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なぜ自分だったのか



 剣を振る。剣と言っても木刀だが。これは毎日の日課だった。1日千回。毎朝欠かさずこの10年間続けてきた。少しでも前に進めていると信じて。なのに・・・


「くそっ、、!」

雑念を振り払うように素振りを続けている。どうしても離れない彼の言葉。

『それでなにか戻ってくんのか?』


 そんなはずはないと、あの日助からなかった人たちの為にも僕は前に進むんだと、そう決めたはずだったのに。

「あの日から・・・何も変わってないな。」


 今でも鮮明に覚えている。火に包まれ燃え盛る街並み、漂う断末魔。呆然と歩く僕の行く手に転がる知り合いや友達だったモノ。そして、臆病なせいで逃げ遅れた僕を庇い崩れる家の下敷きになった母さん。


――なぜ僕なのか。なぜ僕だけを残していってしまったのか


 ほんの数分だったのかもしれないし数時間だったのかもしれない。もう10年以上前だというのにいまだに瞼を閉じればすべて昨日のことのように思い出せる。


「こんなに朝早くから鍛錬?えらいねボルクスは。」

今日の来訪者は少し前からうちに住み込みで働いてくれているシルヴィアだった。


「おはようございます。うるさかったですか?」

「ううん。いつも素振りの音は聞こえてたから。休憩だったらそこ、座ってもいい?」

微笑みながら彼女は腰かける。


 キレイな人だなと、純粋にそう思える人だ。もちろんこの町にも美人な人、かわいらしい人はたくさんいる。けれど彼女を表現するのなら「キレイ」という言葉しか当てはまらない気がする。


「・・・タイヨウとケンカでもしたの?」

「・・・お二人ともそろって勘がいいんですね。それとも、そんなに僕は滑稽ですか?」

つい先日のやり取りを思い出し言葉尻がきつくなる。


「わたしは、タイヨウみたいに、見てたらいろいろわかるとかじゃないから。詳しいことはわかんないよ。でも・・・辛そうだなっていうのはわかるかな。」

彼女は変わらずほほえみを浮かべながら話し始めた。


「わたしはね、タイヨウに会うまで世界が怖かったの。わたしがいると周りがどんどん不幸になっていく。わたしの大好きな人たちはどんどん遠くに行っちゃうってね。」


「なにをしても嫌われるならもう関わらないでおこう。わたしに笑う資格なんて無い。って思ってた。結局寂しくて、突然現れたタイヨウとは仲良くしちゃったんだけどね。」

そう言うと彼女はとてもうれしそうに笑った。


「それでねタイヨウに助けてもらって初めて思えたんだ。こんなわたしでも泣いていい、笑っていいって。『笑ってほしい』そう言ってくれたから。今でも少し怖いけどでも、たった1か月くらいで思い知らされちゃった。」


「顔を上げると世界はこんなにきれいなんだなって。今まで暗く見えてたのはわたしが勝手に俯いてただけなんだなって。何が言いたいのかわかんなくなってきちゃったね」

 少し頬を赤らめ照れ笑いを浮かべて彼女はこちらを見る。


「・・・タイヨウはすごいですね。人に好かれる特殊な魔法でも使ってるんじゃないかと思えるくらいに暖かくて強くて。僕とは・・・全然違うんですよねきっと。」


 この数日彼を見ていて激しく抱いた感情は『嫉妬』だった。

なんともみじめな話だと思うが。たかが数日で器の違いとでもいうものをまざまざと見せつけられた気がしていた。


「多分・・・僕は褒めてほしかったんです。抱えた過去の話をして、僕の今の話をして。がんばったんだな。って。タイヨウみたいな強くて大きな人に認めてもらえれば、、少しは安心できるかなって思ってたんです。」


 「どうして?」なんてワザとらしいにもほどがある。本当に気づかれたくないのならいくらでもやりようはあったはずなのに。


 けれども、何度も思ってしまった。彼のことをよく知っているわけじゃない。本気で戦っている姿を見たことも無い。それでも思ってしまった。この人のようであれば、あの時――救えたかもしれない。


「結果は浅はかさを露呈しただけ。目を逸らしていた事実を改めて突き付けられただけでした。でも、だからと言ってどうしたらいいんですかね、、。僕が子供みたいに駄々をこねているだけだってわかってます。でも・・・」


「・・・僕はタイヨウみたいに強くは無いんです。彼みたいに前だけ向いて歩くなんてこと、、、。僕にはできない、、、。」 

 みっともない。事実を受け入れることもできず挙句女性の前で泣いてしまうなんて。


 うつむき涙を流していると何か暖かいものに包まれた。

「タイヨウが言ってたんだけどね。辛い時や苦しい時は泣いたっていいのよ。大声出して泣くとすっごくスッキリしてまた頑張ろうって思えるから!・・・だから。なんにも恥ずかしいことなんてないよ?」


 そう言って彼女は僕を抱きしめてくれていた。暖かくて、すごく優しくて、いい香りがする。不謹慎にもそんなことを思ってしまう。


「――タイヨウもね、前だけ向いて歩けてるわけじゃないよ?最初に会った時なんて笑ってるけど、いつ死んでもいいみたいな目してたんだよ。」

少なくとも今の彼からは想像もつかなかった。


「だからね、ボルクスもきっと前を向ける日が来るから。大丈夫、なんとかなるよ。笑ってれば良いことが起きるんだって!それでも笑えない時は、タイヨウに助けてもらったらいいの!タイヨウはすっごくカッコいい『ひーろー』なんだから!」


 顔を上げると彼女は親指だけを立てた見たことのない所作をしていた。


「ひー・・ろー?」

「タイヨウに教わったの。『ひーろー』って言うのはタイヨウの国で『英雄』って意味なんだって。ついでにこの所作は、なんかこう・・・「いいね!」って思ったら使うんだって!変だよね?」

そう言って笑う彼女につられてつい僕も笑ってしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・タイヨウ。先日はすいませんでした。つい感情的になってしまい・・・」

「いや、おれも配慮が足りなかったよ。わりい。けどな―――」

「いえ、この何日か考えて・・・まだどうすればいいのか何をすべきなのか正直わかりません。でも少しでも前に進みたいから――残り数日僕に稽古をつけてくれませんか?」


 何の話をしていたかまでは()()()()()()()()ほんの少し憑き物は落ちたみたいだ。


「ま、何か一言二言言ったくらいでコロッと心変わりするなんて思ってねえさ。ゆっくりでいいから少しづつさ。焦る旅でもないからいくらでも付き合っってやるよ!それよりも――」

「はい、、!」


「・・・お前昨日シルヴィアに抱き着いてたな。なんだあれは?・・・弟分でも許さんぞ。」

「・・・・・・」

ぽかーん。口も目も明けたままボルクスが静止し


「あははははは!なんですかそれ!――でも、いいですね弟分!」

盛大に噴出した。


「笑いごとじゃねえぞ!おれなんてまだ手もつないでねえのにこのガキめ!3年早えよ!!」

「いや、すいません、、、!もっと怒られるかと思ってたので。」

・・・とりあえずはよしとするか。

(にしても、彼女の思わせぶりも問題だな・・・ライバルには気を付けねえと。)


「とりあえずひと段落かな。怒ったところでお前の悩みは消えるわけじゃ無し。そんなことより・・・どうだったんだよ?正直な感想を聞かせろ。」

「まだその話続いてたんですか?思っていたよりもお子様な兄貴分なんですね。ですがそうですね。正直に言うのなら暖かくてやわらかくて・・・良い匂いがしましたね!」


どこで覚えてきたのか良い笑顔でいいね!をしながらそう言った。

(稽古つける名目で絞り上げてやる、このガキ、、、!)

そんな大人げない思いを胸に秘め少年の顔を見つめ返した。



翌日の朝。

「そんな感じで約束しちまったからさ。もうしばらくここに居ても大丈夫か?」

「大したもんだ。坊主をこうも早く丸め込むとは驚いた。けどいいのか?お前らにはおまえらの目的があるんじゃないのか?」

「残念ながら今回はおれはなんもしてねえよ。そのへんはシルヴィアを褒めてやってくれ。それに、せっかくできた弟分をこんな中途半端では放り出せねえだろ?」


「てか、話は少し戻るけど――」

「どうした?」

「配達の件よ。おれが苦手って知ってるなら先言っといてくれよ、()()()の事。」

じろっとバーグの方を見る。


「ああ、その事か。悪い悪い!やっぱ苦手だったか。」

彼はいつもより少し愉快そうに笑う。

「ったく。おっちゃんも苦手ってことはなにかあったのか?」


「別に何かあったわけじゃねえが。どうにも苦手でなぁ~。あいつとは10年来の付き合いで、まだあいつが駆けだしだったころからの知り合いだが・・・どうにも本心が見えないというか、何考えてんのかわからないっていうかな。」


「珍しく歯切れわりいな。けどそれは同感。何がってわけじゃないんだけど、なんか苦手。」


 10年来の付き合いってことは思ったよりも歳いってんだな。そんなことを思いながら朝食とともに出てきたコーヒーを飲み干す。


 国民証はエンダの話では2日後には届くらしいがもう少しこの町に滞在することにした。



「ということで本日よりボルクスを強くしよう!ボルクス強化週間です。アーユーレディ!?」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


「なんだよ、ノリ悪いなあ・・・人が折角テンション上げて盛り上げようとしてんのに。」

「あ、ごめんね。タイヨウ、すっごく変なかんじだったから・・・」

「すいません理解が追い付かなかったもので。こうゆう時はどうするのが正解なのでしょうか、、、?」


 全くこのインドア派どもめ。これじゃ本当に変な奴みたいじゃねえか。

「いいか?おれの国ではアーユーレディ?って聞かれたら両手を突き上げて―――」

「イエエエエーイ!だ。はい!ご両人それではもう一度。――アーユーレディ!?」


「「い・・いえええい。」」

小さく手を掲げ二人が渋々声を発する。


「こんな事じゃ先が思いやられるなあ。」

「えっと、これにはどんな意味があるのですか?」

「まあ気合を入れる掛け声みたいな感じだな。今日も一日がんばろう!みたいな」

「な、なるほど。」

 

 理解したのかしてないのか微妙な表情ではある。とりあえずは良しとして先に進もう。


「なんかあれだね。タイヨウ・・・どんどん変になっていくね。」

「どんどんとは?別に最初から変じゃないですけど??まあクヨクヨしてても仕方ない!口に出したら結果が出やすいみたいに元気出してえときはまずは雰囲気からでもってな。」


「さ、場も盛り上がったところで。まずおれは人に何か教えられるほどちゃんと剣術やらをやってた覚えは無い。」

「じゃあどうするの?」


「習うより慣れろだ。いまだにおれも魔力回路をうまく使えてない。なのでそこらへんはむしろコツとかがあれば教えてほしい。よろしくお願いします。後はもうガンガン実践。とにかくおれと組手して体を動かす感覚を鍛える。」


「なるほど。やはりタイヨウは天才肌と言いますか・・・」

「はいそこ。やんわり人を傷つけない。ほら、時間も無限にある訳じゃねえんだ。あと素振りとかももちろん必要だろうから無理のない範囲で続けるように。」


「タイヨウも毎日夜中にやってるもんね。」

「・・・なぜそれを?」

「ふふ。バレてないと思ってたの?みんなが寝た頃にコソコソお布団抜け出してやってたでしょ?」


「・・・そーゆうのはバレると恥ずかしいので言わないように。兄貴分の威厳が崩れます。」

「あれ?タイヨウ、バレてないと思ってたんですか?」

 ふむ、おれの人知れず行っていた努力がこうも筒抜けとは驚いた。明日以降はもっと注意しよう。


 だが実際、少し焦ってはいる。急がない旅だとは言ってもエルフが魔獣に狙われやすい種族だというのは聞いている。それも荷車から頂戴した『仮装の首輪』があればある程度ごまかせるらしいがそれも完璧では無いだろう。


 万が一、もう一度ウガルクラスの魔獣と1対1での戦闘になればかなりまずい。この間のあれは運がよかったの一言に尽きる。〈強化(ブースト)〉を使ったとしても今のおれでは一度きり。数分戦えばそれでもう使い物にならなくなる。


 その上いまだに『聖剣』についても謎。なんのご利益も得られていない以上土壇場に頼る秘密兵器にしてはリスクがデカすぎる。

「・・・そううまいことはいかねえよな。」

「何か言いましたか?」

「いやこっちの話。ほら、はじめんぞ。」

「はい!」

気合の入った返事とともにボルクスが切りこんでくる。その剣をいなし足を払いこけた所へ寸止め。


「悠長にこけてる暇ないぞ~すぐ立つ!立てねえなら転がったままできる次の手を考える!」

「はい!」


悩み事は尽きないが、そんな感じで強化週間は幕を開けた。



「――――ぐっ。まだまだ!」

「はい、今日はここまで。これ以上は大ケガになりかねねえ。あと戦ってる時に余分なことは考えない。悩む気持ちはわかるけど、まずは勝つことより生き残ることに集中しながら勝ち筋を探す。死んだらなにも始まんねえからな。」

「はい、、。」


 ボルクスはこの世界基準では知らないが十分によくやっているように思う。ただどうしても焦っている感じが否めない。

「はい、二人ともお水飲む?」

シルヴィアが差し出してくれた水を飲みながら彼の方を見る。


「どうだ?ちょっとはなんか掴めそうか?」

「はぁはぁ、今のところは、、、全然・・・」

「焦り過ぎも良くないねえからな。ま、気長に行こう。ぼちぼち仕事の方も終わらせて戻るか。いつもよりちょっと早い時間になるけど休憩もちゃんと取るべし。」

「そうですね。」


「あー!タイヨウだ―!」

「こんな時間になにしてんの!」

「おはようタイヨーウ!」

町を出る寸前で悪ガキ軍団に囲まれた。ガキんちょ軍団は仲間になりたそうにこちらを見ている。


「残念ながら今は仲間は集めてねえぞ。それとリル以外はまず挨拶をする!はい、おはようございます。」

「「「「おはようございーす!」」」」

ぺこりと頭を下げる子供たちを見て単純なやつらだなとついほほが緩む。


「はいよろしい。で、お前らはこんな早くからどこ行くんだ?」

「おれらはね―畑におやさい取りに行くんだ!えらい!?」

「おおーお手伝いか。えらいえらい!そしたらおれも今から森に狩りに行くからなんかうまそうな果物取ってきてやろう。」

ちょこんと並ぶ子供の頭を順番に撫でる。


「ほんとう!?」

「やったー!」

「やくそくだからな!やぶったらまたかんちょ―するからな!」

「だったらねあたしはきれいな石が欲しい!」

「はいはい、朝から大きな声出さない。近所迷惑でしょが。」

騒ぐ子供たちにしーっ。と指に口を当て子供たちも真似してくる。


「はい、じゃあ約束。」

小指を立てて差し出すと全員が不思議そうな顔で見つめてくる。


「それなにー?」

「いつものいいね!ってやつ?」


 ふむ、どうにもどこまで伝わってどこまで伝わらないのかがイマイチわからない世界観だな。


「これは指切りげんまんって言って。嘘はつきませんよっていう約束の儀式。

こうやって小指と小指をつないで――」


「ゆーびきりげんまんうっそついたらはーりせーんぼんのーます♪ゆーびきーった♪って唱えます。ちなみに約束を破ったら針を千本飲まないとダメです。」


「うぇ~いたそう、、。」

「でもおうたかわいいね!」

「だからこれをした約束は破ったらダメなんだぜ?ほらシルヴィア、ボルクスお前らも。」


「ええ?僕らもですか?」

「一人で集めるのがめんどくさくなったんでょ、タイヨウ?」

「はて、なんのことやら?まあいいじゃねえか。はいではご一緒に―――」


「「「「「「「ゆーびきりげんまんうっそついたらはーりせーんぼんのーます♪ゆーびきーった♪」」」」」」」


「うし、じゃあ各自解散!持ち場に戻れ!」

「はーい!またあとでなタイヨウ!」

子供たちは手を振りながら元気に町の畑の方へ走り去って行った。




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