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彼女の隠し事

 

ウリディンムと呼ばれたニャンコ達と遭遇後、15分ほどで話に出た『誓いの丘』にたどり着いた。


「丘って言ってたけど、独特な形してんのな・・」


 普通丘と言えば小さな山のようなものを想像する。いや、その想像通りの丘もあるにはあるのだが。

 丘があるのは大きな穴の中。ドーナツの型とでもいえばわかりやすいだろうか?


「10m・・は無えか?丘ってよりは『誓いの穴』の方がしっくりくるな。」


 穴の壁面は急ではあるが断崖絶壁というわけではなく、急な坂くらいだ。転がり落ちたりすればかなり痛そうだが慎重に進めば十分降りられる。

 なんにせよここはこの森の中で一番安全な野営地らしい。理由はその(くだん)の丘。正確には丘に突き刺さる1本の剣だ。


「あれはね『神造兵器』とか『聖遺物』とかって呼ばれてるの。通称『太陽の剣』。選ばれた勇者にしか引き抜けないすっごい剣なんだよ!」とのことだった。


 太陽の剣、ねえ。見た感じちょっと装飾の凝ったただの剣だが。


「なんか抜けそうな気がするけどな、普通にスポッと。」


 そんなことを言っていると

「勝手に触っちゃダメだからね!あれは誰かが引き抜くまでは王族の持ち物で抜くのに挑戦するのも王族の許可がいるんだから!」

 何かをする前に深々とと釘を刺された。



「いいじゃねえか、一回くらい。減るもんでもないし。」


 しかして、ダメと言われるとやりたくなるのが人の心というものである。


「お!いいじゃねえか!案外お前さんならスポっと抜けちまったりしてな!」

「ありえるんじゃねえですかい?兄さんはなんか規格外な感じですし!」

「ばれたら大目玉では済まないので、本来ならば止めるべきですが、幸いほかに人もいませんしねぇ。」


 まさかのガローナまで一緒になってはやし立てる始末。言い出しっぺながらに呆れ笑いが隠せない。


「いくつになっても、アホだなあ男って、、。ならいっちょやってみますか!」 

「もう!ダメだったら!タイヨウの聞かん坊!」

「おいおい、嬢ちゃんあぶねえぞ!」


 膨れるシルヴィアを尻目に腕まくりしながら斜面を滑り降りつつ、振り向くとなぜか彼女もついてくる。


「なんでついてくんだ?」

「タイヨウってば変なことしそうなんだもん。」

「おれは子供か、、。」



 ここ数日でいつの間にやら「変な奴認定」されてしまっているのは不服だが・・・いったんそれは横に置いておこう。


 剣の方を向き直り柄に手をかけ、力を込める。



「っ!うわあああああああぁあぁ!」

「!タイヨウ!どうしたの!?」

「・・・嘘で~す。なんとも無っぐふぅ!!」

 どすっ!


 振り返るやいなやシルヴィアの正拳突きが鈍い音を響かせながら鳩尾に突き刺さった。


「ほら変なことする!ふざけないで!」

「・・・ごめんごめん。では改めて」

 鳩尾をさすりながら再度柄に手をかける。




「ふぅーーっ。・・・ふんっ!」

全力で力を込めるものの残念ながら剣は1ミリたりとも動く気配が無くびくともしない。



「かっった!ダメだなこれは。」

手をひらひらとさせた後上にいる三人に手をバツにして「ダメ」と意思表示送る。


「この剣は、すっごくちゃんとした人にしか抜けないのよきっと。だからタイヨウには無理なのね。変だから。」

「何回変って言うんだよ。そんなに変じゃねえわ!」

 残念ながらジョブは勇者じゃ無かったようだ。内心ガッカリしつつもすごすごと斜面を上がる。


「いやあ残念だったな。ちょっとだけ期待してんだがなあ!」

「ちょっとだけかよ!そこは大いに期待しとけ!」


 上がりきったところでデロスと笑いあい声が響き渡る。


「ほら、治癒の魔法陣を描いたからケガをした二人はこの上に座って?それくらいのケガならそんなに時間はかからないと思うから。」


 ひとしきり笑ったところでタバコに火をつけシルヴィアの書いた魔法陣の上に座り込む。


 彼女が魔力を込めたのか魔法陣が水色に光りだす。


「なあ、あの魔獣っていうのは普通の獣とは違うのか?確かに見た目は気色悪かったけどさ。」

「ほう。タイヨウさんは魔獣をご存じない?あれも元はただの獣なのです。ですが、一部の獣が月の魔力にあてられ狂暴化したものが、()()なると言われています。」


「その魔獣ってのは野営地の魔法陣みたいのが無いとすぐ寄ってくんのか?おれら昼間には出くわしたことなかったけど?」

「あいつらは月にあてられてああなっちまってるんでね。基本夜しか出ねえんですよ。」

「そうですね。わたくしも長く旅をしておりますが今のところ昼間に出くわしたことはありません。最近はごくまれにそう言った話もあるようですが?――まあ出くわした理由はほかにあると思われますがね。」


 そう言うとなぜかガローナはシルヴィアの方を見つめる。

 その視線に割り込むように「すげえな嬢ちゃん!治癒魔法使えんのか。」とデバンがより一層大きな声を上げる。


「あ・・・うん。攻撃魔法はからっきしなんだけど、これだけは昔から得意なの。」


 目を逸らすようにデバンの方を向くシルヴィア。

 先ほどのガローナの視線の意味は少し気になるが、二人の会話に耳を傾ける。

 周りが静かなこともあり二人の会話が筒抜けで聞こえてくる。


 ・・・いや、聞こえすぎる。雑音が皆無と言ってもいい。


「?なあ、ちょっと静かすぎねえか?」


 昨日までの野営地ではもう少し虫の声やたまに獣のうろつく気配みたいなものがあった気がするが。


「これってあの剣が近くにあるからか?それとも、おれらがドンパチやって騒ぎすぎたせい?」

「・・・いや、お前さんの言うとおりだこれは静かすぎる。もしかしたらさっきのウリディンムがまだ近くに居やがるのかもしれねえ。この場所ならウリディンムも寄って来やしねえと思うが―――」


「グオオオオオオオオオオォォォオ!」


 談笑の温かい雰囲気をぶち壊すような、色濃い『恐怖』を乗せた地鳴りとも思えるほどの重低音が響き渡った。




「ウガルだ・・・」


 小さくつぶやいたウォールが震えている。


 今の遠吠えだけでも気持ちは痛いほど理解できた。それほどまでに魔獣が何なのかしないおれにも『恐怖』を感じさせる遠吠えだったのだ。


「・・・一応聞くけどよ。そのウガルってのはヤバいのか?おれとデバンが二人がかりでも無理?」

「一応聞いておくがそれは本気で言ってんのか?・・・絶対に無理だ。少なくとも一介の護衛程度が倒せるもんじゃねえ、、、。」

 

 場が静まり返る。姿が見えてもいないのに、遠吠え一つでここまで気持ちを折ることができる生物とは・・・


「ああ、、、あぁあ、、!やはりエルフなどと共にいるからこんなことになるんですよ!この女がいるからわたくしまで!」

「旦那そりゃ言いっこ無しだぜ。逆に二人がいなきゃ俺らはさっき全滅させられてたじゃねえか!」

「うるさいうるさい!そもそもこの女がいなければウリディンムにも出くわさなかったのではないですか!?」


 蔑むような目でシルヴィアを見るガローナ。


「あぁっ?エルフがどうとか都合悪いことを全部こっちになすりつけんじゃねえよ!お前からぶっ飛ばすぞ!」

「・・・いや、そうでもねんですよ兄さん。俺もデバンと一緒でエルフだからどうこう言うつもりはありやせん。けどね事実として、こいつらエルフは魔獣を()()()()()()()。」



 なんだそりゃ。だからさっきのも、今の状況も全部シルヴィアのせいにしろってか。


「下らねえことをゴチャゴチャと、、!」

「その様子だと知らなかったようですねぇ。これがエルフなのですよタイヨウさん!その汚らわしい体質のことを話せば森で一人になってしまう!だから言えなかったのですよ!違いますか!?」


 お前が悪い。お前なんかが存在するから!そう言いたげなガローナはシルヴィアに食って掛かる。


「てめえ、、!」


 その体質が本当だとしたって、何もかも彼女が悪いわけじゃないはずだ。魔法陣が壊れていたことも、その場所で休憩することにしたのだって自分たちの不運だ。それをコイツは。


「タイヨウ。旦那の非礼を代わりに詫びる。すまねえ。けど今は仲間割れしてる場合じゃねえ。旦那も旦那だ。今のは言い過ぎだ。全てが全てこの子のせいじゃねえだろう。」

「・・・ごめんなさい。わたしがエルフだから。だから。ごめんなさい、、。」

 

 蚊の泣くような声でシルヴィアは呟く。


「・・・謝る必要なんかねえよシルヴィア。要するにあれだろ?さっきの遠吠えの主を倒しゃいんだろ?それで万事解決だ。なんとでもならあ。」


 先ほどの剣を手に取り立ち上がる。遠吠えの主は確実に前方にいる。森の暗闇のせいで姿こそ確認はできないが。


 

 前方の暗闇を睨みつけた時、確実に視線がかち合った。瞬間全身から汗が吹き出し鳥肌が立つ。


 これは、憎悪だ。

 獣のように食うために殺すとかイカレ野郎のように楽しみのために殺すとか。そういうのとは全くの別物。

――お前が、お前たちが、憎い。

 殺すために殺すのだと。そう言わんばかりの視線だった。



 どんな理由があれば、ここまで何かを憎める?想像もつかない。

 さっきまでの意気込みはどこへやら。気づけばおれの体は無意識に後ろに下がっている。


「・・・わかったろうタイヨウ。あれは、おれたちなんかじゃ絶対に勝てない。幸いここは『聖剣』の近くだ。やつも近寄ってはこれねえはずさ。気がおかしくなりそうだが朝まで耐えるんだ。」


 冷汗が滝のように流れてくる。暑いわけでも無いのに汗が止まらない。


「とりあえず、馬もこっちに寄せやしょう。逃げられでもしたら大変だ」

「そうだな、そのあとはなるだけ聖剣に近づいて祈るしかねえや。」

 

 二人が馬を引きに歩き出す。


「っ!!ダメだ!前へ出んな!!」

「へ?」


 先ほどまで視認できていなかった化け物が、突如目の前に姿を現す。

 思っていたより近くにいたのか・・・



 呼吸が荒くなる。身動きができない。姿形は先ほどのうりウリディンムとほぼ同じ。ただサイズがけた違いにデカい。ゆうに3mは超えている。


 馬を引きに出た二人も予想外の出来事に立ち尽くしている。ガローナに至っては発狂寸前だ。


「はは・・ははは・・・。おわりですよ・・。エルフなんかのせいで皆ここで死ぬんですよ・・。」

 うわ言のように呟き目はもはや焦点が合っていない。


 化け物は値踏みでもするかのように順番におれたち全員を眺め、そして不意に前足を上げた。


「二人とも、伏せろ!!」

「っく、、!」


 目にもとまらぬ速さで振り払われた前足から突風が巻き起こる。

 目を開けると爪がかすめ傷を負い顔を歪ませるデバンと、もろに食らったのか上半身を吹き飛ばされたウォールだったものが転がっていた。


 まだ息のあるデバンを見下ろし再度前足が上がる。と同時に走りだす。ギリギリでデバンを抱え前足を避ける。


「ぜぇ、、。ば、、ばかやろ、う。なんで、、助けた。」


 傷が思っていたよりもずっと深い。即死では無かったもののこの量の血が流れ続ければものの数分と言った所だろう。


「見りゃあ、分かんだろ、、。ごふっ、、!こりゃ、だめだ。人のこと気にしてねえで、、、お前さんが生き残ることに、、頭使わねえか、、、」

「いいから喋んな!別にただ助けたわけじゃねえよ!今は猫の手でも死にかけの手でも借りてえんだっ、、、!」


 ウガルはいまだに前足を振る以外の行動を起こさずその場にとどまっている。


「・・・おちょくってんのか、考えがあんのか。動物の考えてることはよくわかんねえな、、!」


 デバンを抱えたまま徐々に下がり先ほどの魔法陣にデバンを寝かせる。


「シルヴィア頼む。何とかならねえか?」


「はぁ、、はぁっ、、。無駄だよ、嬢ちゃんも無駄な魔力使うんじゃ、、ねえぞ。」


 デバンの傷を見て顔をしかめるシルヴィア。「致命傷は治せない」そう言っていた。

 即死では無かったにしろ傷はかなり深い。


「・・・この傷じゃ・・・」


――これしか、浮かばねえな・・・

 これを倒すのは無理だ。ならばせめて少しでも時間を。

 彼女が生き残れる可能性が高い選択肢を。


 自分でもなぜそこまで彼女に肩入れしているのか分からない。

 

 それでも、立ち振る舞いが、雰囲気が、たまに見せる寂し気な笑顔が。無邪気に笑う姿が――

そのすべてを守りたいと思ってしまった。


 やはりあの剣があるせいかこいつは極力こちらには寄りたくないのだろう。大きく息を吐き覚悟を決める。

 途端、こちらの覚悟を知ってか知らずかウガルが唸りだした。


「・・・ううん。違うよね。わたしなら、助けられる。」

 同時に後ろで魔法陣が先ほどの何倍も強く銀色に輝き、瞬く間にデバンの傷が塞がっていく。



「嬢ちゃん、まさか、、、こりゃあ、、?」

「うん。『月の魔法』だよ。こんなので治されても気持ち悪いかもしれないけど、少しだけ我慢してくね。」

「シルヴィア、お前、、。」

「――これは「わたしにしかできないこと」でしょ?」

 

 そう言ってまた彼女は()()


「・・・そうだな。じゃあ今度はおれの番だ!」


 もう一度ふうっ。と大きく息を吐き足に力を籠める。

 全くカッコがつかないもんだ。女の子()に命を救われ、今に至っては年下の女の子に励まされることになってしまうとは・・・


 ここから離れればまずは離れた方に意識が向くだろう。・・・というか向いてくれ。そこからは、おれが何分もつかの問題だ。



「これで大体傷は塞がったから安静にしててね。」


 呆気にとられただ見上げることしかできないデバンに声をかけこちらを向く。


「うん、タイヨウにしかできないこと。()()を守ってね。・・・最後までわがまま言ってごめんね。」


 言い終わると同時に、彼女の手から強い光が放たれる。

 おれの視界は真っ白な光に包まれた。

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