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ヴァーミリオン邸



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴっ、、!


 とでも聞こえてきそうな威圧感を放ちながらテーブルの対面に座るのは『千年王国・アッシャムス』の最高司法機関である『賢人会』の会長にして王剣三銃士の一人、魔女・オリヴィエの父親。

 ヴェーレン・ジル・ヴァーミリオンであった。


「えっと・・・」

「君に、一つ聞いておきたいことがある。」

「はぁ、、。」


 一体何を聞かれるのか。そんなことは知る由も無いがおれは今ヴァーミリオン邸。いわゆるオリヴィエの実家に来ていた。


 発端は数日前。ヴァルトの屋敷に居たおれに届いた一通の招待状。

 内容は単純に「良かったら家に来てください。」というものだった。


 どちらにしろ体の事などもあったのでオリヴィエの元へと向かう予定ではあったのだが、差出人はその父親であるヴェーレンだった。


「オリヴィエならまだしもなんであのダンディー髭から?」

「私にもわかりかねますが・・・正式な招待状になります故極力急がれた方がよろしいかと。」


 ジルバークさんがそう言うのなら。と重い腰を上げフェルーの町を後にすることにしたおれたち。


「そうか・・・行ってしまうんだね。いや!確かに今僕の屋敷はいまだ半壊状態だ。オリヴィエの所の方がタイヨウもゆっくりと休めるだろう!」


 一瞬残念そうな顔をしたヴァルトだったが、手紙が届いた翌日にはオリイヴィの手配した荷車も到着し出発することになった。


「こちらが落ち着いたらまた顔を出すよ。タイヨウ、極力無理はしないようにね?」

「大丈夫!ちゃんと見張ってるから!ヴァルトも無理はしないでね?」

「心配ご無用だよシルヴィア。君のおかげでもうほぼ全快さ!」


 そう言った後意味深な目配せをおれへと向けてくるヴァルトだったが

「じゃあ気を付けて!一応護衛の騎士も同行させるからゆったりと旅路を楽しんでくれ!」

最後はいつも通り爽やかな笑顔で見送ってくれた。


「いただいた地図で見る限りオリヴィエ様の管轄の街『ベルン』までは3日といった所でしょうか?」

「じゃあとりあえず3日間はゆっくりできそうだな~。」

 荷台にゴロンと横になりタバコに火をつける。


「もう!そうやってす~ぐダラけるんだから。あんなにカッコよかったタイヨウはどこ行っちゃったのかな~。」

「そういうのをギャップ萌えって言うんだぞシルヴィア。いつもカッコつけてるといざって時に映えねえしな。」

「また変な言葉でごまかすんだから。」


「ま、まぁまぁ。タイヨウだって疲れてるでしょうしいい機会じゃないでしょうか?ね?」

 おれたちの会話に混ざりシルヴィアをなだめるボルクス。


 ボルクスが飲みに行った日の話をして以来シルヴィアがイマイチご機嫌ななめだ。どうしたものか・・・

 別段ドーンっ。と怒られることは無いがほんの少し言葉に棘があるような感じだ。それはそれで少しかわいいと思ってしまったりもするのだが。


「はぁ~。それにしてもいい天気だなぁ~。また空から『魔女』でも降ってくんじゃねえか?」


 結果そんなことは無く、『ベルン』という街に到着し言われるがままヴァルトの屋敷に負けず劣らずの大きな屋敷に通され、おれは今に至る。


「まずはこの度の戦い本当によくやってくれた。この国を代表して感謝を申し上げる。」

 机に額が付くほどの勢いで深々と頭を下げるヴェーレン。

「いやいや、そこまでしてもらわなくても。別にこの国為にしたわけじゃないし・・・」


「先の戦いは離れた王宮からでも一部始終が確認できるほどのものだった。詳細も、王宮に戻ったリザリー卿より聞いている。もし、あの隕石が落ちるようなことになっていれば・・・間違いなくこの国は滅んでいただろう。」


 椅子に座る彼の横にはいつもの口うるささが鳴りを潜めたオリヴィエと屋敷のメイドさんの女の子が居るが、その二人もヴェーレンの言葉に合わせ深々と頭を下げている。


「まじで頭上げてくれよ、、、。この国の最高権力者様とその娘さんにここまでされたら、さすがのおれも気まずいっつうか、、、。」


 言葉を聞いた三人はようやく顔を上げこちらを向いてくれた。

 オリヴィエにまでこういう感じで来られると調子が狂うなぁ・・・

「で?結局聞きたいことって?」


「そうだな。話しを本題に戻そうか。君をここに呼んだのは他でもない。一つ・・・確認をしておかねばならないことがあったのだ。」


 敵意こそ感じないものの、彼の一変した雰囲気に思わず唾をのむ。


 ヴェーレン・ジル・ヴァーミリオン。おれのいた世界で言うのなら、聞いた話のイメージ彼の立ち位置は『王国の最高裁判官』と言った所だろう。


 そして実際に見た所感ではまさに「法の番人」といった言葉がしっくりきすぎるほどに厳格な雰囲気漂うおじさまだ。


 芯があり、曲がったことや不正を許さず。彼の持つ”正義”という物差しのもと悪を裁く。

 大した接点があるわけじゃ無いがそう言った感じがありありと伝わってくる。


 そして、一番何を考えているか分からないといった感じも受ける。

 本心がというわけじゃ無いが、なんとなく苦手なタイプというか・・・まあ、堅そうなダンディー紳士だ。

 

「・・・確認?」

「ああ。オリヴィエや他の騎士達からの報告を受けた上で、どうしても気がかりなことがあってね。」


 特に思い当たる節は無いが。――いや、一つだけ。あると言えばあるか。


 もしあの時。シルヴィアが『月の魔法』を使ったことに気づいていた者が他にもいたとしたら?


 現状ヴァルトは黙認してくれている。リザリーも・・・直接何か言ってきたわけでは無いが勘の鋭そうなロリだ。正直、気づいていて黙ってくれている可能性の方がはるかに高い。


 けれどもあの場にいた選りすぐりの騎士は何もその二人だけでは無いのだ。

「気がかり。ねぇ・・・」

「そう、気がかりだ。」


 ヴェーレンの鋭い眼光に、思わず机の下で剣の柄に手が伸びる。

「・・・もったいぶらねえで。話、進めようぜ。」

(最悪、ここでまたどんちゃん騒ぎの可能性も考慮しておかねえとな・・・)


「ふぅ。その通りだな。正直に答えて欲しい、タイヨウ・キリュウ。君は――」


 ごくりっ。

 もう一度唾をのみ最悪が起こってしまった場合に備えて覚悟を決める。


「君は――オリヴィエたんとどういう関係なんだね?」

「・・・・・・・・は?」


 ヴェーレンの口から続きが語られるよりも早く、目にも止まらぬ速さでオリヴィエの平手が彼の右頬を打ち抜く。


 彼女の口癖よろしく、ヴェーレンは部屋の壁をぶち抜き文字通り「ぶっ飛ばされた」。


「なに言いだすのかと思ったら!わけわかんないこと言わないでよパパ!!」

「な、何をするんだ、オリヴィエたん!お前のようなかわいい年頃の娘を見て何も思わない男など、この世界にいるはずが無いだろう!」


 そう言ったヴェーレンは何かしらの強烈な魔法で今度は屋敷の外へとぶっ飛ばされていく。


 ・・・ていうかちょっと待て。もう何からツッコんでいいのかが分からねえ。

「おれが?オリヴィエを?パパ??オリヴィエたん????」

 話の内容にも頭は追い付かないが、何よりもあんなダンディーを擬人化したような人の口から「たん」??


 戸惑っている間にもグッタリとしたヴェーレンが後ろに立っていたメイドに回収されイスへと戻される。

「ふふっ。さすがはオリヴィエたんだ・・・こんなにも強くなっていたんだね。パパは感動したよ。」

 口から鼻から盛大に血を流しながら嬉しそうに微笑むヴェーレン。


 とりあえず一つだけ理解できたのはこの世界にも「パパ」という単語が存在するという事だ。


「えっと・・・」

「はぁ。うちのバ――じゃない、お父様がごめんなさい。この人、バカなのよ。」

「結局言うのかよ。」


「今回あんたを招待したのは他でもないわ。前に招待するって言った約束を守る為と、今回の事へ国を代表してお礼を言うため。それと、あとはわかってるでしょ?」


 ここまで一言も口を挟むタイミングが無かったが、おれの後ろにはもちろんシルヴィアとボルクス。


 その二人がいることを気遣ってか体のことについては会話をぼやかすオリヴィエ。


「な、なんだいオリヴィエたん!その意味深な視線は!まさかパパの前では言えないようなことがあるのかい!?」

「・・・シャル。」

「はい、お嬢様。」

「どうなんだい、タイヨウ・キリュうっ、、!」


 シュトっ。


 シャルと呼ばれたメイドがあろうことか主であるはずのヴェーレンの首筋に見事な手刀を見舞い彼は強制的にシャットダウンさせられた。

「なんなんだよ・・・闇深すぎるだろこの家。」


「ま、そういう事だから。ゆっくりしていきなさい。このバカを縛って倉庫に放り込んだらお客様を部屋へ案内しておいてあげてシャル。あと、小石?」

「・・・まさかとは思うけど。それ、おれの事か?」

「他に誰が居んのよ?あんたは部屋で一息ついたらあたしの部屋へ来なさい?」


「いや・・・そーゆうのはまだ早いって言うか・・・やっぱお義父さんの許しがあってからじゃないと。」

「あんたも壁ぶち抜いてみる?」

 にこやかに殺気を放つオリヴィエにこちらも満面の笑みで応え立ち上がる。


「うぅっ・・・はっ!君にお義父さんなどと呼ばれる筋合いは――」

「シャル。」

「はい。」

「ぐぅっ、、、!」


「では、お客様。お部屋へ案内いたしますのでどうぞ。」

 手早く縛られ本当に倉庫のようなところへと主を放り込んだメイドに促され部屋を出るおれたち。


 部屋を出る寸前倉庫のカギを厳重にかけるオリヴィエが見えた気がしたが、家族愛の形はそれぞれなので胸にしまっておこう。


 そのままだだっ広い屋敷を大まかに案内されながら順番に用意してもらった部屋へと通される。

「ボルクス様のお部屋はこちらでございます。当家では7時に朝食。正午に昼食、19時に夕食となっておりますが何か不都合等ございましたら何なりとお申し付けください。」

「はいありがとうございます。では、二人とも。また後程。変な事はしないでくださいよタイヨウ?」

「しねえしねえ。」


 キレイに整えられた部屋へと入りボルクスと別れる。


「シルヴィア様のお部屋はこちらでございます。女性が必要とされるものは一通りそろっているかと損じますが、何か不都合がございましたら何なりとお申し付けください。」

「ありがとう!じゃあタイヨウ、あとでね?変なことしちゃだめだよ?」

「お前らはそろいもそろってどんだけ?」


 見た感じボルクスの部屋よりほんの少し女性用の化粧台など物が多そうな部屋へと入ったシルヴィア。


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 そこから5分ほど無言でメイドの後を着いていく。


 それにしてもピクリとも表情の変わらない子だ。

 笑顔どころか、感情というものがまったく表に出てこない。無表情とはこの子の為にあるような言葉だろう。


「あ~・・・シャル?だったっけ?」

「・・・チっ。」

「チっ?」


「いえ。どうかされましたか?」

「いや、おれの部屋は遠いんだなあって。」

「申し訳ございません。もうすぐ着きますので。」


「お待たせしました。こちらがタイヨウの部屋でございます。」

「ほう。ここが。」


 案内された部屋は二人の部屋に比べてかなり大きく、キレイな毛並みの馬が並んでおり整えられた干し草は気持ちよさそうで――

「それでは何か不都合等ございましたら何なりとお申し付けください。」

「ふつごー―――う!!!」


「それでは失礼いたします。」

「いや、聞けよ!なんでだよ!?馬小屋だろうが!おれの布団だけ無加工の素材百パーセントだろうが!!」

「それが何か?もしたかしてタイヨウは干し草ではなく生草の方がよろしいですか?」


「え、なんで「その通りですけど?あ、もしかして和室派ですか?」みたいに普通の顔できんの??こっわ。あとおれだけ呼び捨てにしてるよね?」

「・・・チっ。」

「で、さっきから舌打ち!!」


「失礼いたしました。あまりにもお客様がうるさ――喧しかったもので。」

「なんも訂正されてねえから!!悪口源泉かけ流しだから!!」


 なんでこんなに嫌われてんだ??こっわ。ヴァーミリオン邸こっわ。

「では仕方ないので、改めてご案内いたします。」

「もう悪意隠す気無えだろ・・・」


 結局来た道をほとんど戻りようやく部屋へとたどり着く。

「それでは、何か不都合等ございましたら我慢してください。」

「はい。もうちゃんと部屋になっただけで充分です・・・」


 ため息をつき窓辺でタバコに火を着ける。

「タイヨウ様は」

「うわぁ!まだおったんかい!」

「お嬢様とどういったご関係で?」

 

 声の方を振り向くと出ていこうとドアノブに手をかけたままの姿勢でメイドのシャルがまだ立っていた。


「またその話かよ・・・そりゃあ人には言えねえような?そーゆう関係よ。」

「何かやましいことでもおありなのですか?」

「さあ~?あったらどうなんだ?」


「もちろん、殺します。」

「え、結論早くない?過程すっ飛し過ぎじゃね?」

 

 相変わらずの無表情でおれの部屋の外側のドアノブが握り潰されるのを見つめる。  


「じょ、冗談だって。だ~れがあんな口悪い高慢女なんか。」

「そうですか。ではあなたはお嬢様に魅力を感じないと?」

「感じない感じない。おれはもっとこう、優しくて、かわいらしい――」


「そうですか。では、殺します。」

「は?なにこのクソゲー。選択肢全部バッドエンド?」


 このタイミングでおれの部屋のドアノブは内側のみになった。


「??少しシャルには分からない言語が混じっておりましたが。この屋敷にいらっしゃる間は変な気を起こさないようにお願いいたします。」

「変な、の意味合いがここだけずいぶん違うよね。」


 ぺこりと頭を下げドアそのものをむしり取りながらようやく部屋を後にするシャルを見送る。

「・・・この異世界の変人率ヤバくない?」

 もう一度、大きなため息とともに煙を吐き出し茜に色に染まっていく空を眺めていた。



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