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歓迎会と元仲間たちの動向

 衛兵に採用された日の夜。

 俺はボルトン団長に連れられて街の大衆酒場へとやってきていた。曰く――採用を祝して呑もうということらしい。

 断る理由もなかったので、付き合うことにした。


 酒場には人が多かった。

 だが、その割には活気づいているということもない。

 皆、辛気くさいというか、疲れ切ったような表情だ。一般市民にも関わらず、身体中に傷を負っている者も多くいた。


「この街には生傷が絶えない。盗賊、山賊、魔物の軍勢……。どいつもこいつも引っ切りなしにやってくるからな」

「門は警備しているし、石壁の上空には結界も張っているんでしょう?」


 街には通常、魔物を打ち払うための結界が張られていた。そのおかげで空を飛ぶことのできる魔物の侵入を防ぐことが出来る。


「もちろんだ。だが、何しろ数が多いからな。とても間に合わねえ。せっかく張った結界も魔道士に解除されちまう」


 ボルトン団長は苦々しげに言った後、俺を見た。


「だが、お前が入隊してくれたおかげで何か変わるかもしれねえ。ジーク。お前の働きには期待してるからな」

「ええ。団長の顔に泥を塗らないよう頑張ります」

「よし。それじゃ乾杯だ」


俺たちは互いに運ばれてきたビールを手にすると、杯を交わし合った。一息に呑むと喉に程よい苦みが駆け抜けた。

 誰かに期待されるのは本当に久しぶりのことだった。

 パーティにいた頃は蔑ろにされてばかりだったから。ずっと全員からゴミ虫を見るかのような目を向けられていた。


「お前、元はBランクの冒険者をしてたんだろ? そのまま続けてれば今よりずっと金も稼げてただろう。なんで辞めたんだ?」


 酒が回ってきた頃にボルトン団長が切り出してきた。


「何というか、事情がありまして……」


 普段だったら、言葉を濁していたかもしれない。

 けれど、俺もまた酒が入っているからか、打ち明けてもいいかと思った。隠していてもいずれバレることだろう。


「ボルトンさんは【紅蓮の牙】というパーティをご存じですか?」

「――ああ。聞いたことがあるぜ。何でも火力が自慢のパーティらしいな。エストールの街では知らない奴はいないとか」

「俺はそのパーティを首になったんですよ。火力がないからって理由で」

「……マジかよ」

「ええ。マジです」


 ボルトン団長はしばらく黙りこくった後、


「――ハッ。連中もバカなことをしたもんだ」


 と吐き捨てるように言った。


「実際に対峙したからこそ分かる。連中が活躍することが出来てたのは、お前のその圧倒的な防御力があったからこそだろ。お前が矢面に立って魔物を引き受けたからこそ、奴らは後顧の憂いもなく戦うことができた。そんなことも分からねえとはな。【紅蓮の牙】ってのは大した連中じゃないようだな」

「はは……。そうですかね」と俺は苦笑いを浮かべる。

「言っておくが、俺は世辞を言えるような器用な男じゃねえ。【紅蓮の牙】の規格外の火力を支えてたのはお前だよ」


 ボルトン団長は一息にビールを飲み干すと、ニヤリと笑った。


「連中もお前がパーティを抜けてから、気がつくんじゃねえか? 自分たちがいかにお前に助けられてたかってな」

「そう思って貰えると、嬉しいですけど」

「まあ、今更返して欲しいと言われても、返しはしないけどな。お前はこの街で俺たちと薄給の衛兵として馬車馬のように働くんだからよ」

「今からでも出戻ろうかな……」

「――ハッ。逃がすかよ」


 ボルトン団長は俺の肩に腕を回すと、拘束してくる。

 もちろん、パーティに戻るつもりは微塵もなかった。

 俺はこれから、この街で生きていくのだ。

 衛兵として人々を守りながら。

 

 ☆


「クソッ……! 何でだよ!」


 エストールの街の外れにあるダンジョンの奥深く。

 ナハトは魔物の群れと戦いながら、叫び声を上げていた。


「魔物どもが急に強くなりやがったのか……!? 今までみたいに戦えねえ。ことごとく攻撃が通らなくなってる」

「前までは隙だらけだったくせに、今はしっかり反応してくるし。何なのこいつら。以前とは別個体みたいじゃないの!」

「……弓も避けられちゃう。あり得ないし」


 魔法使いのハルナと弓使いのイレーネも文句を漏らしていた。


「ねえ。これ、もしかしてあいつがいなくなったせいじゃないの?」とぽつりと漏らしたのは魔法使いのハルナだった。

「ジークがパーティを抜けてから、あたしたち、苦戦してばかりじゃない。なら、あいつが原因としか考えられない」

「だよね。彼、とろいから攻撃が当たりまくってると思ってたけど、本当はうちらを庇うためにしてくれてたとか……」

「そんなわけねえだろうが! バカ言うんじゃねえ! あいつはただのでくの坊だ! 俺たちを助ける力なんてあるか!」

「ちょっ! 大声出さないでよ! 魔物が……」

「うわっ。囲まれちゃったし。……これもう、先に進むのは無理じゃない? 一旦、街に引き返した方がいいって」

「くそっ……! 仕方ねえ! 退くぞ!」


 ナハトは苦渋の決断を下すと、ダンジョンから引き返した。迫ってくる魔物の群れに背を向けると全力で走り出す。


「俺たち【紅蓮の牙】が任務をこなせずに撤退することになるとは……! こんな屈辱は生まれて初めてだ……!」

 その表情は苦々しさに満ちていた。

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