王都への招待状
最初に立ち寄った街デロスとは比べ物にならないほど大きな門を潜る。
一目では把握しきれないほど長い城壁のようになった壁に囲まれた都市。『王都』。それはかの万里の長城をイメージさせるほど長大な壁。
門自体も、扉というよりは短いトンネルを抜けるようにして都の中へと入る。
そして抜けた先にはまた続く草原。デロスのように門の外側から街が見えるようにはなっていない。
それもそのはず。「王都」。と一見、一つの街を形容しているように聞こえるが
その実、総面積84000㎡。日本の北海道ほどの広さの敷地に100を超える街、3種族が合計2000万人以上が集まった超巨大な「複合都市」だそうだ。
そのすべてを一括りに囲む壁なのだ。それはそれは端を視認しようと思う方が間違いだろう。
「これは確かに、不法侵入はちょっと厳しいな、、、。」
それこそ空を飛べる高慢女でもない限り容易には乗り越えられない高さを「壁」は備えていた。デロスの街でシルヴィアだけでも「国民証」を発行されていなければ越えることはできなかっただろう。
(ま、どっちにしろか。)
結論から言うと長い時間を掛けて手に入れた「国民証」も路銀も一切必要なかった。ある意味フリーパスだ。
日数的にもオリヴィエが飛び去ってから6日しか経っていない。
「この超早い馬と、これさえあればいつでも入りたい放題だな。」
ひとり呟き目線を下へと移す。
目線の先。おれの手元にあるのはガッチリとした鉄製の招待状。・・・いわゆる手錠と言うやつだ。リストバンドくらいの太さはありそうかな?つけられた瞬間からさすがに外すのは諦めた。
さて、なんでこんなことになっているかは説明が必要だろう。と言ってもおれもあまり状況の把握はできていないわけではあるが。ことの顛末も語るほど長いものではない。でも、なにせ話し相手もおらず暇を持て余しているところだ。――それじゃあ、時を戻そう。
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いつも通りの時間に目が覚め、普段通り朝食を取り、代わり映えのしない道をあいも変わらず文句を言いながら歩いていた。
一ついつもと違うことがあるとするならば――今、目の前には明らかに騎士っぽい格好したやつらが立っている事だろうか。
「何か御用でございましょうか?」
数頭のユニコーン風の馬にまたがり彼らは姿を現した。ガローナが乗っていたものよりは一回りほど大きいだろうか?明らかに体つきが違うという感じだ。
「・・――しい。・・・いや、いきなり呼び止めてすまない。今のところ手荒なマネをするつもりはないので少し話を聞いてもらえないだろうか?」
そう言うと列の先頭、唯一鎧に身を包まず真っ白のスーツのようなものに身を包んだ青年が声をかけてくる。
(・・・「今のところ。」ね。)
180は超えているだろうか?長身に静観な顔立ち。耳や目にかからない程度の長さに切られた濃い青の髪がより彼からあふれ出る「清廉さ」を際立たせているように思える。まさにthe好青年としか名付けようが無い感じだろう。
だが彼が浮かべる柔和な笑みとは対照的に、こちらが少しでも攻撃的な姿勢を見せれば即座に切り捨てる。といった感じの雰囲気が駄々洩れている。
「―――っ、、!」
不意に胸が痛む。久々だ。こちらに来てからはほとんど感じることは無かった古傷の疼きはうわさに聞く武者震いというやつの一種だろうか?
状況は理解できないが、油断はできそうに無い。腰に差した剣の柄を少し触る。
「タイヨウ、、、。ダメです。ここは堪えてください。」
震える声でボルクスに制止される。「なんで、こんなところに。」
そう言う彼の首筋には玉のような汗が伝っていた。
「少年、君の助力に感謝しよう。私も極力こんな所で剣を抜きたくは無いんだ。」
その青年はこちら三人を順番に眺めた後。「やはり―――い。」何かを小さく呟いたのだが距離も少しあり聞き取れなかった。
少し彼と目が合う。・・・寒気がした。今までの恐怖や得体の知れなさからくるものとは少し違い、これまた体験したことのない独特の寒気。
「まずは自己紹介からさせてもらおう。私の名はヴァルト・ヴァン・アステル。この『アッシャムス王国』の『宮廷騎士』をさせてもらっている。」
「宮廷騎士?」
「ああ。聞いたことくらいはあってくれると話が早くて助かるのだがどうかな?」
相変わらずとても柔らかな笑みを崩さずこちらを見ている。
「たしか・・・」
「はい、僕が前に話したこの国の騎士たちの最上位に当たる称号です。・・・その上あの白い礼装は『王剣三銃士』。この国に住むもので『ヴァルト・ヴァン・アステル』の名を知らないものはいません。」
「・・・そんなに有名人?」
「はい。あの方は、この国の正当な王位継承者にして、最強の騎士。あまりの強さについたあだ名が「死神」。ヴァルト・ヴァン・アステル様です。」
「とりあえずこの国の超大物って事で合ってんのか?」
「ははは。そこまで言われてしまうと恐縮だけど、まあ概ねその通りかな。」
肩書が多すぎてキャパオーバーだ。だがとりあえず、こいつがやばいという事は話しているだけで嫌というほどわかる。
何度も死にかけそれなりに修羅場をくぐってきたつもりだが、この青年には歯向かおうとさえ思えない。後ろの騎士たちもそこそこ強いのだろうというのだけは伝わってくるが、彼はいわゆる「別格」だ。
おれたちどころか敵側の彼以外の騎士をこちらに引き込めたとしても、勝てる気がしない。
「ふぅ。それで?そんな大物がなんの御用で?」
「そうだね。本題に入ろうか。初対面の方にこんなことを言うのは大変心苦しいが。聖剣を持つ君。君を拘束させてもらうよ。大人しくしてもらえればただ王都まで一緒に来てもらい話を伺うだけなのだが・・・」
「・・・もし、反抗したら?」
「んー。心苦しいことなのが・・・お連れの方ともども、自力での歩行はできないようになると言えばわかりやすいかな?」
少したりとも表情を変えず笑顔のまま彼は告げた。
「・・・行くのはおれ一人でいいんじゃねえか?」
「「タイヨウ!?」」
2人が同時に声をかけてくる。振り返れないので表情はわからないが声色から身を案じてくれているのはわかる。
「残念ながらそう言うわけには・・・けれど素直に従ってもらえるのなら拘束は君だけで済ませよう。タイヨウさん、でしたか。」
そう甘くはないか。だが正直逃げ出すすべすら無い以上素直に従うしかなさそうだと腹をくくる。
「ちなみに罪状は何だ?そこそこ思い当たる節があるんだけど。」
「それは、またの機会に聞くとして。今回は一つだよ。君が腰に差すその「聖剣」。それは本来国に認められた者しか触れることさえできず、数多の勇士が挑戦したものの誰も抜けなかったものでね。かくいう私も、何度か挑戦しているのだがピクリともしなかったからね。」
やれやれといった表情を浮かべる青年。
「けど、この流れ的に「聖剣を引き抜いた伝説の勇者」的な扱いはしてくれなさそうじゃね?」
「先ほども言ったように本来、国の許可無しに聖剣に触れること自体が「死刑」に値する罪となるんだ。・・・けど、今回はその聖剣を抜いてしまっているからね。なのでまずは話を聞かなければ。という流れなんだ。」
「なるほどね。これでもずいぶん優遇してもらってると。」
「理解が早くて助かるよ。」
彼は微笑みながら後ろの騎士二人とともにこちらに歩み寄りおれの手に手錠をかける。
「すまないね。こんな罪人のような扱いをして。私的には手錠など不要だと思うのだが。」
底抜けの良いやつなのか、やり取りからおれに反抗の意思がないことをくみ取ってか青年はそんなことを口にする。
「これはこちらで預からせてもらう。」
ひとりの騎士が腰の剣に手をかけ抜き取る。
「ぬぉっ!」
驚きの声とともに聖剣を持った騎士がまるで信じられない重さの物を手渡されたように聖剣ごと膝をつく。
「ぐぐっ、、!なんだこれは!?」
「ははは。聖剣は抜けた後でも所有者を選ぶというわけだね。一つ勉強になったよ。」
「ですがヴァルト様。これではこの者を移送することができませんが?」
「自分で持っていてもらってください。そうすれば何の問題もないでしょう?」
「ですが・・・」
「構いません。何かあれば私が責任を取りますから。すまないけど、君にしか持てないみたいなので拾ってもらってもいいかい?」
そう、ことも無さげに聖剣を取るように促してくる。
先ほどのセリフといい合点がいった。要するにこいつは「良いやつ」でも「意思を汲んだ」訳でもなく自信があるのだ。
――お前ごときが剣を持ったところで問題無い。と。
「では行きましょうか。君たちも名前も聞いていなかったね。」
少し沈黙した後、黙っていたところで意味はないという結論に至ったらしく
「ボルクス・ディンギルスです。デロスから参りました。」
と自己紹介をした。
「そうか。よろしくボルクス。」
にっこり微笑みボルクスと握手を交わす。
「それと、隣にいらっしゃいます美しい淑女の方。失礼かと存じますがお名前をお伺いしても?」
とわざわざ跪いてシルヴィアの手を取る。
「おやめくださいヴァルト様!どこの誰ともわからぬ輩にそのような・・・」
「君たちの家では女性に対して礼を欠くことを教えられるのかい?」
「い、いえ、そのようなことは決して・・・」
「では、問題ないね。どうか部下のご無礼をお許しください。それで、お名前はなんと?」
「あ、えっと、シルヴィア・ルナフォートです。」
彼女にしては珍しく敬語が出るほどに困惑しているようだった。
「シルヴィア様。それではこれより王都までの道のり安全に送り届けることをあなたの騎士タイヨウに代わり、このヴァルトがお約束いたします。」
芝居じみたセリフのあと彼は差し出されたシルヴィアの手にキスをした。
そこまで見守りようやく聞き取れなかった、彼の最初に呟いた言葉が理解できた。あれは「美しい」と言っていたのだ。色々な肩書を聞かされ困惑していたがこいつのおれの中での肩書は決定した「恋敵」だ。
――許すまじ、、。許すまじヴァルト・ヴァン・アステル、、。
「お、おいどうしたんだ?突然親の仇でも見るような顔をして、、、?」
お連れの騎士の声に返答もせず促されるまま移送用の荷車へと乗り込んだ。
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こんな感じで拉致された後はただただ馬車に揺られる数日間。まあ、食事も出るし座っているだけなので快適は快適だった。一日数度ではあるがシルヴィアたちとの面会も許されておりその度ボルクスには「目を離すな!」ときつく言いつけてある。
ボルクスには申し訳ないが、少し心もと無いと思ったのは秘密だ。
一つ不満があるとすれば
「また、「きんとれ」かい?毎日が精が出るね。」
にっこり微笑む青年、ヴァルトが必ずおれだけ別で乗せられた荷台の方にやってくることだった。
まあその分コイツがシルヴィアに手を出す心配は無いのだが、「好きな食べ物は?」「趣味はあるのかい?」「歳はいくつ?」「どこから来たんだい?」など尋問ではなく、ただの質問と世間話をしに来るのが悩みの種だ。
「その「きんとれ」とは君の国の騎士はみんなやるのかい?」
「・・・・・・」
「ははは、無視はつらいぞタイヨウ!」
一体何がしたいのか最近はめんどくさいので無視しているのにさらにそれを無視して話しかけてくる。
「地味だが悪くない鍛錬だね。こういった外に出れない状況でも体を鍛えられるのはとても好ましい。」
そんなことを言いながらいまはおれの動きを横でマネしている。
回数的にひと段落したところで水を口にする。
「ところで君は・・・シルヴィアの事が好きなのかい?」
「ぶっ、、、!」
あまりにストレートな物言いに含んでいた水を噴き出してしまった。
「すまない。そんなに驚くとは思わなくて、、。」
むせる背中を優しくさすってくるヴァルト。
「な、なぜそれを、、?」
「隠してるつもりだったのかい?あまりにも態度に出ていたものだから。重ねてすまない。」
ついに本性を現したなこの恋敵め。それだけは許さねえぞ、、、!
「・・・だったらなんか問題あんのか?」
平静を装い彼に質問で返す。
「いや、問題は無いんだ。ただ、その恋路には障害も多いだろうと思ってね。純粋な興味。そう、興味だよ!他意はないとも。」
繕った所で貴様の内心は見えているぞ。
たしかにシルヴィアはかわいい。一目惚れしてしまうのも無理はないだろう。
その上こいつは高身長、高収入、高攻撃力を兼ね備えたいわゆる「3K」と言う奴だ。
だがそれでも、ここだけは譲れない。
「・・・そんなに人間とエルフでは難しいのか?悪いけどそんな障害くらいで立ち止まるつもりはねえぞ。自分のやりたいようにやって、それを叶えてみせる。」
「まあ、そうだね。それもあるが、、、」
と会話の途中で馬車が止まる。
「おっと、話の続きはまた後日かな。旅疲れもあるところ申し訳ないが、いきなり話を聞かせてもらうことになる。・・・最後にこんなことを聞いてすまないが一ついいか?」
「なんだよ。」
「君とシルヴィアはその・・・両思いなのかい??」
こいつ、、、!おれが一番気にしてることを!
残念ながらシルヴィアはおれを信頼してはくれているが関係性は『お友達』だ。
それというのも彼女には『異性』という概念が欠如しすぎていて、まずはそれをしっかり認識させることから始めねばならず・・・これがまた難航している。
「・・・残念ながら片思いだよっ。」
答えるや否や見るからにヴァルトの表情が晴れる。
「そうか!ぶしつけな質問をいくつも申し訳なかったね!それでは中へ行こうか。安心してくれ。二人にも不当な扱いはさせず私の客人として扱うことを、家名アステルの名において保障しよう!」
この野郎!恋敵としてもおれなんて敵じゃ無いとでも言いいてえのかこの「3K」め!
そんなことを思いながら今のところは素直に従い、大きな城の中へと案内される。
門が閉まる直前「これなら私にも・・・」などとつぶやく恋敵の顔が頭から離れなかった。




