降霊術
古本屋でたまたま降霊術に関する本を見かけた男は、暇潰しに本の購入を決めた。
男は家に帰ると、さっそく本に書かれた方法で降霊術を試してみる事にした。しかしいざ、降霊を試みるにしても、どの霊を降霊させればよいのか、そこまでを考えていなかった男はしばらく思案し、一つの妙案が思い浮かんだ。
歴史的に名だたる文豪の霊を自身に憑依させ、新作の小説を書かせようと思ったのだ。それをどこかのコンテストにでも応募すれば、受賞は間違いなしで、晴れて自分も文豪の仲間入りとなる。その後は同じ要領で、やはり歴史的に有名な漫画家や画家や音楽家などを憑依させてもよい。可能性は無限大で、つまらない日常から一変、周りから認められた男を夢のような世界が待っているのだ。
男は本に書いてある通り目を瞑り手を合わせると、心の中で降霊させたい文豪と自身の願いを思い描きながら、何やら怪しげな呪文を唱えた。そこから男の意識は徐々に遠退いていった…。
どれ程の時間が経っただろうか、意識を取り戻した男の目の前に、数百を越える原稿用紙の束があった。原稿用紙には男の思惑通り小説が書かれていた。どうやら降霊術は成功したようだった。
男は胸の高鳴りを抑え、原稿用紙を手に取ると、食い入るように小説を読み更けった。小説はさすがは歴史的文豪の書いた作品であり、読み手を魅了する傑作であった。
だが、小説を読み終えた男は原稿用紙をビリビリに破くと、クシャクシャに丸めてゴミ箱に捨ててしまった。
やはり、他人に書かせた作品に達成感などはなく、男に残ったのは虚無感のみであった。