田吉にも柚木にも悩みの1つぐらいある⑥
「あのな、日本で一夫一妻制が正式に民放で定められたのは、一八九八年…明治四三年のことで、それまでは妾にも相続権が法的に認められていたんだ。もちろん、明治より前は公家や武家では跡継ぎを残すために側室制度があったし、庶民でもお金さえあれば、妾を持つことが当然とされていたんだよ」
それにしても、田吉のおっさんは何でそんなことに詳しいんだろうか…。そんなこと、学校ではまず教えることはない。権力者に都合の悪いことは、残念ながら自ら調べ、自ら学ぶしかない。
「それは意外ですね。遅くても明治からは一夫一妻制だと思っていたのに…。しかも、明治末期からせいぜい百年余りしか経っていないとは…」
「その後も、戦前までは古い風習が上流階級や資産家などに残り、完全に一夫一妻制が定着したのは、戦後のGHQの指導によると言う説もあるくらいだ。そうなると、せいぜい七十年しか経っていないことになる」
そんな馬鹿な…。GHQが一夫一妻制を指導しただなんて…初耳だ。いくら何でもそれは暴論が過ぎる。
「しかし、そんなことを認めたら、イケメンや資産力がある人しか結婚でき無くなって、私みたいなのは結婚と無縁の一生を送ることになりそうですね」
「それでいいんじゃないか? そうすることで、結婚をしないと幸せになれないという束縛から解放される。このご時世において、全ての男女に結婚を夢見させていることの方が、かえって残酷だと俺は思うな…」
まあ、結婚に対する強迫観念からは解放された方がいい。それぐらい、日本人の横並び意識は強いと思う。その点においては、田井島も同感だ。しかし、それ以外の主張は受け入れられないだろう。そんなこと、実際に一回結婚してみないと分からない訳だから、軽々しくそのようなことを言うべきではない。
「結婚が酷ですか…。それはまた斬新な考え方ですね…」
まあ、さすがに高度経済成長期のような、夫が会社で働き詰めて、妻が家庭を守るというモデルは生きた化石のようなものだが…。
企業が若者を使い捨ての道具のように使い捨てる社会においては、確かに結婚は酷だ。結婚して子どもを二、三人もうけるのにかかるお金をどこから捻出しろと言うのか? そして、いつか日本人は地球上からいなくなるだろう。




