人見知りな君は寂しげな顔で
「邪魔しちまったみたいで悪いね。」
そう声をかけてきたのは大きい方の護衛、デバンだ。
「旦那は悪い人じゃねえんだが、話し好きでな。妹さんのご機嫌損ねちまったかい?」
まあ確かにシルヴィアはおれにぼそぼそと話しかけてくる以外は黙々とご飯を食べていた。
「う~ん。そのうち機嫌も治るだろうから。人見知りなだけだし気にしないでいいぜ?」
「そうかいそうかい!そう言ってもらえるとこっちとしても気が楽だ。」
豪快に手に持った酒を流し込みながらデバンは笑う。
ふと彼の口元に目が行く。
「その咥えてんのって、タバコ?」
「そうだが、お兄ちゃんもやんのかい?ハマるにゃあ少し若え気がするが?」
「こう見えても今年で21だよ。」
「・・・見えねえな。てっきり15かそこらだと思ってたぜ」
「この国のやつらが老けてんだよ!」
この世界の人々にはまだ数人にしか会っていないが、みんな実年齢より老けて見えることがわかった。別にそこはどうでもいいのだが・・・おかげでおれがいつもにもまして下に見られる。
「だとしても12歳は言い過ぎだろ、、、。」
「そこまでは言ってねえぞ?まあ機嫌治してくれや。お詫びにほれ。タバコ一箱やるからよ。」
そう言って胸ポケットから新しいものを一箱差し出してくれる。
「・・・これはありがたくいただいとこう。」
目つき悪りぃな。とか思ってしまって申し訳ない。少しが雑だが話してみると気さくで良い奴のようだ。
「兄さん方はどこを目指してるんですかい?」
声に出さず陳謝していると小柄な方のウォールも会話に入ってくる。
「おれらはこの先のデロスって村に向かってる途中だな。」
「あんな何も無えとこに、それも歩いて?こりゃ物好きもいたもんだ!」
ウォールの方はそこそこ酔っぱらっているようだ。それと驚いたことにデバンよりもウォールの方が年上らしい。まあ下に見られることについて言えばおれも人のことは言えないが。
「ほうほう。デロスに向かっているのですか!でしたら物はついでです。我々は『王都』に向かうのですがよければうちの荷車に乗っていきませんかな?」
よぱっらって上機嫌なガローナも会話に混ざってくる。
ありがたい話ではある。が、肝心のおれのお連れさんは終始だんまりだ。
嫌がるかなぁ?そう思いシルヴィアに声をかける。
「て言ってくれてるけどどうする?嫌なら断るけど?」
「ううん、大丈夫。乗せてもらえれば明後日にはデロスに着くと思うから乗せてもらお?」
予想外に了承を得れた。相変わらずなじむ気は無さそうだがいいというのであればいいのだろう。
「わたし川で体流してくるね。」そう言って立ち上がり森の方へ歩いていく。
「どうでしたかな?」
「大丈夫だそうなんでお願いしていいすか?」
「旅は大勢の方が楽しいもんです!これも『太陽』のお導きでしょう!」
にしてもテンションの高いおやじだ・・・酒が入ったら急に商人感は薄れたな
「重ねてすまねえな。あいつらは好きな癖に酒に弱いもんで。」
とデバンが酔っ払っている二人から抜け出しこちらに戻ってくる。
「んでその妹さんはどこ行ったんだい?」
「あいつは水浴びしてくるってさ。」
「ほぅ。そりゃああれかい?折角だから覗きに行かにゃならねえやつかね?」
にやり。と森の方を見る。
「はっはっは。・・・ぶっ飛ばすぞ。」
「ははは!冗談だよ冗談!けどやっぱそういうことかい!」
「どういうことだい?」
「いやな。エルフの嬢ちゃんと「兄弟」なんて嘘はさすがに無理があるだろうと思ってよ!!」
・・・バレてたのか。それにしても嫌にあっさり看破されたもんだ。
やはりフードでは無理があったか。
「なんで?って顔してんな。まあエルフの魔力は独特だからな。誰でもわかるってわけじゃねえが、それなりに旅やらをしてるとわかるようになるもんさ。」
そういうもんか。と貰った酒を飲みながら頷く。
「けど、エルフなんかってのはどうゆうこと?一緒にいるのはそんな珍しいのか?」
「まあ、稀だわな。エルフは高飛車で人間を下に見てるやつが多いし逆もしかりだ。あんまりいい風には見られねえからなぁ。」
マンガなんかである種族差別みたいなものがあるのか。全くどこの世界へ行ってもくだらない。
「けど、ほかのエルフは知らねえけど。あの子はいい子だ。嫌われるような理由なんかねえと思うけど。」
なんとなく、シルヴィアが悪く言われたような気がして腹が立ち少し語尾がきつくなる。
「わりぃわりぃ。そう怒りなさんな。おれは別にエルフを嫌っちゃいねえよ。魔法も得意だったりするし、いざって時に役に立つ!」
「そうですよタイヨウさん!それに道中もしもがあった場合、違った意味でとても便利で――」
「おい、旦那。」
デバンに制止され雇用主であるはずのガローナが押し黙る。
主人と従者、という立ち位置にも関わらずずいぶんな物言いだなと少し感心する。
「・・・わりい。ちょっと席外す。」
「気を悪くしたんなら謝るよ。まあ、そういう考え方のが多いってこった。気が向いたら戻ってきてくれや。」
少し行ったところの川辺でタバコに火をつける。
彼に悪気はないのはわかっている。デバンはただ中立でこの世界の在り方に沿った合理的な考え方なのだろう。
それでも、おれは個人的に”理不尽”な不幸は嫌いだ。物語はハッピーエンドの幸せなものであるに限る。
読んでいた漫画で「”理不尽”や”不条理”は当人の努力不足」という言葉を見た。
そんな事は無い。と思いたい。だって世の中にはどうしようも無いことだって山ほどあるはずなんだから。
「なにしてるの?あー。タバコ吸ってなかったからやめたのかと思てたのに!体に悪いんだよ!」
水浴びを終えたシルヴィアがいつの間にか横に立っていた。まさかこんな近くにいたとは。
「・・・惜しかった。もうちょい早く来るべきだったか。」
「なにが?」
そう言いながらおれの隣にシルヴィアが腰掛ける。
「何でもねーさ。こっちの話。」
ふと頭に浮かんだ妄想をかき消してぼんやりと川を眺める。
「ごめんね。ちゃんと説明しといたらよかったね。」
不意に隣の彼女が口を開いた。
「わたしがエルフだって事には気づいてたでしょ?」
「まあ・・・なんとなくな。けど、実際に会うのは初めてだったから。」
「そうなのかなって思ってた。タイヨウは別の国から来た人だから。本当はね、ちゃんと説明しなきゃって思ってたんだけど。この国の人たちみたいに、嫌われちゃうかなって、、。」
「なんでそんなことで嫌いになんだよ。確かに料理下手だし、どっか抜けてるし、料理下手だけど。でもシルヴィアは、見ず知らずのおれを助けてくれた良い人だ。昼間の話と一緒だよ。エルフかどうかは、おれには関係ない。」
「ひどーい。わたしお料理下手じゃないよ!」
いつも通りまた膨れているシルヴィア。けれども、その”いつも通り”は一瞬でなりを潜めてしまい
「でも、お昼にその話をした時にタイヨウはこんなことでわたしを嫌いになる人じゃないって思えたの。タイヨウは知らないから、わたしと仲良くしてくれてるんじゃなくて。・・・そうゆう人なんだなって。」
おれの、一番見たくない表情へと変わってしまう。
「・・・お昼の話なんだけどね。月の魔力を持ってるのってわたしなの。」
正直なんとなく予想はできていた。昼間の質問はあまりにも不自然であまりにも真剣だったから。
「昔、わたしの大事な人が大ケガをしたの。普通の治癒魔術じゃ治らないくらいの。わたしも理解してもらえると思ってた。けどね結局そんなにうまくはいかなかったの。街の人たちからは嫌われちゃうし、助けた友達もどこかへ行っちゃった。最後は、わたしがいたせいで街が襲われちゃって。・・・タイヨウについてきたのだって、、、タイヨウと離れるのが嫌だったからなの。楽しかったから。嫌われるくらいなら一人で居ようって思ってたのにね。」
「一緒にいて、笑ってくれるタイヨウと離れるのがこわかったの。だから、デロスの町に着いたらほんとにおしまい!エルフってだけでも嫌われるのに、もしこんなことバレたら・・・それ以上に迷惑かけちゃうもの。わたしのわがままばっかりで、、ごめんね。そこからはまた、一人でがんばるから。もう少しだけ一緒にいてね。」
そう言って彼女は笑った。
なんて言ってやればいいんだろう。わかってる。間違っているのは彼女じゃない。人助けをして嫌われる世界なんてあってたまるか。
そんなことは無い、と。少なくともおれは君の笑顔に・・・
「―――おれは・・」
「ここにいたか!まずいぞすぐ出発だ!魔獣の群れが近くに居やがる!急げ!」
駆けこんできたデバンの声におれの言葉は遮られた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
急ぎ荷車に乗り込み馬を駆ける。
「夜は動くのは危ないんじゃなかったのか!?野営地には獣除けがしてあるからそこで日が出るまで待機すんのが旅の定石だって!そもそも『魔獣』ってなんなんだよ!」
先ほどまで居た野営地やこの先の村など人が夜を過ごす場所の周りには魔法陣で獣除けがされていると言っていた。なのになぜ?
「あの野営地の魔法陣は少し欠けてたんだ!古いものだとたまにあるんだが、欠けた場所が分かりづらくて気づかなかったぜ!おれとしたことがなんて間抜けだ!」
そう言ったデバンは悔しそうに顔を歪めている。
「そんなことはどうだっていいんです!とにかく急いで走りなさい!おそらく後ろにいるのはウリディンムの群れです!」
「わかってますよ旦那!もう少しで『誓いの丘』に着きます!そこまで行きゃあ奴ら追ってこれねえはずでさあ!」
ウォールが巧みに馬を操りながら叫ぶ。
前を向くと同時に嫌な寒気が走る。
「・・・なあ。ただの勘なんだけどよ。あれ。前からも来てんじゃねえのか?」
「おいおい、冗談はやめてくれや、、、。」
姿は見えない。見えないが、明らかに何かが前にもいる。
「ウォール!何とか回避できねえのか!!」
「無理だよ相棒!街道は一本道な上にこのあたりはあまり広さが無え!」
「ふぅー、、。これ、借りていいか?」
荷台に転がるおそらくは売り物の剣を手に取る。
「どうするつもりですかい兄さん!?」
「どうするもこうするも・・・腹くくるしかねえだろ?」
内心、心臓バクバクだ。その不安が外へ出ないように笑顔でかみ殺す。
「・・・いいね、乗ったぜ!」
デバンも察してくれたのか自らの武器を手に取る。
「別に全滅させなくていいんだ。何とかして逃げる隙を作れれば!」
「おう!こう見えても腕には自信があるんだ!ウリディンムくらい蹴散らしてやらあ!」
どう見えたら腕に覚えが無さそうなんだよ・・・ツッコミそうになったがここはしまっておくべき場面だろう。
「そそ、そんなにうまくいくはずないでしょう!相手は魔獣ですよ!殺されます!」
「そしたら・・・その魔獣とやら相手に命乞いでもしてみるか?優しく食べてくださいって?」
「旦那あ!残念ながら、兄さんの言うとおりだ!前からも団体様がおいでなすったぜ!」
予感的中。数頭のウリディンムが前方からも殺到する。
「ウォール、お前は馬を守れ!馬がやられちまったら逃げるもクソもあったもんじゃねえや!んで兄ちゃん、前か後ろ。どっちか任せるがどっちがいい?」
「じゃあ、後ろで。前にはウォールがいるしその方が何かと二人で息合わせやすいだろ?」
確認を取りながらもう一度笑みを浮かべる。引き攣っていないか少し心配だが青ざめているよりはましだろう。
「これ、借りるていいんだな?」
手に取っていた剣を見せ一応確認を取る。ま、ダメだと言われても使うけどな!
「助かるならなんだって使って構いませんよ!なんとかしてください!」
よく見るとガローナは泣いていた。大の男が情けない、、。ただおかげで少し冷静になる。
「兄ちゃん。いや、タイヨウ!お前、肝座ってやがんな!ますます気に入ったぜ!!落ち着いたらもっかい飲みなおそうや!」
笑いながらデバンが拳を差し出してくる。
「・・・酒は苦手でな。牛乳なら朝まで付き合ってやるぜ。」
そう言って、彼の拳に拳を合わせる。
「タイヨウ!・・・死なないよね?」
振り返った先では、泣きそうな顔で彼女がこちらを見ていた。
「・・・これからおれが死ぬほど笑わしてやるよ!覚悟しとけ!」
お決まりになりつつあるいいね!をしながら言い放ち、おれはデバンとともに馬車を飛び降りた。
馬車のすぐ後ろに着地し前を向く。ウリディンム。そう呼ばれた獣を見据える。数は9匹。前にも同じくらいの数がいるようだ。
小さいライオン。といった感じの見た目。サイズ感はライオンより三周りは小さく大型犬よりは大きいか、くらいのサイズ。黒と灰色の中間くらいの体色にギラギラとした赤い瞳。
「気色悪い見た目してんなぁ、、。」
口元からは鋭くとがった牙が見え、前後の四本の脚からは小さな刃物くらいのサイズの爪が伸びている。
(あのどっちかでもまともにもらったら、タダじゃすまなさそうだな・・・)
目の前で剣を構える。思っていたよりは落ち着いている。良くも悪くもあの夜のおかげだろう。
それに、なんだかしっくり来ている。多分、大丈夫。
「ちょうどいいや。ちょうど機嫌が悪くてな。ひと暴れしたい気分だったんだよ。ちょっと八つ当たりに付き合ってもらうぜ!」
こちらが叫ぶのと同時にウリディンムが吠え、走り出す。
首筋に噛みかかる一頭を躱し剣で切りつける。続いて二頭、三頭と跳びかかってくるやつらも転がりながら躱し立ち上がる。
「っふ!うらぁ!」
後ろから来た一頭を避けながら巴投げの要領で弾き飛ばし起き上がりざまに剣を突き立てる。
自分でも驚くほど体がよく動く。それに数こそ多いが一頭一頭は大したことは無い。おれでも十分に倒せる。
「はぁはぁっ!ほれ、どうしたニャンコども。もっと気合い入れてかかってこいよ!」
跳び上がり頭上から襲い掛かってくるウリディンムを避け下から切り上げる。
「っはあ!」
一太刀で首を落とし向き直る。残りは6匹。体力的にはかなりきつくなってきたがいける。
全滅が目的ではなかったがもしかすると、ここですべて倒せるかもしれない。
「す、すごいですね彼、、、。まさか魔獣相手に一人でここまで戦えるとは、、。もしやさぞ名のある『騎士』なのですか?」
「わたしも詳しいことは、、、。けど、本当にすごい、、。」
素直に褒められて少し照れる。まあ、実際自分でも驚いているのだが。そもそもこうして会話が聞き取れるほど余裕があることが一番の驚きだ。
(と、油断してる場合じゃねえか!)
しかし残ったウリディンムは一向に襲い掛かってくる気配が無い。
少し様子を見ているとそのまま振り返り森の中へと走り去ってしまった。
「なんだ?拍子抜けだな。勝てねえから逃げるなんて知能がるようには見えなかったんだっけどな?まあ野生動物ならありえるか。」
もしかしたら森から奇襲をとか少し考えてしまうが。逃げられた以上追いかけるのは不可能だろう。そもそも追いかける理由もない。
「痛ててっ、。さすがに無傷とはいかねえか。」
体を見下ろしチェックする。すり傷、打撲は山ほどあるが致命傷になるような傷は負っていない。
「及第点かな、、。」
呟きながら荷車に戻ると前方で戦っていたデバンはすでに馬車に戻っていた。
「おう、タイヨウ!お前さんすげえじゃねえか!正直ナメてたぜ!」
乗り込むとバシバシ!と背中を叩きながらデバンが声をかけてくる。彼も無傷ではないがおれと似たようなものだ。
「お兄さんほんとにすげえな!あれだデロスについて一休みしたらおれらと一緒に旦那の護衛やりましょうや!」
「こちらからお願いしたいくらいですよ!タイヨウさんほどの腕前なら喜んで雇わせていただきます!」
「気が向いたらな、、。」
正直、ビビっていたわりには「こんなもんか?」感が強い。
なにより、いまだに嫌な寒気が拭いきれていないのが気にかかる。
「おれもそこそこ手練れのつもりだったが。お前さんには勝てねえかもしれねえな!『騎士』でもやってたのかい?」
がはは!と笑いながらまだ背中をバンバンたたいてくる。
「痛えって・・・。話しは後にして先へ進もうぜ。もしまた追いかけてこられたら厄介だろ。」
「それもそうだな!ウォール荷車出せ!」
「おうよ!」
再び荷車が動き出し走る振動に揺られる。
「おかえり。大丈夫?」心配そうにこちらを覗き込む彼女に「もちろん!」といいね!を差し出す。
ホっとした顔をしたシルヴィアは「荷車が止まったらちゃんと治療するね。それまで我慢してね!」といつもの笑顔で迎えてくれた。




