マスコットなケモ耳親父
街中に入ると思っていた反応とは少し違った。
入口の衛兵の反応からして、もっと敵意むき出しかと思っていたが、向けられる視線の大半は物珍しいものを見る目。その中でも感じるのは大半が友好的な感じさえ受けるものだ。
「なんか・・・もっと殺伐とするかと思ってた。」
「そんな事無いですよ。基本的には獣人と人間の関係は良好です。関所の衛兵の方のように、ただ人間というだけで良く思わない人がいるのも事実ですが、、。」
人間側でもそんな感じだとデバンも言っていたなと思いだす。
「けど、珍しいのは間違いないんだろうな。すれ違う人が順番に見てくるし。」
「ここはかなり辺境の街ですからね。旅の方が来ることもあまり無いですし、この街にいる人間は僕と数名の騎士の方々だけですからね。」
騎士。またその単語が出てきたな。
「その「騎士」ってのは役職とか仕事とかそんな感じか?確かお前も騎士って言ってたな。」
「騎士というのは仕事というのが近いですかね?国に認めら選ばれた者のみがなれるものなのです!そもそも騎士とは――――」
(何か、すげえテンション上がってきたぞコイツ・・・)
――――――10分後
「―――というわけです!国民を守るために自らの身を省みず投げだせる清廉潔白な意思!どんな状況でも折れることのない強靭な心!他者の規範となれる正しい行い!そして何より、いかなる敵であろうとも倒す圧倒的な強さ!それがそろってこその騎士なのです!」
「ちなみに騎士の中にも階級がありこの街のように、主に地方の警備や治安維持を担っているのが『下位騎士』です。次にこの国の最大の都市、その中心部の城下街『アステル』の内部の警備に当たっているのが『上位騎士』です!ちなみに王都はデロスのような街がいくつも近隣に集まって形成されています!」
こちらが口をはさむ間もなく彼の怒涛の語りは続く。
「そして一騎当千と謳われるほどの方々が集まり王宮内部の警備を任されるのが『聖騎士』です!その中でも『王剣三銃士』と呼ばれ、一振当千とまで言われています!」
(こいつ、騎士ってよりか『騎士オタク』かよ、、、めんどくせえスイッチ押しちまった・・・)
「お、おう。丁寧な説明ありがとう、、。とりあえず、顔が近い、、。」
「す、すっごい熱意だねボルクス、、。」
あまりの勢いに横にいるシルヴィアですら圧倒されている。
まあ要するに騎士とはこの国における武闘派の国家公務員という事だろう。
そしてその中でも『下位騎士』『上位騎士』『聖騎士』という階級に分かれ、上に行くほど王宮に近いところの警備を任されるらしい。正直、話の真ん中部分は覚えていないが、、、。
「あ、すいません。騎士のこととなるとつい力が入ってしまって、、。」
「けど、お前も騎士なら結構すごいんじゃねえの?」
先ほどまでの勢いを失ったボルクスがはうつむき、急にもじもじとしだした。
「その、実は・・・僕は騎士ではないんです。ただ目指しているだけで。」
「あ~なるほどね。そのうちはなるって事ね。」
そう言うとボルクスは顔を上げすこし怪訝そうな顔をする。
「・・・僕が騎士になるという事を、笑わないのですか?」
突然不思議なことを聞いてきた。
「なんだよ。笑ってほしかったのか?」
「ですが・・・先ほど見た通りわかるかと思いますが、僕は弱いので、、。」
「今のところはな。それにお前の夢をお前が疑ってどうするよ。大丈夫、大体のことはやる気があればなんとかなるもんだ!」
「そう、、ですかね?」
「そうそう!人間、口に出したことは力を持つんだってよ。だから、本当に叶えたい夢なら恥ずかしがらず堂々と口に出しゃいいのさ!「できない」って言ってるうちは一生できねえぞ?」
「・・・そういうもんですかね?」
「そういうもんだろ。」
笑う俺をなんとも不思議なものを見る目で見てくるボルクス。表情から察するに二信八疑といった所か。
そのまま15分ほど歩いたところで一軒の家の前に到着した。
「ここが僕の家です!少し待っていてください。おじさんに説明してきますので!」
そう言うと彼はおれたちを残し中へと入っていった。
「すごかったねー、話してる時のボルクス。」
シルヴィアはよほど衝撃を受けたのかまだ先ほどのボルクスの姿を思い出ししみじみとつぶやく。
「あれには確かに驚いたな。」
うんうんとうなづき同意する。
「けど話してる時のボルクス、なんかかわいかったね。」
ふふっ。と思い出し笑いをしながら彼女が言った。
確かにあそこまで何かに憧れ目を輝かせて話をできるってのはすごいな。単純に感心してしまうほどの熱意が溢れていた。その割には「自分が目指す」という事には消極的に感じたが・・・
「お待たせしました。どうぞ入ってください!」
数分と経たず戻って来たボルクスに声をかけられおれたちは家の中へと上がり込む。
そして出迎えてくれたのはなんというか、マスコット。という感じの男性だった。
「いらっしゃい!こいつの父親のバーグ・ディンギルスだ!こいつが友達を連れてくるなんて初めてだから、足したもてなしもできないがゆっくりしていってくれ!」
マスコットっぽいタヌキを彷彿とさせるかわいらしい容姿。
しかし豪快に笑うマスコットの左目には全くかわいげのない大きな傷。他にも大小無数の傷跡。おそらく出てくるときに引きずっていた右足も彼の体に傷跡を残した激しい戦闘の後遺症だろう。
だが何より驚いたのはその男性、バーグが獣人であったことだ。ボルクスが人間なので勝手に父親もそうだろうと思っていたが・・・
「ははは!ボルクスの親がなんで獣人なんだ。って顔してるな、お兄ちゃん!」
・・・おれってばそんなに顔に出るのだろうか。
「まあ立ち話もなんだ。中に入って座ってからにしようか。おい坊主!お茶入れてやってくれ!」
「おじさん、その坊主って言うのいい加減やめてくれよ!もう今年17だよ、僕。」
「バカ野郎!いっちょ前なことはもうちょっと強くなってから言う事だな!」
バーグはまた笑うとリビングの方へ招き入れてくれた。
「あらためてタイヨウ・キリュウ殿、シルヴィア・ルナフォート殿。うちの息子が迷惑かけたみたいで悪かったな。礼を言う。」
そういうとボルクスとバーグは揃って深々と頭を下げた。
「いやいや・・・そんなかしこまらねえでくれよ。それに、どっちかというと助けられたのはおれらなわけだし・・・」
「そうそう!わたしたちボルクスに会えなかったら街に入るどころか、まず入り口にもたどり着けなかったかもしれないし。ね、タイヨウ?」
なんらかの意図を込めてジロりとこちらを見るシルヴィア。
「いえ、実際お二人がいなければ僕はあそこで死んでいたかもしれません。」
「ボルクス。何度も言ってるだろう。最近はやたらと強い獣が街の近くで確認されてんだ。一人で狩りに出るなって。」
おれたちは森の奥側から来ているので気づかなかったが、あのイノシシみたいな強い獣は街の方にはあまり出ないらしい。最初のボルクスの慌てぶりもなんとなく合点がいった。
「街の方にも森の休憩所みたいな感じで結界みたいなのが張られてんのか?」
「獣除けの術式の事か?その通り街にも張られてるぜ。まあ、あいつらは強かろうと所詮は動物だからな。人の多いところには基本近づいてこねえがな。」
「わざわざ人に寄ってくるのは魔獣くらいのもんだが・・・魔獣は夜しかうろつかねえし、襲われるのも旅人あたりが運悪く。っていうのが定石だな。」
「なるほどね。まさにちょっと前のおれらだな。けど、基本街やあの旅人用の街道の休憩所みたいに術式があれば寄って来ねえんだろ?」
「それが極まれにだが、どういう理屈か命がけで術式を破壊して襲ってくる物好きもいるだなこれが。獣の考えることはよくわかんねえぜ。」
「・・・それって結構まずいんじゃねえの?」
「はい。魔獣の強さは種類にもよりますが・・・普通の獣とは比にならないものも存在します。下手をすれば上位の騎士や聖騎士でも手を持て余すような種もいるとか。」
話を聞いて「確かに。」と頷く。先日出くわしたウリディンムと呼ばれた小さい方の魔獣は、今日戦ったイノシシと大差ない印象だったが・・・ウガル。あれは本当に強かった。あれ一匹街で暴れまわれば一般人では間違いなく壊滅するだろう。
「けど、そんなことが起こってたらタダじゃ済まないんじゃねえか?」
それとも、この国の『騎士』というのはあれなんて比べ物にならないような化け物なのか?
「その心配は大丈夫かと。実際に魔獣の群れが街を襲ったという例はここ何年かの間でも数件ほどしか報告されていませんし。術式を突破するのに数も減るので街まで入ってこれるのはごくごく少数ですね。」
「ちなみにウガルって結構出くわす感じ?」
「いえ、あのクラスの魔獣の出現はまれですね。まあ魔獣の発生方法などもはっきりわかっていませんので、どうすれば強い魔獣が生まれるのか。などはわかっていないのですが。」
「急にどうした?なんでウガルなんて物騒な名前が出てくるんだ?」
「この間森の中で遭遇しちゃったんだよね・・・」
おれたちの会話を静観していた二人が会話に混ざってきた。
「ウガルに!?上位騎士ですら1対1では手を焼く魔獣ですよ?どうやって逃げ切ったんですか?」
「う~ん、まあ気合で?いろいろと手を借り知恵を借りがんばった!みたいな?」
久しぶりのいいね!を披露する。
「・・・タイヨウって本当にすごいんですね。」
「ああ、そりゃ大したもんだ。ウガル相手に生き延びるとは大したもんだ。」
口を開けてこちらを見るボルクスや本当に感心したといった風のバーグを見ると本当にウガルは強いようだ。
「おっちゃんの反応やと、あのデカニャンコ見たことあんのか?」
「おっちゃんておれの事か?そこはお兄さんとかにしてほしいもんだが・・・お察しの通りだ。ずいぶん昔の話だがな。懐かしいぜ。」
「おじさんはこう見えても元上位騎士なんです。ゆくゆくは聖騎士にとまで言われたほどなんです!」
嬉々として語るボルクスの横で照れ臭そうに頭をかくバーグを見る。
(マスコット感に似合わぬ歴戦の傷はそういうことか・・・)
「そんな目で見たってなにも出ないぞ?おれはもう出涸らしだからな。騎士だったのだってもう10年以上前の話だしな。」
相変わらず豪快に笑いながらそう言った。
「てことは、その足のケガは10年くらい前に?」
「・・・まあそんなとこだ。ヘマやらかしてな、戦え無い訳じゃないんだがな。足引っ張るのもなんだし一線退いて片田舎で隠居暮らしってわけだ!」
ひらひらと手を振りながら笑うバーグに対し、その横で悔しそうに顔を伏せるボルクスが印象的だった。
そう思いながらボルクスを眺めているとパンっ!とバーグが手をたたき
「よし、話はここまでにして飯にするか!もういい時間だし腹も減ってくるころだろ?時に二人は酒はいける口か?」
手をたたいた音にびっくりしたのか横でビクビクしている小動物みたいなシルヴィアを見る。
「大丈夫大丈夫、、。」
「手をたたいただけであんなに大きな音が鳴るなんて・・・すっごいんだね、バーグさん、、、!」
「なにからなにまで申し訳ねえ気もするけど・・・貰えるならいくらでも飲むぜ?」
「はっはっは!そりゃあいい!うちの坊主は酒が飲めんからなあ!」
「おじさん、僕は飲めないんじゃなくて、飲まないんだ!酒なんて飲むのはダメな大人だ!」
「飲めねえやつは揃ってそう言うんだよなあ。」
「でもタイヨウも変な大人じゃないですか!」
その姿を見てバーグは愉快そうに笑っていた。




