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模擬戦 1

 

 転校してきたから早ニ週間が経った。この日俺たちのクラスは、校舎の裏手の巨大な闘技場に連れてこられていた。クラスメイト達の話を聞いていたところ、どうやら「模擬戦」というものが行われるらしい。

 俺たちのクラスはとりあえず観客席の前の方に座らされたわけだが、他のクラスの生徒達もどんどん入ってくる。全く顔を見た事のない生徒もいる。



「ほう、中々に魔法の民が集まっている……。壮観ではないか」

「うち(魔道士学科)の他に魔法戦士学科と、医療魔法学部の生徒が一クラスずつ来てるから、全部で三クラスいるわ」

 隣でジャンヌが言った。

 魔法戦闘学部には二つの学科が存在する。一つ目は俺やジャンヌの所属する魔道士学科。こちらは戦闘向けの魔法使いを専門に育成する。


 そしてもう一つが魔法戦士学科だ。こちらは魔法と、それを用いた剣術や弓術を学ぶ学科である。なお、同じ魔法戦闘学部でも魔法戦士学科はあまり学力を重視されておらず、脳筋が多いと噂で聞いた。

 俺も筋力に自信があれば魔法戦士学科に入りたかったぜ。


「いつ出番が来るか分からないんだから、今のうちに身体をほぐしておいた方が良いわよ」

 ジャンヌはその場でジャンプを始めた。バルンバルン揺れとる! バルンバルン揺れとる! 何がとは言わないけども、僕はこの星に重力があって良かったなって本当に思いました。



 ちなみにジャンヌは「第二回・凄すぎてイっちゃう事件」が起こってから、よく俺の側に居るようになった。俺の魔力の高さの秘密を探ろうとしているのかもしれない。


「模擬戦と言うと、やはり仮想空間で戦うのであろう?」

「ううん、今日は使わないらしいわ」


 それを聞いて不安になった。魔法戦士学科の生徒達は見るからにガタイが良いし、顔つきもゴツく、笑顔で人を殺しそうな感じに見える(俺には)。

 あんな連中とまともにぶつかったらそのまま昇天して異世界転生してもおかしくない。

「何故、仮想空間を使わぬ? 怪我人が出たらどうする」

「うん、まあやっぱり仮想空間と現実じゃ色々違うところもあるし、現実で戦う戦士を作るためには、ずっと仮想空間で戦ってるわけにもいかないの。それに怪我人を出すのが目的なところもあるから」


 怪我人を出すのが目的!? 怖っ! どこの部族の儀式だよ!


「怖いの?」

「く、ククク……。我が血を恐れるとでも……?」

「あ、蜂が飛んでる」

「わあああああああ!!」

「嘘よ」

「んもう!」


 ジャンヌの話では、今日行われる模擬戦はいわゆる「スパーリング」のようなものだそうだ。

 座学では絡みのない魔法戦士学科の生徒達の交流と、他流試合の意味を込めて定期的に行われている。

 使用出来る魔道具や魔法はかなり制限されており、どんなに魔力の高い者が魔法を使っても、致命傷になるようなものではないと言う。

「で、怪我をした生徒は医療魔法学部の人たちに治してもらうってわけ」

「ほう……」


 医療魔法学部の生徒達は戦闘魔法学部とは制服が違う。白いフード付きローブを着ているので廊下を歩いていてもすぐ分かる。そのまま冒険者のヒーラーに居てもおかしくないような格好だ。

 ちなみにこの制服は女子から人気がある。



「クラウス」

 ジャンヌは急にキッと俺の顔を見据えた。その眼力が思ったより強くて尻込みしそうになる。

「私とやりましょう」

 うん、夜にもう一度その台詞が聞きたい。もちろん、自分と模擬戦がしたいと申し出ているのは分かっているが、年頃の男子は言葉の全てをエロい方向に捉えてしまう習性があるのだ。


「おう! クラウスじゃねえか!」

 後ろから大きな声がしたかと思うと、大柄な男が観客席を飛び跳ねるように降りてきて、そのまま隣の席に大股を広げて座った。俺はビビって立ち上がりそうになったが、それがつい先日知り合った男だと分かってホッとする。

 ホッとして右手で左目を隠し、不敵に笑って見せた。


「……ククク。悠久の時を超えて再び貴様とまみえることになろうとは思わなんだぞ」

「いや昨日も会っただろうよ!」

 ニックはテンションそのままツッコみ、ちらりと横のジャンヌを見る。

「おう、オメエ可愛い彼女連れてんじゃねえか! 隅に置けねえな!」


 ニックは嬉しそうに俺の背中をバシバシと叩く。


「ククク…ゴホっ! その女はゴホっ! ゴホォ!!」


 多分手加減して叩いているとは思うのだが、ニックの叩く力が強すぎて俺のアバラがバラバになりそうである。


「冗談は止めてよ。私は彼女じゃないわ」


 死体蹴りやめろ。


「俺はニックだ。お前は?」

「私はジャンヌ……ねえ、あんたザビオス族よね? クラウスとはどういう関係なの?」

 ニックは一度俺を見た後、神妙な顔つきで言った。

「兄弟だ」

「そんなわけないでしょ」

「ククク……我々は」

「あーはいはい。まあ悪そうな奴じゃ無さそうだから良いわよ」


 ねえ、何かさっきから俺に冷たくない?


「そろそろ最初の試合が始まりそうだぜ」


 ちょうど自分たちの目の前で試合が始まろうとしている。片方は同じクラスの生徒なので見たことがある。確か、ギュンターという名前だった。しかしもう片方の、魔法戦士学部の生徒を見て、俺はまた既視感を感じた。

 あいつ、どこかで……。金色の髪に、黄金の瞳。そして耳にピアスを……。


「あ」


 ジャンヌと俺は同時に声を出した。彼女も男が誰なのか気付いたらしい。思い出した! 先日の朝、廊下で俺に絡んできたザビオス族だ! 


「ニック、あんた魔法戦士学科の学生よね。あのザビオス族は知り合いなの?」

「あー、何回か話した事はあるが、いけすかねえ奴だな」

 ギラ族の俺とすら仲良くなるニックが「いけすかない」と言うくらいだから、相当やばい奴なのかもしれない。

「強いの?」

「かなり強いぜ」


 俺は少し不安に駆られ始めた。あのやばそうな男と戦って本当に大丈夫なんだろうか。


「始め!」

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