表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

エピローグ

 年が明けた冬休み。僕たちは空港を駆け回っていた。前を行くユミカに落ち着くよう声をかける。

「そんなに走らなくても大丈夫だよ」

 ユミカはスマホを何度も確認している。手続きを終えないと安心できないのだろう。僕は重たいキャリーケースを二つ引っ張って、そんな彼女についていかなければならなかった。

 搭乗手続きを終え飛行機に乗り込むと、ユミカはようやく安堵の吐息を漏らした。

「しかし、ユミカのお父さんも極端というか、何というか。年頃の娘を男と二人で旅行に行かせる上に、僕の分まで旅費を出してくれるなんて」

「こうと決めたら、徹底的にやらないと気が済まないのよ、あの人」

 暮れに突然声をかけられ、鹿児島県の屋久島へ旅行することになった。新しいカメラを買ってもらったユミカが早速それを使ってみたくて、前から行きたかった屋久島へ……ということらしい。準備やら何やらでバタバタして、僕はすでに疲れ気味だった。

「あんまり楽しくなさそうね。私と一緒じゃ嫌だった?」

 ユミカはまた、いつもの意地悪な笑顔で僕をからかう。

「そんなことないよ。僕は幸せ者です」

「とかなんとか言いながら、どうせ夢の中じゃ女をとっかえひっかえしてるんでしょ?」

 別に妬いているわけではないようだが、誤解を解いておく必要はあるだろう。

「実は、夢をコントロールすることができなくなったんだ。ユミカが寝込んだ後、戻ってきてから」

 あの一件以来、明晰夢を見る能力は失われてしまった。夢を見たとしても映像を眺めているように何もできないし、そもそもそれが夢だと認識することもできなくなった。恐らく、普通の人が見る夢と何ら変わりはない。

「ふうん。まあどうせ、エロいことにしか使ってなかったんでしょ」

「え、それは……」

 否定できずにはにかむしかなかった。ユミカは面白そうに笑っている。

 好きな夢を見られなくなって、初めは残念に思ったものの、僕は外の世界に目を向け、そして、今まで以上にユミカを想うようになった。夢よりも素敵な現実を手に入れ、間違いなく以前の生活より充実している。今ではユミカに逢うのが楽しみで、次の日が待ち遠しいほどだ。

「でもいいんだ。今はユミカがいてくれるから」

 その気持ちを伝えたくて、ユミカの右手を握り、言葉にした。

「……ぜんっぜん似合わないから」

 ユミカは馬鹿にするように言って、僕の左手を握り返す。

 そうして僕は、少し赤くなったユミカの顔を、いつまでも心のアルバムに残しておきたいと願った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ