拝啓、いつかの君へ――
ここで3章完結です!
まだまだ続きますがよければお付き合いください。
「うえぇぇぇぇ、、、。」
出発の朝を迎えた。前回以上の人数、ほぼ街の人たち全員が見送りに来てくれた。
おれたちはというと顔をぐしゃぐしゃにして泣き喚くデオンたちガキんちょ軍団にしがみつかれていた。
「わたしも寂しいよ~~」
その輪の中で一番泣いているのはシルヴィアだった。黙っていれば意見クールな印象を抱かせる美人はどこへ行ったのやら、わんわんと子供以上に泣いている。
「ほらシルヴィア。鼻出てる、、。」
彼女の鼻にちり紙を当てて鼻をかませる。
「ふーっ!ぐしゅっ。・・・タイヨウは寂しくないの?あんなに仲が良かったのに、、、?」
「そりゃあ、寂しいけどな。また遊びに来るから。そんな毎回泣くわけにはいかねえだろ?」
泣き続ける子供たちの目線に合わせしゃがみ込み頭を撫でる。
「タイヨウ、またゆびきりしてくれよ、、。」
そう言うと子供たちは小指を向けてくる。
「はは。そんなに毎回毎回指切りしてたら指が無くなっちまうだろ?代わりにこれをやろう。」
ポケットからリルが作ってくれたものと似たネックレスを取り出す。
「おれの大事なもんがつけてある。また取りに来るから失くすなよ。」
首飾りの装飾品にはこちらに来た時持っていた財布の中、なんとなく捨てられず溜まっていた「ギザ十」を採用した。
穴をあけるの中々苦労したので、すなおに五円や五十円にすればよかったと何度も後悔したが・・・
「これ、なに?」
「これはギザ十だ。おれの国のお宝だぞ。・・・大事にしろよ?」
「「「ぎざじゅう、、、!」」」
なんとなく言葉が響いたのか男子三人は目を輝かせてギザ十を眺めている。
「・・・あ、あのね、タイヨウ。わたし、、、。」
女の子にはイマイチ響かなかったのかリルだけがもじもじとしながらさらに近くへ寄ってくる。
「どうした?あんま気に入らなかったか?」
もう一度リルの頭を撫でてやると手を引っ張られ―――頬にキスされた。
「わたし、まだこどもだけど、、。はやくおとなになるから!まっててね!」
それだけ言うといつも通りの笑顔でにっこりと笑い人だかりの方に走っていってしまった。
あまりに呆気にとられて言葉が出ない。・・・というかあんな凄テクどこで身に着けてくるんだ?末恐ろしい、、、。
「・・・おれもいつかやろう。」
「どこでやるんですか・・・タイヨウ、そろそろ行きましょうか?」
冷静な弟分に突っ込まれ、年下の女の子から学んだテクニックをそっと心の引き出しにしまい立ち上がる。
「そうだな。みんなありがとう!また来るからな!」
手を振って門へ向かって歩き出す。門をくぐる寸前ボルクスが振り返った。
「・・・皆さん、長い間本当にお世話になりました!―――行ってきます!」
彼は深々とお辞儀をし門の外へと駆け出して行った。
「ちょろっと寄り道してもいい?」
おれの提案に二人とも頷きながらも不思議そうな顔をする。
街道を逸れて少し上へ登っていく。15分もすると開けた場所に出る。崖のようになっておりここからはデロスの街が一望できる立地の場所、街の墓地だった。
「ここは・・・」
「ちゃんと挨拶してこい。まだ報告できることとかも無いけどよ。それでも「行ってきます」くらいはちゃんと。あと、これ。」
今朝マルクスから預かった手紙も手渡す。
「バーグからだって。マルクスが預かってくれてておれが渡すように頼まれた。一回出たらしばらくは戻ってこれねえからな。・・・最後にちゃんと話してこい。」
そう言って彼の背中を軽くたたいて「行け」と促す。
「・・・はい。」
少し迷った後、彼は墓地へ足を踏み入れ一つの墓石の前で立ち止まる。
=戦士 バーグ・ディンギルス ここに眠る=
しばらくその場で固まったままその墓を彼は眺めていた。
「大丈夫かな。ボルクス。」
「さあな。手紙の内容も分からねえしな。けど、おれは、大切な人にちゃんと別れが言えなかったことを――やっぱり後悔してる。・・・たとえ足を止めることになったとしてもあいつにはそうなって欲しくない。」
2人でじっと立ちすくむボルクスを見守った。
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=戦士 バーグ・ディンギルス ここに眠る=
そう書かれた墓石の前で足を止める。受け止めたつもりだったけどここに来ることは避けていた。
また守ってもらってしまった。その事実で足を踏み出せなくなるよな気がしてたから。
タイヨウから受け取った手紙の封を開けて中身に目を通す。
―――拝啓 ボルクス・ディンギルス
有り体な書き出しだがこれをお前が読んでいるという事はおれは残念ながら死んじまったらしい。
おれには文才も無いしそもそもこういう事するのも苦手だ。だから伝えたいことだけを書かせてもらう。
まず最初に、すまなかった。おれは弱い。お前もお前の母親もお前の街も守ってやることができなかった。
お前と出会った頃のおれは生きる目的ってやつがわからなかった。騎士なんて大層な肩書を持ちながら、何かを「守る」ってことが分からなかった。
そんな時だったよ。お前ら親子に出会ったのは。そんでそのガキはおれに言ったんだ。「僕がお母さんを守る!だから『騎士』になる方法を教えてください!」ってな。
なんとなくわかった気がしたよ。守るってのは力が強いとかそう言うことじゃねんだなって。
そんなことで?と思うかもしれない。それでもあの時のおれにとってはその言葉が何よりもの憧れだった。だから、この子の憧れを壊すわけにはいかない。憧れてもらえるように胸を張って生きよう。そして今度こそおれに向けてくれた一つの憧れを守り抜こうと。
――だが結局おれには何も守り抜くことはできなかった。それどころか、おれはお前を立ち直らせてやることもできなった。
怖かったのさ。お前が立ち直ってしまえばおれはまた希望を失ってしまうと。お前を育てたのは贖罪でも周りへの体裁を保つためですらない。
ただただ、自分がかわいかったのさ。一度は憧れてくれた騎士ってやつがこんなちっぽけでがっかりしたか?
でも、お前は一人で立ち上がろうとし、大きな一歩を踏み出した。
正直かなりの寂しさもあったが同時に安心もした。
もう大丈夫だ。あれだけの絶望から立ち上がれるだけの光が見えたのなら、これから先お前は何にだってなれる。
人生思っているよりもつまらねえもんだ。何も思いどおりにはいかねえし楽しいことよりも、苦しいことの方が絶対に多い。
それでも、意外と捨てたもんでも無いからよ。
お前は優しい子だ。こんな話をすればお前はまたおれにいらねえ恩を感じるんだろう。だけど、なにも気にすることはねえ。おれがそうしたいと思ったからしたことだ。
ボルクス、お前の歩く道の先を見たいと思ったから守ったんだ。
もし、恩に感じてくれるのなら、先へ進んでくれ。
お前がしたいと思うことを、お前が見たいと思う未来を。お前が憧れるものを追い続けてくれ。
足を止めさせたおれが言えた話じゃないのかもしれないが、それが、それだけがおれの願いだ。
長々と老いぼれのくだらない話に付き合ってくれてありがとうな。
願わくば今度こそ見失うことない背中に出会えることを。
ボルクス、お前を愛している。―――――――――
書かれていたのは、大半が申し訳ないという内容だった。
「・・・はは。なんだよそれ、、。」
けれど、彼が僕のことも愛してくれていたことは伝わった。
そんなこと、あらためて言われなくてもわかっていたさ。けれど理由がずっとわからなかった。
なぜ、命を懸けてまで守ってくれたのか。優しくしてくれるのか。―――愛してくれるのかが。
それがまさか、子供のころに言ったたった一言。そんなことの為に・・・
「そんなの、、わかるはずないだろう、、。バカかよ、、。」
―――ああ・・・本当にバカだ。
「大丈夫だよ。もう二度と見失わないからさ。僕が憧れた人達の背中はバカみたいに遠くて大きいけど、大丈夫さ。―――僕も、大概バカみたいだから。」
人生辛く苦しいことの方が多い。そうだと思う。少なくとも僕の人生は8割以上がそうだったから。もしかしたらこれから先もそうなのかもしれない。
また、立ち止まってしまうことがあるかもしれない。
それでも忘れない。おじさんの最後の表情を。最後の最後あんなにも満足そうに微笑んでいた。なら、きっと大丈夫だ。だから僕は今度こそ僕の人生を歩いていこう。
涙を拭い、家に残っていたタバコを取り出し二本火をつける。
「お酒はまだ苦手だけど、タバコは悪く無いかもね。僕はこれから吸うけど向こうでは、禁煙続けてよ?母さんは嫌いだと思うから。」
――いつか必ず追いつくから。待っていてよ、父さん。
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「ちゃんと話はできたみてえだな。」
「はい、ありがとうございました。」
そう言った彼の顔はスッキリとし、何より強い覚悟が見て取れた。
「強いね。ボルクスは。」
そう言ってシルヴィアがボルクスの頭をわしゃわしゃと撫で始める。
「ちょ、子ども扱いはやめてください、、!」
顔を赤らめながら抵抗するも、引き続き撫で続けられている。
それを横目で見ながらバーグの墓標へと足を進める。
「残したままはもったいねえって言ってたろ?変わりに今度はもっといい酒、ボルクスに買ってこさせるからよ。」
墓石にあの日先へ託した残りをかけ流す。
――おっちゃん。ここからはおれがこいつを守るから。安心してゆっくりしてくれ。
瓶に少し残した酒に口をつけ未だにじゃれている二人の方へと戻る。
「ほらほら、行くぞ二人とも。なにせ先はまだまだ長いんだから。」
ぽんぽんと二人の頭をたたき引きはがす。
ボルクスは真剣な目でこちらをまっすぐに見つめてくる。
「あらためて、不束者ですがよろしくお願いします。」
「だから、嫁入りかって!」
笑い声が墓地に響く。
そうして歩き出し少し振り返った彼は小さく
「忘れるところだった。――行ってきます、父さん。」
そう呟いた。
彼につられて後ろを振り返る。
暖かい日だまりに照らされた中にくゆるタバコの煙。
今度の煙は、まるで手を振るように元気にフラフラと揺れていた。




