田吉にも柚木にも悩みの1つぐらいある⑨
「父ちゃん、腹減った〜!」
「マジか、大蔵…。まだ五時前だけど、少し早めの夕食にするか…。なあ、田井島」
もう、勝手にやってくれ。部外者には関係のないことだ…と思ったけど、ここで席を立つのは大蔵に悪い。田井島はそう思い至り、夕食までは二人と付き合うことにする。
田吉親子はロースかつ定食を、田井島は焼きサバ定食をそれぞれ頼んだ。それと大蔵の分のドリンクバーも追加で注文する。
注文した物が来るまでは、ドリンクバーの飲み物を飲みながら、大蔵の運動会の話を聞く。大蔵は子どもらしくコーラをおいしそうに飲む。こうやって、二人で楽しそうに話している姿は父子そのものだ。テーブル越しに眺めている田井島でさえも、心なしかほのぼのとした気持ちになる。
しかし、二人が親子として会うのは、今回で最後になる。思えば、田井島も小学校に上がる前に母が離婚し、小学二年生の時に再婚している。
その後、小学四年生の時に異父妹が生まれ、中学一年生の時に異父弟が生まれた。家では常に冷遇され、居場所が無くなった。
中学卒業と同時に全寮制の高校に入り、お互いのために親元を離れた。学費だけは出すことを約束してくれたので、どうにか大学まで出られたが、今となっては全く音信不通だ。もし、帰って来いと言われようとも、二度と実家へ戻ることはないだろう。
大蔵がこの先、そのような思いをしなければいいのだが…。田井島は大蔵にかつての自分を重ねた。こんな「思ひでぽろぽろ」は二度とごめんだが、生きていればこれからも似たような境遇の子に何度でも思いを重ねるのだろう。
そのたびに、どのような形であれ、周りの大人に愛されて、不幸で不遇な状況に陥ることのないように願うことしかできないに違いない。我が国の児童福祉制度は本当に子ども達の味方なのか?
親のエゴや大人の都合だけで動いていないか? 大蔵を前にして、痛いほど共感できるのに…。ただ、無力な自分が情けないとさえ田井島は感じた。
「恥ずかしい話だが、俺は父親として、本当に無力だよ…。こんなことになった原因を作っておきながら、大蔵に何もしてやれない。本当に情けない父親だな…」




