鬼紳士
「私に、戦い方を?」
「今知る限りこんなことを頼めて、なおかつ強いのはヴァルトくらいだ。何の得も無いかもしれねえけど、頼む。」
テーブルに手をついて頭を下げる。
「なるほどね。・・・すまないが断らせてもらおう。」
残念がらあっさり断られてしまった。
「はや!もうちょっと悩んでくれても良くない!?」
正直、想定外の返答だった。誤解も訂正していない状況で少し気が引ける部分はあるのだが、だからこそ断られるとは思っていなかった。
というか、その為に誤解を解く話を後回しにしたのに、、。
「誤解しないでほしいが、ちゃんと理由があるんだ。私はこれでも王国最高位の騎士だからね。客人であったとしても個人的に騎士で無い者に指南をすることはできないんだ。」
「あ~なるほどね。そうゆうしがらみもあんのか。」
確かにそれを許してしまえば個人的に軍隊を作ることも不可能ではなくなってしまう。
いくら平和であってもある程度の規律は必要という事だろう。
「それにね。君はもしシルヴィアが、戦うための手ほどきをしてくれ。と言ったらするのかい?強くなれば無茶をするとわかっている人が無茶をする手助けをしたいと思うのかい?」
「む、、。それは確かに。」
おれがその立場なら、確かに嫌だ。不用意に戦い方を教えてしまって無茶をされるのは怖い。
「もちろん君の気持ちはわかっているつもりだよ。大切な人を守りたいという気持ちは、今の私には痛いほどわかるからね。今までは強さに執着などなかったが、今は「王国最強」と呼ばれることに誇りを感じるよ。この国で君を守るための力を一番持っているのは私という事になるのだからね。」
ニッコリと微笑みコーヒーをすするヴァルト。
だがこうなると参った。オリヴィエには頼みたくも無いがどちらにしろおれが地面に頭をこすりつけてもokはもらえないという事だ。
むしろこの情報を知らずに行っていたら土下座なりさせられるだけさせられて後出しで事情を説明されたことだろう。
憎たらしく笑うオリヴィエの顔が頭をよぎる。完全な偏見ではあるのだが。
「はぁ~。そうなるとやっぱり自力で何とかするしかないかー」
腕を頭の後ろで組み背もたれに体を預ける。
「そう残念そうな顔をしないでくれ。そういう顔をされると心が痛む・・・」
申し訳なさそうにこちらを見るヴァルト。
「こればっかりはしょうがないよな。立場ってもんもある訳だし。」
「理解してもらえて助かるよ。まあ私の敷地内であれば鍛錬用の設備なども多少は揃っているから好きに使ってくれて構わない。それに私は家を空けがちだからね・・・その間君が何をしているかまでは把握のしようがない。」
そう言うと彼はなぜか少し離れた所に立つジルバークに目配せをした。
「はい。鍛錬用の設備の使い方などは責任をもって私めが説明をさせていただきます。」
「うん。頼むよジル。異国から来たばかりだからね。使い方も分からないものなど多々あるだろうからしっかりと説明してあげてくれ。」
「御意に。」
またもニッコリと笑うヴァルトに対して礼儀正しくお辞儀をするジルバーク。
「よし!じゃあ私はそろそろ出るよ。タイヨウの顔も見れたことだしね。じゃあタイヨウ、幸運を祈るよ。」
立ち去り際にウィンクをしながらおれの肩をポンと叩きヴァルトは仕事へと出かけた。
「幸運を祈る、とは?」
なんとも意味深なやり取りが繰り広げられていたがそれの意味をおれはこの後、嫌というほど思い知らされることになる――
「タイヨウ殿。何か忘れておいででは?」
「あ。」
結局他の話が脱線ばかりしてしまい誤解を解くことはこの日もできなかったのだった。
「では鍛錬はいつ頃からなされますかな?」
「モチ、今日からよ!若干体はだりいけど悠長に構えてる時間は無い!」
「では、片付けが終わり次第ご案内させていただきましょう。」
部屋で待つよう言われ運動のしやすい服を用意してくれていたのでそちらに着替える。
「・・・マジで速く誤解を解かねえとやばいな。」
部屋のクローゼットの中にはヴァルトが用意してくれた衣服が並んでいるが、それはまあ見事なまでに高そうなドレスの数々。
誤解を解いたら解いたでいったいどういう反応をされるのか怖くなってきた・・・
コンコンっ。
「はーい。」
「準備はよろしいですかな?」
片付けを終えたジルバークが迎えに来てくれ部屋を出る。
「てかさ、片付けとかおれらも手伝おうか?ただの居候ってのも気が引けるし。」
「お気遣い感謝します。しかし皆さまは主のお客人ですので。それにタイヨウ殿にそのようなことをさせれば間違いなくヴァルト様がお怒りになりますからな。」
怒っているヴァルトか。なんとなく想像できないな。
そんなに多く会話をしたわけじゃないが確かに彼は何となく感情の起伏が乏しい気がする。いろんなものに興味が薄いというか・・・
「あいつでもちゃんと怒ったりすんだな。」
「まあ、昔はもっと年相応の男の子らしい反応なども見せていたものですが。あれ以来どうも自分を律しすぎている節がありましてな。」
「あれ以来?なにかあったのか?」
そういえば王宮で国王様、ファウスも同じようなことを口にしていたなと思い出す。
「おっと、これは余計なことを。・・・着きましたぞ、このあたりが当家の修練場です。」
そう言って案内されたのはきれいに整備された裏庭のようなスペースだった。
だがこれと言って特別な機器などは見つからず特に説明を受けるようなものは無い気もするが?
「では、始めるといたしますか。時にタイヨウ殿、この模造刀の使い方はご存じで?」
ひょいと投げられた木刀を受け取る。
「いやいやいや、バカにし過ぎだろ、、。これくらい子供でも、っと!」
受け取ると同時にジルバークから放たれた横薙ぎを間一髪受け止め後ろへ下がる。
「ほう。確かに中々ですな。しかしタイヨウ殿、模造刀一つとっても使い方は様々。此度は主よりしっかりと説明するように仰せつかっております故。」
いつもの仏頂面を崩しまるで悪ガキのイタヅラの時のような笑顔を見せるジルバーク。
「・・・たしかに、それなら教わることは山ほどありそうだな。」
剣を構えて改めてジルバークと向かい合う。
「それと自己紹介の時には、なにぶん昔の事ゆえ説明いたしませんでしたが。一昔前まではヴァルト様の剣術指南役を仰せつかっていた身。――タイヨウ殿の肩慣らし程度にはなるかと思いますので。」
向かい合うジルバークからは老人とは思えないほどの威圧感が漂っている。
肩慣らし?これは本気でやらねえとケガするやつだろ、、、。
これで今朝のヴァルトの目配せや励ましの意味がようやく理解できた。
「では、参ります。」
「・・・よろしくお願いします。」
ここからヴァルト邸での地獄の鍛錬の日々が幕を開けた。
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「ぐぁ~~~~~~」
今日も今日とていつもの修練場に転がされる。
あれから1週間ほど経つがいまだに一度たりとも倒れるおれを見下ろす老紳士に一撃入れることすら叶っていない。
「肩慣らしって言葉の意味ググって来いよ・・・」
「タイヨウー!お昼ご飯できたよー!」
最近は暇を持て余したのか家事などを勝手に手伝い始めたシルヴィアがお昼ご飯を運んできてくれる。
言わずもがな炊事には参加はさせていないが・・・。
毎日ボルクスとともに修練場に居るので昼食もサンドイッチのような簡単に取れるものを運んでもらうようになった。
「少し休憩にいたしますか。」
そう言うとジルバークも芝生の上に座りこむ。
この老紳士、話し方や佇まいこそ紳士感あふれるが、鍛錬の内容は稽古にかこつけたイジめなんじゃないかと思うほどに容赦がない。
おかげでこの数日は毎日のように打ち身と筋肉痛に悩まされている。
「どうですかな?魔法の方は?」
「ん~~・・・そっちはさっぱりかなぁ。」
肉体的、技術的な鍛錬と並行して魔法の鍛錬も毎日やっているのだがこちらに関しては本当にびっくりするくらい何の進歩も無い。
「私がもう少し魔法に精通しておればよかったのですが。剣には多少の自信もありますが昔から魔法はからっきしでしてな。」
「すいません、魔法はむしろ僕が基礎から習いたいと思っているくらいでして・・・」
二人ともが申し訳なさそうにこちらを見ている。
「でもこの<強化>ってそもそもかなり初歩の基本技術なんだろ?才能無いんじゃねえのかなおれ、、。」
サンドイッチを頬張りながら肩を落とす。もしここから他の魔法が使えるとしてもそれはいったい何年先になるのやら・・・
「ですがタイヨウ殿が保有している魔力の量だけならば一流の魔術師にも引けを取らぬものだとお見受けしますが。」
「まさに宝の持ち腐れだな~」
はあ。とため息をつく。
「すいません。僕が役に立たないばかりに、、、。」
なぜかこの会話で一番ダメージを受けているのはボルクスだった。
「そんなことないって。向き不向きってやつだろ?」
最近のボルクスは明らかに元気が無い。前までのような落ち込み方とは違うのだが、まあなんとも元気が無い。その一言に尽きるくらい落ち込んでいた。
「タイヨウ様。お客様がお見えになっております。」
ボルクスを眺めていると屋敷の影からメイドの女性が声をかけてきた。
「おれに??」
「はい。客間にお通ししてございますのでお越しいただけますか?」
はて?この国でおれを尋ねてくるような知り合いなんてそうそういないと思うのだが?
ジルバークの方を見たものの彼も何も聞かされていないらしく分からないといった顔をした。
「とりあえず客間へご案内しましょう。」
「そうだな。行けばわかるか。」
残っていた昼食を口に詰め込みジルバークに連れられ客間へと向かう。
「当屋敷への訪問には本来前もっての連絡があるはずなのですが。」
ジルバークも不思議そうな顔をしたまま客間の扉を開ける。
「ちょっと!遅いじゃない!あたしがわざわざ来てあげたんだから急いで来なさいよ!」
「なんだお前かよ・・・まためんどくさいやつが来た、、、。」
我が物顔で客間に腰掛ける「王国最高」の魔術師オリヴィエが待っていた。
「で、どうなのよ?未来の旦那様とは?」
ニヤニヤとしながら紅茶をすする彼女は楽しそうに尋ねてくる。
「ぞっとしねえな。その冗談はマジやめろ。」
「あら。お嫁さんの間違いだったかしら?」
「・・・お前こそ。今日は途中で落ちなくてよかったな。飯食わしてもらってから帰ったら?」
「だーかーらー!落ちてないって言ってんでしょ!」
テーブルに身を乗り出してこちらに詰め寄る彼女とじりじりと睨み合う。
「ごほんっ。それでオリヴィエ様。今日はどのような御用で?まさかタイヨウ殿と遊びに来た、というわけではありますまい。」
「当り前じゃない。なんであたしがこんな無礼な石ころと遊ばなきゃならいのよ。」
そう言うと腕組みをしてドカッともう一度ソファに腰掛ける。
「今日は仕事できたのよ。全くこんなことの為にあたしが自ら出向いてあげたのよ?感謝なさい。」
「相変わらず態度デカいな~~~。で、その仕事って?」
彼女は辺りをきょろきょろと見わたし
「あんたの連れ添いの二人は?今日はあんた達の『魔力属性』やらをちゃんと調べて来いってお父様からの仕事でね。ここに呼んでくれない?」
何ともまあよくそんなにふんぞり返ったまま人にものを頼めるもんだと感心してしまう。
目の前の紅茶に口を着けながら二人の到着を待つ。
「呼びましたか?」
数分後メイドさんが呼んでくれた2人が客間へと到着しおれの隣へと座らされる。
「久しぶりオリヴィエ。元気だった?」
ニコニコと話しかけるシルヴィア。
「な、何よいきなり。なんかあんたは調子狂うわね、、、。」
人見知り。そう言った彼女だが自分がエルフであることを気にしないタイプの人間には全くそんなことも無い。
そしてその距離の詰め具合の速さがオリヴィエは若干苦手なようだ。
「ま、いいわ。始めるわよ。ほら手出しなさい。」
「なんか準備とかいらねえの?水の入ったコップとか力込めると切れたりする紙とか?」
「私には必要ないわよ。魔法関係で私にできないことなんて無いもの。」
最初にボルクスの手を取り
「あんたは「風」ね。ちゃんと頑張ればそこそこには芽が出るかもね。」
そう言ってシルヴィアの手を取ろうとする。
「あ、わたしは「水」ってわかってるから大丈夫。」
顔の前でぶんぶんと手を振り必要ないとアピールする。
「あらそう?まあエルフは生まれ持って人間よりも魔法の適正は高いから特に必要ない、か。」
「そうそう!」
「じゃあ次ね。ん。」
手を出せと催促してくる彼女に手を出す。彼女はおれの手を取り目を閉じた。
「・・・・・・・・・」
なんか時間がかかっているみたいだ。・・・気まずい。
「ちなみにオリヴィエはその属性はなんなん?」
「さっき言ったじゃない。全部よ。」
「・・・そんなんありか?」
「ありなのよ、あたしなんだから。」
サラっとプチ自慢も交えながら当たり前のように話す彼女。
要するに国の最強とまで呼ばれる連中はかなりのチート連中みたいだ。ふざけやがって、、、。
「じゃあさ、「月」の魔法も使えたりすんのか?」
「はあ?あんたバカじゃないの?あんなの人間に使えるものじゃないわよ。時間や空間を操る魔法や、死んでさえいなければどんな人間も治せる魔法なんて実際にある訳ないじゃない。ていうかちょっと黙っててくれる?集中してんのよ今。」
彼女は難しい顔をしたまま、また黙りこくってしまった。
ボルクスの時は精々が30秒くらいのものだったのに体感的には3分ほどは経っただろうか?
おれの手を取るオリヴィエを見る。黙ってればきれいな顔してんだよな。そんなことを考えていると少しこの状況が恥ずかしくなってきた・・・
「ん~・・・たぶん「火」ね。」
「なんか歯切れ悪いな。」
「しょうがないじゃない。何かよくわかんないのよ。異国から来たって言ってたしその辺の違いかもね?けど魔力の量だけは生意気にかなりのものよ。使いこなせればいい線行くんじゃない?」
「使いこなせれば、ね。」
「なによ?」
何とも頭の痛い響きである。それができれば何も苦労はしていないというのに、、、。
「い~や、なんにもございません。めげずに頑張ります。」
「あんたこそ歯切れ悪いわね。言うだけ言ってみなさいよ。」
「嫌だ。お前に相談してもろくなことが無い気がする。」
「あんた本当に失礼ね。前にも言ったけど、魔法に関しては誰も彼もがあたしと比べれば「凡才」なのよ。なんでできないかが理解もできないのにバカになんてする気も起きないわ。」
よく見るお嬢様らしく首元の髪をサラッとやりながらとてつもなく上から目線な言葉を投げつけてくる。
「すんごい自信な。」
「あたしを誰だと思ってるのよ。ヴェーレン・ジル・ヴァーミリオンの娘にして「王国最高」の魔術師オリヴィエ・ジル・ヴァーミリオンよ。生まれた瞬間から違うのよ。」
ふふん。と何ともまあわかりやすいドヤ顔だ。
腹は立つがそこまで自信があるのならアドバイスを貰おう。
「じゃあ折角だし。ちょっと助言貰おうかな。」
「あまり時間も無いからさっさとやるわよ。」
想像以上に快諾され少し拍子抜けしてしまう。
「・・・何よその顔?」
「いや、土下座くらいさせられるかなって・・・」
「あんたはあたしをなんだと思ってるのよ、、、。」
「・・・あとでしろとか言ってこねえ?」
「しつこいわね!?そんなに嫌なら帰るわよ!?」
二人でぎゃあぎゃあ言いながら修練場のある裏庭へと向かう。
「何とも不思議な方ですなタイヨウ殿は。オリヴィエ様のあのような表情は初めて拝見しましたな。」
「そうですね。タイヨウは本当に不思議な魅力のある方です・・・」




