ゆびきりげんまん
「見つけた。」
こちらも人だかりから離れた所で座っている弟分を発見した。
「よう、元気・・・ではなさそうだな。隣座るぞ?」
「はい、どうぞ。」
顔も上げずうつむいたままの彼の横に座り込む。
「さっきはありがとうな。助かったぜ。ボルクスがあそこで入って来てくれなかったらくれなかったら、間違いなく収集つかなくなってたよ。」
座ったまま小さく頭を下げる。
実際ボルクスがいなければ、間違いなくケンカになり何もまとまらないまま、救えたはずの人を救うこともできなかっただろう。
「いえ、僕は何も。僕にできることなんて・・・あれくらいしか無いですから。」
そう言うとまた彼は黙ってしまう。
「落ち込んでるとこに追い打ちかけるかもしんねえけど・・・慰めに来たわけじゃねえぞ。お前はここに残れ。」
「・・・僕が弱いからですか?」
タバコに火をつけ空に向かって煙を吐き出す。
「強い弱いで言うならお前ならウリディンム相手なら何とかなると思う。猫の手も借りてえ状況だし。でもな、そこじゃねえんだわ。」
「お前が何かを守りたいって、そのために生きたいって思えるんなら連れて行くし絶対に守ってやる。でも今のお前は違う。お前はただ代わりに戦おうとしてるだけや。」
「そんな事は・・・」
ようやく顔を上げた彼は今にも泣きだしそうな、崩れてしまいそうな目をしていた。
「今のおまえは、騎士をやめちまったバーグの代わりに騎士になろうとしてるだけだ。それは憧れとか、夢とかそんな綺麗なもんじゃねえ。それじゃ・・・ただの呪いだ。」
「けれど、あれだけの人に守られて生かされた僕だけが、なにかを望む権利なんてあるんですか、、?」
「権利なんか知らねえよ。でも、義務はあるんじゃねえかな?騎士になるとかそんな事じゃねえぞ?」
「義務・・・?」
「お前のお母さんが命を懸けてお前を守ったのはなんでだと思う?バーグが身を挺して庇ったのはなんでだと思う?」
「それは・・・」
「お前に、かわりに騎士になって欲しいからか?お前に多くの人を救ってほしいからか?辛くて苦しくてずっとうつむいたまま歩いてほしいからか?違う。ただ、生きてほしかったからさ。お前の横で一緒に笑うはずだった未来を・・・せめてお前には見てほしかったからだ。お前の望む未来を掴んでほしいからだ。」
「残念ながらお前が悩もうと自分の望む未来が見えようと、それを成し遂げたって。お前を苦しめてるもんは無くならねえよ。これは、絶対にだ。」
あの日、おれを見て最後まで笑っていた彼女の顔を思い出す。自分の命を投げ出し、それでも後悔は無いと。ただ生きていてほしいと。できることなら笑って生きてほしいと願ってくれた人がいたことを。
「だからな。生かしてもらったおれらに義務があるとするなら、あっちに行ってまた会えた時に自信をもって「楽しかった」って言えるよう生きていくことさ。それがなんだってかまわねえ。それにぶっちゃけ、なんで助けてくれたかなんて知るかよ。だから勝手にそいつの分まで笑ってやんのさ!」
「おれら、、?もしかして、タイヨウ、あなたも・・・」
「・・・だから、おれはおれが笑えると思う生き方をする!最後まで胸を張れるように歩く!そう勝手に決めたんだよ。続けさせてもらったおれの物語をハッピーエンドで締めくくるためにな。」
そこまで言って立ち上がりおしりをはたく。
「さ、話は以上。そろそろ時間だからな。お前は、お前が正しいと思うことをすればいい。怖いと思うことも死にたくないって思うことも絶対に間違いなんかじゃない。お前が何を選んだっておれは味方だ。おれはお前の兄貴だからな!」
笑顔でそれだけ言い残しいいね!を彼に繰り出し広場の出口の方へ足を向ける。
「僕の、僕自身の望み、、。」
「さて、諸君!お集まりかね?」
「お前の緊張感の無さはなんなんだよ・・・。こっちも気が抜けるからやめてくれ。」
広場の出口付近。出発前の最終確認で戦えるもの32人を集めている。その最前列の呆れ顔のマルクスがこちらを見ている。
・・・そこにボルクスの姿は見えなかった。
「まあいいじゃねえか!肩に力が入り過ぎてもいいことなんかないもんだ。何事も適度にな」
バーグはさすがの場慣れ感といった感じだ。一線を退いて長いとはいえ元はかなりの騎士だった話も聞いていたし、ケガの後遺症を差し引いてもかなりの戦力だろう。
「調査の結果、破壊される術式の場所はご丁寧に街の出入り口の門だという事が発覚した。おれたちは門を入ってすぐの所に陣取り魔獣どもを迎え撃つ!殲滅が最高だが、あくまでも目的は街の防衛だ。後ろでシルヴィアが〈治癒〉の術式を展開してるから負傷したら極力回復すること。」
「けど知っての通り〈治癒〉はあくまでも治癒だからな。ゲームみたいに再生はしねえから無茶はしないように!とにかく朝まで持ちこたえること!何か質問ある人は挙手してください!」
シルヴィアは月の魔力を使って〈再生〉とも取れるあの魔術を使うと言っていたがそれは下手をすれば士気を下げかねない上に余計な混乱を招く可能性がある。なので却下した。
「はい。」
「なんだねマルクス君。」
「げーむってなんだ?」
「おれの国の子供たちと一部大人の夢と希望が詰まったものだ。ほかに質問は?」
説明を聞いたうえで、は?という顔をマルクスにされたが今は置いておこう。
「うし、じゃあおふざけはここまでだな。準備はいいか?」
隣に立つシルヴィアの手を握り彼女の顔を見てもう一度尋ねる。
「いいか?」
「もちろん!」
震える手でいいね!をする彼女を見つめる。
――必ず守るさ。
そう誓い直し前を向く。
「じゃあ掛け声はさっきの打ち合わせ通りに!いくぞー!」
「アーーユーーレディィ!!!」
「「「「「いぇぇええい!!!」」」」」
街中の人の怒号が夜の闇に響き渡った。
「タイヨウ!」
さあ出発!と振り向いた瞬間呼び止められる。振り向くといつものガキんちょ四人組が立っていた。
「どうした?さすがに今は遊べねえぞ?」
「ちがうの。これ。さっきおねえちゃんとつくったの。」
そう言ってリルが差し出したのは以前おれがあげたきれいな石と木のツタのようなもので作った首飾りだった。
「これはね、獣人に伝わるお守りなんだよ。自分の大切なものを相手に預けて、帰ってきてねっていう願いを込めるんだよ。」
子供たちは泣きそうな顔で頷き
「かえってくるよね、、、?また、あそんでくれるよね?」
「おう!指切りしたろ?針千本なんか飲みたくねえしな!大丈夫だよ。必ず帰ってくるから。」
笑顔でネックレスを受け取り頭を順番に撫でる。
「さあ!行くかあ!」
悩む弟分の面倒を見たり、ガキんちょどもの相手だったり帰ってきたらやらなきゃならないことがいっぱいだ。
(ま、そーゆうのも悪くないかな。)
そう思いながら微笑み門へと向かった。
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戦闘が始まってすでに2時間ほどが経過。
「前に出過ぎるな!ケガをしたら動けなくなる前に下がって治癒受けろ!それでなくても人手不足なんだ!とにかく戦線維持を最優先に動け!」
バーグの怒号とも取れる指揮が飛ぶ。
正直なところ圧巻の一言だ。おれにはこの混戦状態でここまで的確に味方の動きを把握できなかった。
作戦自体は予定通りに運びシルヴィアがいる現在の門付近に魔獣は集結しているようだった。
だが、戦況事態は予想よりも悪く死者こそ出ていないものの徐々にではあるが押されているのが現状だった。
「くそが!そう好き勝手暴れさせてたまるかよ!」
バーグやマルクスを筆頭に街の人々も気を吐いてはいるがこのままでは押し切られるのは目に見えている。
原因は2つあった。魔獣が群がってくるのは予定で通り、こちらは一塊になり囲まれないよう少しづつ削っていくつもりだった。実際初めの30分ほどは予定通りに進んだ。
しかし視認できる1/3ほどを倒したあたりで魔獣の動きが変わったのだ。先ほどまでは全ての魔獣がこちらの最後方にいるシルヴィアめがけて正面から攻めてくるだけだったのが、街の方へと少しずつだが散る個体が出てきたのだ。
結果的にこちらは散った個体を追いかけるために陣形を広げざるをえず数の差が顕著に表れた。
もう1つは単純に想定していたよりも数が多いという事だった。
「どうするタイヨウ!?このままじゃジリ貧だ!シルヴィアちゃんも〈治癒〉の術式を発動させっぱなしでいつ限界が来てもおかしくないぞ!」
「言われねえでもわかってるよ!けど、踏ん張る以外に選択肢ねえだろ!」
ここでおれたちが引いてしまえば出る死傷者の数は計り知れないだろう。だがそれは全滅してしまっても結果は同じ。
「まずいぜ、タイヨウ!魔具の弾が切れそうだ!戦ってるやつらの半数は狩りとかで慣れてるだけで戦闘は本職じゃねえ。剣や槍じゃ長くはもたねえ!」
少し離れた所で街の衛兵以外で組んだ部隊のマルクスが叫ぶ。
「これ以上悪い報告はいらねえよ!弾を補充しに離れる余裕もねえし!」
(・・・魔力回路をフルで使えば一時的になら押し返せる。)
しかし数が数なだけにその間に殲滅しきることはほぼ不可能だろう。街に滞在中に試した結果、フル稼働させて動ける時間は約5分ほど。その上使い切ってしまえば半日以上自力で歩くことさえままならなくなる。
「せめて、なんとかこいつらが街の方へ向かわねえようにできれば・・・」
残念ながらそう上手くいく策は浮かぶはずもなく一人、また一人と戦闘不能になっていく。
「うわぁ!」「やめろ、、!来るなぁ、、!」「ぎゃあ、、」
(これは悩んでる場合じゃねえか、、。やらなきゃどっちにしろ全滅も時間の問題だ!)
「バーグ!マルクス!・・・わりいけど動けなくなったらあとのこと頼んだ!」
「待ってタイヨウ!ダメ!また動けなくなっちゃう!」
「だけど、今はあるものは全部使わねえと!出し惜しみはしてらんねえよ!」
「なんだおい!何するつもりなんだよ!?」
心配してくれるシルヴィアや事情を知らないマルクスの声をよそに神経を体の内側に集中する。
「本気でやんのか?今動けなくなってもフォローしてやれるかわからんぞ!?」
「おっちゃんになんか代わりの案があるならやらねえけど、今は少しでも時間稼がねえとしょうがねえだろ!?」
目を閉じ集中する。大きく息を吐き気合を入れ―――
ドンっ!ボボンっ!ドカンっ!
爆発音に驚き目を開くと、後ろや横やいろいろなところから爆発とともに火の手が上がる。
「今度はなんだよ!!」
「どうした!?何があった!?」
マルクスが比較的爆発に近いところで戦っている街人達に叫ぶ。
「わからない!突然爆発したと思ったらものすごい勢いで火に取り囲まれていってるんだ!」
報告の通りは燃え上がった火は尋常じゃないスピードでおれたちや魔獣を檻のように取り囲み辺り一面を夕焼け時よろしく真っ赤に染め上げていく。
「くそ!なんであんなに火の手が早いんだ!このままじゃまとめて丸焦げだ!」
「次から次へと、、、!よくもまあここまで不測の事態ばかり起きるもんだ・・・」
このままではいずれ火はおれたちの近くの建物まで燃え広がり言う通りこんがり焼きあげられてしまうだろう。
「それでなくても人手が足りねえのに、、、!おい何人かは火の手を止めに行け!」
「待て!止めに行かなくていい!近くにある建物だけ壊して火が近づかねえようにだけなれば!」
確かに不測の事態で火の手の処理にまで人を回せばまったくもって手が足りない。けどせっかく上がったのだからありがたく使わせてもらおう。
「どういうことだ!?このままじゃ街ごと燃えちまうぞ!?」
「街守ったってそこに住む人が全滅したら一緒だろ?なら、せっかくおれらも魔獣も出れねん。当初の予定通りの作戦に戻せるだろ?」
「・・・マジで考えがぶっ飛んでやがる。呆れを通り越して尊敬するぜ。」
「お褒めに預かり光栄やなマルクス殿。」
「だがどちらにしてもそっちに人を回せばかなり苦しいぞ!」
「そればっかりはがんばれ!としか言えねえよ!やらなきゃみんなこんがり焼き肉になるだけだ!」
心底呆れたという顔のマルクスに「早く!」と目配せをし指示を出してもらう。
「人使いの荒い大将だなあ!」
文句を言いながらマルクスが駆け出そうとした瞬間――
「皆さん下がってください!」
叫び声の直後ドドンっ!ボカンっ!とまたしても爆発音が鳴り響き今度は近くの建物が吹き飛ばされ崩れていく。
先ほどとの違いは爆発物が違うのか火が上がらないこと。燃えるものがなくなり火の手が近づくのをやめる。
後ろを振り向き声の主を視界にとらえる。
そこには自分のしたことへの罪悪感と高揚か、目の前の魔獣たちへの恐怖かわからないが小刻みに震えながらも、まっすぐな瞳をした『自称騎士』が立っていた。




