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おれから見た君。君から見たおれ。


 目を覚ますとそこは――異世界だった。



「って知っってるっつの。」

 小さく一人でノリツッコミ。やはり一人では何とも寂しいものだ・・・


「に、してもだ。」


 立っていたのはだだっ広くもとても美しい草原。

 咲き誇る花々は色鮮やかで、吹き抜ける風は爽やかに。頭上を走る雲さえもきれいだった。なのに――


「なんか、さみしっ。」

 またも一人でツッコんでしまうほど、何とも言えない”寂しさ”が溢れた場所だった。


 というか、ここはマジでどこだ?おれがいたのは死屍累々の火の海の真ん中だったはず。

 それも、立ち上がることもできず這いつくばっていた。

「これは、今度こそ死んだか??」


 天国。と言うにはあまりに寂し気で、でも地獄にしては穏やかだ。


 少し視線を動かすと一本の木が目に入った。

「・・・ん?」

 そして、その下に一人座り込む人影も目に入った。


「あなたが、閻魔大王様ですか?」

「ふふ。相変わらず変な子。でもちょっと待って!今いいところなのよ。」

 どうやら読書中だったらしく彼女は返答だけを残し、以前読書に夢中だ。

 

 あまりにも手持無沙汰でポケットをまさぐるとそういう時のお供。そう、タバコだ。

 まさかこんなものを持ち込めるとは思わなかった。

 あの世でタバコを吸うなど何ともおかしな気分だが、早死にがどうのこうのと文句を言われなくて済むのはありがたいな。


 そんなことを考えながらいつも通りタバコに火をつける。


 それにしても、この子は・・・

「ごめんね、すごくいいところだったの。ま、何百回も読んだ本だから内容は知ってるんだけどね?」


 彼女が閉じた本の表紙には読めない文字。まさかあの世も異世界仕様とは。

 これはまたしばらく苦労しそうだ・・・


「また変な事考えてるんでしょ?」

「だ~か~ら~・・・別に変な事なんか・・・」


 ようやく顔を上げた彼女と目が合い衝撃を受けた。

 なにせ彼女の顔は――おれの初恋の人と瓜二つだったのだから。


====================


 屋敷の広々とした玄関で次々に運ばれてくる人々に〈治癒〉を施す。

「・・・タイヨウなら、きっと大丈夫ですよ!またすぐに変な事を言いながら戻ってきます!」

 手伝いをしてくれながらこちらに気を使ってくれるボルクス。


「そうだよね!うん、タイヨウならきっと大丈夫!」

 自分だって不安で仕方ないはずなのに。それでも笑顔を絶やさない彼を前に不安を口に出すことはできなかった。


 それにタイヨウは言っていた。「口に出したことには力が宿る」と。なら、不安だからこそ大丈夫だと言うべきだ。

 いつか、彼がそうしてくれたように。今は私にできることを精一杯やるんだ。


―ズンッ!!

 

 地鳴りのような音と共にすさまじい光と熱波が屋敷の中までも届いた。


「今のは・・・?」

 突然の出来事にボルクスやほかの人々も困惑を浮かべていた。

「・・・タイヨウ?」

 

 とても嫌な予感がした。いい状況では無いのは誰にだってわかることだろう。

 けど、それ以上に確信めいた感覚だった。


「いったい外では何が、、、?シルヴィア!?待ってください!外に出てはいけない!!」

 自信を案じてくれる制止を振り切り外へ駆け出す。


 門を抜けた所で視界に映ったのは一面の炎。

 そしてその渦中で倒れ伏すヴァルトやジルバーク。それに、タイヨウだった。


「タイヨウ!!」

 返事が返ってこない。タイヨウだけでなく他の人たちも辛うじて息はあるがこのままでは時間の問題のように見えた。


(わたしなら・・・救えるかもしれない・・・)

 けど、そうしたらまたわたしは――独りになってしまう。


 自分が何よりも恐れている事。独りは嫌だ。独りになるくらいなら、嫌われるくらいならばいっそ・・・

「・・・ううん。今は、一人じゃないよね。」

 本当につくづく思う。自分は最低だと。


 こんな状況ですら、最初に考えたのは自分の事だった。浅ましくて、厭らしくて。

 あの時彼の別れを告げたのだって、ただの甘えなんだろうと。今ならわかる。

 

 現に傷ついて欲しく無いから。そんなことを言って彼にひどいことを言った。自分から突き放した。

 なのに彼が来てくれた時。その顔を見た時にホッとしたのだ。

――ああ、これで一人にならなくてすむ。


 来れば無茶をすることなんてわかっていたのに。心配よりも、彼が自分を捨てないでくれたことに心から安堵したのだ。

 あれだけのことを言った自分に変わらぬ笑顔を向けてくれた。

 

 認めた所で自分が嫌いな事に変わりはない。自分のことが何よりも信じられない。

 でも、そんな自分を誰よりも信じてくれる人がいる。なにに代えてでも守ると言ってくれた人がいる。


 だったらわたしも信じてみよう。こんな私を信じてくれた彼の事を――


====================


「って。んなわけ無えわな。そのサービスはさすがにご褒美が過ぎると言うか、趣味が悪いと言うか・・・紙一重だぞ。」


 苦笑いを浮かべながら目の前の女性が瓜二つではあるが、彼女とは別人であることを確認する。


 キレイな満月のような金色の瞳。シルヴィアとは違い背中あたりまで伸ばした白銀の髪を前髪のあたりだけ三つ編みにしている


 本当にそっくりだがなんとなく彼女とは違うのだ。曖昧な認識だが、確信がある。

 この人は、シルヴィアでは無い。

「あはは。本当に顔に出るんだから。何考えてるか言わなくてもまる分かりよ??」

 目の前の女性はとても楽し気に口を開いた。


 これでもう一つ確信に変わった。やっぱりここはあの世だな、うん。

 なにせこんなかわいい子が二人も存在しているはずが無いもんな。

「またまた変こと考えてるでしょ?」

 おれの顔を覗き込みながら心底楽しそうに話す彼女。


 別人だとわかっているが目が合うとつい照れてしまいフイっと目を逸らしてしまった。

 我ながら、顔が同じならなんでもいいのかと少し呆れたが・・・


「・・・その本、どんな内容なんだ?」

「これ?良くあるお話よ?白馬に乗った王子様が女の子を迎えにくるみたいな?ま、乗ってるおのは白い牛なんだけどね!」


 先ほどまでの楽しそうな笑顔で、けれどもほんの少し寂しそうな目をして彼女は本の内容を教えてくれた。


「ベタだなぁ・・・」

「なによ!女の子はいくつになってもそーゆうベタなのが大好きなのよ?」


 彼女はほほを膨らませながらくるりとそっぽを向く。

 その一挙手一投足が何ともシルヴィアと被る。別人なのは間違いないと思うんだけどな?


「てか、ここどこ?」

 そこまで話して悠長にしている場合じゃないことを思い出す。

 なにせおれの体は絶体絶命なのだ。なんとかして少しの間でも戻らなければ。


「・・・戻ってどうするの??」


 何度も聞かれた質問によく似ていた。

 でもこの質問は今までのような、現実の札束で頬を引っ叩かれるようなキツイモノじゃなく本当におれの身を案じてくれているようだった。


「はは。閻魔様って優しいんだな。」

「あたしそんなにイカつくないんですけどー。」

 またもぶーたれる彼女を見てなんとなくどこにいるのかが察しが付いた。

「ここは、内側ってところかな?」


「どうしてそう思うの?」

「だってさっきからこっちに来てから通じなかったような言葉が普通に通じるしさ??なら、おれの知識を知らねえと無理だろ?」


 ようするにここはおれの心象風景といった所か?

 自分でもびっくりするくらいきれいな景色で驚いたが。以外にもおれは心のきれいな人間だったようだ。


「ふ~ん。意外と冷静なんだ?」

「ずいぶん()()に力は入ってるけど、何?」

 じろっと彼女を睨み、とても評価に不満がある意思を伝える。


「な~んでもないよ~。・・・ま、半分くらい正解って感じかな?」

「・・・なんかこっちに来てからスッキリしねえ答えが多いなほんと・・・そろそろなんか教えてくれよ。」

「だ~め!それに、知ったってなにも楽しいことなんて無いしね。」


 適当にはぐらかされ結局ふわっとした答えしか得られなかったが、とりあえずおれは生きてはいるようだ。

 時間も無いのでそれが分かったので良しとしよう。どうせこういう世界はどこかのタイミングでまたふらっと迷い込むのが定石だ。


「ほんとにいいの?ほんとに全部を懸ける覚悟はある??」

「・・・・・・」

 今の返答ではぐらかされた「半分」が理解できた。ここは、『聖剣』の内側なんだろう。

なにせ質問がどこかで聞いたような内容だしな。


「大丈夫。もう迷わねえさ。なにを言われたって、おれはシルヴィアを守る。」

 今度こそ、嘘偽りなく誓いを口する。

「その誓いも、想いも理由も歩んだ思い出も。全部だよ?」

「ああ。それくらいしなきゃ・・・おれなんかが『英雄(ヒーロー)』にはなれねえだろ?」


 おれの言葉を聞いた彼女はさも当然のように、けれどもとても悲しそうにおれの答えを受け入れた。

「・・・そっか。」

「そうだ。」

 ほんの少し沈黙が生まれたが数秒後には先ほどまでの元気さを取り戻し


「うん!じゃあがんばるんだよ?応援してるからね!」

 思いきり背中を叩かれた。

「痛った!力加減!どいつもこいつも・・・おれはサンドバックじゃねんだからな!?」

「男の子が簡単に泣き言言わないの!・・・でも本当に辛くなったら泣いてもいいんだからね?」

 ここでも、どこかで聞いたような言葉を投げかけられた。


「んなカッコ悪い事するか!それでなくても醜態さらしまくってんだ!ここからのおれは笑顔満点の福男よ!」

 といつも通りの決めポーズになりつつあるいいね!をする。

「思ってたんだけど・・・それ、古くない?」

「古くは無いだろ!」


 会話の途中で体がふわりと浮くような、ストンと落ちるような不思議な感覚に陥った。

「・・・ごめんね。でも、待ってるから。今度はちゃんと―――てね。」

 最後に見た彼女は、今にも泣きそうな顔をしていたのが記憶に焼き付いた。


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