奇想曲
「―それで? どこへ逃げようと言うんだ?」
突如響いてきた声に、コウガとシキは構えた。
「この声…マカかっ!」
「当たりだ」
グランドガラスが割れ、そこからマカは中に入った。
そして床に倒れている学生達を見て、顔をしかめる。
「…随分喰らったようだな。腹は膨れたか?」
「まあな」
そこへカルマとナオも入ってくる。
「見つけましたよ。シキ」
「遊びの時間は終わりです」
「チッ!」
シキは瓦礫の中から、日本刀を取り出した。
そしてコウガを背に隠す。
「ったく…。ハズミとマミヤを現世に留めさせないほどコキ使って早二ヶ月。こんな小賢しい方法で隠れていたとはな」
ため息を吐くマカを、カルマとナオは呆れた表情で見つめた。
「マカ。全部終わったら、ちゃんと2人にお礼言わなきゃダメですよ?」
「2人とも本当に姿形、無くしましたしね」
「消えてはおらん! …ケータイに戻っただけだ」
力を使い果たした2人は、マカとルカの『携帯彼氏』に戻ってしまった。
「それもこれも、こんなことを仕出かしたシキのせいだろう? …まっ、もっとも協力者がいるとは思わなかったがな」
マカは赤い眼で、シキの背後にいるコウガを見つめた。
「お前…名をコウガと言ったか? ただ人が、何故シキに協力した?」
「放ってはおけなかった、と言ったところかな?」
シキの背後で、コウガは苦笑した。
「そいつは用さえ済めば、お前を喰らうつもりだぞ?」
「だろうね。それも分かってての協力だから」
「まったく…。我が同属に魅入ってしまった者は、何故こうも不幸になる道を選ぶのか…」
「お前の言う言葉ではないな。マカ」
シキは鞘から刃を出した。
「とにかく、ここで終わりにしようか」
マカは左手を上げた。手には紋様が浮かび、やがて空中に浮き、黒き剣に姿を変えた。
「少々時間をかけ過ぎた。シキ、お前はここで狩ることにする。それが血族の決定だ」
「…コウガはどうする?」
「記憶を消して、元の生活に戻す」
「っ!? そんなのはゴメンだ!」
突然コウガが声を張り上げたので、全員がぎょっとした。
「シキのことは忘れたくない…! 忘れさせられるなら、殺された方がマシだ!」
「なっ…! コウガ、お前…」
驚いたシキが刃を下ろし、コウガの頬に触れようとした瞬間。
影が2人を包み込んだ。
「しまった! マノンか!?」
2人の姿は影に飲み込まれ、やがて影さえも消えてしまった。
「マノンっ…! またも私の妨げになるのか!」
怒りに満ちた表情で、マカは剣を床に突き刺した。
そして割れたステンドグラスから見上げた空には、血のように赤い満月が浮かんでいた。