今までと、これからと
「なんで来た!お前が来たって足手まといだってわからねえのか!?」
誰が声を発するよりも早くバーグが叫んだ。
「まあまあ、おっちゃん落ち着いて。――助かったぜ。ぶっちゃけどん詰まりだった。・・・けど、覚悟は決まったんだな?」
怒るバーグをなだめながら加勢に駆け付けたボルクスへ尋ねる。
「覚悟なんてそんなに簡単にできませんよ・・・それでも、たどり着きたい場所を見つけました。なら、怖くたって前へ進まないと。」
まっすぐとこちらを見返す彼の目はしっかりと前を向いていた。
「――よし。なら手え貸せ。まだまだ先は長いぜ?」
「おい!いつまで喋ってるつもりだ!いい加減手伝え!」
空気を読んでくれていたのか戦いながら遠巻きにこちらの様子を伺っていたマルクスが呼んでいる方へと走る。
「・・・ボルクス。」
「おじさん、今までいろいろとごめんなさい。思い出したんだ。昔憧れたかっこいい「騎士」の背中を。見つけたんだ。今、憧れる眩しい背中を。」
バーグにも思う所はあるだろう。守ってもらっていろいろと見失ったボルクス。それに対して奪ってしまったと彼もずっと前に進めずにいたのだろう。前には進んでほしい。けれども危険にはさらしたくない。
「――親心ってやつかねぇ。」
けれどももうボルクスの目に迷いはなかった。臆病なまま、それでも前を向いたのだ。親の気持ちはわからないが兄貴分としてやれることはたった一つだ。
彼が憧れてくれた背中を見せ続けること。もう迷わないように。立ち止まろうと、苦しくてうずくまってしまっても見失わないようにただ誇れる背中であることだけだろう。
「・・・ガキの成長ってのは、早いもんだな。いつまでも子供だと思ってたらいつの間にか見違えるほど成長してやがる。」
「これも、育ててくれた親が良かったからかな。こんな僕を守って、見捨てずに育ててくれたから。だからこれからは産んでくれた母に、育ててくれた父に恥じないように自分の足で立っていくよ。」
ニッコリ笑うボルクスに見つめられてか、父と呼ばれたことへのうれしさか、いやその両方か。とても照れ臭そうにバーグは笑った。
「よーし!てめえらもうひと踏ん張りだ!おれたちの町を守ろうぜ!行くぞボルクス。親父のカッコいい背中を見せてやる!ついてこい!!」
その照れを隠すように、それでいてとてもうれしそうにまるでピクニックにでも出かけるかのように魔獣たちへと切りかかる。
「――にしてもお前。えらく大胆だな・・・」
おれもこっちに来てから割と無茶なことをした気もするが、まさか自分の町を爆破するとは。
「下手したら本末転倒だったぞこれ、、、。」
「僕が一人参戦したところで、正直大した戦力にはなりません。ならせめて町は守れなくても人は守れるようにと。僕の兄貴ならどんなことをするだろうと考えたらこんな感じかなと、、、」
恥ずかしそうな顔をしながら彼は語った。
まったく。いくらおれでもここまでやるつもりはなかった。それを「おれがしそうだから」なんて責任転嫁もいいところだ。
「とんだやんちゃ坊主の弟を持ったもんだ。先が思いやられるな、、、。」
「それはお互い様ですよ。さあ、集中してください!来ますよ!」
お互いの顔を見あわせなんとなくおかしくなって吹き出す。
さあ、ゴールは見えてきた。もうひと踏ん張りだ。ヘタってきた体に喝を入れ剣を構えなおす。いつもどおりの明日はもう目の前だ。
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「はあ、はあ、、。」
「シルヴィア大丈夫か?」
ボルクスの機転により魔獣を閉じ込めることに成功しさらには弾薬の補充も多少ながらできたことにより戦況を引き戻すことには成功した。
だが物量の差は大きく最初の2割ほどの数まで減らせたものの、それが押し切れない。
それに何より戦闘開始から3時間以上もの間、魔法を使い続けているシルヴィアの限界が近いのは明らかだった。
この〈治癒〉が無ければおそらくもっと早くに壊滅していた可能性が高い。おれは魔法が使えないのでキツさが分からないが顔色を見る限り、尋常じゃないキツさであろうことは容易に想像できる。
「はぁ、、うん。まだ、、大丈夫。だから、タイヨウも頑張って、、!」
笑顔でいいね!をしているが明らかに強がりだ。
最近は4時過ぎには日が昇り始める。おおよそあと30分程度。だが見た所その30分ですらシルヴィアが保つか微妙に思える。
それにもし日が昇っても魔獣が撤退しない場合、夜明けを待ったところで意味も無い。だが〈治癒〉無しに時間を掛ければこちらが力尽きる方が早い。
さらには空模様も怪しくなってきた。もし雨が降れば今魔獣を押しとどめている火の手も弱まりまた戦況は逆戻りだ。そうなれば、もう勝ち目はない。
(数は見えてる限りで30ちょい。いけるか、、、?)
後ろを振り返ると先ほど会話をしていた時はなんとか作っていた笑顔も崩れ今にも倒れこみそうな彼女が目に入る。
「・・・大丈夫。なんとかなる。」
小さく自分に言い聞かせ意識を集中する。
「無理させてごめんな。もうちょっとだけ、がんばれるか?」
彼女へ笑いかけ魔力回路をフル稼働させる。
「タイヨウ、、、行ってらっしゃい、、、!」
「――おう!行ってきます!」
シルヴィアも負けじと笑顔でいつものように声をかけてくれた。
うん、元気百倍。
「さあ。惚れた女の子がカッコつけてんだ。ここでカッコつけねえでどうするよおれ。
――そろそろショウダウンだぜモブニャンコども。」
そうして剣を握りなおし魔獣が群がる場所へと飛び込んだ。
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タイヨウの方から大きな魔力を感じたと思った瞬間、まるで突風のような速度で魔獣へと突っ込んでいく。
突如飛び込んだ突風は魔獣の真ん中でも勢いそのままに、その一振りで2.3匹の魔獣を同時に薙ぎ払い、魔獣の手や足や血が舞い散る。
「これは、すげえな・・・」
「もうどっちが魔獣だかわからねえじゃねえか・・・」
遠巻きに眺めるバーグやマルクスなど戦闘に慣れている二人でさえ感嘆の声を上げる。
「・・・本当に、すごい。」
今の僕では、いや、この場の誰もが加勢にどころか近づくこともままならない。
「あれは加勢に行っても邪魔になるだけだ!ボルクス!おれたちは向こうだ!」
バーグに呼ばれタイヨウとは別の方向の魔獣へ切りかかる。
――確かにすごい。けど・・・
あの状態で戦えるのはいつもの稽古の場で5分前後だった。あの調子であれば5分あれば残りの魔獣を殲滅するのもいけるかもしれない。・・・けど、それは体調が万全の状態での話だ。
今の彼はすでに3時間以上を戦い続け、深手ではないものの傷も負っている。万全には程遠いはずだ。
それはおそらく彼も理解しているのだろう。その表情にはいつもの余裕は無くかなりの焦りが見て取れる。
「・・・タイヨウ、大丈夫ですよね、、?」
一抹の不安が頭をよぎる。大丈夫、タイヨウは強い。そのタイヨウが大丈夫だと判断し、全力を出したのなら心配ないと信じている。
「ぜぇっ、ぜはっ、、!ふうっ!あああああ!」
僕の悪い予感はほぼ当たっていた。タイヨウの動きは秒毎に悪くなり、呼吸をするのも辛そうにだ。
もういつ膝をついて動けなくなってもおかしくないような様相。
それでも彼は剣を振るう手を止めなかった。今にも屈しそうな足を必死に踏ん張り、砕けるんじゃないかと思うほどに歯を食いしばり魔獣を切る。
「あと一息だ!根性見せろお前らあ!!」
マルクスが叫ぶ。見える魔獣は残り四体。
マルクスが、バーグが跳びかかってくる魔獣を切り伏せる。
「これで、、終わりだあ!」
最後の一体。高く振り上げられた剣を振り下ろし魔獣の首が宙を舞った。
「はぁ、ごほっ、、ぜぇぜぇっ、、、!」
魔獣の体が倒れるのと同時にタイヨウが膝から崩れ落ちる。
倒れこむ彼を寸前のところでシルヴィアが駆け込み支えていた。
「た、ただいま、、。」
「ちゃんと守ってくれたね、、。すっごくカッコよかったよ、、!」
「おかえり、、、。」
泣きながらタイヨウを抱きしめるシルヴィア。その腕の中で少し恥ずかしそうに、少し鼻の下を伸ばしながら・・・とても満足そうな彼の顔が見える。
・・・ポツポツ、ポツ
何ともいいタイミングで雨が降り出した。この感じであれば僕が放った火もほどなく鎮火されるだろう。
我ながら無茶苦茶なことをしたと燃える家屋の方へ目をやる。
(これは気を付けないと・・・本当にタイヨウみたいに変な奴と思われちゃうな・・・)
自分がやったことながらさすがにやり過ぎたかなと反省する。
「せっかくなら、最後までカッコつけて下さいよ。」
2人の元へと近づき声をかける。
「うるせえ・・・もうずいぶん前から立ってんのもキツかったんだぞ、、。もうちょい労われ、、。」
そう言った彼は剣を杖にして無理やり立ち上がり
「でも確かに、勝鬨くらいあげねえとカッコつかねえか、、。っ!!――っボルクス!」
先ほどまで立ち上がることすらままならなかった男の物とは思えない力で突き飛ばされる。
「―――え?」
僕の顔に、雫が飛んだ。降り出した雨に混じった真っ赤な水滴。
目に映ったその光景は、――あの日僕が奪ってしまった憧れそのものだった。
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「はぁっはぁ。くっそ、思ってた以上にキツイじゃねえかよ、、!」
自分の体が万全にほど遠いことはわかっていた。
「にしたって、短すぎるだろ、、!!」
まだ回路をフル稼働させてから2分も経っていないはずだ。なのに全身から悲鳴が聞こえる。
骨は軋み筋肉は活動の停止を痛覚をもって激しく勧めてくる。
わかっている、ここで動きを止めればおれはもう動くことができない。だから意地でも止まるわけにはいかない。
前の時は一瞬だったから知らなかったがキャパオーバーしている状態で動き続けるのがここまでキツイとは思わなかった。
視界の端に魔法を展開し続けるシルヴィアが映る。
これが魔力の使い過ぎによるものだとしたら彼女はどれほど辛かったのだろう。それでも彼女はおれに「行ってらっしゃい」と笑顔で言ったのだ。
―――ならおれがこれくらいで倒れるわけにはいかねえだろうが、、!
根性見せろバカ野郎。ヒーローだなんだとカッコつけておいてこんな所で諦めていいはずがないだろう。
体が休息を求めている。肺がうまく機能せず酸素がうまく体に回っていない。
知ったことか、人間1.2分くらい息を止めていたって死なないはずだ。
「ぜぇっ、ぜはっ、、!ふうっ!あああああ!」
――手を動かせ、足を踏み出せ、、!
一歩、一振りごとに筋肉から骨から緊急停止信号として痛みが走る。脳は意識を断ち切り強制的にシャットダウンさせようと活動を停止し始める。
――動かした痛みで意識が戻ってくる、、!止まるな、動け!!
残りは数えるほどだ。その後は倒れてしまえばいい。そして起きたらあの激しい倦怠感や心配そうなシルヴィア、世話の焼ける弟分やうるさいガキんちょどもが迎えてくれるはずだ。
剣を振り上げ目前の一匹、最後の一匹であろう魔獣めがけ思い切り振り下ろす。
「これで、、終わりだあ!」
――ザンっ!
剣は魔獣の頸部を上から下へ一直線に駆け抜け跳ね飛ばす。
力を失った魔獣はその場へと崩れ落ちそれを確認すると同時に全身の力が抜け落ちる。
「はぁ、ごほっ、、ぜぇぜぇっ、、!」
動きを止めたからかやっとまともに酸素が入ってきた。が、体は支えられずその場に崩れ落ちる。――寸前に何か暖かいものに包まれて地面に叩きつけられることは回避された。
「た、ただいま、、。」
「ちゃんと守ってくれたね、、。すっごくカッコよかったよ、、!」
「おかえり、、、。」
彼女は小さくつぶやくと涙を流しながらさらに強く抱きしめてくれる。
彼女の涙とともに顔に当たった雫で雨が降ってきたことに気づいた。
この後、今から消火作業なんてマジでごめんだと思っていたところだ。日頃の行いかと生まれて初めて神様とやらに感謝した。
まあそれはさておき―――
(ああ、やっぱいいにおいする・・・それでいてやわらかい・・・)
自分がなんともニヤけているだろうなというのは鏡を見なくても歩み寄ってきた彼の顔を見れば想像できた。
「せっかくなら、最後までカッコつけて下さいよ。」
なんて愛の無い弟分だ。今おれをやさしく抱きしめてくれている彼女を少しぐらい見習ってほしいもんだ。
「うるせえよ・・・もうずいぶん前から立ってるのもキツかったんだ、、。もうちょい労われ、、。」
だが実際、ボルクスの加勢が無ければほぼ間違いなく全滅していただろう。そこは素直に感謝だなと頷く。
おれ的にはこのまましばらくしシルヴィアの胸に包まれていたい気はするが仕方ないか、、、。
立ち上がるのもかなりキツイが最後の仕事だ。これだけの大騒ぎだ。カーテンコールくらいしっかりと決めなければ。
そう思いありがたい聖剣を杖代わりに体を起こす。
「でも確かに勝鬨くらいあげねえとカッコつかねえか、、。っ!!―――ボルクス!」
ボルクスの後ろ。瓦礫の下に埋まっていた魔獣が跳びかかるのが視界に入り思いきりボルクスを突き飛ばした。
――ちくしょう、やっぱもうしばらくシルヴィアの胸に顔うずめてたらよかったなぁ、、、




