看板男
「二人は明日からどうするんだ?聞いた話だと、しばらく動けないんだろ?」
「ボルクスに聞いた話だと3週間くらいは動けねえみたいだな。その間はこの街で待機しかねえよな。今回はたまたまうまく街に入れたけど『国民証』が無いとこれから先の街に入るのにも苦労しそうだしな。」
これに関しては田舎の小さな街と言われているこのデロスでも、多少の時間がかかった以上ここで手に入れておくのが正解だろう。
あとは宿屋ら生活費やらの問題なわけだが・・・
「ならその間、うちに泊まってけばいいさ。坊主と二人だからな、部屋は余ってるし気にすんな!」
「でもさすがに3週間は迷惑にならない?どこか宿を探してタイヨウと泊まるから大丈夫だよ?」
そこはシルヴィアに同意だ。さすがに2.3日ならまだしも3週間近くも人の家に泊まりこめるほど図々しくはないつもりだし。
「そうだな、できるならその宿の口利きくらいまでしてもらえるとありがたいけど、、、。十分よくしてもらったし、さすがに泊まり込むってのは。」
「そうか?けど、気になってたんだが・・・お前ら金はあんのか?」
・・・痛いところをつかれた。いつか現実を見ないといけないとは思っていたがおそらくおれが持っている金は使えない。それに、もし使えたとしても所持金は2万円弱。どう考えても3週間しのげる金額じゃないだろう。
「お金ならわたし持ってるよ?そんなにいっぱいじゃないけど。」
そう言うと彼女は自分のカバンから小さな袋を取り出しそこからいくらか硬貨を出して見せた。
今まで使うタイミングが無かったので失念していた。シルヴィアはこの世界でもともと生活してたんだから多少持っていたっておかしくは無い。まあしばらくはヒモ状態になってしまうのは非常に恥ずかしい話だが・・・
「おお!おれにはわからんねえけど、金貨だし結構あるんじゃねえの!?」
「なんですかこれ?」
洗い物をしてくれていたボルクスが椅子に座り会話に混ざってくる。
そして金貨を見たボルクスの顔には明らかにはてなマークが浮かんでいる。金貨とは一般人の目には入らないほど珍しいもんなんだろうか?
「ほう、こりゃ珍しいもん持ってんなお嬢ちゃん。」
「これってそんな珍しいもんなのか?もしかしてシルヴィアって実はすごいセレブ、、、?」
「せれぶ??意味は分からないけどみんながそんなに言うならすっごいのかもね!」
エッヘン!と胸を張りながら彼女はこちらの顔を見ている。
「そうだな。すごいかはわからないが、珍しいもんではあるな。なにせこいつはかなり昔に使われなくなった金だからな。」
「え?けどけど、わたしが住んでた街ではこれでみんな生活してたよ?」
「お姉ちゃんが何処の出身かは知らねえが・・・まあかなーり田舎の方ならあり得るのかもな?なにせこの大陸はかなり広い。事実、統一しきれてねえ地域もあるのはあるしな。」
国としてそんなガバガバなことがあるか?と疑問には思ったがシルヴィアはエルフでありエルフの街で生まれ育ったのならもしかしたらあるのかもな。と納得することにする。
「じゃあ、結局おれらは無一文か・・・」
「ごめんねタイヨウ。今回は役に立てるかもって思ったんだけど・・・」
「だからうちに泊まってけばいいんだよ。なにタダとは言わねえ!泊ってる間はうちで働け!」
「ここで、働く?」
「なるほど。確かにそれはいいかもですねおじさん。」
ボルクスも大いに賛同し手をポンッ。と叩く。
「今どきそんなあからさまなこと誰もしねえよ・・・」
「幸い二人とも見た目がいいし、客受けもよさそうだ!」
「うちは肉屋なんですよ!森にいたのも修行と仕入れを兼ねていたんです。」
「そうゆうことだ!おれはお前らに仕事と寝床をやる。お前らは寝床を確保できて路銀も溜められる!どうだ?悪い話じゃないと思うんだがな?」
正直こちらからすれば願ってもない話だ。金も稼げてその上、衣食住付きときたもんだ。断る理由なんてないだろう。
「どうだシルヴィア?」
「うん!楽しそうだね!」
「よし!話は決まりだな!あとついでにうちの坊主もしごいてやってくれると助かる!その分金は出すからよ!」
かくしておれたちは仮住まいとバイト先を見つけ3週間の異世界バイト生活が幕を開けるのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「へいらっしゃい!今日も取れたばっかの新鮮な肉がそろってるよー!焼きに煮込みに、何してもうまい!あ、ちょっとそこのかわいいお姉さん?今日のご飯決まった?一回見てってよ~!」
「あらやだ、タイヨウ君今日も元気ね~。バーグさんこんなに元気な子どこで雇ってきたの?」
「そりゃ内緒だ!なにせ2週間でうちの看板娘ならぬ看板男だからな!」
こうしてこの肉屋で働き始めて2週間ほどが経った。この街はフレンドリーで話しやすい人が多く、よく来てくれる人たちと仲良くなるのにそう時間はかからなかった
「タイヨウ!母ちゃんからおつかい頼まれたんだけどこれあるか?」
「おう、チビっ子共!毎日毎日えらいな!そんなお前にはこの森で捕まえたうまい木の実をやろう!」
「タイヨウちゃん、これ貰えるかしら?」
「あざーす!明日もよろしくー!」
「兄ちゃん兄ちゃん今日は何時におしごとおわるのー?みんなで広場で遊ぶから来てくれよー!」
「はいはい、お仕事終わったらな!だから、大人しく向こうで待っとけよ?」
「やったー!あざーす兄ちゃん!」
「走ったらコケるぞー!!」
「タイヨウ、すごいね。子供からお年寄りまでみんな仲良くなっちゃって。」
先ほどまで慣れないバイトにてんやわんやしていたシルヴィアも落ち着いたのか、子どもと仲良くしていたおれをうらやましそうに眺めていた。
「自分でもびっくりだな。まさかこんな所に隠れた才能が眠ってたとはな。」
「いや本当に大したもんだわ。二人目当てで来る客もたかだか2週間でえらく増えたもんだ!どうだ?旅なんてやめて本気でここで働かねえか?」
我ながらこの数日の貢献度はなかなかのものだろう。異世界特有のチートスペックは持ち合わせていなかったが、秘めたる才能の開花はあったようだ。
「ま、冗談はここまでにしてちょっくら配達に行ってくるからよ。店番頼むわ!」
「配達やったらおれが――」
「ああ気にすんな。大した距離じゃねえし。それにちとめんどくせえ相手だからな。キリのいいところで店閉めといてくれや!」
配達分の商品を持ってバーグは歩いて行った。
このバイト生活もなかなか楽しいもんだな。としみじみ思う。というかこっちに来てからというもの血なまぐさい流れが続きすぎて少し疲れていたことも実感した。
朝は毎日仕入れという名の狩りに鍛錬も兼ねてボルクスとシルヴィアと三人森に入り、10時前後には店が開店。売れ行きにもよるが最近は好調らしく15時前後にはその日の分が終わるので店閉めしてその後は街の広場などで子供と遊ぶ。
「なんとも優雅な毎日だな、我ながら。」
「こんにちはタイヨウ君。今日は何がおすすめですか?」
「いらっしゃい、エンダさん。今日は―――」
今現れた彼はエンダ。今のところこの世界でおれが敬語を使う唯一の相手だ。街の反対側に住んでいる20代半ばくらいの爽やかな好青年。といった感じの人だ。
「――――とかどうすかね?」
「いいですね。ではそれを一つお願いします。」
ニコやかに笑う彼からお金を受け取り商品を手渡す。
「なにか、顔についてますか?家を出る前に洗ってきたのですが。」
つい、彼のことをじっと見ていたらしい。・・・理由はわからないがどうしても彼のことが、少し苦手だ。
「ああ、すんません。相変わらず爽やかやなぁ~って。」
そう言って笑ってごまかす。
「ははは。タイヨウ君に言われるとは。できればシルヴィアさんに言っていただけるともっと嬉しかったんですけどね?」
そう言いながら彼はシルヴィアのほうにウィンクする。
(・・・こいつが嫌いな理由はこれか?このキザやろう、、、!)
「タイヨウ君顔に出てますよ?」
ここまでの流れを見透かしていたかのようにそれだけ言い残しエンダは帰っていった。
「いい人だねエンダさん。いつもニコニコしてるし。」
シルヴィアは彼の笑顔を額面通りに受け取っている。というか、普通はそういう反応が正しいもののはずだろうとも分かってはいる。
「まあ・・・いい人なんだよな、普通に。」
「お二人とも今日の分ももうすぐ終わりなので順番に片づけていってもらえますか?」
「はーい。」
「あいよ。」
そんなこんなで本日も営業は終了。この後は晩ご飯の買い出しついでにチビどもの相手だな。
店の片づけをしているとどこかで聞いた声が聞こえてくる。
「よおボルクス。と、なんだ?こないだの旅の兄さんら。こんなとこで働いてたのかい。」
この街の初日に会った衛兵の二人だった。・・・相変わらず一人はこちらにガンを飛ばしてくる。
「いらっしゃい。・・・なにか買うのか?そうじねえならもう今日は閉店だ。冷やかしなら帰ってくれよ?」一応の営業スマイルを浮かべながらシッシッと手を振り「帰れ」と意思表示もする。
「まあまあ、そんな邪見にすんなよ。聞いたとこじゃ結構腕が立つんだってな?良かったらもっと稼げるとこ紹介してやるぜ?」
「気持ちだけ、ありがたくねえけど受け取っとくよ。それに友好的にしたいんなら、おれより先にお前のお友達に言ったらどうだ?」
話しかけてくる方の後ろのに立ちいまだに気に食わない眼をしたままの衛兵を睨み返す。
「お兄ちゃん。初日からそうだがケンカ売ってんのか?」
「残念ながら、今は肉を売ってんだなこれが。・・・高値で買い取りはしてやってもいいけどな?」
「・・・人間風情が言うじゃねえか。」
「お二人ともケンカはやめてください!」
歩み寄ってくる獣人とおれの間にボルクスが急いで割って入ってくる。
「おいおい、ボルクス。相変わらずの腰抜けか?まあそりゃあ、戦場から逃げ帰ってくるような奴が育ての親じゃそうなるか?」
「お、おじさんは腰抜けなんかじゃないです!おじさんは・・・」
「ああ?なんか言ったかよボルクス。」
睨む衛兵に言われボルクスは俯く。
「おう、おれになんか用かい?珍しいじゃねえか。お前らがこんなところに買い物に来るなんてよ!」
ちょうどいい。というか悪いというのか。いつも通り笑いながらバーグが配達を終え帰ってきた。
「お、おっちゃんお帰り。」
「・・・お帰りおじさん。」
「どうしたんだお前ら?そんな怖い顔して。シルヴィアちゃんも怖がってるじゃねえか。」
こちらのギスギスした輪にたどり着きシルヴィアの頭を撫でながら彼は衛兵の二人に視線を向ける。
「おれに用があったんじゃないのかお二人さん?稽古つけてほしいって言うならやってやろうか?隠居してしばらく経つが――はなたれ二人の相手くらいしてやれると思うがな?」
雰囲気がガラッと変わり今までの笑顔が別人のような威圧感をバーグが放つ。
こちらに向けられたモノではないにも関わらず思わず身がすくむほどの気迫。
「い、いや別にそういうわけじゃねえよ。近くを通りかかったら知った顔があったからよ。邪魔したな。」
バーグに気圧されたのか二人はそそくさとその場を後にした。
「・・・わりいなお前ら。ややこしいのに絡まれちまってよ。」
申し訳なさそうに苦笑いをしながらバーグがこちらを向きおる。先ほどまでの威圧感はどこへやら、いつも通りの世話焼きおじさん感が彼を包んでいた。
「あいつら、なんで毎回あんな絡んでくんだ?」
初日、街に入るまでは人間と獣人の確執といったぼんやり大きな問題かと思っていたが。ほかの獣人たちと話している感じ、あれはあの二人の個人的な問題みたいだ。
特に一人は明らかにおれでは無く、ボルクスやバーグに対して侮蔑とも取れる感情を抱いているように見える。
「あいつらは一昔前の獣人って感じの考え方が抜けてねえのさ。獣人ってのは基本的に好戦的で特に衛兵や騎士なんてやってる連中は強ければよし。戦場に赴いたのなら戦場で死ぬことを誇りと思ってやがるからな。」
「けど最近は戦争じみたことなんかねえんだろ?なら戦場どころか、騎士なんて大層なもんですら必要かどうかも疑わしい気が・・・」
騎士という役職や成人の年齢が15歳と言うのを聞いたときに少し引っかかっていたことだ。
騎士というのは元の世界で言う所の自衛隊みたいなものだろう。そして自衛隊があるという事は自衛しなければならない敵がいるという事になるだろう。それに成人が15歳というのも同じだ。
まあ考え方は時代背景や人種によっても大きく異なるのは常だが、あくまで一説では成人が早いのは戦時中に「大人」を増やし兵として扱える人口を増やす。という考え方もあったそうだ。
そうしてある程度の兵力を維持しているのにも関わらず、敵がいないというのは何ともおかしな話だろうと気になっていたのだ。
「まあこれから先、旅してれば嫌でも耳にするさ。戦争とは呼ばないものの厄介な遺産があったりするのさ。けど、平和なのは事実さ。おれが騎士をやっているときにも大規模な戦闘なんざ年に1回あれば多い方だし、騎士連中でも下位騎士の連中でそんなに意識高く励んでる奴なんかほとんどいないのが現状だな。」
(・・・遺産ねえ。)
彼にしてはえらく歯切れの悪い言い方だなと思ったが言わないという事はあまり触れたくない部分でもあるのだろう。
「・・・そしたらあいつらみたいにそんなことで絡んでくるやつは珍しい派?」
「今じゃそこまで戦いに固執してるやつも少ないんだがな。ただおれの場合、ケガはしたが動けない訳じゃない。それなのにノコノコ逃げ戻ってきたおれが気に食わないんだろう。」
またあの顔だ。なぜこの手の話になると、ボルクスが悔しそうなやりきれない顔になるのだろうか?
「ちなみに、お前に絡んでた方のやつは昔人間と色々とあってな。お前に限らず人間が嫌いなのさ。今の時代にはほとんど無いが・・・まだそんな風習が残っている街があったりもする。」
何度も聞いた種族差別ってやつか。
「まあ、次あったら適当に流しとくさ。」
「・・・やるならバレないようにしてくれよ?それよりも、そろそろ街のチビどもがお前らを待ちわびてシビレ切らしてる頃だろう?」
「いや、流すって言ったじゃねえか・・・どんだけ信用ねえんだよおれ。」
にこやかに話を逸らすバーグに合わせ適当に話に区切りをつける。
それに、買い出しもまだだし顔を出すと言って行かないとあのチビども、どんな攻撃を仕掛けてくるかわかったもんじゃない。
「そうだね。買い物に行ってしまわないと晩ご飯もたべれないしね~」
「ガキんちょどもにひでえ目にあわされる前にな、、、。ボルクス、行くぞー!」
仕事疲れとピリピリした空気にあてられたのか若干ぐったりとしたシルヴィアと、いまだに表情の晴れないボルクスの二人を引き連れて買い出しとチビどもとの約束を果たしに向かうのだった。




