婚活は所詮、手段に過ぎない?⑦
「田井島さん、何かお勧めの飲み物はありますか?」
「戸部さん…。私、初参加で、このお店に来たのは、初めてだから何がお勧めか分からないよ」
「じゃあ、田井島さんの好きなカクテルを教えて下さい」
子安がドキッとするようなことを言うので、田井島はギネスを頼もうするのを止めて、ジントニックを頼むことにした。すると、二人がジントニックを頼んだのでびっくりした。ジントニックなんて、大学の飲み会で真っ先に覚えるカクテルの名前だろう。定番過ぎて、何一つ目新しくない…。
「二人とも、既に知っているだろうけど、ジントニックは変に甘ったるくなくて、口当たりがさわやかなんだ。そして、山田詠美さんの小説によく出てくる。高校の頃、彼女の小説を読むたびに、ジントニックを飲む妄想をしていたものだよ」
こんな話を女子大生にしてもしらけるだけだろう…と思ったけど、二人の反応は思いの外によくて田井島はびっくりした。
「あっ、それ…知っています。『放課後の音符』の中にある『クリスタル・サイレンス』と言う短編の話ですよね…」
「こずえ、それ、私も知っている。沖縄で飲んだ絞り立てのライムジュースに一番近い飲み物がジントニックって言う話でしょう?」
「とし子…。そうだけどさ…。それよりも、沖縄で耳が聞こえない男の子と言葉を交わすこと無く、恋に落ちていくんだよ…。青く澄んだ空に、コバルトブルーの海。ジントニックはあくまで結果だから…」
戸部とし子に、子安こずえ…。二人の軽妙な会話を聞いていると、やっぱり今どきの女子大生なんだな…と妙な安心感を覚える。
酒の席では、時事問題や社会問題だけでなく、好みの小説とか音楽とか幅広く話ができる人は男女関係なくもてる。これは田井島が三〇になってからよく思うことである。若くして、そんな力をめきめきとつけている二人に田井島は年甲斐もなく少し嫉妬した。
そんな時に、若いっていいね…と負け惜しみのように言いたくはない。いくつだろうとも、その人にとっては常に一番歳を取っている状態を生きているのだ。そういうことを忘れた人間は、平気で若いっていいね…と言うのだろう。田井島はそう言う人間にだけはなるまいと思った。




