第一印象で嫌いな奴は、大体最後まで嫌い。
夕食を終え少しゆっくりした後おれたちは明日以降の確認をしていた。
「王都までは歩いていくとなると一か月以上かかってしまうと思います。途中での休憩を含めるともっとかかるかと。なので途中で行商の方などを見つけ、荷車に同乗させてもらうのが現実的だと思います。」
「行商人か~」
渋い顔を射ながらつぶやくとボルクスがこちらを覗きこんでくる。
「何かまずかったですか?」
「いや、まずくはない。ただいい思い出が無いだけ。」
行商人という単語を聞いて森で出会ったあの小太りおやじを思い出した。
「まあ一か月はキツイか。背に腹は代えらんねえって言うししょうがないな。」
自分を納得させ一人頷く。
「幸い、タイヨウは腕が立ちますので護衛として申し出れば安い賃金で、うまくいけばあちらから賃金をいただくことも可能かもしれません。」
「それはいいな。ぜひとも、それを狙っていこう。」
そんな話をしているとすぐ近くで水浴びをしていたシルヴィアが戻ってきた。結局天気は悪いものの日中は雨は降らなかった。
「何の話??二人とも一緒に入ればよかったのに?」
相変わらずとんでもないことを言う子だ。
「シルヴィアそれはさすがに・・・」
ボルクスもどういったものかと口ごもってしまっている。
「ほら、いくら野営地の中って言っても荷物番くらいしとかねえとさ?男同士語り合いたいこともあるし!」
「むぅ~またわたしを仲間外れにする~。それにここの結界はちゃんと確認してあるから大丈夫だよ!」
笑ってごまかすおれたちにふくれっ面でシルヴィアが詰め寄る。
「まあまあ、そうふくれんなって。おれらも行って来るか!荷物番よろしくー!」
そそくさそボルクスを連れすぐ裏の川へ降りる。
「シルヴィアも変わった人ですね・・・」
「変わってるというかなんというか。まあ考え方の違いかなあ・・・」
「僕もそう言ったことに経験がある訳ではありませんが・・・苦労しそうですねタイヨウ。」
うすうすはおれも勘付いていたが、ウガルと戦った日におれは彼女に告白をした。だが残念ながら彼女にはこれがまったく伝わっていない。
というかそもそも彼女は異性に対して向ける感情と友達としての感情に差異が無いみたいなのだ。ようするに彼女とおれの「大好き」には大きく隔たりがあったようで・・・
「やっぱそう思う?なんか、どんな攻撃も効果無い気がするもんな。」
肩を落としがっくりしながら川から上がる。
「すいません。これと言って役に立つ助言もできず。」
申し訳なさそうに小さくなりながらボルクスも後を追って川から上がってくる。
「はぁ~~~どうしたもんかなあ。まあ気長にがんばるしかないかぁ~」
「またものすごく長い溜息ですね。」
ため息をついているとボルクスにクスリと笑われる。
「こっちは真剣に悩んでんだぞ・・・」
見えるところで吸うと怒られるので吸ってから戻ろうと思いタバコを取り出す。
「おっと、、、。」
火をつけようとした手を滑らしてしまいライターを落としてしまった。
「どうしました?」
「いや、タバコの火落とした。取ってくるわ。」
「気を付けてください?タイヨウの後ろ側は、高くは無いですが斜面になってますからね。」
確かに大した高さではないが斜面になっていてどうやらうまいこと転がり落ちてしまったみたいだ。
「う~ん。暗いからなかなか見つかんねえな。」
生えている草も大して背は高くは無いのだがライターが小さいだけになかなか見つからない。
「僕向こうから火を持ってきますね。少し待っていてください。」
「わりい、頼むわ。」
晴れていれば月明かりがかなり明るいのでもう少し探しやすいのだが、曇っているせいもあってほぼ真っ暗に近い。そう思っていると後ろからボルクスが松明にした火を持ってきてくれ足元を照らしてくれる。
「お待たせしました。落として森を燃やさないでくださいね?」
「おれドジっ子属性無いから。」
茶化されているのならまだしも、真顔で言われたのには傷ついた。
「お、発見。・・・とこれ、なんだ?」
松明の照らす先にあったのは動物の足跡だった。
ここは動物も多く生息する森の中。それも足跡は数分前のもの、とかいうほど新しくはない。その手のプロではないがおそらく1日かそれ以上は立っていそうな感じだった。場所も野営地から少しずれているので天候が崩れたりなどしなければ足跡が残るのも不思議ではなさそうだ。
なので別段おかしいものでもないだろう。ただの動物の足跡だ。不思議なのは明らかにその数が1匹や2匹ではなくかなりの数。それもその数が複数回同じ方向へ向けて移動した形跡がある。
そしておれはこの足跡に見覚えがあった。忘れたくてもしばらくは忘れられないだろう。これを見た日はそれほどにインパクトの強い日だったのだから。
「・・・なあボルクス。これ見てくれよ。」
「どれですか?」
斜面の上を探してくれていたボルクスを呼び足元を指さす。
「これは・・・」
「こういう事ってよくあんのか?明らかに数が集まって、それも同じ場所に集まるって。その上で特に暴れもせず身を隠してるって?」
おれの記憶が正しければこれはウリディンムの足跡だ。街道で遭遇し戦っていた荷車の周りに残っていたものと同じ形。
まだこちらに来ておれが見た動物など精々が7.8種類。似たような足跡の生物もいる可能性はある。むしろそうであってほしい。おそらくこの足跡を辿っていけば――
「これは、図鑑で見た足跡と同じです。ほぼ間違いなくウリディンムのものかと。ですがこのあたりに気配は感じませんし・・・」
「だろうな。もう移動した後っぽいし。」
「移動ってどこに?」
足跡の先の方角に視線を送る。
「・・・まさか、デロスに!?ですが街には獣除けの術式が張られています!魔獣が集まったところで・・・」
「その術式の点検ってここ一年やってたか?」
「行われていないはずです・・・でも、そんな偶然って・・・」
街で聞いた話にはいろいろな疑問が残っていた。群れを成して街を襲う魔獣。頻度は低いとはいえ普段はそんなことは無いはずなのに、なぜ突発的にそんなことをするのか?根本が動物であればそういう偶然もあるのかもしれないと思った。
たまたま術式が切れているタイミングで街を襲った盗賊。偶然と言えばそれまでではある。だが話だけ聞いていればあまりにも出来過ぎた話だ。だが術式が切れるタイミングはわからなくてもそういう事が行われることは一般市民のボルクスでも知っているのだ。
ならば街をずっと見張っていればいつかはそのタイミングに出くわせる。
それを待って行動を起こしたと考えれば特に問題は無い。そうも思っていた。
だが、これだけの信頼を置かれている術式とやらがそんなに力づくで簡単に壊せるのか?
なぜ『魔人』なんて呼ばれる大層なものがわざわざ小さな町を襲ったんだ?
我ながらあまりにも荒唐無稽な、けれどすべての話がつながっているという前提で考えれば辻褄が合う理論が組み上がる。
魔獣や魔人といった存在を何らかの方法で操つることができたとしたら?
そしてそれが内部にいれば?
最終目標は知らないが、その何かをしようとしている奴が「魔獣を操る方法」と「騎士という地位」を持っていれば一連の騒動は簡単に実行できる。
そしてこれを起こすのに適役な人物も知っている。
『あいつとは10年来の付き合いで―――』
今から予想通りの出来事が起こるのならとにかく早く戻るべきだ。
「・・・急いで戻ろう。今ならまだみんな街から逃がせるかもしれねえ。――くそったれ。結局会いに行く用事が出来んのかよ!」
今度はあの気に食わないにやけ面を遠慮なくぶっ飛ばしてやろうと決めて斜面を駆けあがった。
「予想通りならたぶん街に着くまでは魔獣には出くわさねえはずだ!おれが全力で走れば30分もかからねえ!ボルクス!ちょっと歯がゆいけどシルヴィアのこと、頼むぞ。」
「はい!この命に代えても必ず。なるだけ急いで追いつきます!」
シルヴィアには悪いが彼女のペースに合わせていては間違いなく間に合わない。むしろもうすでに間に合っていない可能性もあるのだから。そう思い走り出そうと昼間来た方向へ顔を向ける。
「タイヨウ!無茶はしないでね??」
声をかける彼女にいいね!をしおれは一足に先に走り出した。
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〈強化〉の魔術はまだ使いこなせているわけじゃないがそれでも身体能力は飛躍的に上がっている。向こうの世界にいた時とは比べ物にならない速さで街までたどり着くことができた。
「はぁっはぁっ!よし、まだ今のところ無事やな!」
街の中を駆け抜け一目散に騎士の駐屯所へとたどり着く。
駐屯所の前に止まった荷車のすぐ隣ではお目当ての『騎士様』が暢気に紅茶を飲んでいた。
「これはこれは、おかえりなさいタイヨウ君。こんな時間にどうされました?」
「いつでも来ていいって言ってくれてましたからね。――ちょっとお伝えしたいことがありまして。」
笑顔を浮かべながらこちらを見る彼を睨みつけながら息を整える。
「ま、一息ついてください。紅茶でもどうですか?」
そう言いながら前と同じ調子でカップに紅茶を注いでいく。
「えらく準備がいいんですね。――まるでおれが来ると思ってたみてえだ。」
「半々といった所でしたがね。街で何度かお会いしたときはわたしの買い被りだったのかと思いましたが。それで御用というのは?」
「そこまで言ってんなら、もう言う必要無いんじゃねえすか?」
「・・・なるほど。で私にどうしろと?」
「どうもしなくていいんですよ。まだ何も起こってないなら、おれはあんたがここにいてくれたらそれで。」
腰の剣に手を当てながら少し距離を詰める。
「・・・良ければ少しお話しませんか?走って疲れているでしょうし、かけてゆっくりしてください。」
彼は笑顔を少しも崩さず着席を促してくる。
「話すことなんか無い。って言ったの聞こえなかったのか?残念ながらおれはあんたに興味もねえよ。」
「そうですか?それは残念ですね。僕はあなたに興味津々なんですよ?たとえばあなたが何処から来たのかとかね?」
一層にっこりと笑いこちらを見つめてくる。
「今、私がここで紅茶を飲んでいるのは、あなたがたへの敬意とあなたへの興味からです。たかだか獣除けの術式を壊すのにわざわざ動く必要があると思いますか?」
紅茶をすすりながら彼は続ける。
「敬意?蔑みの間違いだろ?」
エンダはわざとらしく肩をすくめて見せ言葉を続ける。
「丸ごととなれば前のように起点からじゃなければ少し骨が折れますが、一か所でいいのなら特に問題は無いんですよ。それに、あなたにも時間はあった方が良いでしょう?」
「・・・予想通りいい性格してんな。けどそんなことしたら一発で真犯人だってバレちまうぞ?」
「誉め言葉として受け取っておきますね。別に構いませんよ?実験はここで最後ですので。特に騎士の身分にももうこだわりはありませんから。」
そう言って自分のカップに紅茶をつぎ足す。
「目的はなんだ?この襲撃であんたに何の得がある?」
「・・・なにも?」
何も無い??街一つを壊滅させておいて何も、無い??
「タイヨウ君。あなたは勘違いしているみたいですね。襲撃して何か手にすることや誰かを殺すことが目的なわけではないんです。襲撃自体が私の目的ですから。まあ、しいて理由をつけるなら千年という長い時間をかけて繁栄してきたこの文明。人の強さというものがどれほどのものか見てみたい。といった所でしょうか?」
眉一つ動かさず彼は理解の及ばない発想を語った。
それと同時にこいつの笑顔が気に食わない理由がようやくわかった。あの女と同じなのだ。醜悪でどす黒い笑顔。
「・・・バーグやボルクスは偶然か?」
「そうですね。本当に偶然です。たまたま以前襲わせた街に住んでいたあの騎士が私が騎士として配属されたこの街にいたのには驚きましたよ。そしてまさかあの日助けられた子供がまで一緒だとは。運命とは数奇なものですね?」
愉快そうに笑いながら彼は立ち上がる。
「さて。そろそろあなたのお友達も到着したみたいなのでお話はここまでですかね。あの日のようにならないように頑張ってください。とお伝え下さい。」
「安心しろよ。あの日のリプレイをさせん為におれがいんだ。あと最後に一つ質問だ。――プラセル・ラーシルって女・・・知ってるよな。」
「りぷれい?ああ君の世界の言葉ですか。はい、知っていますよ。けれど居場所は知りません。私たちは似た物同士ですが仲間ではありませんので。」
両手を肩のあたりまであげ「残念でしたね?」といったポーズを荷車の方へと歩いていく。
「・・・待てよ。忘れものだぜ。」
「忘れ物?」
振り向くエンダの首筋めがけて聖剣を横なぎで思い切り振りぬく。が、驚異的な反応速度で避けられる。
「乗車券。持ってねえだろ?よかったらおれのやるよ。地獄行の片道切符だけどな。」
「ふふ。顔に似合わず容赦ないですね。けどこんなことをしてる余裕がありますか?――それと、そのままで私に勝てると思いますか?」
あの時の、あの女がまとっていた雰囲気と同じどす黒い、夜の闇の中でも一層黒い異様な空気。
反射的に半歩後ろに間合いを取ってしまう。
「賢明な判断かと。・・・では本当にお別れです」
彼はパチンっ!と指を鳴らす。
―――ドンっ!!ドカンっ!
街の数か所で爆発が起こり火柱が上がる。
「安心してください。爆発ではだれも死なないようにしてありますから。寝ている間に魔獣が入ってきてしまって、何もできないままに終わり。では、あまりにつまらないでしょう?少し大きめの目覚ましですよ。」
「では、ごきげんようタイヨウ君。御用があればいつでも来てくださいね?」
爆発に気を取られている間にエンダは荷車に乗り込み走り去ってしまった。




