田吉にも柚木にも悩みの1つぐらいある⑩
田井島は何も言えなかった。今となっては全く顔も思い出せない実父も、母と離婚する前にこんなことを思ったのだろうか。
大蔵は分かっているのかどうか定かではないが、ご飯を食べ終えてから、無邪気にメロンソーダを飲んでいる。もし、今は何も分からないとしても、いつかは全てを理解する日がやってくる。その時、大蔵は何を感じ、何を思い、何を考えるだろうか…。
「こんなことを頼んで申し訳ないが、大蔵に寄り添ってやってくれないか? 田井島なら何か分かり合えるんじゃないか…」
やっと、分かった。それで今日は朝から呼び出された訳か…。しかし、それは父のエゴじゃないのか?
大蔵はそんなことを望んでいるとも思えなかった。この日、初めて出会った大人が心の深い所に土足で入ったら、それこそ大蔵のトラウマになるだろう。
おっさんは何も分かっていない…。でも、ここにいる三人がお互いのことをどれだけ分かっていると言うのか?
分かったふりをしているだけで、実はお互いに何一つ分かり合えてなんかいない。それはどんなに仲のいい恋人であろうと、血のつながった家族であろうと同じだ。
「それはお父さんの最後の仕事ですよ。そんなことに、部外者がしゃしゃり出てはいけないんです」
そう言い残して、田井島は田吉親子が座るテーブルから勢いよく立ち上がる。そして、早足でジョイフルを去った。




