試合終了。

ただいま。

おかえりなさい。ここに座って？

『プレイボール！』

「いよいよ試合が始まります。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

《一回の表》

どした？

何かあったん？

ご飯は？

「あっさりと三者凡退です」

「ええ。まぁ、一回の表ということで焦らないことですね」

《一回の裏》

何かあったか？

あなたが一番知ってるんじゃないの？

口にしたくないなら言ってあげる。

浮気したでしょ。

「凡打が続くと思いましたがツーベースで得点圏に出ましたね」

「その後、抑えられてしまいました。惜しかったです」

《二回の表》

浮気なんかしてへんし。

なに疑ってんねん。

飯にしようや。

「変化球に的を絞ってるんでしょうか」

「まったくボールにタイミングが合ってないですね」

《二回の裏》

呑み屋で食べてきたんでしょ？

毎日、お付き合いも大変よね。

あ、上着預かるね。

「ここは三者三振に抑えられました」

「積極性に欠ける攻撃でしたね」

《三回の表》

ちょっと汗かいたからクリーニング出しといてくれる？

所詮、付き合いやさかい、食われへんねん。

そないゆうたら、お前のランチかて大変ちゃうんか。

ぎょうさん金使うて友達の愚痴聞くんやろ。

荒業やな。

「おおっと。ここで先制点入りました。足で魅せましたね」

「下位打線の勢いが素晴らしいです」

《三回の裏》

私のことバカにしてるの？

次はこう言うんでしょ。

誰が稼いできてるとおもうねんって。

ええ、旦那様のおかげですよ。

あなたのお財布に使った分、ちゃんと足しておきますわ。

「いい感じで打線が続いたんですが、得点にはなりませんでした」

「これは次の攻撃につながりますよ。気をつけなければいけません」

《四回の表》

ランチ食べるんが悪いゆうとるわけやないねんで。

付き合いの大切さをわかってほしいねん。

女子会？ ゆうんかアレ。

アレと同じように男同士にも色々あんねん。

「出塁してからの牽制アウトは、いただけません」

「もったいないですね。送りバントに気を取られ過ぎましたね」

《四回の裏》

男同士の付き合いねぇ。

このレシート、食事したのは2名様になってるね。

ベリーの生クリームパンケーキ、美味しかった？

いつの間に好みが変わったのかしら。

男同士で列に並ぶの、恥ずかしかったんじゃない？

「一瞬ヒヤッとするような大きなファールがありました」

「塁に出てからのこのファール。相当プレッシャーをかけたでしょうね」

《五回の表》

それは同僚の奴と後輩の女の子と行ったんや。

同僚は自腹や。

先輩らしいこと、たまにはええやろ。

「追い込まれてからのヒットエンドランでしたが」

「バッテリーも警戒してましたね。見事なゲッツーです」

《五回の裏》

じゃあ、これは？

あなたが女性と並んで買い物してるとこ。

友達が写真を送ってきてくれたのよ。

「代打を送り出しましたが、流れが変わりませんでした」

「ライト線への当たりは良かったんですけど、良過ぎましたね」

《六回の表》

よう見てくれへん？

並んでないやん。後ろの子が写り込んでるだけやよって。

その友達ちゅうのは、わざわざ不和のタネ送りよってからに。

随分、親切やな。

「毎回ヒットは出てるんですが、追加点には結びつかないようです」

「大きいのが一発欲しいとこです」

《六回の裏》

やましい事がないなら、それでいいでしょ。

それに。

どういうことかしら？ 上着の胸ポケット。

「次回が怖い一打でしょうか」

「そうですね。これは脅威ですよ」

《七回の表》

名刺やな。

ああ、あれや。

同僚に無理矢理連れていかれてん。

「これは、苦しいですね」

「代打を出しても良かったかもしれません」

《七回の裏》

ふーん。無理矢理ねぇ。

この裏面の文、私に対する宣戦布告かな。

『この前楽しかったよ。また連れてってね』

あなた、先週はお偉いさんとのゴルフって言ってたわよね。

私の気のせいだったかしら。

「ヒットに続き、スリーベースヒット。一点を返しました」

「相手に立ち直る隙を与えないくらい、いい当たりでしたね」

《八回の表》

せやからアレやって。

接待にその子も来ててんって。

オッサンばっかりで周っても華がないやろ。

「ベンチも目紛しく動き出したようです」

「同点ですからね。これ以上、点は与えられないでしょう」

《八回の裏》

そう、この呑み屋に行くのは初めてじゃないって事。

無理矢理、毎回、同僚に、連れて行かれるのも考えものね。

いいお友達をお持ちのようで。

「抑えがいい仕事をしましたが、打線も続かなくてはいけませんね」

「一点がなかなか遠いです」

《九回の表》

あ、ああ、せやな。

もう行かへんとは言われへんけど、付き合いで呑みに行くだけやから。

断るのも増やすさかい、堪忍してや。

「どうしたんでしょう。急に打線が沈黙しました」

「監督も空を見上げてますね。雨が降ってコールドゲームを願ってるように見えます」

《九回の裏》

別に彼女と個人的な付き合いがなければいいの。

だから、今回は見逃してあげるけど、次はないわよ？

はい、写真見て。

このシャロン・ド・フルールの小型バッグで我慢してあげる。

「入ったー！ これは大きいー。スリーラン！！ 完璧な当たりでした」

「推定飛距離155メートルですよ。これは痛い。後々、引きずるでしょうね」

『ゲームセット！』

「本日は、ありがとうございました」

「ありがとうございました」