彼の英雄
「んっ、、、。」
目を覚ましたのは王宮の泊らせてもらっている寝室だった。
「あ、起きましたねタイヨウ。全く酔った勢いでリザリー様とケンカなんて無茶にもほどがありますよ。」
声のする方へ顔を向けると心底呆れた。という表情でこちらを見るボルクスの姿が目に入る。
「打撲以外は大したケガではありませんが、まだあまり動かない方がいいですよ?なにせ顔をかなりきつく殴られてますし。というかちゃんと記憶ありますか?」
「残念ながら・・・酒で記憶が飛べばよかったと持ったのは人生初だよ。」
本当に残念だが。一部始終細かく、ぶん殴られて宙を舞った感覚まで綺麗に覚えている。
「まあこれに懲りたらお酒はほどほどにしてくださいね?」
ほんとにほどほどにしないと。どうにも自分をエラく過大評価していたようだ。
「タイヨウ?どうかしましたか?まだどこか痛むとか。」
「いんや。なんでも無えから気にすんな。それより、お前の方の用事はすんだのか?」
「まあ一応は、、。」
用事の内容は知らないが何とも歯切れの悪い返事だ。あまりいい結果は得られなかったのだろう。
「先ほど侍女の方がご飯の用意ができたと言っていましたが食べますか?」
「悪い、おれはいいや。もうちょい寝てる。」
寝返りをうち、顔を背けて布団に潜り込む。今は、少し考えたい。
考えた所で、結果は出ている気もする。意味はあるのか、とそこから自問自答が始まるわけだが。
「そうですか。・・・では僕はいただいてきますね!何かあれば呼んでください。」
ベッドの横の椅子から立ち上がり部屋を出る寸前でボルクスの気配が立ち止まる。
「理由はどうあれ、僕はタイヨウの味方ですから。ま、街中であんなに派手にケンカをするのはどうかと思いますけどね?」
それだけ言い残すとボルクスは今度こそ部屋を後にした。
「かっこ悪。・・・おれ。」
一人になったので予定通り自問自答タイムに入る。
自問自答。と言ってもさっきも思ったが答えなど、とうに出ている。 散々打ちのめされてよくわかった。おれは別に英雄でも特別でも何でもないという事が。
そもそも、今となってはなんでそんなものになれるとか勘違いをしたのかすらよくわからなくなってきた。
『英雄の条件とは強い事』そうリザリーは言っていた。
この世界の事情もいまだよく飲み込めてはいないわけだが、それを前提に考えるなら”この世界”を救うという英雄譚におれの出る幕なんてありはしない。
なにせおれは弱いんだから。なぜか抜けた聖剣とやらは全く使えず、偶然、魔獣を倒せたことでいい気になった。さも、おれは特別な理由があって選ばれたのだとでも言う様に調子に乗った。
だがフタを開けてみればなんてことは無い。ソシャゲでたまたま引きが良くて扱えもしないレア武器を引いてしまっただけの無課金ユーザーと同じだ。
何か大志を抱いているわけでも無く、これといった芯がある訳でも無い。
――全部、偶然なのだ。
今にして思えばその辺りをオリヴィエは見抜いていたように思える。
『―――あたし、できもしないことを口にするやつがこの世で二番目に嫌いなの。』
ごもっともだ。と今なら素直に受け入れられてしまう。
どの言葉も言われた時は受け止めるだけの冷静さも度量も無く、ただ子供のように駄々をこねていたが。いざ落ち着いてみるとなんとも核心をついた言葉ばかりだ。
この世界の人たちはみんなしておれの心中でも見えるのかと思うほどに。
「はあ~~~・・・」
大きなため息を一つ。それを合図に頭の中で開催されていた自分会議は閉廷する。
同時に肩の力がすごく抜けた気がした。
今にして思えばいきなり異世界に来たところからバカげた話だったのだ。とくに何のことは無い普通の大学生が世界を救う?なにを偉そうに。ほんの数時間前までの自分の正気を疑う所だ。
ひと段落着いたところでお腹が減っていることに気づく。
「さあ晩ご飯食べて風呂入って、寝るとしようかね。」
認めてしまったことで悔しくもスッキリしてしまった。
明日からは、おれらしく生きていこう。気持ちを入れ替えてまずは晩ご飯をいただくことにした。
「おはようタイヨウ。それにしても君は話題に事欠かない人だね。」
翌日の朝いちばんから部屋を訪ねてきたのはヴァルトだった。昨日おれが眠っているときに一度様子を見に来てくれていたみたいだが再度今日訪ねて来てくれた。
「うらやましいか?有名人はつらいぜほんと。平手一発で話題の中心だもんな。良かったら一緒にどうだ?」
「ははは。今回は辞退しておくよ。そんなに腫らした顔で外は歩きたくないからね?」
「それは残念だ。」
ベッドの上からひらひらと手を振りもう一度横になる。
「・・・まだなんか用?」
会話が終わった後もその場を動かずこちらを見つめるヴァルトが気になり声をかける。
こいつの場合下手につつくと藪蛇になる場合があるからあまり触れたくは無いんだけどなあ・・・
「いや、すまない。タイヨウ。なにかあったのかい?」
「何かもなにも昨日ぶっ飛ばされて、一躍街の有名人なんですけど?ってさっき自分で言ってたろ。」
「ああ・・・そうだね。そうだった。」
昨日からどいつもこいつも歯に物が挟まったみたいな物言いだな。
「なんだよ?言いたいことがあんなら言えよ。」
「気にしないでくれ。僕の気のせいだろう。とりあえずちゃんと治るまでゆっくりしているんだよ。」
結局何が言いたかったのかはっきりしないままにヴァルトは部屋を出ていった。
「にしても、やることも無くただ待機ってのも暇なもんだなあ~。」
本日はお日柄も良く、少々暑いがのんびりするには何とも言い陽気だ。
「寝室から出もせずにいつまでもゴロゴロと。・・・石ころは暢気でいいわね。」
「せっかくの人ののんびり気分を憎まれ口でぶち壊したのは久々の登場の高慢魔女様。オリヴィエだった。」
「なによその話し方。ていうかそういうのって、普通心の中でやるもんじゃないの?」
「はいはい。で?そんな石ころに何の用でございましょうか?ていうか扉開ける時は声くらいかけてもらってもよろし?男にはお取込み中な時だってあるんだぞ?」
扉に寄りかかるオリヴィエに視線を移し仕方なく会話を始める。
「だったら扉くらい閉めたら?・・・別に用なんて無いわよ。ただ生意気なあんたのしけた顔でも拝んでやろうかと思ってね。」
「なになに?柄にもなく心配してくれたのか?王国最高位の騎士様たちが次から次へと。ほんと人気者は忙しいぜ。」
「はぁ!?なんであたしがあんたなんか心配しなきゃなんないのよ!」
ニヤニヤするおれを睨むオリヴィエ。
「はぁ。こんなのを少しでも気にしたあたしがばかだったわ、、、。」
「心配してくれてんじゃん。ま、ありがとな。」
「・・・うっさい!」
頬を少し赤らめてそっぽを向くオリヴィエ。
ツンデレでドジっ子で美人。もうちょい他人をおもんばかる気持ちがあれば完全にヒロインポジションなのになあ。
「何考えてるかわかんないけど、なんかむかつくこと考えてることくらいは分かるわよ。それよりも・・・」
「なんだよ?」
「あんた一体何があったの?」
「は?そんなのほとんどみんな知ってんだろ?」
「そっちじゃなくて。」
本当にさっきのヴァルトと言いなぜわざわざこう伝わりにくい会話の仕方しかできないんだ?
言葉のキャッチボールをもっと勉強してこい。
「どっちだよ。」
「ふぅ~ん。たった数日見ないだけで、えらくつまらなくなったわね。」
「だ~か~ら~。なにが言いたいのか主語述語をしっかりと・・・」
「もういいわ。今のあんたはからかっても面白くなさそうだし。ちょっと興味はあったんだけどね。何者でもないあんたみたいのが何を成せるのか。・・・ま、そんな在り方も分相応でいいんじゃない?」
今までのような挑発では無く、本物の嘲笑を浮かべたかと思ったらこちらの返答も利かず早々に部屋を出ていくオリヴィエ。
「なんなんだよ!相変わらず感じわるっ!」
すでに見えないオリヴィエの姿に憎まれ口を叩いてまたもベッドへ体をダイブ。
「やっぱあいつ嫌い。」
負け惜しみを呟いてその後も有意義な一日を過ごした。
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そうして自室で過ごすこと数日が経過した。
「また今日も部屋でダラダラと一日を終えるのですか?暇なら剣の鍛錬に付き合ってくださいよ。」
そして、ここ数日このように毎日ボルクスには小言を言われている。
「ん~~~~。気が向いたらな~。」
「どれだけ気の抜けた声出してるんですか、、、。ここ数日日課だった朝の鍛錬もして無いでしょう?らしくないですよ。」
「な~んか疲れたんだよな~。」
ボルクスの言うとおり、おれはここ数日鍛錬どころかまともに体を動かしてもいない。
なんとなく自分の中で結果が出てしまってから良くも悪くも力が抜け衝撃的なまでの無気力に襲われていた。
「ちょっと遅めの五月病だな~」
「その病気がなんなのか知りませんが・・・せめて食事の時以外でも部屋くらいからは出てくださいよ?あと洗濯ものくらいは自分で出してください。」
おれの散らかした洗濯物をまとめてボルクスは出ていくのを眺める。
記憶には無いが弟というよりはなんとなく母親みてえ。そんなことを思いながらも相変わらずベッドから起き上がる気には残念ながらならない。
ぼーっ。とベッドの上で溶けていると扉をノックする音が響く。
「は~い。どうぞ~」
「やあタイヨウ。またベッドの上で溶けているのかい?」
「おっしゃる通りで。小言は聞き飽きてんぞ。」
「やれやれ。ボルクスの苦労がしのばれるね、、、。そんなことより陛下がお呼びなんだ。同行してもらえるかい?」
「おれを?」
「ああ。君もだ。」
はてさて今度はなんだ?また何か探し物にでも行くのかな?ここ掘れわんわん金銀財宝がっぽがぽ。てか?
「急に呼び出してすまぬな皆の者。」
ヴァルトに呼ばれ向かった先はもはやおなじみになった王様の玉座のある広間。
ただ事態がただ事ではなさそうというのは集まった顔ぶれを見れば明白だった。なにせおれが連行されてきた日と同じく宮廷騎士100名、王剣三銃士3名、その他大勢のえらいさんが顔を揃えていたからだ。
(なあヴァルト。これって何事?)
(さあ?実は僕も聞かされていないんだ。)
横に立つヴァルトにこそこそと話しかける。
おれを呼びに来たヴァルトも事情が分からないらしくこの想像以上に仰々しい場の空気に頭にはてなマークが浮かんでいた。
「皆の者静粛に!陛下の御前である。」
ヴェーレンの迫力ある一喝に場内が一瞬で静まり返る。
「よいよいヴェーレン。なにも言わず集めたのはワシじゃ。本日集まって貰ったのは他でもない。・・・ついに”女神の子”らが動き始めると我が千里眼にお告げがあった。」
静まったばかりの場内が先ほどまでよりもさらに騒々しくざわつき始める。
(ヴァルト?なんかまた知らねえ言葉が出てきたんだけど?)
(”女神の子”。前に『原罪の女神』の話は聞いたね?)
(ああ。ラスボスだろ?)
それでいてシルヴィアが必要以上に人と距離を詰めるのを恐れる理由の一つだな。
(僕の方こそ知らない言葉が出たが・・・それは置いておこう。”女神の子”というのはあくまで太陽教の聖典に伝わるおとぎ話かと思っていたが。)
(だから!結局何者なん?)
(七つの災い。ヴェーレン殿がそう言っていた者達だ。女神が死の間際に生み出したと言われる7人の子だと言われている。魔女の復活を試み、人類を滅ぼすものだともね。)
要するにジムリーダーか。勝ったら秘伝の技マシンとか貰えんのか?
このパターンだとあれやな。一人目を倒した時に「おれは7人で最弱の――」とかいうパターンのやつ。
「戸惑う気持ちはわかっておる。じゃが、ついにこの時が参ったのじゃ。わしの千里眼に「国の終焉」のお告げがあってからはや7年。今日この日より――神と人類は袂を分かつ!」
「おおおおおおおおおお!」
場内が一丸となり地鳴りにも似た怒号が鳴り響く。
「おお、おお。盛り上がってんねえ。」
「まるで他人事じゃないかタイヨウ。」
「今のそいつに何言ったって無駄でしょ。そもそもなんでここに居んのよ?」
「うるせえ。どんだけ言葉が刺々しいんだ!新鮮なナスかおまえは!」
この間部屋に彼女が来て以来になるがなぜか言葉にやたらと棘がある。
おれの渾身のツッコミも無視され視線すら合わせない。
「おい、無視すんな!」
「まあなんでもいいじゃないっすか!やっと本気で暴れられんすよ?まさかこれだけ待たせて弱い、なんてこと無いっすよね?」
「どうだろうね。まあ私のやることは変わらないよ。我が剣は国を守る為にこそある。それだけだよ。」
「相変わらず固いっすね~。そんなんで毎日しんどくないっすか?」
盛り上がり士気を高める宮廷騎士をよそに王国の最強の三人はいつも通りの通常運転だ。
肝が据わっているというか、緊張感が無いというか、、。
「我が千里眼で見えた決戦の日取りは5日後。場所はヴァルト卿の管轄である「フェルー」の街付近!ヴァルトよ。貴君は自軍の第1連隊をタイヨウ・キリュウと共に率い迎え討て!」
「御意に。しかし陛下。お言葉ですがタイヨウ殿を同行させるのは何故でしょう?」
「此度の戦い、必ずや『聖剣』の力が必要になる!タイヨウ殿。貴君も助力いただけるな?」
こちらに視線を投げかける国王ファウス。
正直予定外の展開だ。まさかこのタイミングでおれが呼ばれることになるとは・・・
「陛下。お言葉ですがヴァルト卿がこの者を連れだったところで大した戦果は期待できないかと存じます。戦力に不安がということでしたらわたくしかリザリー卿が同行いたしますので。」
「はいはーい!僕が行くっすよ!最近体がなまっちゃってるんでいい運動すよ!」
「むう。しかしじゃなお前たち・・・」
「しかしではありません陛下。『聖剣』に選ばれたからと言って時期尚早に戦地へ送り出し無駄死になどされれば、それこそ損失かとわたくしは存じます。本人に戦う意思が無いのであればなおさらかと。」
「僕はなんでもいいと思うっすけどね~。ついてこられて足手まといって落ちは勘弁してほしいっすけど。」
と口々に発言をするリザリーとオリヴィエ。
「・・・ヴァルト。お主はどう思う?」
「私はタイヨウ殿が無力とは思いません。が、オリヴィエ卿の言うことも一理あるかと。本人にその意思が無いのなら此度の戦いに参加させるのはいかがなものかと。」
「そうか。タイヨウよ。貴公はどう思っておる?いまだ発言が無いが。」
「おれは―――」
おれの返答にファウスは少しの沈黙の後、静かに頷いた。
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「タイヨウ!あらかた話は伺いました!"女神の子”が目覚めるというのは本当なのですか?」
「みたいだな。おかげでおれの話題なんてもうどっか行っちまったぜ。」
宮殿内は召集前とは比べ物にならないほど賑わい、にわかに殺気立っていた。
「なにを他人事みたいに言ってるんですか!それで出発の日取りなどは決まっているのですか?」
「ああ。明日の朝一番でヴァルトが出るらしい。なんでも場所がヴァルトの直轄の地域内らしいからな。」
「でしたらフェルーの町の近くということですね。町に被害が出なければいいですが。屋敷にはシルヴィアもいますし・・・」
王宮を出て少し行った所で腰を降ろしタバコに火をつける。隣ではボルクスが何やら難しそうな顔をして唸っている。
少し楽観視していたがどうやら事態はおれの想像以上にこの国にとっての一大事らしい。
「ま、王国最強の死神様が出張るんだし大丈夫だろ。」
「そうですね、、!では僕たちも急ぎ出発の準備をしなければいけませんね!」
「?なんで?」
「いや、なんでって、、、。明日の明朝に発つというのにゆっくりしてる時間なんて無いでしょう?」
「いやいや。今回おれら出番は無し。準備なんて無えよ?おれらは王宮で待機。」
そう口にしたおれの顔を見るボルクスの表情がみるみる曇ったかと思うと
「あ!またいつものくだらない冗談ですね?まったく。時と場合を考えてくださいよ!」
と誰が見ても分かるようなとってつけた笑顔で返答をしてくる。
「別に、冗談じゃねえぞ?実際おれが行ったところで役には立たなさそうだし。そこに関しては三騎士様のお墨付きよ。」
「・・・なにをらしくないことを言ってるんですか?屋敷にはシルヴィアも居るんですよ?心配じゃないんですか!?」
「な~にをカリカリしてんだ。もっと牛乳飲め。ハイ!深呼吸深呼吸。ふぅ~~~」
「タイヨウ!!僕はまじめに話しているんです!三騎士様に言われたからで引き下がったんですか!?じゃあシルヴィアは誰が守るんですか!!?」
おどけるおれをよそにボルクスは顔は真っ赤になり手は震えどんどんヒートアップしていく。
「誰が。も何もヴァルトに宮廷騎士?も結構ついていくみたいだし他にも現地で数集めるって聞いたし?」
「・・・本気で言ってるんですか?」
「しょうがねえべ。おれがいなくても、誰かが代わりにやってくれる。それよりただ待機ってのも暇だし、この間ケンカで迷惑かけた店に挨拶がてら飲みにでも行こうぜ!」
「ふざけてる場合じゃないでしょう!!あなたは英雄になるんじゃなかったんですか?それなのに他の人に言われたからといってそんな簡単に諦めるんですか??僕は――」
「っるせえんだよ!!」
なにが地雷を踏んだのか自分でも分からない。けれどつい怒鳴ってしまった。
自分のふがいなさを、浅はかさを八つ当たりするように怒鳴りつけてしまった。
「らしくないって?じゃあおれらしいってなんだ??自分でも自分のことよくわかってねえのにお前に何がわかんだよ!!英雄?っは。笑わせんな。たまたま抜けた聖剣持っていい気になって、まるで特別な人間みたいに振舞って。ほんと激バカ野郎だぜおれは。」
そして、一度堰を切ってしまえばもう止まらなかった。止められなかった。
「見たろ?睨まれただけで動けねえ。大見え切って何もできずに捕まった。言い返す言葉すらも浮かばねえ。・・・あげく酔っぱらってぶっ飛ばされて、、。ははっ。まるで道化だな!」
「タイヨウ・・・」
「偉そうに人に説教なんかできる立場でもねえのに浮かれて、自分の事を『特別』な何かだとでも言う様に調子こいて。」
「おれはおまえとは違う。何かを無くしたり、落としたりしたんじゃねえ。そもそも、何も持ってなかった。夢も、理想も憧れも。確固たる信念も立派な覚悟も・・・なにも無かった!記憶が無いからとかそんな言い訳して、、!おれは上辺だけ誂えた――空っぽだ。」
今までずっと目を背けていた事実。おれには、本当に何も無かった。やりたいことも、なりたいモノも、将来の夢も。生きる理由さえおれには特に無かった。
今まで生きてきた理由なんて本当にしょうも無い事だ。ただ『死にたくなかった』から。それなのに――
「それなのにおれは救われてしまったから、、、!こんなに何も無いおれを。あんなにいろんなものを持ってた人が、その全部を捨ててまで守ってくれた。・・・だから、おれが何かを残さないと、その人まで無駄になっちまうって・・・」
ああ、本当に情けない・・・年下の、こんなおれに憧れてくれた相手になにを言ってるんだ・・・
「シルヴィアを助けれたのだって、デロスの町だってたまたまだ。おれじゃなくたって出来た。いや・・・おれじゃなければ、バーグだって死ななかったかもしれねえ!もっとうまくやれてたかも、、、!どうだ?おまえの憧れてくれた背中は・・・こんなにもちっぽけで飾りばっかの偽物だよ。笑いたきゃ笑えよ。」
あまりにも自分が情けなく、自らに対して嘲笑を浮かべる。
結局、元をただせば全部自分の為だったのだ。彼女を守りたいだの、彼女の為にだのと高説を垂れていたがなんとも浅い人間だ。おれは。
おれを守ってくれた人がいた。だからおれが何かの為に生きなければ、その人は一体――何の為に死んだのか。
怖かったのだ。今までの全ての出来事が、なんの意味も無い「無駄なこと」になってしまうのが。
「タイヨウ。」
俯くおれに今まで黙って聞いてくれていたボルクスが口を開いた。
いまさら何を怖がっているのか。けれど、落胆しているであろうボルクスの顔を見るのが怖かった。いよいよこの世界でやってきたことすべてが無駄だということを本当に見てしまうような気がしたから。
「タイヨウ?顔を上げてください。」
促され、重い顔を上げる。
目の前にいるボルクスはとても優しく、それでいてとても強く微笑んでいた。
「残念ですが、僕はあなたの背中をとてつもなく大きいものだとか、そんなことは最初から思っていませんよ。どれだけ自分を美化してるんですか?方向音痴でだらしなくて、訳の分からないことを言う変人。最初からそんなことは知っていますよ。」
いつもの軽口も今は叩けない。自分よりも弱かったはずの彼の言葉に、眼差しに気圧されてしまった。
「でもね、僕はそんなあなたに憧れた。あなたじゃなければおじさんを救えたかもしれない?確かにそうかもしれません。でも、僕はタイヨウに救われた。たとえ偽物の信念だったとしても・・・それだけは本当です。たとえ空っぽだったとしても、そんなあなたは僕のひーろーなんです。」




