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英雄の定義


 おれにとっては偽物であっても、それこそが自分に映った事実であったのだと。


 あんなにも弱く、頼りなかったはずの弟分は驚くほど強い眼差しでそう言った。

 ”失ったものを数えるな。”と。”救えたものを、助けられたものを否定するな”。

 なんとも傲慢な物言いだ。救えなかった人たちを無視して「おれはこんなにも救ったのだ!」そんなことを思えと。


「僕とあなたが違う?はい、その通りです。あなたは迷いながら、苦しみながらも必死で歩いてきてくれた。だから今の僕があるんです。言ってくれましたよね?『立ち止まっても構わない』。その通りだと思います。タイヨウが迷い悩んだ末の結論が立ち止まることならいいんです。何度でも言います。僕は()()()()()()()()。」


 それでも目の前の少年は、そんなおれにこそ憧れたのだと。だからこそ味方をしてくれると。


 何かを考えるように一息つくと、彼は少し厳しい顔をして続ける。


「けれど、立ち止まる前に・・・悩んでください。これ以上ないくらいに悩んでください。本当にあなたには何も無いのか。前へ進む理由が本当に無かったのか。悩んだ末の結論であれば、僕はどこへでもお供しますから。」


 あるはずが無かった。悩む必要なんてない。向こうの世界にいた頃からおれには何も無かった。これは事実だ。

 

 またにっこりと笑いボルクスは踵を返した。

「さ!そうと決まれば飲みにでもなんでも付き合いますよ!でもそんな顔じゃどこにも行けないでしょうから笑えるようになったら戻ってきてください。いくら兄貴分でもそんなしみったれた人と飲むのは嫌です?。それに・・・あなたには笑顔が似合ってますよ。」


 言い終わるとボルクスは王宮の方へと立ち去って行った。


 まさか、男相手にキュンとする日が来ようとは夢にも思わなかった。

 前に進む理由が本当に無いのかどうか。あるはずが無い。だって今まで何も持っていなかったんだから。

 でも一つだけ・・・手に入れた物はある。


 あの時、なぜ自分の命を懸けてまで彼女を守りたかったのか。

 死に場所を探していた?守れなかったハル姉の代わり?何か理由が欲しかったから?

 どれも間違いじゃないと思う。でも、全部剥がされて、現実を突きつけられてそれでも残った物があった。


 たとえどんな状況で彼女に出会っていたとしても、おれは彼女に――惚れていただろうという事だ。

「・・・マジで・・・かっこ悪いなあ。おれ。」


 ならばそろそろ自分の足で立たなければ。義務感や責任などでは無く、おれがそうしたいと思うなら。どうせこの世界におれはいらないというのなら、おれはおれのしたいようにしてやろう。


 傲慢な物言い。おれにピッタリじゃないか。むしろそれこそ、『おれらしい』。


 いつかボルクスに言った。”救った側の気持なんか知るか。だからおれは、勝手にそいつの分まで笑うのさ。”

 どれだけ考えてもハル姉の気持ちは分からない。彼女はおれに生きてほしかったがおれは彼女にこそ生きて欲しかった。


 目的が違うのだから納得は出来ても理解なんてできるはずが無かったんだ。


 だから今度こそ。飾らず繕わず、おれはおれだけの為に歩いていく。

 それがおれのおれによるおれの為の――


「ちょっとはマシな顔になったんじゃない?あの従者の子も大変ね。主がこうもダメだと。」

「・・・またお前かよ。いいところで水差すなっつの。」


 木陰から声をかけてきたのはオリヴィエだった。口ぶりから察するに結構前から覗いていたのだろう。趣味の悪い女だまったく。


「なんの用だよ?毎度毎度ぬるっと現れんな。」

「別にぬるっ。となんか現れて無いわよ。やる気も無い奴が戦場にいてもヴァルトだって邪魔だろうから、変なことしないように見張ってたのよ。」

「さいですか。もう少し楽しくお話してたい所だが・・・おれは多忙なもんでね。予定がギッシリなんだわ。悪いけどこれからはアポ取ってきてくれよ?」


「そのわけわかんない言葉使わないでくれる?てかあんた分かっててやってるでしょ?」

「どうでしょうね?じゃあそゆことで。」

「・・・ヴァルトたちならもう出たわよ?」

「なんでだ?出発は明日の朝って・・・」


 言いかけたところで口をつぐむ。よく考えたらこいつはおれが出て行かないように見張りに来たんだと言っていた。


「・・・あんたバカなの?もう少し考えてから口に出したら?あいつもあたしと同じようなことを考えたみたいでね。あんたにバレないように時間を変えてたわ。」

「んなこと言われなくても分かってんよ。・・・けどそれをおれに教えてよかったのか?」


 おれにバレないようにしてた事をバラシてしまっては意味が無いのでは?こいつもやっぱりバカなのか? 


「またなんか余計なこと考えたでしょ。・・・言ったでしょ。やる気が無い奴なんていても邪魔。でも腹立つことにあんたのその腰の剣は飾りじゃなくて『聖剣』なんだもの。やる気があるなら役に立ってもらわないとでしょ?」

「へぇへぇ。ご期待に添えれるよう頑張らせていただきやす。・・・できもしねえことを口にするやつは嫌いなんじゃなかったのか?」


「嫌いよ。けど少し言葉足らずだったわね。口だけのやつは嫌いだけど、できもしないことをやろうとするやつはそこまで嫌いじゃないわ。――あたしにはできなかったことだから・・・」

「は?最後の方なんて??」


 なんで大事そうなところで口ごもるのかね。気になるだろうがナスビ女め。

「・・・なんでも無い。まあ精々無駄死ににはならないようにしてね?石ころも磨けば光るのか、あたしの自由研究なんだから。」

「おれは泥団子かよ・・・で、なに?ついでに送ってくれたりすんのか?」

「あたしはそこまでしてやんないわよ。そこも込みで「できないこと」でしょう。ちなみに普通の荷車じゃ間に合わないわよ?騎士の使う馬は種が違うから。けど使うには許可がいるからね。」


 またも憎まれ口をのこしオリヴィエは宙に舞い上がる。


「親切なんだかなんなんだか、、、。まあ、ありがとよ。」

「別に礼を言われるようなことなんかしてないわよ。ただあんまりにも不公平じゃ可哀想でしょ?それじゃあね。」

「そうだ。最後に一つ。あいつは従者じゃなくて――おれのよくできた弟だからよ。」

「あっそ。」


 突風のような速度で視界から消えた彼女の背中を少し目で追いかけた後おれも王宮へと戻る。


「まずは飯でも食おうかね。腹が減っては戦は出来ぬってな。」

 別にこんなことで強くなれたわけじゃないのはわかっている。くよくよと自問自答して強くなれるならお坊さんなんてみんな弁慶みたいになってるだろうから。


 それでも、ようやくちゃんとした一歩を踏み出せた気がした。そんな夏空の下であった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「おっそいっすよ~~。待ちくたびれちゃったっす。」

 宮殿内で軽く遅めの朝食を取った後、まずはボルクスを探そうと出た所で待ち構えていたのはリザリーだった。


「・・・毎回毎回なんの用だよ。」

「あれ?なにも聞いてないっすか?僕はてっきりまた身の丈に合わない無茶なことをしようと浮足立ってんのかと?」


 こいつは本当に的確に腹立つことを、、、!だがオリヴィエがおれを見張ってた事を考えるとおれが外へ出ないように来た可能性もある。・・・最悪コイツを振り切ってからとなるとこれはなかなかに骨が折れそうだ。


「なにをそんなに身構えてんすか?こないだの仕返しならいつでも受けて立つっすけど。今は他にやることがあるっしょ?」

「いまいち話が見えてこねえけど?結局お前は何しに来たんだ?」

「なにって、かわいいリザリーちゃんが少しばかり助け舟を出してやろうってんじゃないですか~♡」


 ニコニコと相変わらず読めない奴だ。読めないというか、たぶん何も考えて無いんだろうけど。


「それにしてもほんとに短い間にコロコロと表情が変わる人っすね~お兄さんは。」

「いいから話を前に進めてくれ。」

「せっかちさんは嫌われるっすよ?女の子は雰囲気とか大事なんすから!」

 お前にコロコロ変わるとか言われたくねえよ・・・と言いたくなるくらいに言動や雰囲気が移り変わる。


「結局何がしたいんだ?おれ、今は暇じゃねえぞ。」

「ま、確かにそんなに悠長に構えてる時間は無いっすね。今からでもギリギリなくらいなわけだし。話しは歩きながらでいいっすか?」

 そう言うリザリーに連れられ王宮の門の方へと向かっていく。


「本当は僕も先遣隊に混ざりたかったんすけどね~。今回はヴァルト君の担当っすから大義名分が欲しかったところなんすよ。あ、大義名分って使い方合ってるっすか?」

「・・・合ってるよ。」


 何とも緊張感が無いが、彼女の場合このまま平気で殴りかかってきた前例があるだけに逆にこの状況が一番緊張感がある訳で、、、。

「けどそんな時に、その名分もくれて戦場には行けるし、何よりあんなに必死になって頼まれたらさすがに断りづらいな。っていうか?」

「おまえは本当に何の話をしてんだ?難しい言葉を使う前に主語ってもんを覚えて来いよ・・・」


 結局のところ彼女の話しからは誰に何を頼まれて何をしようと思っているのかが分からない。


「『タイヨウは必ず来ます!この身一つでできることならばなんだってします!手を貸してください!』ってあんなみんなの前で土下座されちゃったら僕も断れないっすよ。」

「・・・そういうことかよ。」


 本当におれは何とも間抜けらしい。おれのびっくりするくらいよくできた弟はおれの話を聞いた上で尚、信じて行動してくれていたのだ。


 資質だけならおれなんかよりもよっぽど英雄向きなんじゃないか?そんなことを思うとおかしくて笑えて来た。


「笑うとこっすか?」

「ああ。・・・あんまりにも間抜けな自分がおかしくてさ。」

 それにしても意外とスパルタだなボルクスのやつ。これだけお膳立てされてしまえばどちらにしてもおれは行く以外の選択肢なんて無いだろうに。


 門の前に到着し、すでにそこで待っていたボルクスと目が合った。

「待ってましたよ。どこに飲みに行くんですか?」

 彼はおれの顔を見た後にっこりと笑いそう問いかけてくる。

「そうだな。そういや、フェルーでは飲んだこと無かったんだよな。」



「・・・だから。ちょっと運動した後にフェルーで飲み明かすってのはどうだ?」

 正直、ちょっと泣きそうだが軽口には軽口で返さねば。そろそろ兄貴という立場が危うくなりそうだ。

「そうですね。お酒はあまり得意じゃないですが・・・今回はくらいはお供しますよ。」

 ボルクスもなんとなく察してくれたのか頷いてくれる。


「あ!それ僕も混ざっていいすか!?」

「おまえは嫌だ。飲む量がおかしい。・・・てかおれはてっきり荷車が待ってるもんだと思ってたけど?」


 ボルクスがいたことも嬉しいのだがこの場にいるのは彼ひとり。これでは結局何の解決にもならないのでは?まさかこいつがおれたち二人を担いで走るとか?・・・彼女ならできそうで少し怖いな。


「また変な事考えてますね?」

「まじめな考察だよ。」

「本当ですか?・・・まあ、そこは置いておくとして。今は王宮中が厳戒態勢なのでリザリー様でも馬一頭すら勝手に使用できないみたいです。なので・・・」

「もうすぐ僕の部隊が外から帰ってくるっす。だからここで捕まえて強奪――もとい隠ぺい工作をしてそのまま王都を出るっす。」


 なるほど。まさか騎士たちも自分の上司に馬を強奪されるとは思ってもいないだろうし適当に言いくるめて発覚を遅らせればおれたちはすでに王宮の外。追いつかれる心配も無いか。


「けどっすよ。今回は僕も立場的にあんま良くないことしてることくらいは分かってるっす。しかも『聖剣』の持ち主を無駄死にさせた。なんてことになったら目も当てられないんすよ。なんで――」


 隣のリザリーから立ち上った殺意に全身に鳥肌が立つ。

 横の彼女を確認する間もなく後ろへ飛びのき、ギリギリの所で彼女の鎌を避ける。


「リザリー様!?」

「おいおい。いつの間にそんな物騒なもん取り出したんだよ・・・」


 どういう仕組みかは知らないが彼女両手には、初日王宮で見た大きな鎌が二本握られていた。

「僕的にもお兄さんが戦場に行く準備ができてるのか見極めないとダメなんすよね。」


 彼女と目が合った瞬間に酒場での一件を思い出す。現状彼女に勝つことは不可能だろう。

 それこそ隕石が直撃。なんて奇跡でも起きない限りは。・・・いや下手をすれば隕石ですら無理かもしれないな。 


 手汗が尋常じゃない。鼓動が嫌というほど高鳴り危険信号を鳴らしている。それでも

「悪いな。止まる気は無えよ。どうしてもって言うなら本番前の肩慣らしってことでがんばるけども。」

「ふふっ。本当に面白い人っすよ。肩慣らしで「がんばる」ってなんすか?じゃあ一つだけ質問っす。――英雄の定義って何だと思うっすか?」


 繰り返された質問。あの時のおれには答えることができなかった。

 でも今ならハッキリと言える。自信をもって。

「おれにとって英雄ってのは・・・『諦めの悪い自己中野郎』だよ。」

 そう眼前の『強い奴』に宣言した。


「別にもうそんなもんになりたいなんて思ってねえよ。それでもおれはあの子の笑顔を守りたい。その方法が『英雄になること』ならそうなるだけだ!だから、おれはもう諦めねえ。どれだけ無様で情けなくても進むさ。それがおれの”英雄譚(進む理由)”だ!」


 沈黙がおれたちを包む。あとは実行するだけ。こんな所で挫けてたんじゃあ結局何も守れやしなんだから。

「・・・いいんじゃないすか?今回は合格って事で。」

 呟いたリザリーの手の鎌は霧散するように姿を消しその顔には笑顔が戻る。


「にしても、僕が聞いた中じゃ一番だせえっすよ。」

「・・・うるせえよ。そんなに毎回名言が浮かぶか。」


 彼女はこちらに歩み寄り握手を求めてきた。

「改めて、リザリー・バロックフォートっす。ちょっとの間よろしくっす!」

 少女のような笑顔でこちらを見つめる彼女と握手を交わす。


「ああ、こちらこそよろしくな。」

「まあ、今回は立場もあるんで危なくなったら守ってあげるっすよ!」


 見た目は中学生くらいの美少女に「守ってあげる」と言われるのも複雑だが仕方ないかと肩をすくめて見せる。


「けどお兄さんも物好きっすよね~。わざわざ死ぬかもしれないところに行こうなんて。アホなんすか?」

「お前もう少し言葉選べよ??・・・でもアホで間違えてねえよ。けどおれの地元じゃ言うんだよ。」

「何をっすか?」


「”同じアホなら、踊らにゃ損々”ってな。」

 その通りだ。この世界に大して必要のないおれなら、どうせピエロだって言うのなら。

 最後まで踊ってやるさ。ピエロ上等!むしろ願ったり叶ったりだ。


 ピエロの仕事は「人を笑わせる事」なんだから。


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