3人の出会い④
大雨の中、二人は真剣な話をしているのは分かるが、部外者にとっては場違いな夫婦漫才を見せつけられているに過ぎない。
雨がやまない以上、依然危険な状態が続いていることには変わり無く、ここにいる全ての人々が一刻も早く川を離れて、高台へと避難しないといけないのに…。この二人は何をやっているのか?
「坊やを助けて頂き、本当にありがとうございました。さあ、川が氾濫する前に、皆さん早く逃げましょう!」
さすが、お母さん! ここにいる誰よりも冷静だ。やはり、子どもを守りたい一心だろう。母親がそう言うと、現地の人々も冷静さを取り戻したのか、一斉に川岸から離れて、そのまま高台へと避難し始める。冷静さを失って、大雨が降り続いていることを忘れてもらっては困る。
「はい、夫婦漫才はそこまで! 急いで、体育館へ戻るよ!」
いいタイミングで大原が入った。田井島は二人に駆け寄り、そのまま鳥飼と花上を起こす。花上の後ろ半分は見事に泥まみれだが、それは自業自得だから仕方ない。
三人はそのまま、大原の後を走ってついて行く。川の水量はどんどん増え、あと十センチほどで氾濫するところまで迫っていた。氾濫するのは時間の問題だ。とにかく、高台の中腹まで四人はひたすら走る。
「もういいだろう…。ここまでくれば、さすがに川の水も来ない」
大原の合図で、三人はようやく走るのを止める。しかし、雨は止まない…。四人とも息が上がっているが、足を止める事無く、避難所へ向かって歩き続ける。
ようやく息が収まって来たところで、川が一気に氾濫し、高台を取り囲むように水があふれていた。あと少々遅れていたら、四人とも死んでいたかもしれない…。まさに間一髪。
「花上…」
「はい」
「あの時、鳥飼が殴りに行かなかったら、俺が殴っていたぞ…」
「すみませんでした…」
さきほど、田井島と二人で話していた時はそんな素振りを一切見せなかったのに…。やはりリーダーとして、ここは厳しく言わないといけないと思ったのだろうか?
「やっていることは間違っていないけど、後先考えずに動くな。万が一のことがあったら、誰がお前の親に説明すると思っているんだ」
「……」
「俺に決まっているだろう? リーダーなんだから…」
「申し訳ありません…」
「もういい…。とりあえず、無事に助けられてよかったな…」