座布団と首飾り
「てめぇ!!人の上に当たり前のように座りやがって!!早くどかねえとぶっ飛ばすぞ!!」
「よく人の尻の下でそんなに強気になれるもんだな?」
「るせえっ!この不法侵入者が!!ガキのくせに偉そうにしやがって!!」
「誰がガキだこのクソガキ、、、!・・・やっぱこいつぶん殴っていいか?」
「ダメよタイヨウ!子どもには優しくしないとダメ!」
「誰が子どもだ!俺様は17だぞ!お前だって似たようなもんだろうが!!」
「あーあーうるせえうるせえ!そんな大声出さねえでも聞こえてるっての!」
「聞こえんてるならどけや!!」
突如襲ってきた少年を組み伏せ、座布団のように尻の下に敷きながら会話を続ける。
「んで結局お前はなんなんだ?攻撃してきた目的は?」
尻の下の少年の頭をポンポンと叩きながら顔を覗き込む。
その表情は相変わらず敵意向きだしといった感じだ。まあ、文字通り尻の下に敷かれていれば誰だって良い気はしないだろうが。
「俺様が誰かだと!!?俺様はこの街の『騎士』だ!!てめえらこそ俺様の町に忍び込んで何企んでやがんだ!!?ああ゛??」
「不法侵入って、、。」
さて、どこから話したものか。現状はあの夜に魔獣を倒した後日譚。という事になるのだろう。
あの直後からというのなら、話は3日ほど遡る―――
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「なあ、シルヴィアさん?ケガは治ったんだよな?」
「うん!タイヨウもデバンさんもケガはばっちり治ってるよ!」
「なんか全身ギシギシいってるし、めちゃくちゃダルい気がするんだけど?」
『誓いの丘』の穴から這い上がり休憩をしている間に眠ってしまい起きた頃にはすでに太陽は真上近くまで昇っていた。
「それはねタイヨウ。ケガじゃなくて体がびっくりしてる、みたいな感じだと思うの。魔力の回路がちゃんと機能してないって言ってたでしょ?」
「言ってたな。1割も動いてないって。」
「そうなの。けど聖剣の力なのかわからないけど、最後のあの時に、その魔力回路が急に全部動き出したみたい。けどそのおかげですっごく体が動いたでしょ?」
「・・・確かに。最後、自分の体とは思えねえくらいの力だった。全体重なにせ砲弾にも耐えるようなバケモンを一振りだもんな。」
突然喋りだし悪徳業者並みの押し売りで、誓いとやらを立てさせられたわけだが・・・『聖剣』。それを手に取ってから自分でも驚くほどに体が動いた。
なにせたったの二撃で、弱り切っていたとはいえあの魔獣を倒せてしまったのだから。
「けどさ・・・これが聖剣の力だとしたら・・・なんかショボくねえ?」
やはりビーム。一説によると「ビームの出せない剣士など剣士ではない」と言われているのを耳にしたこともあるくらいだ。
「ショボくない!失礼なこと言わないの!それで、話の続きだけど。今まで動いてなかったのに急に魔力回路を動かしたから体がその負荷にびっくりしてる・・・んだと思う。」
「なんだか歯切れの悪い答えだな?」
「だって!魔力回路が動いてないなんて、そんな状態の人見たことなかったんだもん!」
「わ、わかったわかった、、!」
熱が入った勢いで鼻が当たりそうなほど詰め寄ってくるシルヴィアに驚きながらも、彼女の肩にそっと手を当て元の場所へと押し戻す。心臓がやたらと早鐘を打っている理由は今ならばよくわかる。
「わたしくらいの魔術じゃ完璧とは言えないけど、大きなケガもおかしなところも無かったから、たぶんそういう事だと思うの。だから逆にしばらく安静にしていれば体が元の調子を取り戻してくるはずだからね?
「なるほどね。どこかが悪いわけじゃねえから直しようが無えんだな。」
余談だが、あの時の『聖剣』から聞こえた声は、おれにしか聞こえていなかったらしい。
一時は頭を強く打って錯乱したのかと本気で心配されてしまった。
「これって、要は魔力回路とやらを使っていけば解消されんのかな?」
「そうだと思う。けど、今のタイヨウは回路の操作もできてないから一度回路を開くと、全部魔力を使っちゃってるの。ほんの少し回路を開くのはいいけど、全力は練習して慣れてくるまではあまり頼っちゃダメだからね?少しの間はすっごく強くなるけど、すぐ動けなくなっちゃうから!」
「は~い」
適当に返事をしながら現状を理解した。どうやらおれの回路とやらはコントロールができていないせいで1~10くらいまでの範囲を超えると一気に100まで出力が飛ぶらしい。とんだ欠陥品だ。
「はぁ。かっこつけたは良いものの、課題は山積みだなぁ~」
おれの回路とやらは訓練次第っぽいので根気よくがんばろう。
問題は折角抜けた『聖剣』だ。いまいち使い道が分からない。もしくは回路が開いたことで役目は終わっていて、ただただ抜けなかったからもてはやされていただけなのか?・・・ビームは出ないのか?
「で?タイヨウ。お前さんらはどうするんだ?おれは雇い主がいなくなった以上デロスに寄る理由も無くなったからよ。このまま王都へ帰るつもりだが?」
「王都へは結構かかんだろ?おれらが一緒だと移動の足とかも迷惑かかんだろ?気にしなくていいぜ。焦る旅でももねえしな。」
「そうだね。わたしたちはいったんデロスに寄ってから、準備をして向かうことにするから!ありがとう。」
「そうかい。寂しくなるねえ。あのバカ雇い主が馬を2頭とも置いて行ってくれれば、荷台ごと移動もできんだがな。・・・まあ、仕方ねえか。なら今日は1日休んで明日出発することにするかね。」
地面に寝転がりながらデバンの顔を盗み見ると、いつも通りの豪快な笑顔の端に「寂しくなる」というのは本心なのだろうと、そう思わせてくれる間があった。
「おれの方はどう?明日には動けるようになりそう?」
「魔力回路を使わないなら大丈夫かな。多少のだるさは残るかもしれないけど動けると思うよ。」
「ならおれらも明日には出発予定って事で。そんなに急いではねえけど、だからって森の中でいつまでもダラダラしてる理由もねえだろ。」
「なら今日は酒宴といくか!ガローナの残していった商い用の食い物も酒もあることだしよ!」
ほんの少し垣間見えた感傷を笑い飛ばすデバンから目の前の空へと視線を戻し、タバコに火をつけるおれに彼は楽しそうに言葉を続ける。
「この間は警戒心満載で、あんまし飲んでなかったもんな。おれと飲んで明日の朝に出発できりゃあいいがな?」
ニヤリと自信ありげにこちらを見てくるデバンと目が合う。
「お前こそ二日酔いで馬から落ちんなよ?」
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「はっ。口ほどにも無いじゃねえのタイヨウさんよ?」
「どんだけ飲むんだお前、、、。それともこれがこっちの平均なのか?」
飲み始めて4時間ほど。
荷台の酒を飲みつくすんじゃないかと思うほどのペースで酒をあおり、散々こちらに絡み、あげく酔いつぶれ酒瓶を抱えたまま隣で眠る彼を、グラスを傾けながら見る。
おれも酒豪というほどのことは無いが別に弱いわけじゃない。が、あのペースに付き合わされていたらおれも彼の横で酒瓶を抱える羽目になっていただろう。
「こんな外でそのまま寝ちゃったら風邪ひくよ?」
そう言いながら荷台から持ってきた毛布をデバンにかけシルヴィアが隣に座る。
「・・・良かったの?デバンさんと一緒に行かなくて?」
「この先の村の、デロスだっけ?そこへ行くのはおれらの都合だからな。付き合わせるわけにはいかねえしな。」
「デロスに寄らなくても、デバンと一緒に行けば王都までまっすぐ行けたよ?」
「旅の目的が王都に行くことじゃねえからな。せっかくだし、フラフラと色々見てまわんのも悪くねえさ。」
「けど、やっぱりわたしがいたら・・・ふみゅっ!?はにふるのハヒヨウ?」
話しかけた彼女の頬を両側から手のひらで挟み込む。
その間では、つぶれた餅のようになりながらシルヴィアは困惑を浮かべいた。
「はいそこまで。・・・たとえ誰に嫌われてたって、おれには関係無い。って言ったろ?」
「・・うん。ありがとう。」
笑みを浮かべる彼女の顔につい見とれてしまう。
「そう言えばタイヨウの首飾りって、とってもきれいだよね?いつも着けてることが多いけど、何か大切なものなの?」
ぼーっとしていたおれの首元のネックレスを手に取りながら尋ねてくる。
距離が近い・・・こういう不意打ちは本当に心臓に悪い、、、。
破裂するんじゃないかと思うほど鳴り響く心臓を落ち着けながら自分の首元に目をやる。
「あぁ。昔から着けてる物らしいんだけどな。いつから着けてんのかは覚えてねえんだ。なんとなく愛着が湧いて、ずっと着けてるんだ。それがどうかしたか?」
「ふ~ん。男の子で首飾りをしてる人ってこの国では珍しいから。タイヨウにとってすっごく大事な物なのかなって気になってたの。それにタイヨウなら何かへ、、面白い話が出てくるかなって。」
な~んだ。と特に何も出てこなかったのが不満だったのか星空を見上げている。
(・・・キレイだ。)
この短時間で二度も見とれてしまうとは何ともまあ我ながら、、。だがそれよりも・・・
「・・・いま、「変」って言おうとしたよな?」
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「じゃあなシルヴィア、タイヨウ!お前さんらにゃいろいろと世話んなった!王都に来ることがあったらおれは『ベルン』って町に住んでるからよ。良かったら寄っていってくれや!」
明くる朝。手を振り豪快に笑いながら森を駆けて行くデバンを見送る。
「さて、それじゃおれらも行きますか。」
「うん!まずは目指せデロス!だね!」
彼女のテンションが人里へ向かうというのに高いのは、懸念していたことがある程度解決したことに起因する。
事の発端は昨日の酒宴の前。飯やら酒やらを荷台から拝借している時のことだった。
「タイヨウ!お前さんらもいるものがあったら持てるだけかっぱらって行けよ。どうせここに置きっぱなしになるんだ。ダメになっちまう物も多い。それに、あの旦那に取りに来る度胸なんて無いからよ。」
デバンはそう言いながら物取りよろしく、持てる範囲で使えそうなものを次々に自分のカバンに詰めていく。
(――人相が悪いせいか・・・似合ってんな。)
「それもそうだな。まあ、駄賃って事で。食べ物とか貰っとこうかな。」
そう言いおれも物色作業に加わる。
「あー!二人ともいけないんだよ!人の物取ったら!」
「違うぞシルヴィア。これはこのままだとゴミになっちまう物をリサイクルしてんだ。泥棒とは違う。」
「りさいくる?」
「あー。リサイクルって言うのは、使わなくなった物とかいらねえ物を再利用することだな。正確にはそーゆうのはリサイクルとは言わんねえんだけど、まあ細かいことは置いといて。」
彼女の意識が盗人から意味の分からない言葉に移っている間に、ごく自然に物色作業に戻る。
「ふ~ん。また変な言葉使うんだね。・・・って言っとくけどごまかされないからね?」
「・・・チっ。」
「今舌打ちした―!」
そんなこんなふざけていると後ろから泥棒Aが声をかけてくる。
「おいタイヨウ!」
「なんだ?泥棒A。」
「だ~れが泥棒だ誰が。それよりもほれ、いいもんあったぞ。」
「いいもん??」
荷台から降りてきたデバンの手元を覗き込むと握っていたのは銀色の首飾りだった。
「お前にはあんま似合わねえと思うぞ?」
「俺が着けるわけねだろうが!」
「わぁ~きれい!」
おれのいた世界で言うなら「桜」のような形の1cmほどの小さな台座の真ん中に透き通った緑の石がはめ込まれている。
(どっかで見たような気がすんだけどな?)
「これはな『仮装の首飾り』つってな。結構珍しい魔具なんだぜ?嬢ちゃん!人に会うの気にしてんだろ?これ着けときゃあ少なくとも、一般人にゃ絶対バレねえと思うがね?見破れんのなんざ国の中でも一部の奴くらいのもんだ。」
「へぇ~。便利なもんもあるんだな。」
わざわざ変装じみたことまでさせるというのはやはり少し気に食わないが、それで彼女が過ごしやすくなるのならしかたないか。
「んん~~。確かにすっごく便利だけど~~」
当の本人は腕組みをしながら先ほどの自分の発言と葛藤しているようだった。
「さっきタイヨウも言ってたろ?どうせ使わねえもんだし。どうせここに置いておいても誰かに持っていかれるかゴミになるかだぜ?」
「デバンの言う通りだぞ。それにただ持ってかれるだけならいいが、そんなもん悪用されたらどうする?シルヴィアが持ってた方が安全だとおれは思うけど?」
相変わらず腕組みをしながらむ~~と唸っているシルヴィア。
「まあそう難しく考えなさんな。ほれ、タイヨウ。せっかくだから着けてやれよ。」
ぽんっとこちらにネックレスを箱ごと放り投げてくる。
「うわっと。これ結構高いんだろ?もう少し丁寧に扱えよ・・・」
投げられたネックレスを取り出し彼女を手招きし呼び寄せる。
「う~んまあそう言われたらそうなの、かな?・・・じゃあ折角だし。」
おれの前に立った彼女は髪をかき上げ後ろを向く。
・・・誤算だった。まさかこの程度の事で動揺してしまうとは。昨日から三度目の見とれタイムに突入だ。
「?タイヨウ?どうしたの?」
「いやっ、、!なんでもねえ!」
首元に手を回し留め具を止める。
(あ、なんかいいにおいする・・・)
一瞬浮かんだ不埒な考えを素数を持って相殺しながら留め具を掛ける作業がこうも難しいとは思わなかった。
「ありがと!ふふ、こういうのって着けたこと無いから、なんか恥ずかしいね、、」
おおお、、、。初めて見る照れたような笑顔。
「かわいい・・・」
おれの中では「・・・」の部分まで心の中にとどめておく予定だったのだが・・・不意の笑顔の破壊力に、つい、口からこぼれ出てしまった。
「うれしい!かわいいよね、この首飾り!」
・・・まあ、いいんだけどな伝わんなくて。それに最近のおれってずうーっとこういう感じだし。
「やるじゃねえか。お前さん見てくれはいいのにこうゆう時はヘタレなんだと思ってたぜ!」
落ち込んだようなホッとしたような微妙な気分のおれを、笑いながら泥棒Aが叩いてくる。
その笑顔は何とも気持ちがよく、ムカつく笑顔だった。
「痛ってぇな。言われねえでもいい加減自覚したっつの。おれ、結構ヘタレなんだなって。」
つい最近まで「景色が灰色だ」とか中二臭いことを思っていたのが嘘のようだが・・・
惚れたが負けとはこうゆうもんかと、強く実感する今日この頃だ。




