また会ったね「王国最高」
とてつもなく長い廊下を歩く。
「止まれ。」
大きな扉のまで案内役をしていた騎士に止められる。
はぁ~豪華。とういう貧弱な感想しか抱けない平民のおれである。
壁から床から天井から目に付く装飾はどれも美しく、並べられた美術品は興味の無いおれでもわかるほどに「すごいもの感」がある。
高そう、高そう、あ、めっちゃ高そう。くらいの感じしかないわけだが。
などと考えていると目の前の扉が物々しく開かれていく。
「よし、進め」
開き切ったところで背中を軽く押され入るよう促される。
中も負けず劣らず、とういうかそれ以上に華やか造り。
映画の中で舞踏会なんかをやっているシーンに登場しそう。と月並みの感想をここでも抱く。
足元に敷かれたレッドカーペットの先には階段があり最上段にはいかにも「王様」といった感じのひげおやじが座っている。
そのカーペットを挟むようにして総勢100名の「宮廷騎士」が整然と並んでいる。
なぜ正確な数がわかるかというとボルクスから前情報を貰っていたからだ。
「いいですか?今回タイヨウが呼び出されているのは『賢人審問』。この国最高の審理の場です。であれば、おそらく100名の宮廷騎士と「王剣三銃士」が勢ぞろいしているはずです。絶っっ対に騒ぎだけは起こさないでください!」
そう何度も何度も釘を刺された。
騎士たちの間を抜けると階段状になった前方に座る偉そうな紳士の方々が目はいる。こちらは『賢人会』といういわゆるお貴族様が10名座っている。
その中央、一人だけ飛び出した位置に立つダンディー髭の紳士が賢人会の会長ヴェーレン・ジル・ヴァーミリオンだ。
きれいに整った髭に金髪のキチっとしたオールバック。鋭く淡い青の瞳。
まさに「法の番人」とうイメージそのものの、キッチリしてそうな雰囲気のある紳士だ。見た目だけならこれ以上ないくらいに適役だろう。
そこから視線を上げると王様の手前に三つの席がある。二つはまだ来ておらず空席だがあそこが「王剣三銃士」と呼ばれるこの国最強の三騎士が座る席。
空席の一つは知っての通りの恋敵。「3k」にして王子にして王国最強にして『死神』と肩書き激盛り男、ヴァルト・ヴァン・アステル。
一つの席はすでに埋まっており、何とも緊張感の無い大あくびをしている獣人がいる。子供と見分けがつかないほど小柄で華奢な体つきに褐色の肌。赤みがかった茶色の身長と同じほどありそうな長い髪の毛に夕日のような真っ赤な瞳。彼女がリザリー・バロックフォートだろう。
観察をしていると一瞬目が合ったが興味なさげに視線を逸らされた。
そうこうしている内にヴァルトも入室しこちらに少し微笑みかけた後、真ん中の席に着いた。
残るはあと一人。賢人会会長ヴェーレン・ジル・ヴァーミリオンの娘にして王国最高の魔術師。『魔女』の異名を取る――
上に設置された扉が開き残りの1席に収まる『魔女』が姿を現した。
長い金紗のような髪に父親と同じ淡い青の瞳。女性にしては少し高めの身長の――
「申し訳ございません。遅れましたわ。」
「遅いぞいったいどこで何を―――」
「シータ――――!!」
おれの絶叫が広間に響き渡った。
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「な!なんであんたがこんなとこにいるのよ!確かに、会いに来る許可はしたけど!!」
「えーと、、、知り合いかい?オリヴィエ?」
状況が理解できない皆々様を代表してヴァルトが声を発する。
まさか。だったが父親の顔を見た時にもう少し考えればわかりそうだったなと少し後悔する。
「王剣三銃士」の残り一人は、突如空から舞い降りた乱暴ポンコツ女。オリヴィエだったのだ。
「まあ、知り合いというか、なんというか。」
「なんだよ、同じ窯で焼いたパンを食った仲だろ?ちゃんと紹介してくれよ?」
「うるっさいのよ!あんたは黙ってなさい!」
ここぞとばかりに攻めるおれを黙らせようと上からオリヴィエが叫ぶ。
そりゃあ王国最高が道に迷った挙句腹をすかして墜落するなど恥じ以外のなんでもないだろう。これは面白いことになってきた。それも醜態をさらした上に「聖剣』を持ったおれを見落としたのだ。しばらくは恥ずかしくて表を歩けまい。
「いやいや、お礼してくれるって言ってたじゃねえか!これ、外してくれね?」
ニヤニヤしながら手錠を掲げ催促して見せる。
「あんたあんまり調子に乗ってると消し炭にするわよ!」
まだにも言っていないのに顔を真っ赤にしたオリヴィエがこちらを睨む。
「はははは!タイヨウは本当に面白いな!」
その横で盛大に笑う王国最強。
その様子につられ並んだ騎士たちも少しずつざわざわとしだす。
「静粛にせんか!!!王の御前であるぞ!!!オリヴィエ、立場をわきまえろ!!」
全ての声を掻き消す大音量で、賢人会ヴェーレンの怒号が響き渡った。
「も、申し訳ございませんお父様。」
オリヴィエもすごすごと席に着き他の者も押し黙る。
「話は後程聞かせてもらう。――陛下、娘が飛んだご無礼を。」
「よいよい。若者は元気すぎるくらいがちょうど良いわ。」
髭を触りながら朗らかに笑う王様。
見た感じは威厳はあるが好々爺といった感じの男性だ。ヴァルトの父親にしては少し歳がいっていて「父」というよりは「お爺ちゃん」といった感じだが。
「して、聖剣に選ばれた若者よ。すまんがまずは名を名乗ってもらえるかな?」
こちらを見る王様は柔らかな笑みを浮かべてはいるが、一国の王様だけあって眼力はなかなか威圧感がある。
「桐生 太陽。」
「ふむ、タイヨウか。良い名じゃな。この場でも臆さぬ気骨もある。」
ふむふむとおれを眺める爺さん。
「ではタイヨウよ。貴君はわしが知る限り初めての、はるか海の向こうの「異国」からの来訪者と聞いておるが間違いないかの?」
「・・・まあ大体そんな感じと捉えてもらえれば。」
ざわざわざわ・・・。
「なんだあの無礼な態度は・・・」「いったい何様のつもりだ」
一国の国王様を相手にさすがに口の利き方がまずかったかと少し反省する。
想像通り、会場内にならぶ多くの者たちから悪口が聞こえてくる。
「静粛に。キリュウ殿、貴君が我が国の国民で無いことは重々承知しているが、我が国の国王の御前だ。もう少し言葉遣いを改めていただけるかな?」
目の前にいるヴェーレンからも注意を受ける。
「かまわんかまわん。質問に素直に答えてくれれば言葉遣いなど些細な問題であろう。自分の話しやすいように話すがよいぞタイヨウ。」
「これはこれは寛大なお心遣い痛み入りますな。ではお言葉に甘えて。何が聞きてえんだ?」
恰好だけの小さな会釈をし話を進めてくれと促す。
「ほほ。本当に肝の据わった若者よな。話の内容次第ではあるが、この国で騎士になるつもりはないかの?」
「王よ、お戯れを、、!」
またもざわつくお偉い様方をよそに王様は大まじめな顔をして尋ねてくる。
「ま、考えとくよ。それよりもここ肩凝って仕方ねえから早く話進めようぜ。」
「ふむ、取りつく島も無しか。残念じゃのお、、。」
分かりやすくしょんぼりしたような態度を取る王様。
こうして話しているととても話しやすそうなコミカルな爺さんだなと再認識する。
「ではその話はいったん置いておくとして、まずは貴君がこの国に立ち入ってから今に至るまでの話をしてもらえるかの?あと、余談じゃがわしは生まれつき「千里眼」という特殊な力を持っておる。ほかにも用途はあるのじゃが何より重宝しておるのが「ウソを見抜く目」じゃ。」
彼の表情から一転して笑顔が消えこちらを見据える。その眼には先ほど感じた威圧感が戻っている。
「今のところ貴君の話にウソは無い。しかし今後もそうとは限らんでな。話しを長引かせたくないのなら正直に話すことを進めるぞい。」
王族ともなるといろいろと便利な力も持っているようだ。為政者の立場ならばここまで便利な能力もそうそう無さそうだな。
「はーい。別に隠すようなこともねえし、何でも聞いてくれ。」
「・・・ふむ。よかろう。ではヴェーレンよ、審問を始めよ。」
「御意に。ではまず貴君がこの国に立ち入った時期だが―――」
そこから聞かれた内容は本当にここまでの回顧録。おれが目を覚ましたところからヴァルトに捕まるまでの流れを事細かに聞かれていった。
「なるほどのう。なかなかに大変な道のりだったようじゃ。」
「陛下はこの者の話を本当であると?」
「わしが耄碌していなければウソは言っておらん。間違いなく本当の出来事であろうて。」
話も終わりひと段落着く。
まあ彼らはまだ色々と話し込んでいるようだったがそこに関しては何も口出しできることは無いのだろう。
おれ的に問題はここからの方だ。この先の処遇によっては最悪、力づくでもここで抜け出さなければならない可能性もある。
だが実際それを成功させるのはほぼ不可能だろうというのが分からないのなら、おれは激バカ野郎だ。
整然と並ぶ騎士たちはおれが〈強化〉を全力で使っても一人倒せるかどうかのレベル。
その上王国最強の3人もいるのだ。さあて、どうしたものかと頭を悩ませる。
「よろしい。タイヨウよ。貴君にやましいことが無いのはわかった。そこでもう一つ質問じゃ。どちらかというとわしら的にはこちらの方が重要での。」
「何の話かは分かんねえけどそうだろうな。今までの話なんて、聞いたところで大して何の役にも立たなさそうだし?」
「理解が早いようで何よりじゃ。では、異国からの来訪者タイヨウ・キリュウよ。これは先ほどのような軽口ではなく正式な勧誘じゃ。貴君を聖剣に選ばれし者として我が国の騎士として迎えたい。」
「しつけえなあ、、。あんましつこいと女の子にモテねえぞ爺さん。」
そりゃあ聖剣なんて呼ばれているものだ。国からすれば喉から手が出るほどに欲しいものなのだろう。
だからと言ってなぜそこまでおれにこだわる?聖剣が欲しいのならおれが手放せばいいんんじゃないのか?
「貴君が何を考えているかは大体わかっているつもりだ。それについてはわたしから説明させてもらおう。」
ヴェーレンが近くまで歩み寄り、口を開く。
「一つ目の理由は、この国に伝わる『太陽聖典』によるものだ。」
「詳しくは知らねえけど太陽教?とかいう宗教だっけ?」
「厳密にはそれの始まりであり、太陽教の聖典に当たるものの事を指す。これには多種多様なことが記されており、この『千年王国アッシャムス』の樹立までの過去や、時には未来の事柄までが書かれている。」
「未来?そんな信憑性の無いもんの為に、どこの誰かもわかんねえ奴を国の顔ともいえる騎士にしようとしてんのか?悪いけど、頭大丈夫か?」
おれは神様だとかお化けだとかそう言った類のものが大嫌いだ。目に見えないもの、触れないものは信じない。そう言う主義だ。
異世界だの、魔法だのと色々理解の及ばないものは見てきたがまだ「未来人」には会っていない。なので予言など信じる気も毛頭ない。
「まあ貴君の考えはもっともと言えるかもしれんな。だが我が国にとっては時に法律以上に遵守されるべきものなのだ。そしてその中の一文にこんなものがある。」
『王国樹立、千年の後に「原罪の女神」は目覚めるだろう。選ばれし証を持つ者を集めよ。「太陽の聖剣」に選ばれしもの現れし時、終わりが始まりを告げる。――神より与えられし四つの奇跡。これらをもって降りかかる七つの終わりを退け、始まりへと至らん。』
「というものだ。『奇跡』とはおそらく聖剣のような神造兵器、『聖遺物』の事だろうと読み解いている。選ばれし『証』がなんなのかはいまだ不明。また、ほかの聖遺物に関しても同じく。正直わからないことだらけでな。だが情報が少ないからこそ、聖剣を手放すわけにはいかないのだ。」
あーあー。訳の分からない情報を並べられまたも頭が混乱してくる。
神だの奇跡だのとぼんやりしたワードが多すぎて理解不能もいいところだ。
「なんか途中から抽象的過ぎてピンとは来てねえけど・・・要するにこれ返しゃいいんだろ?返すから新しい『選ばれし者』?探せばいいいだろ?ちゃんとした言葉使いのできるやつとかさ。」
「残念ながらそう悠長に構えている時間も無くてな。この国は今年で建国997年を迎えた。3年後の『太陽祭』。その日をもって、ちょうど千年だ。ここ最近の魔獣の発生率の上昇や、街への強襲など、類を見ない異常も聖典の内容と関連付ければ合点がいく。」
「いやいやいや、時間が無いならなおのことだろうが。二年でそんな大層なもんと戦えるほど強くなる方が難しいだろ常識的に?」
悔しいが今の調子でたった2年でヴァルトと対等に戦えるようになるとは思えない。そんな奴を戦力と数えて国を守ろうというのも計算違い甚だしいだろう。
「そうだな。難しいかもしれん。だが我々が、君にこだわる理由がもう一つある。それは、私が君にこだわっているからだ。」
「それこそ理解ができねえわ。初めましてのあんたがなんでそこにこだわんだよ。」
「私も「天眼」というものを持っていてね。簡単に説明すると私は目の前の選択肢に対して解答を絶対『間違わない』。そして今、君が聖剣を手放すという選択肢は私にとって間違いなのだ。」
「話に割って入ってすまんの。理由をつけ足すとするなら、わしの千里眼は少しじゃが未来が見える。虫の知らせ程度のもので見えるというよりかは感じる、程度の物じゃがな。そしてわしの千里眼では聖剣は初めに引き抜いたもの以外を所有者として選ぶことは無い。結果としてこの国は聖剣を失い、滅びることになる。」
最後まで聞いても理解ができない。たかが宗教にそこまで没頭し見えない神にそこまでビビるものか?
「こんだけ屈強な騎士がいて、そこの王国最強の3騎士様がいても、か?」
「残念ながら。いても、なのじゃよ。」
正直悪くは無い話だろう。根無し草から一気に出世街道まっしぐらなのは間違い。別に騎士を嫌ってるわけでもない。まあここに並んだ方々とはノリが合わなそうだな。とは思うが。
嫌なのは大所帯に巻き込まれると確実に自分の意志で動けない場面が出てくることだ。そうなればそばに居てやりたいときに居れないかもしれない。
守らなければならない時に守ることができないかもしれない。
「・・・それでも断る。この国を守るために戦うつもりは・・・悪りいけど無えわ。自分の大切なものを守るために、そうこの聖剣に誓ったんでね。」
「ふぅ、しょうがないのお。頑固じゃとは思っておったが想像以上じゃな。――ではその大切なものとやらが無くなれば諦めもつくか?」
―パンっ。
王様が手を叩くと後ろの扉が開く。
「タイヨウ・・・」
「すみません。シルヴィアの事、任されていたのに・・・」
そこには別室で待機しているはずの二人が床に転がされていた。
「てめぇ!!」
叫んだとほぼ同時のタイミングで足に衝撃を受け跪かせられる。
首筋にはおよそ人が一人で振り回せる重量をはるかに超えているであろう大きな鎌を持った三銃士の褐色の少女が。目の前には先ほどまで上段に座っていたはずのオリヴィエが立っていた。
「動かない方がいいっすよ~。僕が少し腕を動かしたら首ちょんぱっすから~」
「控えなさいタイヨウ・キリュウ。陛下の御前よ。さすがにこの状況で勝てると思うほどバカじゃないでしょ?」
二人がとても冷たい声で言い放つ。
「やめないか二人とも!父上、これは何のマネです!!彼らは私の客人として扱うと仰っていたはずだ!それをこんな―――」
「黙らんかヴァルト!貴様はそこな小童とエルフの為に国を滅ぼすというのか!!?」
「っっく、、!ですがこんなやり方はあまりにも。」
言葉を続けるヴァルトだったが国王は目を向けることもせずこちらを見下ろしている。
「・・・すまない、、。タイヨウ・・・」
悔しそうに歯を食いしばり小さく呟いた。
ここまで来てようやく気付いた。要するにおれには最初から選択肢など用意されていなかったようだ。
「・・・わかった。騎士の話を受ける。だから、二人を離してやってくれ。」
怒りのあまり握りしめる拳から血が滲み出る。
「そこまでこの者らが大切か?それではこの二人を離した途端にまた態度を変えるやもしれんな。・・・これから国を救うというのだ荷物は少ない方が良かろうと思うが。どうかね?タイヨウ・キリュウ。」
2人を連れてきた騎士が剣を抜き二人に向かって構える。
「くそ野郎が、、、。やれるもんならやってみろよ。ただ覚悟しとけよ。おれはどうにもしつけえたちみたいだからよ―――その女神とか言う奴の前に、命に代えても・・・おれがこの国、滅ぼしてやるからよ、、!」




