獣人の町
おれは見知らぬ少年Aの上に座り込みながら過去の回想を終え、話は現在へと戻る。
昨日、一昨日と、たまに獣が出たり道に迷ってしまい正規のルートから外れてしまったりとちょっとしたハプニングはあったものの、概ね何の問題もなくゆったりとした旅路だったのだが・・・
「で?不法侵入ってなんなんだ?おれらは普通に旅してるだけだぜ?」
「とぼけんのも大概にしとけや!!わざわざ入り口以外から町に入ろうとするなんて人に言えねえようないけすかねえ事情があるからだろうが!?」
「ご、ごめんね?ちゃんと町の入り口から入ろうと思ってたんだけど。タイヨウが突然「地図の感じからして・・・この森を突っ切れば近道だろ。」って森にどんどん入っていっちゃって・・・」
「はぁっ!?街道は多少曲がりくねっちゃいても、ほぼ最短ルートになってるはずだろうが!!そもそもここは入り口とほぼ反対側だぞ!!?」
急がば回れとはよく言ったもんだ。近道をしたつもりがなぜかずいぶんと遠回りをした挙句、余計な労力をこう何度も使う羽目になるとは。
「はぁ~。ま、いったん場を整理してから落ち着いて話そうぜ。な?」
風に乗って漂ってきた獣臭。いつまでも座布団の上でまったりと話し込んでいるわけにはいかないようだ
「4,5,6体か。ここはお互いさっきまでのことは水に流して手を取り合おうぜ?」
「くっ、、この不法侵入者がいけしゃあしゃあと、、!!」
森から姿を現した獣は6体。 体高は約1.5mほどの濃い茶色の体に大きな牙の生えたイノシシのような姿。ここまでの数日では出くわすことの無かった獣だ。
「これはちょっとマジにやんねえとヤバそうだな。」
「おい不審者、、!この状況でどうやって逃げるつもりなんだ!!?」
「は?なんで逃げるんだよ。貴重な今日の晩飯だぞ?それともおまえは、四つ足動物を相手に森の中で逃げ切れるくれえ足に自信があんのか?あと、その呼び方やめろ。」
マンガのバトルシーンのように、首を鳴らしながら剣を抜き構える。
あちらもとっくに臨戦体勢だ。こうやって話している間に飛び掛かってきてもおかしくないほどにいきり立っているのが見て取れる。
「・・・正気か!!?何とかしのぎながら、入り口まで戻って、自警団の連中に手えかしてもらおうぜ!!」
「二つの意味でうるせえぞ。おまえ口ぶりの割にずいぶんと弱音が多いな?男なら腹くくれって。・・・おら、来るぞ。」
こうして謎のガキんちょ、もとい『自称騎士』との共同戦線が幕を開けたのだった。
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結果、共同戦線は10分ほどで終了した。3匹を仕留めたところで他が逃げ出してくれたおかげで。
「ふぅ。6匹だったらちょっとキツかったな。それより、デカい口叩いてたわりにはだったな?『騎士』さん?」
「ごめんねタイヨウ。毎回邪魔になっちゃって、、。」
「余裕余裕!ここはおれがカッコつけるとこだろ?代わりにケガした時は頼りにしてるぜ?」
毎度申し訳なさそうな顔をするシルヴィアに笑顔を向ける。
「・・・だからってケガしていいって事じゃないからね?」
確かに。いざという時に頼り過ぎないように気を付けなければ。
「それよりも・・・」
脇に抱えたガキんちょを見る。
「お前はもうちょっとがんばれよ、、、。」
一向に目を合わせようとしない彼を降ろしタバコに火をつける。
「とりあえず、話をしようぜ。このままだとおれは不法侵入者なんだろ?」
「・・・なんでだ」
「あん??」
「なんで僕まで助けてくれたんだ?」
「それ、いま重要か?ついでだよついで。どうせ倒さねえことにはどうしようもなかったわけだしな。」
タバコの煙を吐き出し続ける。
「それに善人ぶるつもりはねえが、目の前のガキんちょ無視できるほど腐ってもねえつもりだよ。」
「そうか。・・・あんた、良い奴なんだな。」
「ま、なんでもいいさそのへんは。で、ガキんちょ――」
「・・・ボルクスです。ボルクス ディンギルス。それとさっきは助かりました。ありがとう。」
「そういや自己紹介もまだだったな。おれは桐生 太陽。で、この横にいるのが。」
「シルヴィア ルナフォートよ!よろしくねボルクス君。」
じっと目が合い照れたのかボルクスは目を逸らした。
「さ、自己紹介も終わったことで聞かせてくれよ?確かに道は外れたけど、それだけで矢を射ってくるのはやり過ぎじゃねえのか?」
「タイヨウは知らないのですか?町に入るときは入口にある『関所』で『国民証』を見せて入らないとダメなんです。まあこの町は小さいから門以外からでも入れてしまいますが。もっと大きな町だと、門以外なんて普通は物理的に入れないですよ?」
「おれってば他の国から来たから、いまいちこの国の規則に疎いんだよな。ていうか、シルヴィアそんなこと一言も言ってなかったよな?」
「う~ん。そんなの必要だったかな~?わたしのいた町は、たぶんすっごく田舎だったからかな?」
「二人とも本当におかしな人たちですね?『国民証』は生まれた時に必ず発行されると思いますし、他の国ですか?街ではなく?」
「てかなんで急に敬語?そのままでいいぜ?」
「さすがに不審者の疑いは解け切ってないとはいえ、僕一人であれば死んでいたかもしれない状況でした。せめて、これくらいのケジメはつけないといけないかと。」
「疑いは解けてねえのな・・・」
たしかにまだ多少疑いの視線は残っているがずいぶんと敵対心は薄れたようだ。
「まあこの国もかなり広いので。僕程度では知らないことも多いかと思います。それよりも道を外れたと言っていましたが、なぜこんな所まで?ここは門から歩いて3時間ほどありますが?」
「ほらー!だから絶対違うって言ったじゃない!」
「おかしいな。おれの計算だとあと10分も歩けば森を抜けるはずだったんだけど?」
「タイヨウってすっごく方向音痴?」
否。断じて否だ。
「ちがう。今回は、ほら。獣と戦ったりしながらだったからだ。うん。・・・それは置いといてよ。その『国民証』ってのが無いと結局どっから入っても不法侵入になるんじゃねえか?」
「まあ、それはなんとかなると思いますよ。極まれにですが『国民証』を失くす方もいますし。お二人に害意が無さそうだということはわかったので、僕が付き添いでお連れします。」
「良かったねタイヨウ!」
「やっぱ良いことはしとくもんだな。ありがとよボルクス!」
「結果的にとはいえ助けてもらっておいて、なんのお返しもできないようでは騎士の名が廃ります。それでは話もここまでにして、門の方へ向かいましょうか。結構時間もかかりますしね。」
そうだなと頷き立ち上がる。質問などは歩きながらでもできるだろう。
「タイヨウそっちは逆じゃない?」
「タイヨウそっちは逆です。」
こうしてようやくおれたちは町へ向けて再スタートを切った。
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歩き出して2時間弱。川などを迂回しながらなので思っていたよりぐにゃぐにゃと森を歩き回っていた。
「なあここ迂回すんなら、あっちにまっすぐ行けばよくないか?」
指さしながら方向を示す。
「そう言ってるけどボルクス、あっちからの方が早い?」
「・・・そっちはほぼ逆です。タイヨウはもう黙っていてもらえますか?」
敬語ながらになかなか辛辣な返しだ・・・
「おかしいな・・・もしかしてここは方向感覚がおかしくなる「不思議森」か?とりあえずちょっと休憩しようぜ。」
「わたしも疲れたー。ちょっと座って休憩しよ!」
「不思議なのはタイヨウの脳内ですよ、、、。そうですね、二時間ほど歩き通しでしたし、まだ日も高いので十分門まではたどり着けるでしょう。」
二人の同意を得たので近くの岩に腰掛けタバコに火をつける。
「聞きたかったのですが。タバコとはおいしいですか?」
唐突にボルクスがおれの咥えるタバコを見て尋ねてくる。
「ダメよボルクス!タバコなんて何にもいいことないんだから!」
「吸ってるおれが言うのもなんだけどさ・・・確かにいいことねえな。てかまず、タバコは20歳からだろ?これは大人のための嗜好品なのさ、坊や。」
「誰が坊やですか。ですが、ここ『アッシャムス王国』では15で成人なので。その辺りは問題無いですよ。」
戦国時代かよ、、、。話している最中もタバコを眺めるボルクス。
「・・・そんなに気になるなら、吸ってみるか?」
そう言ってタバコを差し出してみる。
「あ!すいません。ねだったみたいで。でもせっかくなので少しだけ、、、。」
「あー!ダメだったらタバコなんて!タイヨウが変なのも方向音痴なのもタバコのせいなんだから!きっと!」
「そ、それは嫌ですね。やっぱり遠慮しましょうか、、。」
「そんな効果無えから。まあ無理強いはしねえけど、興味があるなら何でも試してみたらいいや。食わず嫌いは大きくなれねえぞ。」
おれの言葉を聞いてボルクスはジっとこちらを眺めてた後
「・・・説得力無いですね。」
突然の言葉のナイフだった。
「ですが・・・そうですね。何事も経験です、、!」
結局手を付けることが気に入らなかったのかシルヴィアはふくれっ面で睨んでくる。まあそんなことで挫けるおれじゃないがな。
迷いながらも手を伸ばしてくるボルクスにタバコを渡す。
「では。いきます、、!」
謎の気合を入れ勢いよくタバコを吸い込む。そして・・・
「げほぉ!ごほっごほっ、、!うぇ、げほっっ!」
予想通り盛大にむせた。
「初めてでそんな勢いよく吸い込んだらそうなるだろうな。」
「わかってたなら言ってくださいよ、、!」
先ほどの仕返しとばかりに笑いながら眺めるおれを涙目で見てくるボルクス。
「タイヨウってば意地悪しちゃダメ!大丈夫?」
で、むせるボルクスの背中をさするシルヴィアにおれが怒られた。
「すみません。おじさんも昔はうまいと言っていたので、、。」
「はははっ。わりいわりい。てか、その『国民証』って失くす人もいるんだよな?新しくもらえたりすんのか?」
「げほっ。基本的にはできますね。ただタイヨウのように異国から来た方というのは初めてですので。時間さえもらえれば何とかなるとは思いますが。」
やはり扱いに困るのはおれか。実際素性もまともに分からない人間がいてそいつにいきなり身分証を作れ。と言われて、はいそうですかとなる方が国としてどうかしている。
「ちなみに結構時間かかる?」
「まあ多少は・・・」
「なるほどね~。そしたらしばらくは足止めかな、これは。」
「出生届が出ていない方と同じ手順で言えばシルヴィアの『国民証』を待ってもらい、身元の証明者として一緒に王都へ行き申請を出す形になるかと。」
めんどくさい。どこの世界でも相変わらずお役所仕事は手間がかかる。
「はあ~だるいな~。そーゆう書類がどうのこうのとかが一番嫌いだ、、。」
苦い顔をしながら肩をすくめる。
「まあ、後々必ず必要になるものなので。諦めるしかないんじゃないですか?」
「そうだね。タイヨウの気持ちも分からなくはないけど、王都にはどちらにしても寄っておくべきだと思うし。ね?」
仕方ないか。そう諦めて立ち上がり歩きだす。
「タイヨウ・・・門はあっちよ・・・?」
「もう意気揚々と先頭を歩きだすのはやめてください・・・」
「やめろ!そんな可哀想なものを見る目で見るな!」
かくして順調に町の入り口に近づいているのであった。
「見えてきましたね。あれがデロスに入る門とその関所です!」
前方、数百mほどの所。高さ3mほどの木製の門と思わしき物とその手前に小屋があり、その前には多少の武装をした衛兵が二人立っている。
「到着したらまずは僕が話をするので、二人は少し待っていて下さい。特にタイヨウはややこしくなりそうなので静かにしていてください。」
「お前、敬語でも言ってる内容自体は変わんねえのな。」
この数時間でひどい言われようだが、この国の人たちから見ればそれは信用のならない変な奴だろう。住所不定、身元不詳。そんな状態で会話に混ざったところで何の説得力も無いことくらいおれだってわきまえている。
そうこうしているうちにも関所の目の前に到達しボルクスが一人衛兵と会話を始めていた。
「お帰りボルクス。また一人で狩りか?最近は獣や日が暮れれば魔獣も増えている。あまり一人で出歩くな。」
「僕ももう17ですよ!子ども扱いしないでください!」
衛兵に頭をわしゃわしゃと撫でられ恥ずかしそうにしながら手から逃れる。
でかいな。二人とも2m近いんじゃないだろうか。ガタイもかなり良く腕はおれの3倍くらい太い。
ただそんなことよりも目を引くのはその容姿だ。獣のような耳。形的にはピンと立ってオオカミやキツネのような感じの形だ。見た目も人というよりは、失礼かもしれないが二足歩行の犬と言ったイメージ。
これがデバンから世間話程度にだけ聞いていた『獣人』という種族なのだろう。
「獣人ってみんなあんなデカのか?」
「ねー。おっきいね!わたしの知ってる獣人はいろいろな人がいたと思うけど。大きい人は多かったかな?」
「へぇ。みんなあんなんだと、モメ事は避けた方が吉だな。」
「もう。当たり前でしょ?ボルクスにも迷惑かけちゃうからね?」
「わかってるって。別にケンカ吹っ掛けたりはしねえからさ。」
ボルクスと衛兵が会話をしているが、そのうちの一人がこちらを睨むように見ている。
シルヴィアもそのことに気づいているようで、だからこそのお小言なのだろう。
「で、ボルクス。あの二人はなんだ?お前はいつから獣を狩りに出て人間を捕まえてくるようになったんだ?」
「いえ、これにはいろいろ訳があって。説明すると少し長くなりますが―――」
ボルクスが事情を説明してくれている間も衛兵の一人は視線を外さない。その視線には明らかに敵意が混じっている。
「人間と獣人ってあんまり仲良くない種族な感じ?」
「う~ん?わたしの印象ではエルフは嫌われていることが多いから、タイヨウやデバンみたいに最初から話をしてくれる方が珍しいけど・・・獣人と人間は割と友好的なイメージなんだけど。」
「まあ、『国民証』とやらも持ってない不審者なわけだし、多少嫌われててもしょうがないか。」
そうは言ったものの、あの敵意は結構根が深い気がする。今来た不審者に対するものでは無く、ずいぶん前から焼き付いてしまったモノ。そういう印象だ。
「――というわけでお二人は『国民証』を持ってないのですが、悪い人ではないと思います。僕の家に泊まって貰うので町に入ってもいいですか?」
「ったくお前は。返り討ちにあったあげくその張本人に助けられて返ってくるとはな。親父といい本当お似合いの親子だな。」
「はは・・・。そうですね。」
笑いあってはいるもののボルクスの表情が明らかに曇ったのが見えた。
「まあ、いいだろう。命の恩人を森に放り出したとなっちゃ街の名が廃る。ただしボルクス。この街にあいつらがいる間はちゃんと目を光らせとけよ?」
「はい!ありがとうございます!」
話がまとまったようで少し離れた所にいたおれたちの所へボルクスが走ってきた。
「お待たせしました。許可が降りたので町に入り、まずは僕の家へ行きましょう!おじさんと一緒に住んでるのですがたぶん歓迎してくれるはずです!」
「何からなにまで本当にわりいな!助かる。」
会話をしながら衛兵の所まで行き手にハンコのようなものを押される。
「こいつが『国民証』が無いっていうあんたらの許可証みたいなもんだ。今度は失くすなよ?」
ニヤニヤしながら見てくるボルクスと話していた右の衛兵。左の衛兵は相変わらずガンを飛ばしてくる。
「ずいぶんと熱烈な視線どうも。・・・けどおれにそっちの趣味はねえぞ?」
「先に見てきたのはテメエだろう。町に入って早々ケガしたくなきゃ口の利き方には気を付けろよ?」
あからさまなケンカ腰。顔を近づけ睨みあっているとボルクスとシルヴィアが割って入って引きはがされた。
「ごめんなさい衛兵さん!この子、すっごく口が悪いの。」
「すいません。すぐ行きますので、、!」
押され引っ張られ、視線は逸らさないまま町の中へ強制連行されていく。
「ごほんっ!それでは仕切りなおして。改めてデロスへようこそ!お二人とも!」
目に入る町行く人々はケモ耳、ケモ耳、ケモ耳。目に入る人々はみんなケモ耳。
先ほどの衛兵のように獣よりな者もいれば、人にケモ耳が付いただけのような者まで。
「僕が説明するのもおかしな話ですが、ここは『獣人の町 デロス』です!」




