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「おやぁ、何をなさっているのですかぁ」
その人影は伽音だった。
その声に男がハッとして振り返る。そして、いきなり銃口が火を吹いた。
爆音が闇を切り裂く。同時に伽音の身体が弾丸を受けて大きく背後に吹き飛ばされた。
「伽音さん!」
駆け寄ろうとする響に再び銃口が向けられ、響は足を止めなければいけなかった。
「お、おまえたちが悪いんだ。つまらないことをほじくりやがって」
怒りに満ちた目で響を睨む。
その時、撃たれて倒れたはずの伽音がムクリと起き上がった。
「他人のせいにしてはいけませんねぇ」
そのまま何事もなかったかのように立ち上がる。男は驚いたようにその姿を見つめた。
「嘘だろ……なんで……なんで生きてるんだよ」
「驚かれても困りますねぇ」
伽音がゆっくりと男に近づいていく。さっき撃たれたところからは血ではなく闇が溢れているように見える。その闇が大きく広がっていく。
「な……化物」
「幼い子供や小さな生き物を平気で殺そうとするあなたに言われたくありませんねぇ」
「くそ!」
再び男は伽音へ銃口を向けた。そして、迷うことなく、そのまま引き金を引く。
銃声が鳴り響き、伽音の右腕が吹き飛ぶ。
しかし、伽音は声をあげることも、慌てることもなかった。
「乱暴ですねぇ。人が来てしまうではありませんか」
そう言って静かに笑う。その千切れた右腕が闇となって大きな触手のように、男に向かっていく。
「ひぃぃぃ」
男は悲鳴をあげた。そして、そのまま背を向けて走りだした。よほど慌てたらしく車をその場に置いてままで去っていった。
「おやおや、逃げていってしまいましたね」
「伽音さん、大丈夫なの?」
響は近づいてくる伽音に声をかけた。
「何も問題ありませんよ」
いつの間にか彼女の身体は何事もなかったかのように元に戻っている。吹き飛ばされたように見えた右腕もなんともなっていない。
「さっき撃たれたよね?」
「そうでしたか? きっと気のせいでしょう」
「気のせいって……さっき吹き飛ばされたじゃないか」
「おや? 私が撃たれたほうが良かったですか?」
口元に笑みを浮かべながら響を見る。
「そんなわけないだろ」
そう言いながら、響は伽音の身体を見た。だが、確かにまるで撃たれた形跡がない。さっき撃たれたように見えた胸の部分も、千切れとんだ右腕も、まったく問題がない。
「そんなに女性の身体をジロジロ見るものじゃありませんよ。それよりその子のほうはどうですか?」
「うん、大丈夫。ショックで気を失ったみたいだけど」
響は倒れている真澄を抱き起こしながら言った。
「ちょうどいいから寝かせておきましょう」
「でもーー」
「大丈夫ですから」
その伽音の言葉は絶対的なものに聞こえた。「この子のことは私が見ています」
「でも、伽音さん、どうしてここに?」
「あなたは急に変なことを気にしますねぇ。今は私のことよりあの男のことを気にするべきでしょう」
「あの男?」
「さっき私を撃った男のことに決まっているでしょう」
「やっぱり撃たれたの?」
「そんなところだけ鋭くならないでください。揚げ足取りは嫌われますよ。つまらないこと言っていないでさっさと追いかけなさい。これで黒幕がわかるかもしれないのですから」
「黒幕? でも、どこに逃げたのかはーー」
「わかりますよ。ほら感じませんか?」
「え?」
「あなたの忠実なあの雀っ子、アレがあの男を追いかけていきました。
「……ああ」
確かにその気が感じられる。
「行ってください」




