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其は、闇退ける太陽の輝き


 聖剣から放たれるあまりの光量に辺り一面が日中と見紛う程に照らし出される。

「そんな・・・まさか・・・!」

「都合良すぎるってか?そういうもんだぜ現実ってのはよ。」


 軽口を叩いてはいるが実際かなりキツイ。

 痛いとか、苦しいとかもはやそういう類の言葉で言い表せる範囲をあっという間に飛び越えている。


 明らかにおれの許容量を超えた魔力が。圧倒的な熱量が体内へと歯止めも利かずに流れ込んでくる。

「ぐっ、、、!」

 正直支えているだけで精一杯。強がりだけでも口にできた自分を褒めてやりたいところだ。


 でもそれは後回し。全部終わったら死ぬほど自分を甘やかしてやろう。

 それに、キツイのは事実だが――思っていたほどじゃない。


 多くを語られたわけじゃ無いが、今更ながらになんとなく理解してしまったのだ。

「あ、これ(聖剣)は、おれの手には負えねえや。」と。

 だとしても、選択肢なんて無いんだから。


 おれにしか持てない剣で、これでしか倒せない奴がいるのなら。あとはできる限りカッコつけるだけ。

「大丈夫。」そう口にして、力の限りこの剣(人の身に余る奇跡)を振りぬくだけなんだから。


「さぁ。お日さまも昇ったし夜は終わりだ。・・・覚悟はいいか?」

「うるさい・・・うるさい、うるさいうるさいうるさい!お前たちはまたそうやって!!」

「あ~・・・なんのことだかわかんねえけど、腕疲れるから聞いてらんねえや。でもこれだけは伝わった。お前も・・・頑張ったんだな。」


 結局最後まで彼女の言いたいことも、募らせている思いも理解できなかったが。

でも、その思いが本物であることだけは伝わった。

「だから、ごめんな。おれのわがままの為に――お前を、殺す。」

 我ながら、ひどく傲慢な言葉を口にした。


「やめろ・・・!わたしを、わたし達を憐れむなぁ!」

 先ほどと比べれば見劣りするが、それでもおれを炭にするには十分な火球が襲い来る。が、


「何が何やらわかんねっすけど危ないところっすね!」

「すまない、ずいぶん長く眠ったしまっていたみたいだ。」

 ようやく起きた王国最強の寝坊助たちが火球を撃ち落とした。


「君たちまで・・・!」

「やっと起きたか。サボり過ぎだぞ!」

「返す言葉も無い・・・」

「いや、その前に僕にお礼っしょ!?結構命がけだったんすよ!てか、なんで動けるようになってんすか僕!??」


 陳謝する『死神』と起き抜け早々うるさい『人災』。

「説明はまた後程。・・・じゃ、本当に最後だぜ。」

「くっ・・・!やれるものならやってみろ・・・!見せてもらうよ、君たちごときに何が成せるのかを・・・!」


「はははっ。ほんまにテンプレ通りのセリフをありがとよ!じゃあな・・・”女神の子”。」

 剣を構えなおし最後にミットライトの顔を見つめる。

「これがおれの、満塁ホームランだあ!」

 叫んで気合を入れなおし、聖剣を振り下ろす。


 聖剣から放たれた光は罪を飲み込み、天から迫る裁きを打ち砕く。


ピシッ!


 何かがひび割れるような音が体内で鳴り響いた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 戦闘が行われているのは本来人が目視できるような距離では無い程に遥か先。

 しかして、此度の戦いは”神の子”対”伝説の聖剣”。

 人知を超えた戦いの一部始終は。遠く離れた地からでも容易に見て取れた。

 

 頭上には迫る(ほし)の欠片。大地へ深々と突き刺さりあらゆる生命を滅ぼさんと女神の落とし物が墜ちてくる。


 放たれるは太陽(ほし)が生み出す極光。あらゆるものを飲み込み焼き尽くすような日輪の輝きが天へと昇る。

 

 遠きに見るものからすれば何とも幻想的な光景。天から一条の流星が舞い降りたかと思えば、地からは神秘の極光が駆け抜ける。

 一直線上の両者は、一点にて交わり極大の花火を打ち上げた。


 生まれた爆風はそよ風となり山を越え、生まれた光源は大陸全土の深夜に束の間の真昼を作り出した。

 そして数舜の後には残された僅かな夜へと巻き戻る。


「ようやく、この時が来たようじゃ・・・長かった。――終止符を打とうではないか。」

 癖になった自慢の顎髭を撫でながら言葉を口ずさむ。


 自分にも見ることができない『戦い』の結末。

 必ずやこの手に勝利を。火蓋はようやく切って落とされたのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 目の前では楽しそうに踊る人々。

 作物の豊作を称え、発展し潤う生活に歓喜している。


「いや、なんかこういうの多くねえか?」

 もちろん現実では無い。数日後の後日譚とかそういうのならとても良かったのだが。


「これは、記憶・・・在りし日の・・・美しい記憶の残り香・・・」

「おわっ!!」

 ボンヤリその様子を眺めているといきなり隣から声をかけてきたのはミットライト・ロットマン。


 流星と共に聖剣の光に飲まれたはずのその人だった。


「記憶って・・・もしかしておれの?」

「そう本気で思うのなら・・・君は大概バカだね・・・」

「ですよねぇ~、、、。」


 本気でそんなことを言ったわけでは無かったが、あまりに本気で呆れた目をされてしまい少し傷ついた。

 何とも和やかだがそれもそのはず。今の彼女からは全く持って「敵意」というものが感じられ無い。


「ん?」

 隣で光景を眺める彼女について考えていると人々の空気が一変しとても厳かな感じになった。

「なんだ?」

「・・・神様のご登場だよ。」


 そう口にした彼女の視線の先から一人の女性が現れた。


 神。というにはあまりに普通な女性。実際顔などは影がかかっており認識できないようになっているのだが、そんなに仰々しく形容されるようには到底感じられ無かった。


「あれが、お前らの母親?」

「さあね・・・少しくらい頭も使わないと、もっとバカになるよ・・・」

「いや、ほぼ初対面で辛辣過ぎるだろ!」

こちらのツッコミには見事なまでのスルー対応。


 あれか。肉弾戦で勝てなかったからって精神的(スピリチュアル)攻撃(アタック)か。

「ったく。小学生かおまえは・・・」

 だんまりの彼女と共になんと無く流れる光景を見つめる。


 神と呼ばれた女性を崇める人々。敬い、恐れ、憧れ、妬み、etc。見ているだけでもいろいろな感情が渦巻いているのがよくわかった。

「なんか・・・寂しそうだな。」

 ボソッと独り言をつぶやいた。


 なんとなく視線を感じ隣に目をやると少しばかり嬉しそうにミットライトがこちらを見つめていた。

「な、なんだよ、、。」

「いいや・・・何でも無い・・・バカのくせに。と思ってね・・・」

 そこまで言って彼女は初めてほんの少しだけ、笑ってみせた。


「一つだけお願いがあるんだ・・・」

「はぁ??」

 一体どの口で――


「かわいそうだと思わないのか!あんな年端もいかない女の子に!」

 突如として挙がった声に驚いて視線を人々へと戻す。


 一人の青年が数人に押さえつけられながらも何かを訴えていた。

 結局青年の訴えには耳も傾けられず護衛と思しきものに引っ張られて行った。


 それを眺める”神様”は表情も見えないのに、少し泣いているように見えた。

「君だけは・・・憐れまないであげて欲しい・・・救ってくれなんて言わないからさ・・・」

「いや、何言って・・・」


 再度視線を戻すとそこには影も形も無く、あれほどにぎやかだった人影たちも姿を消しており、おれは一人ポツンと訳も分からぬまま立ち尽くしていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「タイヨウ!ねぇ、起きて!タイヨウ!!」

「んぁ?」

 非常に間抜けな第一声とともに目が覚める。


 あたりはまだ薄暗く、ようやく東の空が少し白みがかって来た頃だ。要するに今回は、戦闘終了後に二日も三日も寝込むような間抜けはさらさずに済んだみたいだ。


 だからと言って心配をかけていないわけでは無いことは、視界に入ったシルヴィアの相変わらずの泣きっ面でよく分かった。

 「あー・・・おはようございます。って、うわ!」

「よかった、、、!本当によかった、、、!!」


 涙でビシャビシャの顔をおれの泥や血で汚れた胸に押し付け抱き着いてくる。

「ちょ!待って待って!今めちゃくちゃ汚れてるし、嬉しいけど後に・・・」

 引き離したいところではあるがなんとも夢見心地で引き離せない。複雑な男心だ・・・


「よかった・・・目が覚めたようだね?」

「おう、おはようさん。」

 遅れて声をかけてきたヴァルトもほっと胸を撫で下ろしている。


「おれ、思ったより寝てた??」

「思ったより。では無いよタイヨウ。時間で言えば二時間ほどだが・・・その間全く反応が無く、その上ついさっきまで心臓が止まっていたんだよ?」

「ほう・・・」


 大概ああいう「頭の中ステージ」的なところは時間間隔が外とは違うと思っていたが。実際、聖剣の少女と話していたときは外ではほとんど時間も経っていなかった。

 無言の時間のほうが圧倒的に長かったが、そんなにもおれはあの風景を眺めていたのか。

「・・・あいつは?」


「君の『聖剣』から放たれた光で隕石もろともに、跡形もなく消えたよ。」

「ま、そうなるわな。」

 巨大な隕石をも消し飛ばした極光。あんなもの()の身で受ければひとたまりも無い、か。


 もう少し聞きたいこともあったのだが・・・まあ仕方ない。そもそも消し飛ばした張本人はおれだしな。

「お!起きてるじゃないっすかー!いやぁよかったっす!」

 人のシリアスモードをぶち壊すのはもちろん・・・


「相変わらずうるっせえ・・・」

「なんすかその反応!これでも結構心配したんすよ!?」

「はいはい、そりゃどうも・・・ロリこそ大丈夫か?」

「その呼び方は却下するっす!なんでか分かんねっすけど嫌っす!!」


 プリプリ怒る元気そうなリザリーだが、こいつはこいつで屋敷どころかあたり一帯を吹き飛ばせそうな大魔法を一人で受け止めおれたちを救ってくれた。


 あれが無ければ、あの時におれは確実に死んでいたはずだった。

「・・・そんな顔すんなっすよー!これでも王国最強の一人っすよ?鍛え方が違うんすよ!」

 ニコやかに肩をぐるぐる回す仕草をして見せるロリ。


「いてっ!」

 で、結局はボロボロだという事を見事なオチのように露呈する。

「はははっ。無理すんなって。たまには静かにしとけ!」

 何とも抜けた一面におれたちだけでなく周りで会話を聞いていた騎士達や救護活動にあたっている町の人々もつられて笑っていた。


「う、うるっせえす!てか、すごかったっすね?本当にガバーっと更地にしちゃいそうだったじゃないすか!?」

「奥の手は見せ場まで取っとくもんなんだよ!」

「・・・そうやって余裕かますから死にかけたんすけどね?」

 そう言うと彼女はジロリと、視線をおれだけではなくヴァルトへも投げかける。


「うっ・・・返す言葉も無い・・・」

 自信に満ち常に爽やか一辺倒の彼の顔がこうやって崩れるのは見ていて少し面白い。


「ま、こうやってうまいこといったわけだし?今回は言いこなしって事で。な?」

「しょうがないっすね~。今回はお姉さんが多めに見たげるっすよ。」


 バシバシと肩を叩くリザリーとめずらしく小さくなりながら叩かれるヴァルト。

「心から申し訳ないと思っている・・・」

 あのキラキライケメンもこうなると形無しだ。むかつくほどにイケメンであることに変わりは無いが。


「タイヨウ!!ようやく目が覚めたんですね!」

「なんだなんだ?兄貴分が倒れてんのに今頃ご到着かよ!偉くなったもんだなあ!おれは悲しいぜ。」

 談笑しているところに姿の見えなかったボルクスが走り寄ってくる。


「戦いが終わったからと言ってやることが無いわけではないんですよ?全く。いつまで寝てるつもりなのかと思いましたよ。」

「辛辣すぎるだろうがお前・・・」

「だって、「終わったら飲みに行こう」。そう約束しましたよね?信じてましたから――あなたは必ず帰ってくるって。」


 そう言いながらもボルクスは震えていた。また、ずいぶんと心配をかけてしまったな。

「ああ。そうだな。――ただいま。」

「はい!で、目が覚めたならこんな所にいないで中に行ってください!シルヴィアのおかげで死人こそ出てはいないものの、怪我された方は大勢いるんですよ?こんな所で遊んでる場合じゃないんです!」


 それだけ言い残しまたもせかせかと走り去って行ったボルクス。

「なんか、冷たい・・・」

 早くも来てしまった兄離れと言うやつか?もともとベタベタと懐いてくるタイプでは無かったが、それにしてもなんか寂しいぞおれは。


「ふふ。ボルクスは本当にタイヨウを信頼してたんだよ?「できることをしないと。ここで僕が泣いていたって誰も救えない!」。そう言って泣きながら走り回るボルクスを見て、周りで固まってた人達も動き出したんだから。」

「・・・あとで褒めちゃろう。」


 本当に、おれなんかがいなくてもどんどんと成長していくやつだ。あいつが立派な『騎士』になる日もそう遠くは無いだろうな・・・

「さっ!彼の言う通りだ!戦い自体は終わったがいつまでもここで油を売っているわけにはいかない!ジル。屋敷に貯蔵してある薬や食料もありったけ出しておいてくれ。」

「御意に。ですが一時の避難場所には町を使う方がよろしいかと。」


「そうだね。急ぎ王宮へ使いを走らせ治癒術師の手配や荷車なども呼び寄せないといけないな。」

 振り返ると大きなヴァルトの屋敷。だが残念ながら外壁は崩れ1/3ほどが衝撃によってか吹き抜け状態になってしまっている。


「なんか・・・ごめんな。」

「何を言っているんだ。屋敷などいくらでも建て直せばいい。こう見えても大工仕事も得意でね?今度はより美しい屋敷を建てて見せるとも!」

「いや、自分で建てんの?」


「冗談だよ。」

 愉快そうに笑うとヴァルトを眺めこいつならやりかねないなと思った。

「何か呼ばれてきたのですが?タイヨウ、また何かやらかしたんじゃないでしょうね??」

 先ほど走っていたボルクスが騎士に呼ばれたとこの場に戻って来た。戻ってくるなり訝しまれた。


「・・・だが。僕がどれほど強いとしても、守れるのは「生きている人々」だ。君達がいなければ、おそらくは想像を絶する数の国民が命を落としていただろう。」

「よせよせ、そういう堅苦しいの苦手なんだよ。」


 手をヒラヒラとさせ流そうとしたが

「知っているとも。だがそれでも、一度くらいは礼を尽くして謝意を告げておかねば。」

 そういう彼は。王国最強の騎士であると同時に『王子』である彼は素性も知れぬおれとシルヴィアの前に跪いた。


 同時に、ジルバークや周りにいた動ける騎士たちも同様に跪く。

「おいおい・・・やり過ぎだって・・・」

「やり過ぎなんてことは無いさ。騎士として、王子として、一国民として。心からの感謝を。”英雄タイヨウ”に最大の賛辞を。」

 あまりに仰々しい空気に一瞬縮こまる。


 そして数秒の静けさの後

ぐぅ~~~~~っ・・・・

 腹が鳴ってしまった・・・


「ぷっ・・・あはははっ!今鳴るっすか?!!」

 図らずも大爆笑を誘ってしまった。

「もう・・・タイヨウってば・・・」

「くっ・・・うっせえ!あんだけ動いたら腹も減るだろうが!!」



 夜明けは近い。白む空に響く笑い声。まだまだ緩やかな朝日に照らし出されるのはいつも通りの普通であり、彼女の”夢の続き”。

 

――夢は、いつか覚めるもの


 多くの人がそう語る。おそらくは世界中の人々がそう語る。

 その通りだとおれだって思う。だから人は夢を叶えたがるのだ。覚めてしまった夢の続きを、まだ見ぬ明日への希望として。


 隣で笑う横顔を眺めながら、朝を迎える幸せな夢。でもおれは、この”夢”を口には出さない。

 カッコを付けたいからとか、恥ずかしいからとかでは無い。口から出た言葉には力が宿るのだそうだ。

 だからこれを「夢」と言ってしまったら、本当に叶わなくなってしまう。



 

 それに、昔から言うじゃないか。

「正夢ってのは、人に言うと実現しなくなるってな?」


 急にぼそりと呟いたおれを見るシルヴィアとボルクス。

「何か言った?」

「・・・い~や?さあ、朝飯食って二度寝でもするかぁ~。」


 いつの間にやらでき上がりつつあるのか漂ってくる朝ごはんの匂いに釣られ、伸びをしながら屋敷へと歩を進めた。

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