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昔々、あるところに――

「うーん。今日はなんかイマイチ・・・」

「そうですね。明日からは狙う場所を変えてみますか?」

 今日は森に狩りに来てこの数週間で一番のはずれ日。物の見事にスカだ。


「まあ動物だしたまたまってこともあるか。明日ダメなら考えよう。」

「けれど僕も森に入るようになって結構経ちますが、この場所でこんなに獲れなかったのは初めてですね。」


 ここはボルクス曰く割と良い場所らしく、水場も近く木の実なども豊富で隠れる場所も多い地点だ。


「時間も時間やし今日は諦めるか。ぼちぼち戻らねえと店の準備間に合わねえや。」

「はい。子供たちと約束したものも集まりましたし。これで針を飲まなくて済みますね。」

「余計なこと教えるんじゃなかった・・・あいつらはまじで飲ましてきそうだ。」


 二人で笑いながら森を後にする。ちなみにシルヴィアは朝の鍛錬のあとは家に戻り料理以外の家事をしてもらっている。


「今日の朝ごはんはなにかな~」

「やっぱり子供みたいですね。けど確かにおなかはすきましたね。」

 二人でご飯派かパン派かの人類にとっての永遠の課題を議論しながら街に入る。


 翌日以降も特に何もなく、予定通りシルヴィアの国民証を受け取ったり、毎朝の鍛錬にチビどもがレギュラー参加するようになったり、緩い日常が続いて行った。


 ま、残念ながら狩りの成果は翌日以降も上がらなかったわけだが。




 そんな感じで数日が過ぎたある日の夜だった。バーグが唐突に口を開いた。

「お前らいつ頃この街を出る予定だ?」

「えらい急だな。何か都合悪くなったのか?」

「別に急でもではねえだろ?」

まあ確かにこの街での目的はあらかた達成した。あまりの居心地の良さに忘れかけていたが・・・


「確かにそうか。いつ頃にしようかなぁ。」

 逆にこうなってくると出るタイミングを決めかねてしまう。

 目的は達成したがそこまで焦って出なければいけない理由も無いからだ。


「出発の時なんだがよ」

「ん?」

「あいつを、連れて行ってやってくれねえか?」

あいつ。とはちょうど薪を拾いに出ているボルクスの事だろう。


「おれは全然いいけど。・・・本人はそれでいいのか?」

「あいつは、そうでもしねえと出て行かねえだろ?それに、今だ!って時を逃しちまったら坊主は一生ここを出て行かねえだろうしな。」

「言いたいことはわからねえでも無いけど、、、。そういうのはやっぱ本人とちゃんと話した方がいいんじゃねえの?」


「――そうだ。なに勝手なこと言ってるんだよおじさん、、!」

 不意に響いた声に振り返るといつの間にか戻ってきていたボルクスが立っていた。


「そんな体で一人で生活なんて無茶だろ??誰が狩りをするのさ!?店だって一人じゃ回らないだろうし、、、!」

「まぁまぁ落ち着けよボルクス。まずは座ってから――」


 どういう受け取り方をしたのか、ボルクスの勢いがかなり強めだ。

「へぇ?おい坊主。いつからおまえ程度が、おれの心配なんてできるようになったってんだ?」

 売り言葉に買い言葉。なのかは分からないが普段の温厚な雰囲気からは想像できない強めの口調でバーグも返答する。

「いやいや、二人とも一回落ち着い――」


「・・・なんだよその言い方、、!!僕は少しでもおじさんの為になればって思って今まで!!」

「そんな事、頼んだ覚えはねえがな。いい機会じゃねえか。これで晴れてお前がここに居なきゃいけない理由が無いことも分かった訳だ。――邪魔なんだよ。」

 バーグの発した言葉に場の空気が凍り付く。まさに修羅場だ。


・・・とかふざけている場合では無く本当にどうしようもない空気だ・・・

「ふぁ~さっぱりした~。・・・あれ?どうしたのみんな??」

 何とも間の抜けた声で、間の悪いシルヴィアが水浴びを終えて帰ってきた。本当にタイミングが悪い・・・

「と、とりあえず一回時間空けて頭冷やしてから話しようぜ!な!?」


 声をかけてはみるものの、二人はお互いを見合ったまま視線を外さない。

「――そうかよ。それが本心かよ。・・・今まで邪魔して悪かったね。」


 さらに数舜続いた沈黙を破ったボルクスはそのまま家を出て行ってしまった。

 今にも泣きだしそうなのを、怒りで必死に噛みつぶしたような。そんな声に聞こえた。


「え?え??なに???どうしちゃったの!?」

「あ~~・・・とりあえずボルクス追いかけたってくれるか?事情は後で話すから。」

 流れを聞いていなかったシルヴィアに任せるのも酷な気もするが・・・

 それでもバーグと先に話してしまっていたおれが行くよりかは幾分頭が冷えるかもしれない。と、言うかそうであって欲しい。


「・・・わかった。」

 雰囲気を察してくれたシルヴィアはボルクスの後を追って外へ出て行った。


「・・・ほんまに良かったのか?あれで。」

 目の前でいまだ無言のままのバーグに声をかける。

「ふぅー・・・なにも間違っちゃいねえさ。邪魔だったのさ。俺がな。」

 大きく一つ。ため息を吐き出した後、バーグは後悔とも懺悔とも取れるような弱弱しい言葉を口からこぼした。


「タイヨウ。悪いが一本貰えるか?」

 彼の出した手にタバコを渡し、自分の分も火をつける。

「・・・タバコ。ほんとに吸うんだな。ボルクスが言ってたのは聞いてたけど。実際には初めて見た。」

 

彼の手から昇る煙は何ともフラフラと寂し気に揺れていた。


「残ったんならちょっと晩酌に付き合ってくれや。」

 そう言ってバーグが棚から取り出したのは見るからに高そうな瓶に入った酒だった。


「・・・うまいなこれ。」

 目の前に置かれたグラスに注がれた酒をに口をつける。

「まあな。11年ものだ。・・・ついぞ封を開ける機会を見失ってたがな」

 懐かし気に笑った後、彼もグラスを傾ける。


「年取ると酒も弱くなっていけねえな。」

 そう言うと彼はおもむろに話始めた。


――少し昔、とある所に腕っぷしだけが取り柄の一人の騎士がいた。


 誰かを守りたいとかそんな理由なんて何一つ無く『剣を振ることが人より得意』。それがその男が騎士になった理由だった。

 民を、国を、弱き者を守る。そう言ったほとんどの騎士がもっている理想や信念ってものがそいつには少したりとも理解できなかった。


 粗野で乱暴で自己中心的。騎士であることを除けばクソ野郎だ。


 けれど、世界は広かった。そんな男にも心の底から守りたいと思えるものができた。

 優しく、気立てが良く、贔屓目に抜きに美人な街娘。若くして子供をもうけたが旦那に先立たれ、女手一つで子供を育てるそりゃあいい女だったそうだ。


 はじめは鬱陶しかった。たまたま配属された街で出会い、何かとお節介を焼いてくる。

ちゃんとしたものを食べているのか?傷の手当はちゃんとしなさい!少しは人に優しくしなさい。

寝ぐせ治せ!などなど。顔を見れば小言を言われる。

 

 だが、ある時男は気づいた。「・・・そんなに嫌じゃなくなったな?」と。

 

 それからさらに時は経ち、いつしか男はその「お小言」を待ちわびるようになった。

そんな鬱陶しいいつもの会話を、これからも守っていきたいと。剣を振りながら思うようになった。


 ある日、街娘は言った。「自分には先立たれた夫がいた。子供もいる。それでも、一緒に居たい」と。こんな男でいいと。いや・・・こんな男()いいと。

 

 男は柄にもなく悩んだ。まともな返答もできぬままに7日7晩も悩んだ。自分のような男が彼女のような女性のそばに居てもいいものかと。そんな資格があるものかと。

 しかし男は思った。「こんなにウジウジ悩んで俺らしく無い!」


 少しばかりの遠征に旅立つ朝、男は告げた。「帰った来たら話したいことがある。今度くらいは寝癖も直していくから、ちゃんと聞いてほしい。」なんともカッコのつかない言葉だった。

 

 遠征も無事に終え、街への帰路の途中立ち寄った街でなんとも似合わぬ小さな花束を買い、彼女の子供が大人になり、いつの日にか「父」と呼んでくれた日に飲めたら。・・・なんて浮かれて少々高い酒も買った。


 人生で初めて・・・いや気づかないフリをしていただけだったのかもしれないが。とにかく早く街へと帰りたいと思った。

 そして、許されるならば彼女と彼女の子を力いっぱい抱きしめてみたいと。

 殺すことしかできなかったこの腕でも何かを愛してみたいと――


 つらつらと、まるで童話でも語るかのように話していた口を止め、グイっと一気にグラスをあおり酒を飲み干す。

「・・・何をそんなに物欲しそうに人のこと見てんだ?」

「いや、早よ続き。」


 バーグはふっと鼻で笑うと自分のグラスに酒を注ぎ足す。

「続きなんて無えさ。男が戻った時にはすでに遅し。大事だったものは焼け落ちて、今まで散々無駄に振るってきた剣は・・・抜くべき時には、行き場を失ってた。」

 

 心の底から嘲るように、彼はもう一度鼻で笑った。


「――おれにはあいつを導てはやれねえ。おれは、あの日から止まっちまってんだ。もう、あいつの前を歩くことは出来ねえ。けど、あいつは・・・ボルクスはまだ間に合うはずなんだ。だから、頼む。」

 そう深々とテーブルに頭をつける。


 グラスに残った酒を飲み欲し彼の手から酒の瓶を取り――封を閉める。

「半分くらい飲んじゃったな。まあ簡単に腐るもんでもねえし残りはとっとけよ?あんたの()()()()がしっかり大人になったら連れて帰っくるよ。残りはそん時にな。」

 

 封をした半分ほどの酒を棚に戻し扉に向かう。


「それにおれは悲劇ってのが嫌いなんだよ。見るならみんな笑顔のハッピーエンドって決めてんだわ!」

 

 うつむく彼に笑顔でいいね!を繰り出す。


「はっぴーえんど?なんだそりゃ。」

「みんなが笑える物語!いちいち説明させんなよ、恥ずかしい。」

「・・・だったら知らねえ言葉を使うんじゃねえよ。たくっ。」


 そう言った彼は今度は上を向き

「・・・歳にはかなわねえな。せっかくのいい酒がもったいねえ。すぐ出て行っちまう、、。」


 服の袖で顔をぬぐっていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌日、朝ごはんも食べずにおれたちは家を出た。


「タイヨウもういっちゃうのかよ~」

「またきてくれる?」

「おれたちのひみつきちもまだみせてないのに!」

「おれもしょうらいはタイヨウみたいに変なひとになる!」


「おいおいガキんちょども。秘密基地は秘密にしとくもんだぞ?そんな簡単に教えないの。あとおれは変じゃねえからな、デオン!それとうすうす思ってたけどお前らいつの間にかおれのこと呼び捨てにしてるし!敬え!年上だぞ!」


「い~じゃんおれたち友達だろ!」

「そうそう友達!」

「リルは、お友達じゃなくてお嫁さんがいいな・・・」

「「「え?」」」


 リルの発言におれよりも子供たちが固まる。

「ははは!そりゃ悪くねえな!よしお前ら指出せ。約束だ。また絶対遊びに来るからさ!」


「ゆびきりゆびきり!」

「ボルクス兄ちゃんとシルヴィア姉ちゃんもゆびきり!」

「ほらはやくはやく!」


「いや、僕は・・・。」

戸惑うボルクスをシルヴィアが微笑みながら無理やり輪に加える。

「ほ~ら。お兄ちゃんでしょ?」

根負けしたボルクスも交え七人でゆびきりをする。


「「「「ゆーびきりげんまんうっそついたらはーりせーんぼんのーます♪ゆーびきーった♪」」」」


「いやはや私も残念です。こんなに早くお別れになるとは。」

「別に出てこなくてよかったですよ?ガキんちょ達とのお別れできれいに締まったし。」


 いつの間にかそばに立っていたエンダにも別れを告げる。


「結局一度も訪れてくれませんでしたね?待っていたんですよ?」

「それは残念。あいにくおれの方には()()()()騎士様の所へお伺いするほどの用事は無かったもんで。」

「次回この街へ来るときは今度こそお待ちしてますね?」


 こちらの皮肉もどこ吹く風。さらりと受け流し握手を求めてくる。


「そんな今度が来ないことを、心から願ってます。」

ニッコリと笑い握手をしておれたちは街を後にした。





「本当に良かったのボルクス?」

「・・・いいんです。言っていたでしょう。僕はただのお荷物。こうして二人に同行させて、貰えるだけでもありがたいです。」


 結局あの後、二人は一度も会話を交わすことなく街を出てしまった。


 不本意ではある。でも、おれが何か横やりを入れてすぐに解決するような問題でも無い。

 時間が解決する、と言ってしまうととても無責任に聞こえるが、どうしたって時間が必要な時だってあるはずだ。


 いつかあの酒が飲めるようになるまで。今は気長に待つのも一つだろう。


「雲行きが怪しいですね。残りの森は1日歩けば十分に抜けれる距離ですが、一つ目の野営地で今日は止まっておきましょうか。そこなら雨が降ってもしのげる小さな洞窟もあったはずですし。それでいいですか?」

「はいよ。この辺の森のことはお前の方が詳しいからその辺は任せる。」

「うん。いざとなったら役に立たないからわたしもボルクスに任せるね。」


「ありがとうございます。でしたら1時間もすれば着きますので。街を出て4時間ほどの距離で野営というのもなんともかっこのつかない話ですが。」


 ボルクスの言う通り野営地にはあっという間に着き「今のうちに焚き火用の薪を拾ってきますので少し休んでいてください」そう言って森の中へ入っていった。


「ねえタイヨウ?」

「ん?」

「大丈夫かな、ボルクス。」

「大丈夫ではないだろうな。けど男ってバカだからな。意地張りてえ時もあんだわ。」


「そういうものなの?」

「そういうものなの。今はなんも考えられへんくらいに動いて、しばらくして頭冷えたらまた変わるから。それまでは何言われても安増納得できねえもんなのよ。だからそっとしといてやってくれな。」

「・・・わかった。タイヨウがそう言うならそうする。」


 心配そうな彼女の頭をポンポンと叩き、タバコを吸おうと洞窟の外へ出る。

 数分とせずボルクスも戻り日が暮れる前に食べ物を調達しようという事になり森に入る。


「最近まじでダメな。おれのたんぱく質はいずこへ~。」

「そうですね。僕もこちら側での狩りは初めてなので何とも言えませんが・・・条件は悪くないと思うんですけど。」


 たんぱく質限を泣く泣く魚に切り替え木の身も取り洞窟へ戻る。



「おつかれさま。どうだった?」

「ぜ~んぜんダメ。」

「はい、魚は多少とれたのですが獣は全く。」

「そっか~。しかたないね。よしそれじゃあたまにはわたしがご飯を作ってあげようかな?」


 嬉々として恐怖発言をするシルヴィア。おれにはその姿が、もはやマッドサイエンティストにしか見えない。


「本当ですか?それはありがたいのですがいいのですか?」

「良くない!自然の恵み、無駄にする、良くない!今日はおれが作る!」

「?」


 何をそんなに焦っているのか。といった顔で見てくるボルクスと大変不服そうなシルヴィアを横目に少し早めの夕食の準備を始めたおれだった。


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