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30代からの婚活デビュー  作者: あまやま 想
第11章 もぬけの殻
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もぬけの殻④

「まあ、春樹は子どもを助けるために、自分から車へ飛び込んでいるから、ある意味、自業自得でしょう?」


「いや、そうじゃ無くて…。タイミング的に飲酒運転している車の前に子どもがいて、そこに春樹君が通りかかった訳だろう。三つのうち、一つでも欠けていれば、こんなことにはならなかったのに…。神様って本当に意地悪だよな…」


 ああ、やっぱり親子だな…。同じ車の中で、同じようなことを考えていたとは…。飲酒運転と子どもと春樹…。


「そうね…。もし、三つが重ならなかったら、私達は何事もなかったかのように、今も三人で平凡に暮らしていたと思う」


 ふん、馬鹿らしい…。父がこんなことを言い出すとは思わなかった。一度、起きてしまった事故や災害を、後からたらればの話をしたところで、失われた命や壊れたモノが帰ってくる訳でもない。


「父さん…。もう、やめよう。こんな話…」


「ああ、すまんかったな…」


 ようやく、渋滞を抜け出して、車は再び走り出す。父にとっても義理の息子の死はいろいろと考えさせられるものがあるのだろう。華が結婚するまで、息子のいなかった父にとって、春樹はやはり特別な存在だったに違いない。


 昔、春樹が結婚の挨拶に来た時のことだ。春樹とは学生時代からの付き合いであったので、挨拶は早々に終わった。そして、すぐに酒宴が始まり、父は結婚を手放しで喜んだ。そして、開口一番でこう言った。


「こうやって、息子と一緒に酒を飲むのが夢だった。春樹君、華をよろしくお願いします。そして、ついでに私の息子として、たまには一緒に酒の相手もお願いしますよ」


「はい、お義父さん。こちらこそ、よろしくお願いします」


 その後、何かと理由をつけては春樹と父はよく飲んでいた。それこそ、春樹と父は実の親子なの?…と思うぐらい馬があった。母も春樹には好意的だった。


 一方で、華は花上家の両親とはいまいち折り合いが悪い…。また、姉・花菜の夫とは父母とも気が合わないらしくて、父は花菜の夫にはあまり酒を進めないし、あちらも遠方に住んでいることもあり、ほとんど遊びに来ない。


 そう考えると、春樹の人を引きつける力の大きさに改めてハッとさせられる。実に偉大な人を失ってしまったようだ…。


 家に帰ると、母が作って夕飯がすでに出来上がっているようで、台所からいいにおいが玄関まで漂っている。遥斗がよちよち歩きしながら、


「ママー!」


と言って出迎えてくれた。こう言うささいな幸せこそ、大切にしなければいけない…。華にはまだ帰れる実家もあるし、両親ともまだまだ健在だ。春樹を失った穴は大きいが、残されたモノもまだまだたくさんある。それだけでも十分ありがたいと思った。

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