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出会いは甘酸っぱいイチゴのようで

ここまで読んでいただいた方ありがとうございます!

まだしばらく続きますがよければよろしくお願いします!



「腹が、減った、、、。」

あれほどのことがあったのに暢気なもんだ。我がことながら呆れてしまう。が、とりあえず腹が減るあたり正常に体は動いているのだろう。

 

 目を覚ましてから宛てもなく歩き始め、すでに4日が経過していた。



 時折降る雨で多少ではあるものの水分は補給できていた。しかし、食事に関してはいつぞやの昼ご飯以降なので実質ほぼ丸5日何も食べていない。

 そもそも進んでいる方向もこれでいいのかもわからない。


「もうちょい情報くれよ、、。普通RPGとかでもスタートは情報収集できる街だろうが・・・装備どころか街も無いってどんな鬼ゲーだよ、、、。」

一人ぶつぶつ文句を言いながら歩を進める。


「誰にも会わねえどころか、動物や虫すら見当たんねえ。どうやって繁殖してんだこの草、、!」

 休む以外のコマンドが「草に文句を言う」くらいしか無いのには本当に参った。


 ここ数日歩いて得たものと言えば本当にボンヤリした情報だけ。それはここが日本どころか、おれがいた世界とは別っぽいという事。


 確証がある訳では無いが・・・まあ、間違いないだろうと空を見上げる。

 本日は快晴。頭上にはお日様が燦燦と輝いている。それも、()()も。

おれの知る限りでは、太陽が無くなる現象はあれど、「増える」と言うのはついぞ聞かない話だ。


「おれが日焼けマニアなら大手を振って喜ぶとこだけど・・・」

 正直勘弁してほしいところだ。何せ二つもあるのだから日差しが強い。

 

 雨が降ったとしても水筒みたいな都合のいいものがある訳もなく小さな池のようになっている水たまりを発見しては水分補給。といった感じでしか水も飲めない。



 しかし、ここが『異世界』となってくるといろいろと不安な点が浮かんでくる。特に心配なのは言語や文字だ。日本語じゃないくらいならまだしも『おれのいた世界』で使われていない言語が出てきてしまえばもうその時点でかなり詰んでいる。

 


「はてさて、まじでどうしたもんか。」

 これは困ったぞと考えていると久々に水辺を見つけたので少し休憩しようと腰掛ける。


 正直な話、なぜ前へ進んでいるのか自分でも分からない。

 ハル姉は取り返したい。けど、その後は?元の世界に戻るのか?どうやって?何をしに?


 じゃあ、このまま永住するか?それこそ何の為に?


「・・・まずは食料を確保できる場所か、人を見つける。だな。」

 間違いなく最重要事項だ。最低限の健康で文化的な生活をできないことには目標も何もあったもんじゃない。


 その問題を解決できる何かがこの先にあるのかはわからないがそこは自分の勘と運を信じる他無い。大丈夫、おれはすごく勘がいい。・・・はず。


「よし!ウジウジしててもしょうがねえか!休憩終わり!」

よっこいせ。と立ち上がり再び歩き出す。

「・・・頼むから、こっちで合っててくれよ。」

 頭に浮かぶ「止まる理由」を振り払うように必死で前へと足を進めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――あれからさらに三日が経った

 そろそろ本当に体力の限界が近い。人間水さえ飲んでおけば何も食べなくても15日前後生きられるらしいがそれはあくまで健康な状態での話だろう。


 傷は治っているようだが本調子には元からほど遠い。ふらふらと目の前の丘を登っていく。

「地味な登りが地味にキツイ、、、。」

 5分近く登り続けているので高さもそこそこなものだろう。


 そうして登頂成功した先にあるものを発見した。――森だ。上から見る限りかなりの大きさのようだ。

 けれど森であれば少なくとも何か食べるものくらい調達できるはずだ。


「・・・クマ倒す方法を考えとかねえとな」

頭の中で出現したクマを倒しながら森を目指して丘を下って行った。



 それから2時間ほど歩いた森の中で、割とすぐに水辺とそのそばに生えていた果物も発見できた。

 ぱっと見イチゴのような果物。

ただサイズがおれの知っているイチゴの十倍はあろうかというサイズだが・・・

「・・・うん、うまい!水もきれいだし、緑も豊か。自然は豊かみてえだな。」

 大きなイチゴもどきを頬張りながらさっきまでの草原と周りの森を見渡し誰も聞いていないのに感想を述べる。


・・・まずいな、独り言多いぞ最近、、。

 そんなことを思いながら日も暮れてきていたためここで眠ることを決め横になる。やはり、腹が膨れると眠くなる。


「明日は、肉が食いてえな、、。」

 そうして、頭上に輝く二つの月をを眺めながら眠りに落ちた。




―――ザクっザクっ。グツグツ・・・カチャ、カタン。


 よく聞いた朝の支度の音だ。ぼんやりとした意識の中かすかに聞こえる音で目を覚ました。

「・・・ハル姉、、、?」

小さく呟き、目を開ける。見慣れない天井。見慣れない部屋。


――そして、見慣れない血まみれの女性。


 瞬間、頭がはっきりと飛び起き昨日までのことを思い出す。

 状況は理解できていないが悠長に寝ている場合ではないことはわかった。

体を起こそうとし、またも発見。・・・うまく体が動かない。


 起き上がれないほどではない。が、上半身を起こすだけでも苦労しそうなしびれと倦怠感。

 こちらが起きたことに気づく様子もなく、おれが寝かされている場所の主と思われる女は朝食の準備をしている。


「朝食のメインディッシュはあなた。ってか?」

 笑えねえよ。そんなことを考えながらも状況を整理しこの状況を打破するべく思考を回す。


 昨日は川沿いで大きなイチゴを食べ眠った。そこまでは調子は悪いが体は動いていた。おれが眠った後に何かしらの毒でも盛られたか?

 現状、体のしびれ以外には異常は見当たらない。だがそのしびれかなりキツい。今なら小学生相手でも手も足も出ずにボコボコにされそうだ。


(どんだけ能天気なんだよおれ、、!訳も分からねえのに無防備過ぎんだろ、、、!)

 打開策も何も浮かばず、今はただただ暢気に眠った昨日のおれをぶん殴ってやりたい。


 結局考えをまとめるも間もなく血まみれの女性がこちらを振り向いた。

「やっと目が覚めた?せっかく生きてる人を見つけたのに、このまま起きなかったら残念だなって思ってたの。」

 鋭い包丁を握ったまま彼女はゆっくりと近づいてくる。

   

 よくもまあここまで絶体絶命な状況ばかり引けるもんだ。童話か何かで見た山姥的なもののイメージが重なる。

「・・・ある意味引きがつええな。ガチャ回しとくんだったぜ、、、。」


――ここまでか。

 諦めて目をつぶる。できることならサクッとやってほしいものだ。

 

 本当に何のために歩いてきたんだか・・・

 無駄に周りの人を死なせて。ピエロもいいところだ。こんな事なら、おれが―――


「まだ眠い?もう一度寝ちゃう前にこれ飲めそう?」

 優し気な口調で山姥が尋ねてくるのが聞こえる。


 とりあえず目を開ける。

彼女の手には鋭利な包丁。・・・と何ともよくわからない臭いの深緑の液体。


 差し出された液体と彼女とを交互に見比べる。

「あ、服汚くてごめんね!ウサンギの子供が捕れたから血抜きしてたの!」


 は?なんの子供???それよりも

「この、緑の液体は?」

 飲め。と差し出されたこの液体。・・・臭いの感じからするに少なくともうまいものではないと思うが。


「川辺でウチゴの実を食べちゃったでしょ?あんなの生で食べたら死んじゃうよ?少なくともこの辺の人なら知ってると思うんだけど、、?」


 また知らない言葉。けれどなんとなく理解はできた。


「・・・悪いのは、運じゃなくて頭の方だったか、、。」

 よく考えれば右も左もわからないところで似ているというだけで得体のしれないものを食べればあたりまえか、、。


「頭も痛い?ほかにも変なもの食べたの??」

と山姥・・・もとい女の子が顔を覗き込んでくる。


「ああ、いや大丈夫。痛いことは考えてたけど、痛くは無いから、、」

 ここまでか。とか考えていたおれがバカみたいだ。


 目の前の女の子はさらに怪訝な顔をしたが

「とりあえずこれ飲んで?話はその後で聞くね。」

 そう言って謎の液体をぐいぐい勧めてくる。


「・・・この、『謎水』は何?」

「これはウチゴの毒を中和するお薬!飲んで1日寝てたら動けるくらいにはなると思うから!」


 嘘は言っていなさそうだ。見ず知らずのこんなおれを本気で心配してくれているのだろう。

「ほんのちょっと苦いかもしれないけど。男の子だから大丈夫だよね!」

・・・本当にちょっとか?


 なんにせよこの痺れが取れないことにはまともに動くこともできない。諦めて器を受け取り覚悟を決める。

「なるようになるかぁ。」

呟きグッと一気に口へ流し込む。


 口いっぱいに広がる苦み。その奥から強烈に存在感を主張してくる数々の雑味と経験したことのない渋み。鼻から抜ける名も知らぬ雑草を口いっぱいに頬張ったかのような青臭さ。確信できる。おれは死ぬまでに、これ以上まずい食べ物に出会うことは決してないだろうと。


(・・・飲みこめねぇ、、、!)

 体内へ入ろうとする『謎水』に体が拒絶反応を起こし吹き出しそうになる。

 同時に彼女の手は口元へ伸び、口を押さえ排出することを許さない。


「んんんゔっ!んんー!」

「男の子でしょ!がんばって飲み込んで!」


どうやら彼女は山姥ではなく、鬼だったようだ。

ニッコリと笑ったままおれの口元を抑える手の力は一切緩むことは無い。

 

 息もできず振り払う力もなく、意を決して飲み込んだ。

・・・すさまじい。口から食道そして胃への過程がまずいで埋め尽くされていく。


「よくがんばりました!お水飲む?」


あまりのマズさに声も出せずただコクコクと頷く。


「んっんっんっ、、ぷはっ!まっっっっっず!!」

手渡された水を飲み欲しようやくようやく口を開く。


「ほんのちょっと苦いって言ったでしょ?ま、これに懲りたら二度とウチゴは生で食べないようにね?」

 激しく同意だ。あんなものを飲まされるくらいならたとえ餓死寸前でもデカイチゴはごめんだ。


「とりあえず明日まではまともに動けないと思うから寝てるように。色々聞きたいこともあるんだけど、それは元気になってからね!」

 ニコやかにそう言うと彼女はまた台所へ戻っていく。


 とりあえず悪い子ではなさそうだ。

(申し訳なさとかいろいろあるけど。まずは体力回復が優先かな。)

そう思い布団を頭まで被りもう一度眠りについた。




 そこからさらに2日後。おれはあの『謎水』をくれた女の子と一緒に朝ごはんを食べていた。

「動けるようになっったからって治ったわけじゃないんだよ?も2~3日は安静にしている事!」


 目が覚め体も動くようになっていたが、布団から出たところを捕まり布団に引き戻された。



「いや、見ず知らずの女の子にこれ以上迷惑かけるわけいかねえよ!」

「それは確かにそうかも。じゃあまずは自己紹介からね!私はシルヴィア。シルヴィア・ルナフォートね!君は?」


「・・・桐生 太陽。」

「タイヨウね!いい名前!でも、ウチゴのことも知らないなんてこの辺の人じゃないの?」


「説明するとややこしいんだが、、まあこことは違う国から来たみたいな感じかな?」

「ふ~ん。たしかに服装も変わってるもんね?けど他の国って、他の町から来たってことだよね?」


「?いや、海の向こうの他の国、からかな。」

「ええ!海には『鮫』がいるからちょっと魚を捕るくらいならまだしも、海を越えてくるなんて!ねえねえ!海の向こうってどんななの?」


 目をキラキラさせながらあれこれと問い詰めてくる。よほど他の国・・・もとい海の向こうというのは遠い場所らしい。


(それにしても・・・サメがいるくらいで海を渡れねえってことは、科学技術的にはあんまり進歩はしてねえのか?)


「あ、いけないいけない!ついおしゃべりが楽しくて。タイヨウも聞きたいこととかあるとは思うけど、それはもう少し元気になってからね?」

「いや、だからおれは・・・」

「自己紹介もしたしお話もした。だからもう知らない人じゃないでしょ?というわけで大人しくしてるように。」



 そう言い布団に押し戻される。衝撃的に押しが強いというか人の話を聞かないというか。・・・どことなくハル姉を思い出す子だな。

「・・・じゃあお言葉に甘えて。ちょっとの間お世話になります。」


 諦めて布団に戻り横になる。


「は~い。晩ご飯出来たら起こすからちゃんと寝ててね。」

 なにがうれしいのか、とても上機嫌に返答をくれるシルヴィアと名乗った少女。



 数時間後、晩ご飯ができたと起こしてくれたので席に着きテーブルの上を見渡す。

「嫌いなものがあったら、遠慮しないで言ってね?」

 彼女は相変わらずの上機嫌でとても良い笑顔でこちらを見ていた。


 シルヴィア ルナフォート。見た感じ歳は17~18くらいだろうか?身長は160cmくらいで体型は一般的な年頃の女の子。といった感じだ。顔立ちはとても整っていて端的にいえば美人だ。その中でもひときわ目を引くのが肩くらいまで伸びたゆるいウェーブのかかった竜胆のような淡い青の髪と満月を思い出すような金色の瞳。


 透き通るような白い肌が一層瞳の色を強調している。

 そんなことを考えながら彼女を眺めていて気付く。


 耳が長くとんがっている。本などで見るエルフ、というやつか?


「――なるほど。エルフって、ほんとにきれいなんだな・・・」

 つい感想が口からぽろっと出た。独り言が多かったことがここへきて裏目に出るとは・・・


「え?え?なに急に!?」

 彼女が頬を赤らめながらこちらを見ていた。

 褒められ慣れていないみたいだな。・・・かわいいな。


「もう!あんまりからかうと怒るよ?ほら冷めちゃうから早く食べよ!」

 赤面の彼女に促され手を合わせる。


「はい、いただきます!」

これは一緒なんだな。「いただきます。」と口にし再度テーブルの上に(目を背けていた現実)視線を戻す。



・・・おそらくこの子には料理の才能が無い。真ん中に鎮座するのは朝言っていたウサンギと言われる動物だろう。焦げてしまって原型は把握できないが、、。

 そして各々の目の前にあるスープ。何を入れればこんな色になる?魚らしき何かと植物と思わしきものとキノコがとりあえず煮込まれていることはギリギリわかった。


「食べないの?まだ体調良くない??」

心配そうにこちらを見ながらも彼女は平然と目の前に並んだ料理を口に運んでいく。


(もしかしたらこっちではこれが普通なのかも、、。なんせイチゴに毒があったくらいだし・・・)


 それにここまでかいがいしく色々してもらっておいて手を付けないのも失礼だろう。

ますはメインディッシュらしき焦げ肉に手を付ける。

(まあ、食べれねえことはない、か。)


 申し訳無いが、おいしくはない。ただただ焼かれて焦げた肉。といった感じの味だ。

 さて、鬼門はコイツだな。圧倒的な存在感で目の前に鎮座する『謎水Ⅱ』。口をつけずとも強敵であることはおれの本能が告げていた。


「男は度胸、、。」覚悟を決め、スープを口に運ぶ。


 口いっぱいに広がる芳醇な魚臭さ。これでもかと言わんばかりの激しい主張の葉っぱの青臭さ。そしてそれら全てと見事なまでに反発するキノコのえぐみ。


「どうどう?今日のはうまくできたと思うんだけど!?」


 確信した。この子の味覚は狂ってる。だがあまりに無邪気な笑顔で尋ねてくるので正直な感想を述べるのは心が痛む。


 精一杯の作り笑顔を浮かべ、親指を立ててなんとかサインだけは送る。

意図が伝わらなかったんもか、その所作をシルヴィアは不思議そうな顔で見ていた。


――止まるなっ、、、!ここで止まれば、もうおれに勝ち目は無い、、!

 返答を述べる前にすべて無理やり口内へ流し込み何かを感じるより早く呑み込んでいく。


 その様子をどう受け取ったのか彼女は満足そうに微笑み

「もうちょっと作っといたらよかったね。明日はお替りもできるように作るね?」

 と恐怖の呪文を口にした。



「・・・明日はおれがご飯作ろうか、、?ほら、泊めてもらって何もしないのも申し訳ねえし、、、。」

そう長居する気はないが、ここにいさせてもらえる間はおれがご飯を作ろう。今更ながらにハル姉のありがたみを痛感した。


 用意してくれた『コーヒー』を口にしながら、恐怖の晩餐を無事終えたことに一息つく。


「ん、うまい。」


 今までの会話で得た情報は、まず言葉は通じる。固有名詞は少々違うがなんとなく見たことのあるモノも多い。そして固有名詞『コーヒー』のように共通のものもあるようだった。


「さて、一息ついたところで。いろいろ聞いてもいいか?」

目の前でコーヒーを覚ましている彼女に話しかける。

「まず大前提なんだが・・・『ここ』、どこだ?」

自分で言っておきながらなんとも雑な質問だなとは思うがこれ以外に聞きようが無い。


「不思議なこと聞くんだね?タイヨウはここを目指してたんじゃないの?」

「船が沈没して海に流されて、気付いたら森の向こうにある草原に転がってた。だからいまいちここがどこか分かんねえんだわ・・・」


 出会っていきなり「おれは異世界人だ」はかなりやばい奴だろう。情報も宛ても無い今、目の前の少女に不審者認定されてしまえばおれはまた訳も分からぬままに無人の森に放り出されることになる。

 最終的に打ち明けるかは別問題としても、今は極力彼女に不信感を抱かせないようにしなければ。


「海に落ちたの?だったらタイヨウは本当に運がよかったんだね!『鮫』に食べられずに海から上がってきた人なんて初めて聞いたよ!」


 やたらとそのサメを気にするがそんなにサメが多いのかこの辺の海は。フカヒレもこの世界なら安価に手に入るかもな。


「まあそんな感じだからさ。今おれが何処にいるのかもわかってねえのよ。」

「そっかそっか、それは大変だったね。ここはねアッシャムス。『千年王国 アッシャムス』って呼ばれてるの。」

「千年王国、アッシャムス・・・」


 何とも仰々しい名前だな。色々とお堅そうだ。・・・名前の響きから連想しただけの偏見だが。


「で、今いる場所は国の東の方。『誓いの森』って呼ばれてる所。」

「このあたりには人って住んでねえの?ちょっとした人探しもしたいんだけど。」

「人に会いたいんだったらここから7日くらい歩いたところに『デロス』っていう村があるからそこまで行かないとかな~」

 

 想像はしていたがやはりか。なにせこの2日間、外から聞こえてくるのは虫や動物の鳴き声ばかり。人の声というものを全く聞こえなかった。


「7日、か。まあ全然いける距離か。いろいろありがとう。明日の朝には早速出発かな。」

「もう行っちゃうの?そんな体で?」

 そんな体とは?ほとんど体は万全に近いと思うのだが。


「あのデカイ・・ウチゴ?の毒ってまだ抜けてねえのか?」

「ううん。そうじゃくて。何をしたらそうなるのかわたしには分からないけど、タイヨウの魔力空っぽだよ?逆にそんな体で良く動けるなって思ってたの。」


 魔力、が何かはよくわからないが『空っぽ』や『そんな体』という単語は聞き覚えがある。

 あの夜、神楽がしきりに何度も言っていた言葉だ。


「・・わるいけど、その辺も説明してもらってもいいか?」

「タイヨウのいた国って本当に変わってるんだね?魔力や魔法なんて、言葉が話せるようになるころにはなんとなく理解しているものだと思ってたけど、、。」


 急激に強くなるファンタジー感。魔法が義務教育並みに行き届いているとは、、。


「え~と、まず魔力には三種類あってね?まずは自然界にある石や木、風や水全てに含まれている魔力を『全なる魔力(マナ)』っていうのね。で、人それぞれが体内で作りだしている魔力を『一なる魔力(オド)』って呼ぶの」


『マナ』と『オド』。マンガなんかでは聞く単語だな。


「一応もう一つ種類があるのはあるんだけど、これはもう失くなってるから今は説明を省くね。また機会があれば教えてあげる。」

「で、そこから魔法を使うわけなんだけど、この魔法にも二つの種類があるの。一つ目が『術式魔法(じゅつしきまほう)』っていって、魔法陣を何かに書き起こしてそこに魔力を通すことで発動することができるの。」


「それともう一つが『詠唱魔法(えいしょうまほう)』。こっちは魔法陣を描く代わりに、自分の発する言葉を陣として魔法を発現させるのね。」

「なるほどなるほど。まあよくある設定だな。」

「設定?何の設定かはわからないけど続けるね?」

 そう言って彼女は続ける。


「まず『術式魔術』は『オド』を使って陣を描いて、『マナ』を巻き込んで術を発動するから威力や効果がとても大きいの。そのかわりに強い魔法ほど陣を描くのに時間がかかっちゃうから、動きながらとかは難しいかも。強力な魔法ほど大きくて強い陣が必要だし書き込む対象物が内包している魔力も効果の大きさに影響してくるの。」


「『詠唱魔法』の方は自分の言葉や動きに『オド』を乗せて、その行動自体を陣として発動する魔法ね。陣を描く作業が無い分発動まではとても速いのが特徴なかわりに」

「自分の魔力だけを使うから威力や効果は劣る。って感じ?」


 おれの言葉にシルヴィアがいいね!と親指を立てる。

「使い方これで合ってた?」と少し照れながら聞いてくるのでこちらも親指を立てて返答する。

 

「あと『詠唱魔術』は誰でも使えるわけじゃないの。自分の持ってる『オド』の量やセンスによるところもあるから。使えない人は全くダメだったりするかな。」


 そこまで聞いて彼女が料理中に火をつける際に何もないところから火が上がったのをふと思い出す。

「そういえば、料理作るときに使ってた火も『詠唱魔術』?」


「あれはね『魔具』っていうの。むかしは『人造兵器』って物騒な呼ばれ方をしてたんだけどね。家の竈とかいろんなところにあらかじめ陣を描いておいて、後はそこに『オド』を流して発動させるの。魔術はダメでもみんな自分の『オド』を流すことくらいはできるから。」


「なるほど~。ってことはあれか。魔法は使えなくてもビームは出せるって事か、、。」

 腕を組み一人で頷くおれを不思議そうな顔でシルヴィアが見つめてくる。


「びーむ?はよくわからないけど魔力をそのまま体から出すことはできるよ。けど、それだとすっごく『オド』の使用量が多くなるから、その効率をよくするのが魔法陣なの。」


 残念だ。おれのビーム発射計画は実施前に頓挫してしまった。

「けど、なんでおれは魔力が無いんだ?ビームはまだ使ったこと無いぜ?それともおれって壊滅的に魔法の才能が無い?」


「才能はやってみないとわかんないけど、安心して?タイヨウは『オド』が「無い」訳じゃなくて「空」なだけ。どんな人でも魔力は少なからず持ってるから。けど、普通は空になったらまず動けないし、下手したら死んじゃうの。まず空になること自体がそうあることじゃないし、、。」


 まあその辺りは察しが付く。

「そもそも、あっちには魔力なんてないんだからあたりまえか。」

 またも一人納得し頷く。


「まあでも『オド』は休んでいれば回復するものだし、この森は『マナ』も多いから回復も早いはずだから!現に朝よりもタイヨウの魔力もちゃんと溜まってきてるから安心してね!とりあえず時間も遅いしお風呂入って今日は寝ましょう!魔法についてのお勉強はまた明日ね!」

そう言っていきなり服を脱ぎ始める。


「ちょぉぉい!何してんだよっ!?」

「何ってお風呂入るから服を脱いでるんだけど?それともタイヨウの国では、服を脱がずにお風呂に入るの?」


 そこじゃない!論点がずれてる!そう思いながら胸辺りまで上がっていた彼女のワンピースのような服を定位置へ戻す。


「いやそこじゃねえよ!おれ男だぞ!?なんで目の前で脱いでんだよ!!?」

「あ、わかった!タイヨウはあれだ!女の子と一緒にお風呂に入るの恥ずかしくなってきたんだ!」

「いや、おれの問題じゃなくて!」

 この子の貞操観念はどうなっているのか。本気で心配になる。


「もう!それともお風呂が嫌なの?ダメだよ!言いづらいけど、タイヨウ汗臭いよ?」

「入る入る!入るけど一人で入れるから!まじでおれのこと何歳だと思ってんの!?」

「ん~12歳くらい?」

 

 なるほど・・・貞操観念もだがそもそも子ども扱いされてたと・・・

 童顔なことは自覚しているが、さすがにそれは言われたことないぞ。とショックを受ける。

 てか、12歳でもいろいろ微妙だろう・・・

「おれ、今年で21なんだけど、、、。」


「・・・ほんとに?それは、なんだか、、、ごめんね?」

やってしまったという顔で謝ってくる彼女に先に風呂へ行ってもらい窓に映る自分の顔を眺め

「・・・ひげでも伸ばそうかな、、。」

 と密かに決心するおれであった。


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