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狂詩曲

まだこの教会に人が訪れていた頃、オレはピアノ教室に通っていた。


そこそこの腕前で、コンクールに入賞したり、新聞や雑誌に小さくだが取り上げられたりしていた。


そのことをおもしろく思わなかった連中がいた。


それが今、床に倒れているヤツらだった。


コイツらは一緒になって、オレの指を…使い物にさせなくした。


教会には立派なグランドピアノがあって、時々使わせてもらっていた。


あの日、コイツらにピアノを弾いてくれと頼まれたオレは、素直に弾いて聞かせた。


コイツらがオレを囲むようにして、大人達が離れている隙に…蓋を思いっきり落とし、オレの指を潰した。


何本かの指は折れて、変形してしまった。


そして筋を痛め、今でも上手く動かせない。


コイツらは大人達に、ワザとじゃないと訴えた。


たまたま、偶然だったと―。


そして大人達はそれを信じてしまった。


本当はただのねたみから仕出かしたことなのに!


ピアニストとしての将来を奪われたオレは、カメラの方に興味を向けた。


美しい演奏が出来なくなった代わりに、美しいものを撮ることに専念した。


けれどヤツらはずっとオレの近くにいた。


ピアノの腕を奪っても、カメラの腕を磨いたオレの側にいることで、優越感を感じていたんだ。


ねたみから、利用へ―。


いい加減うんざりしていたところで、彼と―シキと出会った。


あの事件から、教会はイヤなウワサが流れるようになった。


まあ子供が事故でも、ピアニストの将来を絶たれたという事件が起これば、誰も寄り付かなくなるだろう。


教会にいた人達はここを去り、無人になって数年経った。


オレは自分の心を確かめる為に、ここを1人で訪れた。


夜明けで、街がまだ眠っている時に訪れた教会には、先客がいた。


それがシキ。


シキは深手を負っていた。


その時には例の傷口は痛々しく、血を大量に流していた。


床に倒れ込み、動かないシキを見て、オレは慌てて駆け寄った。


「だっ大丈夫? キミ、しっかりして!」


ケータイを取り出し、救急車を呼び出そうとしたら、


「…やめろ」


シキの手に、止められた。


その時見たシキの美しくも禍々しい両眼は、一瞬にして、オレの心を射抜いた。


「あっ…」


「誰もっ、呼ぶなっ…! 呼んだら、お前をっ殺す…!」


シキの手には、日本刀が握られていた。


「…じゃあ、どうすればいい?」


「あっ?」


オレは倒れているシキの頬に触れた。


強く睨み付けるシキを、真っ直ぐに見つめる。


「どうすれば、キミは回復するの?」


シキの口元が、笑みのカタチになる。


「…喰わせろ。人間を!」


「ふぅん。キミは人を喰らうんだ」


不思議と驚きは無かった。


「いいよ。好きなだけ食べさせてやるよ」


「お前…本気で言ってんのか?」


「もちろん。でも協力はしてほしい。エサを誘き寄せる為に、少し演出してほしいんだけど、良い?」


「…ああ、構わない」


「契約成立だ。…あっ、そうだ。キミ」


オレは顔を上げ、ピアノを見た。


ピアノは昔見た姿のまま、そこにあった。


「ピアノ、弾ける?」


彼は弾ける、と答えた。


だからオレへの報酬は、彼のピアノの演奏になった。


―その後。


まずは女性を1人、ここに誘って、シキに食い殺してもらった。


そしてデジカメを使って、映像を撮った。


そこでシキが教えてくれた。


シキは普通の人間じゃない。


とある血族の者で、力を使うことができるのだと―。


なら、それを使おうと言い出したのは、オレだった。


映像を編集し、シキに力を使ってもらった。


この映像を見た者は魅入られ、この場所を探さずにはいられなくする、ということを。


すぐには場所を特定できないように、ケータイ限定にもしてもらった。


もどかしい思いは、強い欲求へと変わるから。


そしてシキを追っている同属達に見つからないようにする為に、あえて小さな画面のケータイを選んだ。


狙いは良かった。好奇心からここから訪れた人間はたくさんいた。


おかげでシキには多くの者を食べさせてあげられた。


アングルを変えては動画を更新して、人の目を多く惹きつけた。


同じ場所だけど視点を変えるだけで、別の場所に見えるんだから、おもしろいもんだ。


サイトの訪問者数は二ヶ月で4ケタにものぼる。


でも…。


「逃げられるのなら、そろそろ逃げた方が良いかもね」


シキは死体を残さず食べる。


だから痕跡なんかは一切ないけど。


「二ヶ月も潜伏してたら、シキの同属に見つかる可能性が高いし」


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