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交響曲

「まさかこんな近くにあったなんてなぁ」


海と山の間にある、廃墟と化した教会にクラスメート達を連れてきたオレは、肩を竦めた。


「まっ、こういうモンさ。それより感想はどうだ?」


学校が終わってから来たんで、すでに辺りは薄暗かった。


動画で見たままの廃墟。


しかしそこには誰もいなくて、死体なんかもあるハズなかった。


埃臭さが、年月を感じさせる。


「え~、でもココなんでしょ?」


「多分な。オレが探した所じゃ、ココしかヒットしなかった」


不気味そうに辺りを見回すクラスメート達。


ふと入ってきた扉を見る。


するといきなり扉が音を立てて閉まった。


「えっ?」


「何? 何なの?」


「きゅっ急に扉がっ…!」


すると今度は窓に暗幕がかかり、一気に中が暗くなる。


「きゃあっ!」


「ちょっと! 何なのよ!」


悲鳴と怒号が廃墟の中に満ちる。


暗闇と声、そして次に廃墟を満たしたのは…血の匂いだった。


グシャッ…!


「がっ…!」


友人の最期の声が、間近で聞こえた。


生温い感触が、オレに降りかかる。


オレはポケットからアイフォーンとイヤホンを取り出した。


イヤホンを付け、ピアノソナタを聴く。


荒々しい交響曲。


教会の中ではきっと、醜い悲鳴が飛び交っているんだろう。


オレはそんなもの、聞く気にはならなかった。


眼を閉じ、暗闇と曲を体中に満たす。


この曲は約10分―。


終わると同時にオレはイヤホンを外した。


「―終わった?」


「ああ、まあな」


シキの声は、背後から聞こえた。


血塗れのシキが、赤く長い前髪をかき上げた。


すでに5人は絶命し、シキに喰われた。


「どう? 少しは回復した?」


「まあな。だがイマイチだ。もっといいエサはないのか?」


「ムチャ言わないでくれる? コレでも苦労してんだからさ」


ポケットにイヤホンを入れて、オレはシキと向かい合う。


シキは上半身裸で、その右肩には何かに切られたような痕が。


そして腹には二発、銃で撃たれたような痕があった。


「まっ、逃げる分には回復できたな」


「何体喰ったんだっけ?」


「二ヶ月で34。そろそろヤツらにバレるだろうな」


「やり方を変えつつやっているけど、内容は同じだもんな。趣向を変えようと思っても、誘き寄せるのが目的だと変えずらいし」


「だがお前のおかげでエサを喰えた。とりあえずは礼を言うべきだろうな」


「…別に。オレは代わりにシキのピアノを聴けたから、それで満足してるし」


そう。オレがずっと聞いていたのは、シキが演奏するピアノだった。


そしてオレとシキは―共謀者だった。


「しかし今回のヤツら、お前の友達とやらじゃなかったのか?」


「ああ…。別にいいよ。こんなヤツら」


オレは床に倒れている連中を、冷たい目線で見下ろした。


「昔、ここでオレにケガさせて、ピアノを弾けなくさせたの、コイツらだし」


「恨んでいたのか?」


「…まあね。代わりを見つけても、それで満足はしなかったから」




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