6
翌日の夕方――
響は、昨日、藤巻真澄がいた建物の前にいた。
昨夜の伽音の言葉が頭に引っかかっていた。
蓮華咲子に調べてもらったところ、彼女の暮らす伯母の自宅というのは、この辺りではないらしい。
昨日は、父を訪ねて来ていたのだろうか。
「おやぁ、草薙さんじゃありませんかぁ」
突然、背後から声が聞こえて、そこに伽音の姿があった。いつものことながら神出鬼没で、どこから姿を現すかわからない。
「また追いかけてきたの?」
「心配なもので」
「何が心配なの?」
「あなたのことを心配しているのですよ。いけませんか?」
「いけないってことはないけど……」
「何をしてられるんですか?」
「いや、別に」
「真澄さんがいるかどうか見に来たんですか? マメですねぇ。昼間も来られたでしょう」
「知ってたの?」
「私はあなたのことならなんでも知っているのです」
「また、変な言い方を」
「またあの男がいますね」
ふいに伽音は建物を見上げていった。すぐに響も伽音の視線を追う。2階の窓から若い男が見下ろしているのが見えた。
「あいつ……」
「ええ、あの人ですね。行ってみますか?」
「どうして?」
「気になるのではありませんか? どんな男なのか? そして、何のためにここにいるのか」
「何のため? それって塾を手伝うためって話じゃなかったの?」
「あなたは素直な人ですねえ」
「ボクが?」
「もちろん、あなたのことですよ。あなた、気づいていますか? あれはあの殺人者ですよ」
「なぜそう言いきれるの?」
「おや、あなたは気づかないフリが得意ですねぇ」
「別に気づかないふりをしているわけじゃないよ……っていうか、その殺人者って言い方、どうにかならない?」
「おや? 何か間違っていますか? あの男はね、殺人者ですよ。しかも、病気なほどにね」
「病気?」
「私にはわかるのですよ。人を殺したことのある人間というものがね」
「どうして?」
「私にはその恨みが聞こえるのですよ。憎しみが、悲しみがね」
静かな口調ではあったが、その言葉はゾクリとするものだった。
その時、正面玄関のドアが開いた。中年の男性がいぶかしげな視線を響たちに向けている。
「君たちは誰だ?」
「あなたは高塚さんですね」と反応したのは伽音だった。
「ああ、そうだが」
「私たちは娘さんの友達です」
「娘? 真澄の?」
なぜか、その表情が変わる。
「そうです。つい先日、お友達になりました」
「友達? 娘なら今日は来ていないよ」
突き放すかのように高塚は言った。
「おや? そうでしたか、私はてっきり彼女は先週くらいからずっとこちらにいらっしゃっていると思っていましたよ」
「な、何をバカなことを」
「私ならここだよ」
響たちが振り返ると、そこに藤巻真澄の姿があった。
「真澄?」
なぜか高塚は真澄が現れたことに驚いているようだった。「どうしておまえがーー」
「別に。ちょっと寄ってみただけよ。もう帰るわ」
そう言って、真澄はすぐに背を向けた。
「あ、待って」
と響も彼女を追いかける。「送っていくよ」
「そお? ありがとう」
背後でドアが強く閉まる音が聞こえた。
「ずいぶん慌てているようでしたね」
伽音がその閉まったドアのほうを見つめて言った。
「伽音さんも一緒に行く?」
「私はこのまま帰りますよ。走って自転車を追いかけるわけにもいきませんからね。草薙さんもお気をつけて」
うやうやしく頭を下げてから、伽音は背を向けた。
ピョンピョンと跳ねるような足取りで帰っていくのを見てから、響は自転車にまたがった。すぐに真澄が後ろに座る。
小柄な真澄は、まるで体重を感じないほど軽かった。
今日から『令和』
テレビもずっと特番ですね。
令和がどんな時代になるか・・・というより、次の元号改正の時も平和にのほほんとお祝い出来る日本であって欲しいですね。




