二
いつからなのかは、覚えていない。ただ、気づいたら、ひなはあまり喋らなくなった。三年間孤児院にいたとは言っても、誰とでも仲良くなろうとはしなかったし、いつも一人でいたのだった。
そんなひなは、服や日常生活に必要な物をスーパーで買ってから、今アランさんたちの家に着いた。町から結構離れたけど、木がいっぱいあって、本のことばを借りたら、「自然豊か」と言うのだろう。
家はあまり大きくはないが、二人で暮らすにはちょっと大きすぎるくらいであった。二階建てで、一階はれんが造りで、二階は木造であった。何世代も住んでいた雰囲気で、外の色が白茶けていた。そして、家の右側に十平米弱の庭があった。ひなが車を降りた時に、ちょうど庭のひまわりがこっちへ向いていた。
ひまわりの花は、太陽の光を追いかける花であることは知っていたが、ひながいた方向と太陽がいる方向のは、逆であった。その時、ひなは違和感を覚えた。
「さあ、こっちだよ」ブルームは腰を使って車のドアを閉めながら、明るい声で言った。ひなはひまわりから目線をそらし、ブルームの指示に従って、家に入った。
ブルームはひなを二階まで案内した。ひなは階段に上っているときの感覚はどこかおかしい気がした。まるでひなが自分で上に行くのではなくて、階段がひなを上まで連れていくような感じだった。
けれど、階段が意識なんてはあり得ないことだから、ひなは多分緊張しすぎてたのかもしれない。しばらく廊下を辿って、五番目のドアのところにブルームが足を止めた。そして、ひなへ向かって優しく微笑んだ。
「はい、ここはひなちゃんのお部屋だよ」
ブルームはこう言いながら、手を差し出し、ひなにドアを開けさせた。
ひなは確認するように彼をみた。その微笑んだ顔は裏がないみたいだったので、ひなはドアに手を出した。
その部屋は、日当たりがいいので、ただ窓を開いていただけで部屋全体が明るくて、心地よさそうにみえた。きれいなベッド、小さなテーブルと椅子、こども用のワードロープ、そして、三個の中型の本棚が部屋にあった。
「どう?」ブルームさんが自慢そうな笑顔でひなに問うた。「気に入ったかな。僕とアラン二人で作ったんだよ」
「はい」彼の表情は、まるで大人からの褒め言葉を待っているこどもみたいだったので、ひなはうなずいた。
「よかった!」ブルームの笑顔は、また明るくなった。やっぱりこどもみたいだ。
「じゃ、夕飯までは結構時間があるから、ひなはちょっとお昼寝してもいいよ。孤児院からここまでは遠いし、車に乗るとはいえ、疲れないわけがないよね」ブルームは微笑みながらそんな風に言った。あはははと笑った後、部屋から姿を消した。
一人、残されたひなは、突然静かになった部屋を見渡した。ドアを開けた時から、誰かの視線を感じた。しかし、部屋にはひな以外の生き物の気配はない。
ひなは、荷物を片付けてから、ベッドに座った。孤児院は、一人専用のベッドを買う余裕がないため、皆布団を使って、一枚に二人のこどもが寝る習慣があったので、ベッドは久しぶりだ。
用意してくれたベッドは、柔らかくて太陽の匂いがした。その匂いをはっきり感じるために、ひなはうつぶせに寝た。寝ないと思っていたのに、ひなはつい眠っちゃった。
ひなは夢を見た。庭にあった大きいひまわりの花が、ひなに向かって挨拶をした。そして、ほかの植物たちもそうした。とても不思議な夢だった。