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囮作戦


「くそっ!」

爆発に気を取られた瞬間にエンダを逃がしてしまった。


 だが、そのことは別の悔しも込み上げてくる。

――勝てるのか?こいつに・・・


 剣を避けられ対峙した一瞬。その一瞬で気圧され引いてしまったのだ。あの日、蹴り飛ばされ折れたあばらの痛みを、剣で切りつけられ死んでいく恐怖を。思い出して、ビビったのだ。


 それが何よりも腹立たしかった。

「・・・今はそんなこと考えてる場合じゃねえか、、!」

 頬をたたき気合を入れなおす。やつの言う通りまだ爆発以外は何も起こっていない。


 ならば今のうちにできるだけ多くの人に事情を話し逃げるなりの対策を打たなくては。

 目を閉じ、あの時守ることのできなかった人たちの顔を思い浮かべる。


「何回も・・・あんな思いしてたまるかよ!」

とにかくまずは街の中心へ。爆発でほとんどの人は起きているはずだ。収拾がつかなくなる前に何とかしないと。


 街の中心部へ向けて走っていくと別方向へ走っていく一団を見つけた。

「おーい!!」

「タイヨウ君!戻ってきてたのかい!」

「いろいろと事情があってな。どこへ向かってんだ?」

「どこへって広場だよ。あそこは有事の際の避難場所だからね。」


 聞くと広場には緊急時用に術式が組まれており起動させれば少しの間はしのげる避難用シェルターになるようだった。

「ありがとう、良いこと聞いた!」

「待つんだタイヨウ君!どこへ行くつもりなんだ!?」

「街の反対側の人らは逃げれてないだろうからこっちまで連れてくる!みんなは先に避難しとててくれ!」


 それだけ言い残しまた走り出す。はっきりした場所はわからないがいつもの子供たちの家は広場から少しあるはずだ。

 街中走り回りなんとか全住民を避難所に集めることには成功した。


~~ざわざわ~~がやがや


 みんな不安そうに口々に話をしている。本来なら場を治めるはずの騎士もおらずおれたち以外の誰も現状を把握できていないのだ、不安にもなるだろう。


 そして今この場に騎士がいないという事はエンダ以外の騎士はおそらく・・・


「あー。ごほんっ。みんなこんばんは!いい夢見れた??・・・と冗談はさておき、出てったと思った矢先にわりいな。よそ者のおれらに言われても信憑性無いかもしれねえけど聞いてほしいことがある!」


「もうすぐ、この街に魔獣が入ってくる。ハッキリはわからねえけど、100匹近い数がいるかもしれねえ。」

「100・・・」「そんな・・・」「けど術式があるんだから―――」


「ごめん!一回静かにして!いろいろわからねえことはあると思うけど・・・今は答えてる時間が無い!とにかく急いで街を出て街道の野営地へ移動したい!」


「ちょっと待てよ。」

一人の男が手を挙げ声を発した。いつも絡んでくる衛兵だ。


「なんでお前にそんなことが分かる?お前がその獣人を見たってんなら、なんでお前は生きてんだ?そもそも騎士の連中どこへ行った?」

「確かにそうだよな。」「それが本当ならあいつらが戻ってくる意味も分からねえしな。」「あの人間の男の子どこから来たかもわからないんでしょ?」


 まあ、もっともな反応だろう。たかが一か月前に現れた謎の旅人にいきなり「村を出ていけ」と言われてはいそうですかと言う方がどうかしてると思う。


「言いたいことはわかる!けど、今お前とモメてる時間はねえんだよ!頼む!」

そう言って深々と頭を下げる。だが、


「悪いな。人間様は賢いらしいしプライドなんて持ち合わせてないみたいだからな。頭くらいいくらでも下げるだろうよ。おれたちが出て行ってお前らはどうするんだ?もぬけの殻になった街に朝方戻ったら金目の物から何から無くなってる。よく考えたもんだよなあ?そのためにわざわざ一か月も時間かけて街の連中にありもしねえ尻尾振ってたのか?」


「どこまでひねくれてんだてめえ。黙って聞いてたら調子に―――」


「話を聞いてください!お願いします!!!」


 飛び交う声をすべてを掻き消すほどの音量で叫んだのはボルクスだった。叫んだあと彼は額を地面にこすりつけ土下座をして何度も何度も叫び続ける。


「タイヨウはそんなわるいやつじゃない!」

「そうだそうだ!」

「あいつはへんなやつだけどわるいやつじゃない!」

「そうよ!マルクス兄ちゃんとちがってタイヨウはやくそくもやぶらないもの!」

 その声に続いたのは街の子供たちだった。


「おまえら・・・」

柄にもなく少し泣きそうだった。まさかこんな子供にまで助けてもらうことになるとは。

「そうよタイヨウちゃんはとてもいい子よ!」「そんなことするはずないわ!」


・・・まずい、すこしは風向きは変わったが議論をしている余裕はない。

「・・・ひとついいか?」

 バーグが騒ぐ街人の間を押しのけ前に出てくる。


「タイヨウ。おれは個人的にお前を気に入ってる。だが、逃げるのはどっちにしても無理だろう。」

「なんでだよ!?今ならギリギリ間に合う!だから―――」

「お前、魔獣の性質を知らねえのか?」


「魔獣ってのはな、人間を狙うんだ。だから街の術式が破られた時点で街の中も外も変わらないんだよ。とてもじゃないが野営地までは逃げきれないぜ。」


 言われて最初にウガルと目が合った時のことを思い出す。憎悪に満ちた目。明らかな敵意と憎しみを持ってこちらを見ていたあの目を。


「・・・その顔は心当たりがあるって顔だな。なら話は早いだろ?生き残るためには戦って勝つしかないのさ。だからどっちにしろ、おれたちがこの街から逃げ出すっていう選択肢は無いんだ。」

「それは・・・さすがに・・・」


 無理だろう。戦えるものだけ生き残るという意味では不可能ではないかもしれない。見た所この街で衛兵などをしていて戦力として数えられそうなのは30ほど。


 獣人は人間よりも筋力が発達しているらしいのでそれなりには戦えるだろう。だが対してウリディンムの方はおそらく100はくだらない数がいるようだ。

・・・とてもじゃないが子供や年寄りを守りながら戦える数じゃない。


「じゃあ、この術式から戦える奴だけが出るっていうのは?」

「この術式は本当に一時しのぎのためのもんだ。魔獣の攻撃を受けながらじゃ、もって1時間。もっと短いかもしれねえな。」

「1時間、、、。」

「そういう事だ。」


 マルクス。そうリルに呼ばれていた人間嫌いの獣人がこちらにやってきた。


「その、なんだ・・・さっきは言い過ぎたよ人間。いや、タイヨウって言ったか。お前みたいなやつも人間にはいるんだな。最後にそいつが知れただけでもよかったわ。」


「何を急にしおらしくなってんだよ。いつもの威勢はどこ行ったよ!おまえらは勇猛果敢な種族なんだろ?なにか、なにか・・・」

「だからこそ。戦って死ぬさ。できる限り女子供守ってな。けどこれはおれらの街の問題だ。お前らまで巻き込まれる必要はねえよ。ただ憐れと思うなら一つ頼まれてくれ。『テライオス』って街に、妹がいるはずなんだ。行く機会があればよろしく伝えてくれねえか?」


「おもいきり死亡フラグだろうが、、、!ふざけんな、自分で伝えろ!おれは諦めねえぞ。何とかして子供らを気にせず、魔獣を一つの所に集められれば。なにか、なにかねえか、、!」


 エンダにプラセル。あの気に食わねえ連中が仲間なのはよくわかった。だからこそ、そんなに毎回毎回思い通りにさせてたまるか!


「あの・・・」


 後ろから小さく声を出し手を挙げたのはシルヴィアだった。

「一つあると思う。要するに、ここから離れた場所へ魔獣を集められれば、いいんだよね??」


「気を使ってくれるのは嬉しいけど・・・そんな都合のいい方法なんか・・・」


 そこまで口にしかけて思い出した。エルフの体質とやらを。彼女の言おうとしてることを分かってしまった。彼女なら確実にそうするはずだから。


「ダメだ、、。シルヴィア、それはだめだ!」


 彼女はおれの制止を無視しこちらをにこりと笑っいかけた後、着けていた〈仮装の首飾り〉を外した。

「わたしは、エルフ。だから――わたしが囮になれば魔獣はわたしの方へ集まってくるはずよね。」



 街中の、彼女を知っている誰もが呆然と彼女を見つめていた。

「シルヴィア、あなたは・・・」

「まじかよ。」

「エルフだったのか、シルヴィアちゃん。」


 彼女の気持ちも決意も十分に理解しているつもりだ。

「それだけはダメだ!まだななにか他にあるはずだ!だから――」


「ありがとうタイヨウ、心配してくれて。わたしもすっごく怖いけどね。でもこの街の人たちと過ごした毎日はすっごく楽しかったの!それにこれはわたしにしかできないこと。そうでしょ?」

そう言ってまたおれに微笑みかける。


「それに、今のわたしにはタイヨウがいるもの!無茶しないでって言ってもどうせ聞いてくれないし、こうでもしないと連れて行ってくれないでしょ?」


 その言葉を聞いて自分がとても恥ずかしくなった。彼女がまたあの時のように一人で行ってしまううんじゃないかと。勝手にそう思っていた。必ず守ると、そう誓ったはずだったのに。


「だから・・・今回も守ってくれるよね?」

そう言っておれの手を握った彼女の手は、小さく震えていた。


「ふふふ、あははは!」

まったく。おれの惚れた女の子はかわいい上にイケメンで甘え上手って、無敵かよ!


「今笑う所じゃないよね!?わたしそんなに変なこと言った!??」

「はは・・・いやごめんごめん。そんな変なところに惚れ直してたところだよ!」

笑いすぎて涙が出てきた。

 

 涙を拭い、気合を入れなおす。ここでするのはもちろんいつもの

「ああ。もちろん!おれが必ず守るよ。シルヴィアもこの街のみんなも!だっておれは―――」

「ひーろーだもんね?」

ついに決め台詞まで取られてしまったみたいだ。


「そのとおり!」

笑う彼女にいいね!をし、目一杯の笑顔で笑い返した

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ははは、いや~若いっていいなあおい!」

やり取りを見たバーグは大笑いしながら背中をバシバシ叩いてくる。


「まじかよお前ら・・・正気じゃねえだろ、、、。」

反対にマルクスはさっきまでの勢いはどこへやら。作戦を理解した上で信じられものを見るような目でこちらを見ていた。


「残念ながら正気だし大まじめだよ!おれがやるからにゃ最後は笑顔で大団円って決めてんだ!大丈夫、なんとかなるさ!」

「お前のおかげで少しは人間てやつを見直してたんだがな、、、。前言撤回だわ。頭おかしいとしか思えねえぜ。たかが一か月居ただけの街のために命張るなんざ。」


「ははは!全くだ!騎士のころから考えてもここまでぶっ飛んだやつはなかなかいなかったぜ!」

「笑い事じゃねえだろバーグの旦那!言いたかねえが・・・いくらなんでも無理があんぜ?100以上の魔獣を倒すなんてのはよ!」


「無理を通して道理と成すのさ!それがおれの英雄譚だ!」

 そう言って笑って見せる。


「ははっ。全くおかしな野郎だよお前は。・・・改めてマルクス・ペイルノートだ。今までの非礼を詫びるぜ。それと、命がけの助力に心より感謝する。一丁やってやろうじゃねえか!」

 

 つられて笑い出したマルクスと握手を交わし改めて作戦会議を始める。


「まだ入って来てないってことはいつ頃術式解けんだ?誰か心当たりとかある?」

「そうさな。完全に任意で破壊できるのなら見当もつかねえが、時限式にするなら間違いなく0時丁度だろうな。0時丁度が一番月の力が強まる時間だ。魔獣どもも一番活発になるしな。」


 0時頃か。という事はおそらくあと1時間ほどといった所だろう。

「旦那、場所はどうする?おれは―――」

「そうだなだったら―――」


 都合10分ほどの作戦会議、といっても時間の予測と場所の確認を済ませそれぞれがほんの少しの時間だが休養を取る形になっていた。


「大丈夫か?」

広場の端で一人座るシルヴィアを見つけ横に腰掛ける。

「あはは、、。全然ダメ。すっごく怖い、かな、、。タイヨウを信じてない訳じゃないよ!?必ず守ってくれると思ってる。けど、、、」

「皆に嫌われそうで怖い?」


 彼女は自分が死ぬことよりも他人に嫌われることを恐れていた。それこそ嫌われないためになら死を選べるほどに。

「過去に何があったか全部聞いたわけじゃねえから何とも言えねえけど、少なくとも今は大丈夫だと思うぞ?」


 少し離れた所いる子供たちと目が合い、ちょいちょいと手招きをする。

「「「なになにー!」」」

「お前らはこんな時でも元気だな~。いいことだ!そんなことよりおれは今から大事な用事があるから出発までの30分間お姉ちゃんと遊んであげてほしい!いいか?」

「え?ちょ、タイヨウ??」


立ち上がるおれの手をつかみ困惑の表情でおれを見上げるシルヴィア。


「いいよー!」

「ねえちゃんなにしてあそぶー?」

「もう!おねえちゃんこまってるからじゅんばんにしゃべらなきゃだめだよ!」

「ちかくでみるとやっぱチョーきれいだなねーちゃん!」


 彼女の顔を覗き込み

「シルヴィアはこの子らが獣人だから好きなのか?エルフだったら、人間だったら嫌いになんのか?」

フルフルと首を横に振る彼女を見て微笑む。


「ならなんでこの子らはシルヴィアがエルフだと嫌いになんだよ。シルヴィアが思ってるよりも、世界はシルヴィアのことを好きになってくれるさ。でも、そのためにはまずは自分から好きにならねえとな!」


 頭をポンポンと叩きもう一人気にかかるやつの様子を見るためにその場を離れた。

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