かわいらしい鉄仮面。
「器用なもんだな~」
「・・・・・・・」
―ザクっザクっ。
小気味良い音を立てながら庭の気を次々に切りそろえていく様子を眺める。
「なんか手伝おうか?つってもそーゆう細けえこと苦手なんだけどな。」
「・・・・・・・・」
小学生の身の丈ほどもありそうな大きなハサミで器用に剪定を続ける少女。
「そーゆうのってコツとかあんの?なにも見ねえで切ってなんでそんなにきれいに揃えられんの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
少女は庭の木の剪定を終え屋敷の中へと踵を返し戻っていく。
少女の名前は「シャル」。正確には続きがあるのだろうけど今の所聞き出せていない。
おれの世界で言う所のメイド服のようなものに身を包み、頭にはいつも真っ白の頭巾をかぶっている。「メイド風白ずきんちゃん」と言った所か。
「屋敷の掃除も一人でやんのか?手伝うぜ?こんだけ広いと大変だろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
頭巾に負けず劣らずの嫌いな白い肌に真ん丸大きな緑の瞳。見た感じだけなら見た目はギリ高校生くらい?身長も小さく150センチあるか無いかだろうか。
これでこの鉄仮面さえ外れてくれればなんとも愛嬌のある顔立ちだ。
シルヴィアはもちろんのこと、リザリーにオリヴィエとかなりのド級の美人ぞろいの異世界生活だが、”かわいい”という表現においてはこの子が一番似合う。
「なら飯でも作ろうか?こう見えてもそこそこできると思うぞ??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返答が無い。ただの屍のようだ。
「・・・え~っと。ご趣味は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「メエンタルブレ――イイイク!!どんだけ塩対応!??おまえは岩塩現地直送か!!?」
「うっるさい小石!!屋敷の中で騒ぐんじゃないわよ!!」
この屋敷に来て数日経つがいまだにこの「シャル」と呼ばれる白ずきんちゃんとはまともな会話が交わせていない。
なぜかおれにだけ極度に当たりがキツイ。そして全く持っておれには身に覚えが無い。なのでまずは少しずつ会話をし打ち解けていこうと試みたのだが・・・・
「取りつく島も無しとはまさにだな。」
肩を落とすおれの方をチラリと見ることも無くシャルは屋敷の奥へと歩き去っていった。
「そんな所でバカみたいな顔してどうしたのよ?」
「・・・相変わらずお前はトゲトゲしいな。いつもいつも取れたたて新鮮ですか?お前は今日からナスビちゃんだ。」
「またぶっ飛ばされたいの?」
ニッコリととてもいい笑顔のオリヴィエ。もちろん上機嫌の笑顔なわけでは無い。
「はぁ、、。お前んとこのメイドもそれくらい感情豊かならな。」
「何のつもりか知らないけど、どう?ちょっとは会話くらいできたの?」
「絶賛大海原で漂流中だよ。島なんか影も形も見当たらねっつの。」
とりあえずは一息つこう。これだけボールを投げても一球たりとも見向きもされないとは。
中庭へ出た後タバコに火を着けてベンチに腰掛ける。
「ほんと訳わかんない言い方ばっかするわね。バカのくせに賢そうな言葉使ったってちっともごまかせてないわよ?」
「うっせえよ。お前はいつまで取れたて新鮮ナスビちゃんなんだ?」
「あら。キレイな花には棘があるもんなのよ?」
そんな軽口を返しながらおれの横に腰掛けるオリヴィエ。
「なんだよ?なんか用か?」
「別に?暇だから世にも珍しいバカ面でも眺めてみようかなって思ったのよ。で?何したらあの子にあんなに嫌われんのよ?」
「こっちが聞きてえっつうの・・・」
吐き出した煙を追いかけ空を見上げる。
「ふうん。そもそも、なんでそこまでこだわんのよ?」
「あんだけあたりがキツけりゃ気になんだろ?それに・・・」
吸い終わったタバコを消しながら今までに見たシャルの顔を思い浮かべる。
「気になんねえ?あんだけ可愛い子が笑ったらどんな顔すんのか。とかさ。」
いつもどおりのおどけた口調で話すおれをまるでゴミを見るような目で見つめるオリヴィエ。
「はぁ?きっっもちわるっ。」
そして渾身の感情を乗せて単刀直入に悪口。
「別にキモかねえだろ!?」
「へぇ~~~。あんたってああいうのが好みなんだ?」
「・・・いじめられて喜ぶ趣味なんかねえよ。」
初めて見るオリヴィエのニヤニヤ顔。どうして女子というのはそういった話が好きなのか。
それに断じてそういった方向性の話ではない。おれはもちろんシルヴィアにゾッコンだし、浮気症でもないんだが。
初めましてから先程まで。笑顔に限らず、シャルの人間らしい表情というか・・・感情が見えてこないのだ。
「別に好かれてどうこうしようってことじゃねえよ。ただ、あそこまで頑なに鉄仮面着けられたら外したく何のが人情だろ?」
「あたしがそんなに他人に興味を持つと思う?」
「・・・たしかに。血も涙も無さそうだもんなお前。」
「そんなに短い寿命をさらに縮めたいのかしら?」
終始笑顔。ずっと笑顔。目の奥はちっとも笑っていないが。
「ま、がんばんなさいな。あの子。本当に友達いないから。アンタみたいなのでもいないよりはいいんじゃない?」
「あんたみたいなのとは失礼な。てか、「興味無い。」なんて言いながら気にはしてんだな?」
「他人には、ね。」
「なんだなんだ?まさか「使用人だって家族同然でしょ?」なんて似合わねえこと言い出すんじゃねえだろうな?」
立ち上がったオリヴィエを見上げながら新たにタバコに火を着ける。
まさかこの女にそんな普通の考え方があったとは非常に驚きだが・・・
「言う訳無いじゃない。あの子は家族同然なんじゃなくて、正真正銘”家族”なんだもの。」
「・・・・・は?」
「シャルロット・ジル・ヴァーミリオン。あの子の本名よ。」
「はあああああ!?」
驚きのあまり咥えていたタバコを落とし太ももの内側が焦げた。
「あっつ!てか、姉妹??お前とあの子が!???」
「なによ。そこまで驚くこと?」
「いや・・・だって・・・」
まあなんとも・・・似ても似つかない姉妹だ事で。
確かに姉妹揃って美人ではあるが本当に似ていないのだ。カレーパンとあんパンくらい違う。それぐらい似ていない。唯一の共通点と言えばやたらとおれに辺りがキツイことくらいか。
「・・・そういう意味じゃ確かに姉妹か、、?」
「またなんか失礼なこと考えてんでしょ。」
「考えてねえよ。純然たる事実だっつの。けど姉妹って言うけどあの子は――」
「お話し中失礼いたします、お嬢様。騎士の方々がお見えです。」
「あら?もうそんな時間?それじゃあね。」
髪の毛をサラッ。とやりながら優雅に振り返り屋敷の中へと戻っていくオリヴィエと後ろをついて行くシャルを目で追いかける。
「くぁ~~~っ・・・これはこれは。またいろいろとありそうな予感・・・」
中庭の芝生の上。冬も近づき薄黄金に変わり始めたその場所に大の字に寝転がりながら流れていく雲に呟いていた。
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「そっ・・・そんな、バカな・・・」
明くる日。時刻は早朝。日課になりつつあるボルクスとの鍛錬中に事件は起きた。
「どうしたのタイヨウ?」
「ここまで一緒に苦楽を共にしてきたってのに、、、!神はおれから「コイツ」まで奪うのかよお、、!」
「な、何があったか分からないけど落ち着いて?ね?」
地面を叩くおれの肩に手を添え慰めてくれるシルヴィア。
だが、彼女の優しさをもってしてもこの心傷はそう簡単に癒えやしないんだ。
「はぁ。こういう時は、大抵くだらないことですよシルヴィア。」
日から崩れ落ちたおれをアホを見る目で見るボルクス。
「確かに。日頃からアホなことを口走っていることは自覚してる。・・・でも、これは・・・」
「自覚はあったみたいで何よりです。で、何がどうしたんですか?」
こいつは本当にどんどん冷たくなっていく。「――味方ですから。」なんておれをときめかせたボルクスはどこに行ったのやら。
「本当に何があったの?」
「・・・ああ。ついに別れの時が来ちまったんだ。マイ・フェイバリット・パーカーとの・・・さ。」
こちらの世界に来た日から愛用し続けていたおれのパーカー。
体と共にズタズタにされていたはずだったのだが、目が覚めた時にはキレイに直っていたおれの勝負服。
胸に大きく刻まれた「白米」の二文字に何度心を救われたことか。
「ほら。くだらないことだったでしょう?」
「そうだね。すっごくくだらないことだった。」
「もうちょい慰めろよ!おれの国から持ってきてた思い出の一品なんだぞ!!」
ほとほと呆れたとありありと目で語る二人。
まあ確かに思い出と言えるほどのモノは無い。それでも、唯一向こうの世界から持ってきて手元に残っていたものだ。これでも結構な愛着があっただけに何ともショックではあった。
「あ~。こりゃさすがに自分で直すのは無理そうだなぁ。」
引き裂かれた「白米」の二文字を眺めながらつぶやく。
破れた理由は単純に経年劣化していたところにボルクスの木刀が引っ掛かった為。結構な域尾で降り抜かれたため、見た目は完全にぼろ雑巾になってしまった。
「う~ん。これは確かに直すの難しそうだね。」
「だよな~。ついに相棒ともお別れか。」
パーカーを抱きしめるおれを見ていたボルクスがポンッ。と何かを思いついたように手を叩いた。
「シャルさんにお願いしてみたらどうですか?」
「へ?」
「今着ている服もご自分で作ったと言っていましたのでもしかしたら直せるかもしれませんよ?」
「なるほど。」
と言うか。いつの間にかそんな話をするくらいにはボルクスとは仲良くなってんだな、あの鉄仮面娘。
「あとは、直してくれるかどうかだな・・・」
何とも期待薄ではありそうだが、おれのパーカーの命を繋ぎとめることが出来そうな最後の手段だ。
なにせ彼女の好感度は一ミリも上がっておらずいまだにおれの扱いは「家畜以下」と言った所だ。
「・・・ダメでもともと。一応頼んでみるかぁ。」
勝負服の為にも改めて鉄仮面メイドの攻略に気持ちを入れなおす早朝だった。




