デカニャンコ討伐戦
眩んだ目が機能を取り戻した頃にはそこに彼女の姿はなかった。
同じくウガルも視覚を取り戻したのか、一目散に彼女の後を追って森に入っていく。
「とにかく追わねえと、、!」
走り出そうとするおれに「追いかけてどうするつもりなんだ?」とデバンの声が邪魔をする。
「・・・一応聞くが、今は1秒だって惜しいってのはわかってんだよな?」
「ああ、そうだろうな。で、追いつけた後は?死体が二つに増えるだけじゃあねえのか?・・・それにあの子がああしなきゃ、同じことをするつもりだったんだろ?なら、その覚悟が分からねえお前さんじゃねえだろう?」
「そうですとも!あのエルフは最後にとても素晴らしい選択をしたのです!エルフなだけでは飽き足らず、月の魔力まで使う『咎人』だとは思いませんでしたが、、。あのようなものでも意味のあることをしたのですよ!あとはできる限り長くあれには走り回ってもらって、わたくしたちはできる限り遠くへ移動するのです!さあ!二人とも支度をしましょう!」
ガローナは嬉々として荷車のチェックを始める。
「・・・おまえはマジでぶっ飛ばす。。」
剣を握りガローナへ歩み寄るおれの前にデバンが立ち塞がる。
「・・・どけよ。邪魔するんならお前からぶっ飛ばすぞ。」
「・・・悪りぃな。こんなんでもおれの雇い主なんだ。」
そしてデバンは振り向き、思いきり雇い主を殴りつけた。
「おぐぅっ、、!な、何のつもりですか!?傭兵風情がわたくしを殴りつけるなど!!」
頬を抑え、倒れながらガローナがギャアギャアと騒いでいる。
「ああ、だからタイヨウからは守ってやったろう。あんたとの契約もここまでだ。殺されねえうちにさっさと消えてくれ。」
殴られたガローナは這いずりながら馬にしがみつき立ち上がる。
「この馬鹿どもが!エルフ一匹死んだところで誰が悲しむんだ!?下らん情に流されおって!そんなに死にたければ勝手に死ね!」
それだけ言うと荷車の荷台を切り離し馬で森へと駆けて行った。
「あんにゃろう、、!」
「ほっとけ。あそこまでクズだとは、おれも思っちゃいなかったよ。殺してやる価値も無い。」
言い終わると彼はその場に座り込む。
「おい、一服してる時間なんて無えだろうが!早く追いかけねえと!」
彼はこちらを見上げ空に向かってに煙を吐き出した後
「お前さん、何か勘違いしてねえかい?」と、とても冷静に言葉を放った。
「おれだってあの子には感謝してんだ。できることなら助けてやりてえしお前さんと二人でやりゃあなんとかなるってんならいくらでも手を貸すさ。・・・だがな、今ここで俺らが行ったところでしてやれんのは、、、精々があのバケモンの腹ん中に一緒に入ってやるくらいだ。それじゃあ折角助けてもらった命を無駄にすんのと一緒だろう。」
「・・・じゃあなんだ。おれらは、あいつが食い散らかされんのを大人しく待っとけと。そうゆうことかよ。」
少し離れた所からはあの化け物の吠える声が聞こえる。
「ま、残念ながらそうなるな。俺がここに留まったのはあの勇敢な嬢ちゃんに、おまえのことを頼まれたと思ってるからだ。無駄死にさせるわけにはいかねえ。」
彼は吸い終わったタバコを足で踏み消し立ち上がる。
「そうかよ!何言われようがおれは行く!邪魔するんならお前を2秒でぶっ飛ばして行くだけだ!」
「・・・お前さんは、なんでそこまでしてあの嬢ちゃんを助けたいんだ?」
「なんでって・・・」
一宿一飯の恩?彼女に命を救ってもらったから?女の子だったから?生きているだけで悪者扱いされるのが不憫だったからか?
「その理由がはっきりしねえならやめとくこった。人間、理由ってのは大事なんだよ。・・・特に命を懸けるような大事なら、なおさらな。」
たった数日一緒にいただけの女の子。料理が下手で、色々と危なっかしくて、朝からうるさくて・・・自分が苦しくても、人の為に笑う。そんな――優しい女の子。
「・・・救われたからだ。彼女の笑顔に。」
「そうかい。で、それは命を懸けるほどのものなのかい?」
新たにタバコに火をつけたデバンがこちらに問いかける。
命を懸けるほどの理由とは?そんな禅問答みたいなことは分からない。
でも、ここまで来てようやく一つ気づいたことはある。
「・・・ああ。要するにこれはあれだ――おれの、初恋だ。」
今更だが。彼女に心から笑ってほしかった理由。泣き顔がさみしそうな顔が嫌だった理由。
あの笑顔を何とかしたかった、幸せになって欲しいと願った理由。
色々カッコつけてみたが要するに
「ほれた女の前ではカッコつけたい。そうゆう男心だな!」
これは何ともハードモードな初恋だったのだ。
「・・・てなわけで行くわ!サンキューな。」
立ち上がり目の前の彼に告げる。
一瞬顔を伏せたデバンが、驚くほどの声量で大爆笑する。
「あっはっはっはっはっ!!なんだそりゃあ!!あとさんきゅーってなんだ?」
「笑うんじゃねえよ!これでも大真面目なんだぞ!あとサンキューはありがとうって意味だバカ!」
ひとしきり大笑いしたデバンはもう一度まっすぐな瞳で問いかけてくる。
「・・・凝りもせずに死にに行くのかい?」
首を横に振り前を向く。
「死にし行くんじゃねえよ。あの子の笑顔を取り戻すためにおれは行く。あの子が笑える未来。それを一緒に歩きたいから。――シルヴィアに、隣にいてほしいから!」
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「あのデカニャンコめ、、!まじでこっちは無視かよ!」
森に立ち込める鼻に着く獣臭とシルヴィアが使う魔法の光を頼りに走り抜ける。
森に入ればこちらに気づき寄ってくるかも、と思っていたが魔獣を引き寄せるというエルフの体質はかなり強力らしくこちらに見向きもしない。
「光はそう遠くねえ!すぐに追いつける!!」
すると、数分とせずデカニャンコの姿を視認する。そしてその眼前でへたり込む彼女の姿も見えた。
前方数十m。小さな崖のようになった段差の下に一人と一匹がいる。このまま突っ切ればほぼ真横からぶち当たる。
ピカっ!
先ほどまでと同じ光が輝いたが明らかに弱い。彼女もその後動く気配が無く座り込んでいる。
――間に合えっ!
剣を強くに握りしめる。あの化け物はこちらに気づいていない。
「はぁ!間に合った――!」
叫びながら走る勢いそのままに崖から飛び降り首筋めがけて思い切り剣を振り下ろす。
「なんで、、?」
おれの下では彼女がこちらを見上げている。
「お仕置きだ、デカニャンコが――!!」
振り下ろした剣はウガルの首筋に食い込んだ。
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森に駆け込んで何分経っただろうか。隠れながら逃げ、見つかっては魔法で目を眩ませまた隠れる。
けれどおそらくもう長くはもたない。もともとわたしは詠唱魔法は苦手だ。それをこれだけ連発していれば魔力切れもそう遠くないうちにおきるだろう。
「はぁはぁっ、、!みんな逃げてくれたかな?・・・タイヨウ怒ってるかな」
休める間に木にもたれかかりながら息をできる限り整える。
「少しでも長く時間を稼がないと、、。」
そう思い再度走り出す。後ろにはこちらに気づいたウガルがまた迫ってくる。
「〈発光〉、、!」
魔法の詠唱を口にし目の前が光に包まれる。
そのすきに距離を取ろうと思ったが足がもつれて倒れこむ。
「痛っ、、。はぁはぁ、、体力無いなぁわたし。」
・・・もう少し頑張りたかったがここまでみたいだ。
魔法は後1.2度くらいは使えそうだが体の方が限界だった。魔力の消耗と走り続けた疲労とで、もう立ち上がることもできない。
顔を上げるとウガルがこちらに歩み寄ってきている。もう立ち上がることができないことが分かっているのか、ゆったりと。
嘲笑うようにこちらを見るウガルに何となく腹が立ち
「〈発光〉、、。」小さく呟きもう一度だけ抵抗する。
「グウゥゥルルゥ、、、!」唸り声をあげながら首をぶんぶんと振りこちらを見下ろしてくる。
「これで本当におしまい」
もう一度くらいは使えそうだけどこの距離ではもう一緒。目が眩んでたって外さないだろうな。そう思うと体から力が抜ける。
(できればスパッとにやってほしいなぁ。苦しいのは、やだなぁ。)
ゆっくり目を閉じる。
死ぬのは怖い。けれど悪い気はしていない。最後の最後に少しだけ胸を張れることができた気がするから。
――この数日のほんの一かけらでも、彼の心に残ってくれると嬉しいなぁ・・・
彼が無事に逃げ切り、そして少しだけでもその心に居場所があればと願う。
覚悟はできた。なのに――
「はぁ!間に合った――!」
一番聞こえてほしくなかった声が聞こえた気がして目を開ける。
「なんで、、?」
わたしの頭上。暗い夜のとばりに、太陽が一つ輝いていた。
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剣を振り抜き着地する。反撃でダメージを負うことが予想外だったのかウガルは少し距離をとる。
「どう・・して?なんでここに―――」
「なにカッコつけてんだよ!それはおれの役目だっつの!」
初めて彼女を怒鳴りつけた。
今にも泣きだしそうな顔で、小さな体を震わせながらキョトンとこちらを見ている。
そんな彼女を抱きかかえて走り出す。
「どうして来ちゃうの!?魔獣はわたしを狙ってるの!わたしが一人がんばればみんな助かるのに、、!どうして、、。」
そう言って彼女は泣きだした。
どうしておれは今まで気づかなかったのだろう。こうして我慢などせずに泣かせてやればよかったのだ。あんなに寂しそうな顔をするくらいなら、泣けばいいと言ってやればよかったのに。
「この激バカが!おれはな、悲劇のヒロインとか大っ嫌いなんだよ!人気の物語ってのは勧善懲悪!みんな笑顔のハッピーエンドが結局受けんのさ!!」
「??」
何を言ってるのかわからないって顔されるが説明している暇は無い。
なにせ後ろからは怒り狂ったウガルが追いかけて来ているのだし。
「それに言ったろ?『笑わしてやる』って!あんな作り笑いで、おれが満足すると思うなよ!いつもいつも我慢して笑いやがって!!辛いなら辛いって、寂しいなら寂しいって素直に言え!!」
わかってはいたが、やはり徒競走ではお話にならない。
「とりあえず話は後!シルヴィア!さっきの光るやつもう一回やれるか!?」
息を切らしながら走る。人を抱えながら走るってこんなにきついのか、、!
「できる、、。けどなにするの?あんなのほとんど役に立たないよ?」
「それは見てのお楽しみ、、!とりあえず合図するからそん時はよろしく、、、!それまではお静かに!!喋ると倒れそう、、!」
できることならさっきの一撃で倒してしまいたかったのが本音ではあった。だがあの魔獣が思った以上に頑丈で致命傷と呼べるほどの一撃にはならなかったのだ。
という事でプランB。・・・考えているが上手くいくか半信半疑。
(そもそもこれ、たどり着けんのか、、?)
今一番不安なのは自分の体力面だなこりゃ。
そうこうしているうちに目の前にかなりの高さの崖が現れる。
「もういいよタイヨウ!わたしを置いて逃げて!!」
ここまでか。崖の前で立ち止まり後ろを振り向く。
「激バカ野郎が。お前にはまだまだ言いたいことがあんだよ。これくらいで諦めてたまるか、、!おら、こいや!デカニャンコお!」
おれの声に合わせるかのように魔獣も吠えこちらへと跳びかかってくる。
「今だ!シルヴィア!!!」
「〈発光〉!」
ウガルの体が宙に浮いたと同時に光が放たれる。
「何回おんなじ手に引っかかんだ!デカかろうが所詮ニャンコだなあ!」
悪態をつきながら魔獣の下を通り抜け
「タイヨウ!吹っ飛びたくなきゃあ頭上げんじゃあねえぞ!」
後方の森から小さな砲弾のようなものがウガルに当たり爆発する。
「ガルアァァァ!」
視界を奪われ直撃した砲弾の衝撃で体勢を崩した化け猫は崖の下へと落ちていった。




