお前と親しくしている者の取り調べを行う」
生徒会長の声は、抗い難い支配的な何かを持っているようだった。それにこのままだと周囲にも被害が及ぶ。俺は段々と苦しくなってきた。
「早くしろ」
生徒会長は容赦なく語調を強める。
「くそ」
俺は泣く泣く魔法を解いた。
メスナーを引っ張っていた手が消え、自警団達を飲み込んでいった棺が消え、そこには全裸でレモンを咥えた自警団達が力なく横たわっていた。
いや本当に何があったんでしょうね。
メスナーは魔法を解かれたと知るや、水を得た魚のように元気にピチピチと生徒会長の足元へ寄っていく。
「さ、流石は生徒会長! さあ早く! 早くこのクズに鉄槌を下してください‼︎」
俺の方を指差すメスナーが、急に吹っ飛んだ。生徒会長に思いっきり蹴り上げられたのだ。
「この面汚しが! 俺に指図するな!」
「お、お許しを! お許しを!」
生徒会長は地面に這いつくばったメスナーを容赦なく殴り、蹴り付けている。それは校則違反ではないのだろうか。会長の暴行は復讐に来た筈の俺が止めに入ろうかと迷うほど激しく、長く続いた。しかし後ろの執行部の連中は一切動く気配がない。
「貴様は今日をもって自警団をクビだ」
ひとしきり蹴り上げたと、生徒会長は吐き捨てるように言った。
「そ、そんな……どうか、どうか御慈悲を……」
メスナーはボロボロになりながら尚も生徒会長にすがろうとするが、会長の後ろに控えていた男達によって手足を掴まれ、どこかに運ばれて行ってしまった。
それを見ていた生徒会長が、キッと俺の方を見た。
「お前、名前は」
俺は退学になるのだろうか。だとしても悔いはない。俺は目的を果たしたのだから。
「ククク……我が名はクラウス・K・レイヴンフィールド! 第十三式闇魔法【棺流】が正統後継者にして世界最強の闇魔道士なり!」
一瞬、その場の全員が動きを止めて俺の方を見た。
恥ずい。
生徒会長も顔色を変えず、じっと俺の方を見ていたが、やがて俺に背を向けてしまった。そして
「クラウスか、覚えておこう。今回の件は不問に処す。しかし今度問題を起こした時は覚悟しておけ」
と言い残し、去って行った。後には夕日の当たる自警団達の山と俺だけが残されていた。