田吉のセッティング①
「よう、田井島。待ったか?」
「あ、田吉さん。私も、ちょうど今来たところですよ」
実を言うと、田井島は十分前に来ていた。仕事上がりの田吉を気遣って、あえて今来たと伝える。それにしたも、田吉は前に電車の運転手は三勤一休が基本とか言っていたけど、実際はどうなっているんだろうか。役所勤めの田井島には気になるところである。
「田吉さん、明日休みと言っていましたが、確か、先週も日曜が休みでしたよね? 電車運転手の休みって…ある程度融通が利くんですね」
「いや、そうでもないんだ。今日はたまたま、休みを変われただけであって、本当なら明日仕事だった。おかげで珍しく二連休取れたけど、六連勤はきついよ。しかも、泊まり勤務が間にあったからな…」
役所勤めの田井島には不規則勤務なんか、想像もできなかった。暦通りに出勤することしかしらないので、シフト勤務がどうなっているのか興味がわく。
「先週の土曜日も休みだったんですか?」
「違う。あの日は早番だったから、五時出勤、十四時上がりだったんだ。仕事終わってからボーリングに参加したんだよ」
「マジですか…。大変ですね」
シフト勤務の合間をぬって、合コンへこまめに参加している田吉に思わず頭が下がる。田井島にはとてもじゃないが真似できない。
「昼間決まった時間に働く仕事とは違うんだよ。まあ、好きで選んだ仕事だから仕方ないけど…」
田吉は得意気に話す。この日は、田吉から合コンのメンバーが足りないと言われ、前日に急遽誘われたのである。田井島は喜んで誘いを受け入れた。この日は昼間に鳥飼と会った後、しばらく本屋やCDショップなどをぶらついた。
それからそのまま、田吉との待ち合わせ場所へやって来た。鳥飼とは、空っぽになったマンションでピザを食べながら、たわいのない話をしてそのまま別れた。もう、あのマンションへ行け無くなると思うと、何ともやりきれない…。
「それにしても、どうだ。整えたまゆ毛の反響は…。これまで何もしてなかったから、すごいだろう?」
「職場では『彼女でもできたのか?』とか『これから異常気象でも起こるんじゃないの?』とか、とにかくすごい言われようでしたよ。一方で、今さらそんなことを覚えたの…と冷めたことを言う人もいましたけどね…」
「まあ、外野には好きなだけ言わせておけばいいさ。これからは、外見だけで無く、経験値もコツコツ積んでいけばいいだろう」
「先輩、どこまでもついて行きます」
田井島はいかにもわざとらしく、両手をくねくねと動かして、仰々しくお辞儀する素振りをみせる。おっさんは苦笑いをした。




