勘違い王子と涙の訳
その場にいる全員が動くことができなかった。彼のたった一言で場が混乱し皆が一様に口を開いたまま間抜けな顔で固まっている。
「?どうしたんだ皆?そんなに同じ顔をして固まって?」
皆混乱しているとは思うが誰よりもこの場で状況が読めていないのは間違いなく、おれだろう。
「ヴァ、ヴァルトよ・・・その、お主はタイヨウが好きだと、、。そう言ったのか?」
「はい。芯があり強い心とそれを宿すにふさわしい美しい容姿。おそらくは、生涯この方を超える人は現れないと断言できます。」
彼は握った手にさらにもう片方の手を重ねしっかりと離さぬように握りしめてくる。
「ヴァルト、あなた・・・冗談でしょ!?まさかそーゆう趣味があったの!?」
「あっははは!これは大事件っすね!まさかまさか王国最強の騎士が―――」
「こら二人とも。そんなに大笑いすることじゃないだろう。確かにまだ出会って日は浅いがその辺りはこれからだな。」
先ほどまでピリピリしていた三騎士は楽しそうに談笑している。
「しかしじゃな、その、、頭ごなしに反対はせんが・・・」
「これはまた、なかなかの大事件ですな・・・」
ファウスとヴェーレンのお偉い年寄り二人は頭を抱えている。
一国の王子が一目ぼれした相手が、男となればこれはなかなか由々しき問題だと悩むのがあたりまえだ。
というかそもそもこいつは本当になにを言ってるんだ!
未だに手を放そうとしないヴァルトの方を見つめ、信じられないといった視線を送る。
「なんだタイヨウ。そんなに見つめないでくれ、、。照れるじゃないか・・・」
顔を赤らめながら少し嬉しそうに笑い彼は目を逸らす。
そんな乙女みたいな反応いらねえんだよおおおおぉおおお!叫び出したいのは山々なのだがいかんせん体の方が限界を迎えていてその場に崩れ落ちそうになる。
「これは・・・本当にまさかの展開ですね。」
「うん。まさか、ヴァルトが女の子だったなんてね!」
「いや、シルヴィア・・・あのお方は正真正銘男性ですよ、、、。」
「ええ!じゃあ本当に大変だね!」
「いまさらですか、、、。胸を押さえてどうしました?」
「ううん。なんでも無いの。なにかすこしモヤッとしたというか、、、?」
「まあまずはゆっくり休ませてもらいましょう。」
すぐ後ろではうちのあほ二人が人ごとのように素っ頓狂な会話をしているのも聞こえる。
ああ、だめだこれ限界・・・
色々考えなければいけないことは多いのだがついに膝から崩れ落ちる。
「!タイヨウ!」
倒れる寸前ヴァルトに受け止められ人生初のおお姫様抱っこを”される”羽目になった。
どうせ受け止めてくれるなら今回もシルヴィアがよかったなぁ。
そんなことを思いながら彼の腕の中でおれは眠りについたのだった。
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目が覚めると今まで見たことないほど大きなベッドで横になっていた。
「お目覚めですかな。少しうなされておりましたが、何か良くない夢でも?」
すぐ隣から聞き慣れない声が聞こえた。
「あんまり覚えてないけど、少なくとも覚えてる現実よりはマシだった気が・・・」
はあぁっ。と大きなため息をつき体を起こす。
まだ節々が痛むが意外とデロスでの時よりはましだった。
「いててっ、、。」
「まだあまり無理はされぬ方が良いかと思いますが?」
「大丈夫、大丈夫。もう慣れたから。」
なにせこの短期間で3回目だ。いやでも多少慣れてくるというものだ。
すぐ横にはベッドに突っ伏して眠るシルヴィアとソファで眠るボルクスの姿もあった。
「お二人にも部屋をご用意したのですが、タイヨウ殿が起きるまではそばを離れぬ。と聞きませんで。」
そう言うと見知らぬ老紳士ははだけていた毛布をボルクスに掛け直す。
「自己紹介が遅れましたな。私はジルバーク・ヒルストンと申します。ヴァルト・ヴァン・アステル様の執事をさせていただいております。」
そう言うと彼はとても礼儀正しく深々と頭下げてくれる。
執事用の服に身を包んだ老紳士。がっしりとした体に白髪一色に短い髪の毛を7.3分けのような感じでピシッとセットしている。
まあなんとも雰囲気のある爺様だ。国王のファウスとは違った重厚感のある人だな。
「どうも。タイヨウ・キリュウです。ちなみにここはどこでおれってば何日くらい寝てました?」
貰った紅茶に口を着けながら小さく頭を下げ彼に尋ねる。
「存じております。むしろ今宮廷騎士やその家族などの宮廷関係者であなたを知らぬ者はいないかと思いますが。色々と話題の種ですからな。タイヨウ王妃は。」
少し含み笑いをしながら彼は食事を運んできてくれた。
「ははは。・・・笑えねぇ。」
王妃。という響きに背中がぞわっとする。
「タイヨウ殿でしたら女性用の婚姻の衣装も似合われるかと思いますが。」
これまた信じられない冗談を言いながらシルバーをきれいに磨いてから手元においてくれる。
「まじで勘弁・・・想像しただけでマシになった気分が逆戻りしそう。」
言われた瞬間に想像してしまった自分が純白のドレスに身を包んだ姿。・・・気分が悪くなりすぐに掻き消す。
「さて、質問の答えでしたな。ここは王宮のある街「アステル」より北東の「フェルー」にあるヴァルト様の邸宅です。眠っておられたのはちょうど二日ほどでしょうか。」
目の前に置かれたおかゆのようなものを口にしながら話を聞く。
「よりにもよって、ヴァルトの家か・・・」
「はい。ヴァルト様がお譲りになられませんでしたので。タイヨウ殿についてですが、主はどうも勘違いをしているようでして。」
「勘違い?」
「どうにも我が主はタイヨウ殿を女性と思っているようでして・・・」
「はぁ?」
なにがどうなればそうなるのか皆目見当もつかない。確かにわれながら中性的な顔立ちをしているとは思うがそれでもさすがに本気で女性に間違われるというのは初めての経験だ。
「現状、周りの声にも聴く耳持たずでして。しばらくはご迷惑をおかけすることになるやもしれませんが折を見て伝えてくださればよろしいかと。」
「折を見ねえでもすぐ伝えるよ・・・さすがにショックだなぁぁ。それは。」
とにかく早く彼の誤解を解かなければ。あのキラキラした瞳で見つめられると何とも背筋がぞわっとするのだ。
「ごちそうさまでした。」
「では、何か御用があればお呼びください」
おれの食べた食器などをもってジルバークは部屋を後にした。
再びベッドに横になり、初めてバルトに会った時からの事を思い出す。
よく考えるとやたらと話しかけてきたり、こちらを見ていたり確かに思い当たる節はあった。
「はぁ。乙女かよあいつは・・・」
「ん、、。んう、、。」
ベッドに突っ伏していたシルヴィアが目を覚ましたようだ。
「んん、、。あ、おはようタイヨウ。目が覚めた?」
「ん、おはよう。」
起きた彼女の口元には見事によだれの跡。
「はは。こどもか。」
つい口元が綻びながら服の袖で彼女の口元を拭う。
「むぅ、、。体は大丈夫?」
子供っぽい扱いが気に入らなかったのか少し不服そうな顔をした彼女はそう聞いてきた後立ち上がり鏡で顔を確認していた。
「うん。もう大丈夫そう。明日には動けそうかな。だから今日は二人とも自分の部屋でちゃんと寝ろよ。」
「はーい。けど今回もちゃんと起きてくれてよかった。本当に毎回毎回タイヨウは心配かけるんだから!」
ソファで眠るボルクスの顔をたたきながら彼女はそう言った。
「じゃあちょっと早いけどお風呂入って部屋に戻るね。どこか痛いとかあったらすぐ呼んでね?わかった?」
「はいよ。ありがとうな」
彼女は返答に満足したのかまだ半ば寝ているボルクスを引きずって部屋を後にした。
「・・・もっと強くならねえとなあ。」
今回がもし本当におれたちの命を狙ってきたものだったなら・・・今こうしてここにおれはいない。
あくまでも運が良かっただけ。毎度その節はあるが、さすがにそろそろ本気でまずいと思う。
―バタバタバタッ、、!
ぼんやり天井を眺めていると外から慌てたような足音が聞こえてくる。大方誰のものか予想は出来ているが――
「タイヨウ!目が覚めたのかい!本当に良かった、、!」
バンッ!と大きな音を立てドアを開けたのは予想通りヴァルトだった。
「おかげさまでな。それよりもヴァルト。話が―――」
「良かった、、!急に気を失ってしまってからずっと眠ったままで本当に心配したんだ!全く君と言う人は――」
話をしながらヅカヅカと部屋に踏み込んでくる。こちらの声は全く耳に届いていない様子だ。
速足でおれの寝転ぶ横までたどり着きまた手を取りながらまっすぐに見つめられる。
「けれどよかった。本当に、、、。」
彼の目にはうっすら涙が浮かんでいた。そのまま彼は泣いていることに気づいたのか見られまいとベッドに顔をうずめる。
「あーー、、。本気で心配してくれてるところ悪いんだけどさ・・・」
ここまで心配をしてくれていたことは素直にうれしい。けれどやはりヴァルトの勘違いはとにかく早く正すべきだ。じゃないとおれの身がもたない。
「ヴァルト様、お気持ちはわかりますがタイヨウ殿はまだ安静の身。一度落ち着いて・・・ん?」
「・・・ぐぅ~~、、。。」
王子様と来たら顔をうずめた態勢のまま暢気にも寝てやがる。
「こいつ・・・まじでなんなんだ?」
「まあ、主もこの二日一睡もしておられませんでしたからな。大目に見てやっていただきたい、、、。お話はまた後日という事でよろしいですかな?」
彼の寝顔は何ともまあ気持ちよさげなものでこれを起こすのは少し心が痛む。
「・・・まあしょうがねえだろ。さすがにこれ叩き起こすほど鬼じゃねえよ。」
眠るヴァルトを抱えて部屋を出るジルバークを眺めていると「親子みたい」と思えるほど和やかな空気感だった。
「ん、、。」
不意に目が覚める。いつの間に眠っていたのか定かではないがそこそこ長い時間眠っていたみたいだ。
日はすっかり沈んでおりもう真夜中だった。
「はぁ~、、。・・・ん?」
大きなあくびをした後布団の中に違和感を感じ捲ってみる。
ぴったり張り付いて小さく丸まったシルヴィアが布団の中ですやすやと寝息を立てていた。
「っっ!」
びっくりして大きな声が出そうなるのをこらえとりあえず少し距離を取る。するとそれに合わせて彼女も着いてくる。
しまいにはピッタと抱き着いてくる始末。
「あ~・・・これ久々だなあ。寝れねえっつの・・・」
抱き着いたまま徐々に這い上がってきた彼女の顔の下に腕を滑り込まし腕枕をする。
「・・で・・・よう・・」
「ん?」
一瞬起きているのかと思ったが寝言だったようで返答は無い。
「行かないで・・・タイヨウ・・・」
彼女は、おれの名を呼んで泣いていた。
どんな夢を見ているかなど見当もつかない。
けどなぜ今泣くような夢を見たのかはわかる。おそらくはおれが眠っている間いつもこうやって心配してくれているのだろう。
ようやく気付いた。おれがどれほど心配をかけていたのかが。
彼女の笑顔を守るというのならもっと強くなって、無事に帰ってくるところまでしなければならないのだと。
横で小さな寝息を立てる彼女の涙を見たくないのなら今のままではだめだ。
強くなろう。口だけじゃなく、本当に神さまにだって負けないように。
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「・・・あっつい!」
翌朝はあまりの暑さに跳び起きた。夏の初めに、同じ布団で二人も寝ているのだ。よく考えれば当たりまえかと思い水を飲む。
「なんでこいつは普通に寝れてんだよ。」
相変わらずおれの布団で眠っているシルヴィアの頬をつつく。
「んん、、。ぅん、、」
不愉快だったらしくものすごく眉間にしわを寄せられた。
「さて、遊んでる場合じゃねえや。」
はだけた布団を掛け直し服を着替えて部屋を出る。
まずは朝飯を貰おう。腹が減って倒れそうだ。なにせ2日間眠りつでけて起き抜けにおかゆを食べただけなのだ。何でもいいからお腹にたまるものが食べたい。
「おはようございますタイヨウ殿。お体の調子はもう良いのですか?」
後ろからジルバークに声をかけられた。
「おはようさんです。もう腹減って腹減って、、。」
「では、ヴァルト様も今からちょうど朝食ですのでご一緒で良ければすぐご用意ができますが?」
「ありがたい!ちょうど頼みたいこともあったしな。」
「頼みたいこと、でしょうか?」
笑顔で話しを流し「とりあえずまずはご飯!」と足早に食卓へと案内してもらう。
「やあタイヨウ!昨日は会話の途中で寝てしまってすまなかったね!」
「お、おう、おはよう。」
自分で言うのもなんだが朝食を一緒にとれるのがうれしいのか食卓で出迎えてくれたヴァルトは満面の笑みであった。
何とも勘違いとはいえここまで露骨に喜ばれると否定するのが申し訳なくなってくるものだなと思う。まあ、否定はさせてもらうが。
「で、どうしたんだい?私に頼みがあると聞いたんだが?」
パンを食べながらヴァルトは尋ねてくる。
「ああ、そうだった。――おれに、戦い方を教えてほしい。」




