もぬけの殻①
「そうか、そんなことがあったのか…。まあ、校長先生が折れるとしたら、そんな感じだろうよ」
「春樹を殺した人の親が謝りに来てさ…。あの温厚なお義父さんがすごい剣幕で怒ってた。まあ、あの場面なら、お義母さんでも、私でも怒っていたと思う。多分、この先、何回…何十回と謝りに来られても、何十年経っても許せない…」
水曜の昼下がり、花上華は父と一緒にかつて住んでいたマンションの片付けを進めていた。先週から少しずつ進めている片付けも八割方終わっている。すでに華の私物は全て、鳥飼家に運び込んだ。
後は家具や家電、不要な服や小物は全てリサイクルショップへ売り払い、春樹の残すべき遺物を荷造りするのみとなった。この日は昼からリサイクルショップの方がトラックに乗ってやって来る。
主な家具や家電がここから無くなると、片付けも一層はかどるに違いない。ちなみに遥斗は母に見てもらっている。こう言う時、両親が健在で本当に良かったと思う。
「こんにちは、サードストリートです!」
頼んでいたリサイクル業者が二人でやって来た。ここに来てもらうのはこれで二回目となる。この日は洗濯機、テレビ、DVDプレイヤー、食器類、リビングソファーセット、クローゼット、ダブルベット、春樹の服などを持って行ってもらう。
引き取り料を差し引いた一万七千円をもらえた。割と場所を取る家電や家具などを引き取ってもらえたおかげで、部屋が一気に片付いた。部屋が空っぽになっていくにつれて、寂しさがどんどんつのっていく…。
しかし、遥斗がいるので弱音ばかり吐いてもいられない。世間では英雄扱いされても、家庭に対しては無責任なことをした父親の分まで、母親が頑張るしかないのだ。
「どうも、ありがとうございました」
「また、サードストリートをよろしくお願いします」
「こちらこそ、ありがとうございました」
華は家電や家具があった後を掃除機できれいにしていく。うず高く積もったほこりの後が、かつての家具や家電の面影を感じさせる…。掃除機でほこりを吸い取った後には、日に焼けていないフローリングの床だけが残った。
ついさっきまで、そこにはテレビがあった…。そこにはクローゼットがあった…。ついさっきまでは、そこに…。でも、もう全て無くなってしまった。父は華が掃除機かけた後をモップできれいにふく。時間をかけて、何度も丁寧に…。
これまであったはずの家具や家電をねぎらうように…。時間をかけて、一つ一つ作り上げたのに、壊れるときは一瞬だ。




