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幕間~紅蓮の牙~

 ――おかしい。こんなはずじゃなかった。 


 ナハトは洞窟のダンジョンから敗走しながら心の中で繰り返していた。

 俺たち【紅蓮の牙】は最強のパーティだったはずだ。

 あらゆる魔物を、その圧倒的なまでの火力で蹂躙していく。

 その攻撃は何者にも止められず、無敵とさえ称されるほど。苦戦など知らず、ましてや敗走することなどあり得ない。


 なのに――。

 またしても敵に背を向けて無様に逃げ出すことになってしまった。

 背後からは魔物の群れが追いかけてくる。

 巨大なミミズの魔物――デスワームたちだった。

 鋭い牙を持ち、装甲は固い。

 吐く毒液は鎧だけでなく骨まで溶かすほどの威力。

 共に逃げていた魔法使いのハルナが叫んだ。


「ナハト! このままじゃ魔物に追いつかれるわ! 剣士なんだし、あたしたち後衛職のために足止めしなさいよ!」

「……うちらの盾、よろしくでーす」


 弓使いのイレーネが軽い口調で任せてくる。


「ふざけんじゃねえ! あれだけの数を俺一人で止めろってか!? てめえら、無責任に俺に押しつけてんじゃねえ!」

「あっ! ナハトの奴、逃げた!」

「……サイテー。リーダー失格でしょ」

「うるせえ! こういう時だけリーダーとか言ってんじゃねえよ! つーか、なんでこんなに狙われるんだよ!?」


 これまでにも魔物の群れと対峙する場面はいくつもあった。

 それも今回のデスワームたちより遙かに格上の魔物たちだ。しかし、その時は苦戦せず一方的に蹂躙することができた。

 敵は全員、隙だらけだったからだ。

 あの時、ナハトは自分たちが強いからそう感じていたのだと思った。格の違いから敵の動きが遅く感じるのだと。


 だが――。

 本当は違っていたのかもしれない。


 そういえば、と思い出す。

 敵は皆、何かに気を取られているようだった。

 攻撃対象を強制されているような。

 確かその矛先になっていたのは……。

 思い出そうとして、その前にダンジョンの外に脱出した。


 ……危なかった。後、少しでも脱出が遅れていたら追いつかれていた。デスワームたちのエサになるところだった。


 ナハトたちは命からがら冒険者ギルドへと戻った。

 その足取りは重かった。

 任務が達成できなかったことを聞くと、受付嬢は呆れたような表情を浮かべた。明らかに目には失望の色が滲んでいる。


 ナハトは受付嬢をギロリと睨み付ける。

 だが、任務に失敗した手前、それ以上のことは何もできなかった。舌打ちをすると、踵を返して酒場へと繰り出した。


 パーティメンバーたちと共にテーブルを囲む。

 敗走したのだから、打ち上げという雰囲気ではない。かと言って、反省会を行えるほどの謙虚さを彼らはすでに失っていた。

 やることと言えば――責任の擦り付けあいである。


「ハルナ。お前がもっと魔法を放ってりゃ、あんなことにならずに済んだんだ。魔力量が少なすぎるんじゃねえのか?」

「はあ!? あたしのせいってわけ!? 言っとくけどね、あんたが前線で踏ん張らないから安心して集中できないのよ!」

「……分かる。後衛を不安にさせてる時点で、前衛の落ち度」


【紅蓮の牙】の面々は互いに対する怒りを発露させていた。

 周りの席に座っていた冒険者たちは、彼らのそんな様子を眺めながら、ニヤニヤと噂話に花を咲かせ始めた。


「聞いたか? 【紅蓮の牙】の連中、また任務に失敗したらしいぜ」

「またかよ? これで何度目だ? 最近はずっと、失敗続きじゃねえか。最強のパーティも随分と落ちぶれたもんだ」

「凋落しだしたのはメンバーが一人抜けてからだろ? あの大柄の男だよ……確かジークとか言ったっけか」

「確か【紅蓮の牙】の連中がクビにしたんだろ? 実はそのジークって奴がパーティの要だったんじゃないのか?」

「てめえら! 適当なこと言ってんじゃねえぞ! 殺されてぇのか!」とナハトが凄むと彼らは一斉に目を逸らした。


 しん、とその場に静寂が落ちる。


 ナハトは大きな舌打ちを漏らした。

 彼の脳裏に思い浮かぶ光景。

 それは魔物たちが一斉にジーク一人に向かっていく光景だ。

 ナハトはてっきり、それをジークがとろくさいからだと思っていたが、今思えば注意を引き付けているようにも見えた。


「いや。あいつはカカシみたいに突っ立ってただけだ。それがたまたま、そういうふうに見えていただけだ」



 ナハトはそう言って切り捨てると――。


「おい。次はAランクの任務を受けるぞ」


 パーティメンバーに一方的に告げた。


「――は? あんた、何言ってんの? Bランクの任務で失敗したのよ? これより上の任務なんて無茶でしょ」

「……今のうちらには、分不相応じゃない?」

「うるせえ! このまま舐められっぱなしで堪るかよ! ジークの力なんて関係ないってことを証明するんだよ!」


 荒ぶるナハトに、イレーネは不安げに呟いた。


「……けど。次に失敗したら、うちら、今度こそ終わりじゃん? 干されて、もう二度と任務を受けられなくなるかも」

「成功すりゃあ、何の問題もねえじゃねえか」


 ナハトはそう言うと、


「まだだ……! まだ俺たちは終わってねえ……! 今度こそ、任務を達成して今までの失敗を全部取り返してやるよ」


 爪が皮膚を突き破りそうなほど、強く両拳を握りしめる。

 不安げな他のメンバーをよそに、一人、闘志を燃やしていた。

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