3人の出会い②
あれは二回生の夏休みにフィリピンへ行った時であった。あの時、大雨でいつも泊まるホテルの近くにある小さな川が氾濫しそうになっていた。このままでは危ないと言うことで、サークルのメンバー九名は小高い丘の上にある体育館へ避難することにした。その道中、突然、若い母親が現れて…。
「うちの坊やが逃げる途中、流されたの…。お願い、助けて!」
と、たどたどしい英語で言うではないか…。いくら、小さな川と言えども、大雨の中、飛び込むのは自殺行為だ。メンバーが互いに顔を見合わせる中、一人だけ当然のように動いた。花上春樹だ。
「田井島、荷物よろしく! 大原さん、ちょっと、行ってきます」
「花上、気持ちは分かるが、冷静になれ!」
そう言った所で、あいつが素直に聞き入れるはずも無く、
「お母さん、一緒に行って、息子さんを助けましょう」
と、英語で言うなり消えてしまった。いつもなら、花上が暴走しないようにみんなで止めるのだが、あの時は全員が避難中で誰もが自分のことで精一杯だった。
それに、さすがの花上もそこまで無茶しないだろうと誰もが思っていた。それなのに…。このままではまずいと思ったリーダーの大原が大声を張り上げる。
「とりあえず、目的地は目前だ。まずは、全員急いで丘の上の体育館へ避難する。それから、有志で花上の馬鹿をつかまえに行く!」
残りのメンバーは急いで体育館に着いた。それから大原、鳥飼、田井島の三人で花上のフォローに入った。まず、三人は川の近くへと急いだ。お願いだから、花上、無事でいてくれ! 田井島は何度もそう思いながら、大雨の中を走り続ける。きっと、他の二人の心中も同じであったはずだ。
川のほとりまで行くと、急に大歓声が聞こえたので、三人はそこへ向かった。見ると、ずぶぬれの花上が子どもを助けて、岸に上がったところである。
周りにはたくさんの人がいた。騒ぎを聞きつけた人々が船や浮き輪を持って、川岸へと向かっていたようだ。中には花上のサポートとして、船を出した人や浮き輪を投げた人もいたようだ。
「シェムリー、よくぞ無事で!」
「お母さーん!」
まさに感動の光景である。田井島は最悪の結果も考えていただけに、ほっと胸を撫で下ろす。リーダーの大原も同じようで目にはうっすらと涙すら浮かべていたほどだ。
「よかった。よし、大事には至らなかったし、僕らもすっかりずぶぬれだ。ここは奴に気付かれないうちに帰ろう」
「そうですね。大原さん」