大人げねえな「王国最凶」
「――ヨウ!タイヨウ、しっかりするんだ!」
肩を激しく揺さぶられ意識がはっきりと戻ってくる。
「あれ、?ここは、、?おれ、なにして、、、。」
先ほどの幻覚、いや幻覚だけにとどまらずあれほど視界を遮っていた濃い霧までもが影も形も無くなり、開けた丘に立ち尽くしていた。
「君も、何か見たんだろう?だがまずはしっかり意識を持て!僕が誰かわかるな!?」
おれを心配そうに見つめるヴァルトの顔が目に映る。
彼の顔もそこそこに憔悴している感じが見受けられた。何か気分の悪いものを見たのは間違いなさそうだ。
「・・・ああ、そうか。たしか槍の回収しに来てて。」
大分しっかりと頭も回転し始め改めて自分の状況を理解する。
ここは『夢幻の丘』でおれたちは聖遺物である『聖槍』の回収に来ているのだ。
「よし。ひとまずは安心かな。その顔だと・・・君が気分の悪いものを見てきたというのは聞くまでもなさそうだね。」
彼はホッと肩を撫でおろし、おれの体から手を降ろした。
「まあ、な。人のトラウマいじくりまわしやがって・・・」
「とらうまとはなんだい?」
「自称姉気だよ・・・ったく。胸糞わりい。」
「??まあ、表情から察するに僕と似たようなところといった所かな。」
彼の表情からも普段あまり感じられない苛立ちが見える。おれ同様かなり虫唾の走る何かだったのだろう。
「ていうか、そんなに長い時間おれは意識が無かったのか?」
おれたちが霧の中に踏み込んだのはまだ昼前だったというのにすでに太陽は西に傾き、景色を茜色に染め始めていた。
「いや。僕が君を見つけてから5分と経っていない。正確な時間はわからないがおそらく6~7時間は経過していそうだが・・・それよりもあれを見てくれ。」
視線を上げると、少し上の丘の頂上付近。身の丈ほどの白銀の槍が突き立てられていた。
「いったい誰の仕掛けた幻覚だったのかは分からないが。とりあえず目的は果たせたようだよ?」
「あれが『聖槍』?聖剣と同じで特に何のすごみも感じねえけどおれが鈍いだけ?」
「そうだね。キレイなだけの槍、といった印象ではあるが。僕も「鈍い」らしいからね。」
そう言いながらどこか皮肉気に笑うヴァルト。
こうして霧を抜けてしまった後は拍子抜けするほどにあっさりと『聖槍』は手に入ってしまった。
「・・・とっとと回収して引き上げようぜ。なんかどっと疲れた。」
「そうしようか。もう日も暮れて来てしまっているしね。今日はこのあたりで荷車を止め明日の朝から王宮へと帰還しよう。」
ヴァルトの提案に頷き、一晩休憩を入れた後おれたちは王宮へと戻ることになった。
抜けるような星空の下、おれの心は中ではいつまでも霧の中での言葉が暗雲のように立ち込め続けたのであった。
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「おかえりなさいタイヨウ!どうでしたか?」
「まあ、結果だけで言うなら上々なんだろうな。」
結局あれから数日を要し戻って来たわけだが気分は全く晴れてこない。
もともと顔に出やすいことは何度も言われてきたのだが今回はかなりあからさまだろうということくらい自分でもわかる。
心配そうにおれの顔を覗き込むボルクスの顔がそれを物語っていた。
「タイヨウ。何かあったのですか?」
「ああ、・・・ちょっとな。」
「すまないね。陛下の所に任務報告をしに行かなければいけないので話は後でも構わないかい?」
「あ、失礼しました。待ってますね、タイヨウ。」
軽く頷いて王宮の中へと歩を進める。
今回は本当に簡単な任務報告のみだったので10分ほど事の内容を説明し、回収した槍を見せて終わりといったような感じだった。
現状、回収できた聖槍はおれの聖剣と同じくこれと言った特別な力は確認されていない。一つ確認できたのは、清掃を持ち上げることができたのはおれとヴァルトの二人だけだった。ということくらいか。
その辺りも全く持って謎のままだった。
ただ、ヴァルトも霧の中で見たことの内容は語りたくなかったのかそのことだけは省いて報告していた。
「さて、僕の屋敷に戻るのは3日後くらいになるがどうする?シルヴィアの事が心配なら先に戻るかい?」
今まで自分の事ばかり考えていたが、まずは目先の仲直りをしないといけないのだったと思いだした。
けれども何から話すべきか、何の指針も立っていないのも事実である。
「ん~。いや、ヴァルトが帰る時まで王都をぶらぶらして時間潰してくるよ。いいか?」
「君がそれでいいのなら問題ないよ。ではまた後程。」
ヴァルトは外套をはためかせながら再び王宮の中へと戻っていった。
「タイヨウ。」
「ん?」
「王宮を発つまでに時間があるのでしたら少し別行動してきてもいいでしょうか?探している人がいるのですが、今のところまだ会えずじまいでして。」
「別におれの許可なんか取る必要ねえだろ?子供じゃねえんだから。」
「そうはいきませんよ!目を離すとタイヨウは何をしでかすか分かったもんじゃないですからね。」
「許可取りじゃなくて釘刺しね、、、。もうちょい信用してくれてもいいんじゃね?」
少しいたずらっぽく笑った後、誰かを探すためボルクスも一足先に王宮の外へと駆けて行った。
「はぁ。どっかで酒でも飲みに行こうかな・・・」
久々に1人になったもののこれと言ってしたいことがある訳でもなく、かといって部屋に戻ったところで寝れそうな感じでも無さそうだ。
こういう時はやけ酒だ。王都となれば何か珍しいものもあるかもしれないし実地調査も兼ねるって事で、、、。
誰に対しての物か分からないそれっぽい理由を並べて王宮の外へと向かってみる。
「そういや、この城下町でゆっくりするのも初めてか。」
ヴァルトの屋敷があるフェルーの街もなかなかの賑わいだったが見た感じこっちの街は「住んでいる人」よりも「外から来た人」で賑わっているようだ。
街行く人々が持っている荷物が見るからに1つ2つ多いし、服装も余所行きな格好をしている者が多い。
街路沿いの店も八百屋や肉屋と言ったものもあるが、居酒屋のようなところやお土産屋のような店が多く立ち並んでいる。
「どこでもいいか。」
この世界の文字はいまだに勉強中なので字で書いてあるものが多少読めるようになった程度。日本語で言うならギリギリひらがなが読めるようになったところ。
料理名などに関してはちんぷんかんぷんなのでとりあえず人の良く入ってる店に入ることにした。
「いらっしゃい!」
「一人なんだけどいいかな?」
「はいよ!好きなとこ座ってくれや!」
店長らしいイカつめのおやじに促され、カウンターの席に座る。
「何飲む?てか兄ちゃん飲める歳かい?」
久々に言われたな・・・国民証作ってもらってて助かったな。
「飲めるっつの!とりあえずエール貰える?」
「おう、思ったよりいってんだな。悪い悪い!」
おやじはニカっと笑った後、エールと漬物っぽい何かを持ってきてくれる。
「はいよ!エールとこっちは失礼なこと言っちまったからおまけだ!良かったら食ってくれ。」
「これはこれはご親切に。ありがたく頂戴するよ。」
いただきます。と小さく手を合わせて漬物を口に運んでいく。
「ん。うめえなこれ。」
見た目はきゅうりの浅漬けのような感じだったが味としてはキムチに近いかな。
まさに酒のあてって感じだ。
「口にあったようで何よりだ!兄ちゃんも旅の人かい?どっから来たんだ?」
「そんな感じ。どっからと言われると難しいな。」
「なんだそりゃあ?西の方から来たなら話が聞きたかったんだがそれはそれで面白そうだな!」
「西の方から来んのはめずらしいのか?」
「知らねえのか兄ちゃん?さてはよほど田舎の出だな?」
「そうゆうこと。おかげでいろいろな情報に疎くてさ。」
「はっはっは。そりゃご苦労なことだ!おれも詳しくは知らねえが『テライオス』って街には近づくなよ?どの旅人や行商人からもいい噂を聞かねえからよ。」
「へぇ。ちなみに噂って?」
「それがよ真偽のほどは分かんねえんだが――っと。わりい客だ。いらっしゃい!」
新しく客が来たようだ。そちらの対応のためにおやじがカウンターから出ていく。
テライオス?どっかで聞いた気もするが、、?
それにしても、平和なように見えて色々とあるんだな。この国も。
「こんなとこいたんすね~。探したっすよ~。」
聞いた話について考えていると不意に後ろから、どこかで聞いた声に呼び掛けられる。
「・・・は?なんでこんなとこに?」
「何でもなにも今言ったすよ?お兄さんを探してたんすよ、タイヨウ・キリュウ君♡」
後ろ、正確にはおれが背を向けているだけでカウンターの横の席に着いていたのは王都初日にあわや殺されかけた『王国最凶』、リザリー・バロックフォートだった。
「なんでお前がおれを探すんだよ。・・・そもそもこんなとこ来ていい歳か?」
少し前の事を思いだし少し身構える。
今はコイツの狙われる理由はないはずなのだが、おれの中ではロリっ子が「三騎士」の中で断トツのヤバい奴だ。
個人的には『王国最狂』の間違いなんじゃないか?とも思っている。
ヴァルトのように信念や、オリヴィエのような誇りなど無く、ただただ戦う事だけを楽しんでいる奴。そうゆう目をしている。
彼女の目に映っている感情は新しいおもちゃを買ってもらった子供のような好奇心のみ。興味の無いものに関してはオリヴィエのように見下すことすらしていない。
というか多分、本当に視界に入っていないように思う。
「そんな身構えなくっていいすよ~。こないだのお詫びを兼ねておごったげよっかなって思っただけっすから!それに年齢もたぶんお兄さんより上っすよ?」
「はあ?そんなわけ・・・」
彼女が目の前に出してきた国民証に目を向ける。
「・・・27歳?」
「正確にはもうすぐ28っすね!」
ありえねえ、、。どう見たっていいとこ14歳とかだろうが。
「いやいや!さすがに無理があんだろ!どこにも28歳っぽいところなんか――」
と言いかけた所で言葉に詰まる。
・・・確かに、一か所だけはしっかり大人だわ、、。
「ん~~?どこ見てんすかぁ?やっぱり男の子は助べえすねぇ♡」
ニヤニヤしながら自分の胸部をあえて強調するようにこちらへ身を乗り出してくる。
「・・・そんなもんぶら下がってたら嫌でも目が行くっつの。」
「そういうもんみたいすね。まあ僕からしたら邪魔でしかないんすけど。」
「わかったから揉むな!」
いまだにニヤニヤしながらこちらを見るリザリーを横目に浮かんだやらしい妄想を酒で流し込む。
さりとて健全な男子であれば仕方ないことだと理解してほしい。
「あ、おっちゃん僕にもエールと、この店で一番きついお酒持ってきてほしいっす!瓶ごとでいいっすよ!」
「・・・あいよ。」
どことなくおやじの顔が曇っているように見えるが気のせいか?
「てか、えげつない頼み方するなあ・・・」
「ちまちま飲んでたらめんどくさくてやってらんないっすよ!」
そう言うと目の前に出されたエールを一気に飲み干し、瓶とともに出されたグラスを無視して見るからにキツそうな酒をラッパ飲みしていく。
「っぷは!お兄さんはいける口っすか?」
おじさんみたいに手で作ったエアおちょこをクイっとやる動作を見せるリザリー。
どの世界でもこれは共通なんだな。
「・・・なめんなよ。ケンカで負けても酒で負けてやんねえぞ?」
「そりゃあ楽しみっすねえ!おじさんこれと同じのもう二本追加っす!」
こないだの借りは返してやるぜロリっ子め。
「そういや今日はあの綺麗なおねえさんは一緒じゃないんすね?」
「あ~~~、、?」
信じられないペースで飲み続けること3時間強。酒がこんなにきついと思ったのは初めてだ。
「あいつは、ヴァルトの屋敷でお留守番だよ、、。ヒックっ。」
「なるほどっすね。たしかにあそこにはジル爺ちゃんがいるから大抵のことは何とでもなるっすもんね。」
話しながらも彼女は一向にペースを落とさず酒を飲み干していく。
「なんでそんなにあのお姉さんが好きなんすか??」
『最凶』なんて言われてても意外と女の子なんだな、、。恋バナなんてしてくるとは驚いた。
「ん~、一目惚れかなぁ、、。泣いてるシルヴィアを見た時におれが守ってやらねえとって。」
「守る?お兄さんが?」
「ああ。あいつの、ヒーローになるって約束しちまったからなぁ。」
「ひーろーってなんすか?」
「おれの地元で『英雄』みたいな意味やな。」
「お兄さん面白いこと言うんすね!」
突如、けらけらと笑いだすリザリーに少しイラっとする。
「なんだよ。別におもしろいことなんて言ってねえだろ。」
「いや、だって!そんな子供みたいに出来もしないことをまじめに言うからつい面白くて・・・」
「・・・あ゛?」
腹を抱えて大笑いするリザリーを睨む。
「じゃあ、その英雄?その定義って何だと思うっすか?」
「定義?んなもん・・・」
言われて考えた。
・・・英雄って、なんだ?
「まあ人によっていろいろあるとは思うんすよ。偉大なことを成し遂げたり、伝説の怪物を倒したり、大勢の人を救ってみせたり。時には”100万殺せば英雄”なんてことも言うっすよね」
「・・・だったら、なんだよ。」
「けどっすよ?僕は結論、一つのところに落ち着くと思うんすよ。怪物を倒すのも100万人殺すのも、ようは――強くないとできないんすよね。」
なんともこいつらしい結論だな。言い分がガキ大将だ。
「ほんと分かりやすいっすよねお兄さん。けど言い返さないってことは自分でもわかってるんじゃないすか?最初に王宮に来た日に分かったっしょ?お兄さんなんていてもいなくても一緒なんすよ。」
とてもニコやかに事実を突きつけられた。
「誰かを守るのに高潔な心とか、偉大な志とか、ましてや愛情とか優しさなんて必要ないんす。ようは強ければいいんすよ。だからあとは僕らに任せてゆっくりしてくださいっす。ね?」
「待てよ・・・」
「さ、そろそろお酒飲むのもきついっしょ?お開きにしようじゃないすか!おっちゃんお金置いとくっすよ~。」
言い終えるとリザリーは立ち上がりその場を去ろうとする。
「待てって・・・言ってんだろうがっ!!」
「もう~なんすか?特に言い返すことも無いみたいだし話はおしまいっしょ?それともまだ僕と飲みたいんすか~?」
ニヤニヤと茶化すようにおれを見るリザリー。
「・・・試してみろよ。」
「なんか、言ったっすか?」
「おれが弱いか、試してみろって言ったんだよ。」
おれを見る彼女は相変わらずニヤニヤしている。
だがその色は大人っぽさのある艶やかな様相から、子供が無邪気に虫を殺すときのような無垢な黒に塗りつぶされていた。
「そうゆうとこ、嫌いじゃないっすよ?」
だが彼女は構えるどころか臨戦体勢にすら入っていないように見える。
「なめやがって、、、!」
「リザリー様揉め事はしないって。兄ちゃんもやめとけ!ケガじゃすまなくなるぞ!」
店主の親父の制止は耳を通り抜ける。
「あん時のおれと一緒だと思うなよ!!」
まだ〈強化〉を100%で常には使えないが80%くらいで前よりもはるかに長い時間維持できるようになった。勝てないまでも、ぜってえ一泡吹かせてやる!
間合いは一歩で詰めリザリーの左頬に右拳が直撃する。
「そうすね。前とは確かに違うっす。――お兄さん、前の方がまだ面白かったっす。」
おれの殴打を全く意にも介さず、今度はリザリーの右拳がおれの頬を打ち抜く。
文字通り吹き飛ばされた。
おれの視界に一瞬でいろいろな物が映っては通り過ぎ――
浮いた体が着地したのは、おれがいた居酒屋から建物を6つぶち抜いた所だった。
「っはっ、、、!」
「これでカッコはついたっすか?じゃ、僕は帰るんで。修理代も払っとくんで気にしなくていいっすよ。」
――いてもいなくても一緒なんすよ。
左頬に残る鈍い痛みと共に、何度も反芻する言葉を噛み締めていた。




